そして世に(銀髪薄幸美少女傭兵との)純愛のあらんことを   作:アリマリア

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 本当に多すぎる

 今回は別視点。いや三人称で別視点も何もありませんが。





ルビコンにはうんざりすることが多すぎる

 

 

 

 強化人間C4-621にとって、4度目となるルビコンへの密航は、地獄そのものだった。

 

 

 

 果たして何故「そう」なるのかは、彼女自身わからないが。

 気付けば彼女は、強制的に一定期間の時間をループさせられていた。

 

 目を覚ませば、そこには自身の飼い主であり、恩人でもあるウォルターがいて。

 ACの搭乗訓練や仕事を振られ、それらを十全に熟せることを確認したら、ルビコン3に密航し。

 たくさん選んで、たくさん殺して、今度こそみんなが生きられる未来を目指して……。

 

 一度目は、わけもわからないまま、数えきれない数の人を焼き殺した。

 二度目は、自分の意思であの人の依頼を拒み、自分の手であの人を殺した。

 三度目は、未知の可能性を探して選択して、全てを壊して作り直した。

 

 ……けれど。

 どの結末でも、どんな答えを出しても、必ず、大切な人たちは死んだ。

 

「わか、ら、ないよ……ウォルター、カーラ、チャティ、ラスティ……」

 

 グリッド135。

 ()()()()()予定外の場所へ墜落した621は、ぼんやりと呟く。

 

「どうすれば、みんながたすかるの?

 どうすれば、ウォルターが言ってたような、ハッピーエンドになるの?

 

 ……どうやったら、このくり返しは、終わるの?」

 

 

 

 かつて、ループする時間の中で。

 

『届かなかったか……戦、友……』

 

 殺した。

 

『ボス……俺は、ここまでだ……笑っ、て……』

 

 殺した。

 

『ビジター……あんたの勝ちだ……』

 

 殺した。

 

『6、2……1……』

 

 …………殺した。

 

 みんな、みんな、621の手で、殺した。

 守りたかった人も、守りたかった日常も、守りたかった温かさも、守りたかった笑顔も。

 ぜんぶ、ぜんぶ、621の手で、壊した。

 

 

 

 仕方がなかったと、そう言えば簡単だ。

 

 ラスティには、譲れないものがあったように。

 621にも、譲れないものがあった。

 

 チャティが、カーラのために生きたように。

 621も、誰かを助けようと生きた。

 

 カーラが、決して負けを認めなかったように。

 621も、決して負けるわけにはいかなかった。

 

 ……ウォルターが、旧い友人の意志を継いで、戦ったように。

 621も、新しい友人を守るために、戦った。

 

 621は、いつだって全力で戦い、全力で生き抜いて来た。

 

 だから。

 だから、そこで終わっていれば、きっと621は満足できた。

 

 これが一つの終わりだと。

 喪われたものはあまりにも大きくて、心には塞がらない穴が開いたけれど。

 それでも、きっとそれを受け入れて、生きていくことはできたはずだ。

 

 

 

 ……本当に?

 

 

 

 誰より大切だったウォルターを喪って。

 面白いお姉さんだったカーラを喪って。

 楽しいお兄さんだったチャティを喪って。

 唯一の友達だったラスティを喪って。

 

 それで、私は、本当に満足できたの?

 

 胸を掠めた、自問自答の疑念。

 まるで、それに呼応するように……。

 まだこの世界でできる選択がある、違う答えが出せるとでも言うように。

 

 時間は等しく、621の決断と選択を否定し、全てをなかったことにした。

 

 

 

 「3周目」の621は、終わらないループに半ば自棄になり、訳も分からない計画に飛びついた。

 それが何を意味するか警告されながらも、それでも「少しでも可能性があるのなら」と藁に縋った。

 ……藁に縋る道を、自らの意志で、選んでしまった。

 

 そして、

 

『人類と、生命の……可能性が……』

『イラつくぜ……野良犬に、憧れたんだ……』

 

 そして、また、誰かを殺した。

 

 アレが、悪い結末だったとは思わない。

 正直訳が分からなかったけど、エアは隣にいてくれたし、体のどこも痛くはなくなったから。

 頭の中が透明になって、すごく考えやすくなって、気持ち良くて。

 だから、アレを否定することは、ないけれど。

 

 ウォルターも、カーラも、チャティも、ラスティも、結局死んだ。

 

 やっぱり満足できなかったのか、また、時間は巻き戻った。

 

 

 

 

 これは、都度4度目だ。

 「レイヴンの火」を起こし、「ルビコンの解放者」と呼ばれ、「コーラルリリース」を選んだ、その先。

 

 繰り返す地獄の中で、621の精神は、擦り切れかけている。

 何度も何度も大切な人を喪い続けて、一度は取り戻したはずの感情が希薄になっていくのを感じていた。

 

 でも、それでよかった。

 だって、その方が、大切な人を喪った時、苦しまずに済むから。

 この手でその人を殺しても、何も感じずに済むから。

 

 ……けれど、それでも、そんな中でも。

 

「みんなのこと、助ける……助けなきゃ……」

 

 ただその一念だけは、折れなかった。

 ……いいや、折れるわけにはいかなかったのだ。

 

 だって、それすらも曲げてしまったら……。

 621は、これまで、何のために生きて来たのか、わからなくなってしまう。

 

 なんのために、大切だったはずの人たちをこの手で殺したのか、わからなくなってしまう。

 

 

 

 グラつく意志に反し、グリッド135内を進む621のAC捌きは、見事と言う他ないものだった。

 まるでその建物の構造、次の目標地点を完璧に把握しているかのように、アサルトブーストを噴かしてMT群の横を突き抜け。

 邪魔になるMTは、SG-027 ZIMMERMAN(長射程ショットガン)で蹴散らして進む。

 

 ウォルターに言われる前にリペアキットを使い。

 ウォルターに言われる前にカタパルト前で待機して。

 

『……621、勘が良いな。流石、と言うべきか』

 

 オペレーターも兼ねる彼女の飼い主、ハンドラー・ウォルターは、621の俊敏な作戦行動に対し、感心するように唸った。

 彼からすれば、自分が何も言わずともすべきことをする、優れた傭兵のように見えているのだろう。

 

 実際、その評価は間違っていない。

 「前の周」の記憶を所持している621は、目覚めた直後からウォルターの無茶ぶりとも思えるような要求に応えてきたのだから。

 

 

 

 どうやらウォルターが621を買ったのは、丁度「前の猟犬」が死んだ時だったらしい。

 今よりずっと余裕のなかった当時のウォルターは、とにかく621に力を付けさせようとした。

 

 力さえあれば、彼女たちは生き残れた。

 十分に力を付けさせなかったことこそ自分の罪であると、そう思っていたのかもしれない。

 

 「1周目」の621は、無感情ながらそれを懸命にこなし、なんとか及第点を取ってルビコン3に向かい。

 「2周目」の621は混乱のさなか、けれど手慣れた動きに不足が生じるわけもなく、十分な合格点を取って。

 「3周目」の621は、半ばこうなることを察していたため、さっさと訓練を終わらせていくつかの実戦でいち早く実績を積み。

 ……「この周」の621は、全ての教習を最速で終わらせ、追加で2つの封鎖機構の拠点を壊滅させて来た。

 

 記憶どころか、身体機能の殆どを失った、在庫処分スレスレだった旧型の強化人間。

 そんな621はしかし、ウォルターの想定を大幅に越え、当初から圧倒的な成績を残している。

 記憶を失ってもなお残ったものもあったのか、あるいはそもそもの先天的センスがズバ抜けているのか、その理由はウォルターにはわからなかった。

 ……一定期間の時間をループしている、などと。現実的に物事を考える彼が、そんな発想に至れるわけもなく。

 

 それでもただ1つ確かなのは、C4-621の力は本物である、ということで。

 だからこそウォルターは、彼女をルビコン3へと送り出した。

 万全の自信と、彼女への信頼を託して。

 

 

 

 ……だが、皮肉にも。

 汚染市街へと降り立ち、次々とACの残骸データを漁る621は、決して主人の想いを背負って戦うような、晴れやかな気分などではなく。

 ただただ、鬱屈としていた。

 

「…………」

 

 何度繰り返しただろう。

 何度この光景をみただろう。

 何度ウォルターの言葉を聞いただろう。

 自分はあと何度、これを繰り返せばいいんだろう。

 

 ……たった1人で。

 誰にも、頼ることもできないまま。

 

 「1周目」の621が、困難を跳ね除けて目標を達成できたのは、ひとえにウォルターのおかげだった。

 621は、ウォルターと共にあった。孤独ではなかった。

 まだ情緒が薄い頃ではあったけど、悩みがあれば相談し、困ったことがあれば頼ることができたし、頑張れば褒めてもらえて嬉しかった。

 

 だが……今の621は、違う。

 誰にも頼れない。

 

 「2周目」の621は、この意味不明な状況を周りに相談したけれど……「強化手術の後遺症、精神的疾患の類」だろうと思われ、気を遣われて、それだけで終わった。

 誰も彼もが必死に生きて、目的を達しようと走っていた。

 こんな馬鹿げたことを信じられる余裕は、誰にもなかったのだ。

 

 だから……今の621は、致命的に、孤独だ。

 繰り返す時間、繰り返される地獄を前にして、どうしようもなく孤立無援で……。

 

 その心は、ゆっくりと、しかし着実に摩耗していた。

 

 

 

 その後、621は汚染市街を駆け抜け。

 トーマス・カーク、モンキー・ゴード、G7ハークラーのライセンスを獲得。

 

 けれどそのどれも条件に合わず、最後に見つかったライセンスを取得し……。

 

『サブジェクトガードの大型武装ヘリ……! やはり目を付けられていたか!』

 

 飛んで来た、MTやAC程度なら簡単に蹴散らせるような封鎖機構の巨大なヘリを……。

 けれど、1分足らず、殆ど被弾することもなく撃墜して。

 

『よくやった、621。良い手並みだ。……改めて、取得したライセンスの名を伝える』

 

 独立傭兵、レイヴン。

 

 いつも通りに、何も変わらず、その名を手にした。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 それからも、何も変わることのない、いつも通りの日々が過ぎていく。

 どうすればいいのか、何をすればいいのか。

 具体的なことなど何もわからないままに、時間だけが過ぎていく。

 

 汚染市街に基地を張る、ルビコン解放戦線の移動型砲台を片端から壊して回り。

 その上空に拡がるグリッド135、大豊のMT部隊を蹴散らし、ついでに自分を騙した相手の使いだろう不明機体を瞬殺して。

 今度は大豊から依頼を受け、再び汚染市街に赴いて解放戦線の資源輸送ヘリを四脚MTごと破壊。

 

 もとより傭兵としての力が強く、また拾ったライセンスのランクが1/Sであったため、レイヴンの評価はルビコン3に瞬く間に広がって行き……。

 

 

 

 ……そうして、唐突に。

 何も変わらない、焦燥するばかりの日々に、終わりが訪れた。

 

『621。ベイラム本社から、お前への指名依頼を取って来た』

「……ベイラム、本社?」

 

 うろ覚えではあったが。621の記憶通りなら、次の依頼はテスターACの破壊であるはずだった。

 それも、確か依頼主はアーキバス系列のシュナイダーで、襲うACの所属はベイラムの大豊。

 

 つまり、これは……。

 

 ……ミッションが、変化した?

 

 まだ、可能性がある?

 4回目のループ、4回目の傭兵生活。

 まだ……621が見出していない、未知の答えが、この先にある?

 

 微かな希望に、その殆ど動かせない体に少しだけ力を入れた621に対し……。

 

 彼女の飼い主たるウォルターは、ミッションの内容を告げた。

 

 

 

『今回の依頼目標は、アーキバス系列企業、シュナイダーの工業開発区域の破壊。

 先方はシュナイダーの警備配置の情報を掴んだらしい。この配置転換に合わせ突入、混乱に乗じて駐屯部隊を蹴散らしながら、工場、資源コンテナ、燃料貯蔵タンク、輸送機、車両に配管、あるいは道路。とにかく全てを片端から壊して回れ、とのことだ。

 基地機能の完全破綻を以てミッションの成功と見なし、撃破した機体と内容によって報酬が加算される。

 ベイラムはコーラル獲得競争が本格化する前に、アーキバスの開発力を削いでおこうという心づもりらしい』

 

 破壊工作。

 それは、621が未だ受けたことのないものだった。

 

 強いて言えば、何度か戦友から任された、惑星封鎖機構の燃料基地襲撃がそれに近いが……。

 建物やインフラまで壊せ、という指示は、今まで受けたことがない。

 

 だが、別段苦労する程の任務とも思えなかった。

 いつものように、全てを壊して進む。それだけでいいのだから。

 

『621、この任務を受領して問題ないか』

「うん。受ける」

 

 簡単な二つ返事から、ウォルターは621の自信を感じ取る。

 自分は誰にも負けないという確信。実際、621はそれを確かに持っていた。

 

 既に三度もルビコン3を制したのだ。誰も自分を止めることはできないと、彼女は確信していた。

 

 

 

 

 

 

 ……そう。

 

 彼と、彼女と出会う、その瞬間までは。

 

 

 

 

 

 

『あの機体構成……独立傭兵レイヴン? アリーナのトップがどうして……。

 ……いいや、理由など分かり切ったことか。全く、何のためのブリーフィングだよ』

 

 通信機から響く、中性的な合成音声。

 それは遠方から飛来する、一機のACから放たれていた。

 

『──シュナイダー工業開発区域への許諾なき侵入、及び破壊活動は認められていない。

 そこのAC、直ちに投降しろ。抵抗するならば容赦なく攻撃する……と。

 警告はこんなものか。元より撃ち合いに来ている相手に無意味だとは思うが、これも仕事なのでね』

 

 ……それは、621が見たことのない、機体だった。

 

 外装はアーキバスのパーツを、武装にはベイラムのパーツを多く用いた、独立傭兵らしいちぐはぐなアセンブル。

 その中でも一等目を惹くのは……見たことのない、ヘッドパーツだ。

 最低限の機能だけを残し、余計なものを極限まで無駄を削いだかのようなそれは、レイヴンも使うHC-2000 FINDER EYEを思わせるような意匠を微かに残している。

 

 両手に軽マシンガン、肩にはミサイルとハンガーしたパルスブレード……。

 どこか、懐かしく感じるような武器構成のACは、「Loader 4」から400メートル程の距離に降り立った。

 

 

 

 そして、それを見て……。

 遥か遠方から621のオペレートを行うハンドラー・ウォルターは、呟く。

 

『敵、ランカーACを確認……ランク27/F、リンクス・ウィズ・カラー。アーキバスの雇われか。

 お前が負ける相手ではない。突破しろ、621』

 

 言われずとも。

 621は、両手のショットガンをいつでも放てるように構え直す。

 

 ……やはり、変わっていた。

 ミッションも、敵も、その全てが。

 

 それに621は、まだこの世界には至るべき可能性が残っているのだと深く安堵しながら、今はひとまずミッションを達成しようと、アサルトブーストで突進を開始し……。

 

『まさかこんな形での遭遇になるとは、想定していなかったが……。

 まぁしかし、悪くはない。独立傭兵レイヴン、その背景をここで量らせてもらうと同時、この子の成長の糧となってもらおう』

 

 「背景」。

 

 聞き覚えのある単語に、心臓がドクンと震え、指がほんの僅かに揺らぐ。

 

 今この瞬間には、彼女の戦友以外に知り得るはずのない単語、その意味合い。

 それに、今までとは全く違う、真の意味での「他者への興味」を抱いた621の前で……。

 

『さぁ、リンクス、仕事の時間だ。

 相手はイレギュラー……殺す気で行かないと、殺される。俺もサポートしよう』

 

 「Loader 4」を迎撃せんとする、「フォーアンサー」の全身のランプが、薄く赤色に光った。

 

 

 







 これは先に言っておきたいんですが、本作は銀髪薄幸美少女傭兵と純愛する作品なんですよね。
 別に「C4-617と」純愛する、とは指定してないんですよね。
 ハウンズってみんなタイプは違えど銀髪薄幸美少女傭兵なんですよね(幻覚)。

 つまりはそういうことです。
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