そして世に(銀髪薄幸美少女傭兵との)純愛のあらんことを   作:アリマリア

24 / 84

 (コールサインのナンバーだけ見れば)弱そう





襲撃者を感知、想定通りの作戦を実行中。情報より弱そう、楽勝です!

 

 

 

【617、今回はアーキバスグループ、シュナイダーからの依頼だ。

 まぁ……まずは、送られてきたブリーフィングを確認してくれ】

 

 

 

『独立傭兵リンクス。これは当社系列企業、シュナイダーからの依頼です』

 

『作戦地点はベリウス北部、シュナイダー工業開発区域、A.S-2。

 内容は、当社の保有する土地へと不法に侵入し破壊行動を行う、襲撃者の排除となります』

 

『我々アーキバスは、ベイラムによる破壊工作の情報を得ました。

 恐らくは、コーラル獲得競争の本格化に先んじて、こちらの開発力を削いでおく目論見でしょう。先述の区域A.S-2に対し、攻撃を仕掛ける腹積もりのようです』

 

『この作戦に登用される可能性が高いのは、レッドガン部隊の4番手、G4(ガンズフォー)ヴォルタ。

 乗機『キャノンヘッド』はタンクパーツを採用した重量機であり、爆発系武装による広範囲攻撃とミサイルによる対多数攻撃を兼ね備える、破壊工作に非常に適した機体。

 その戦闘力はレッドガンでも指折り。単体戦力としては随一とする見方もあり、単身でミッションを任されることも多いようです。

 注意すべきは、やはりその圧倒的な瞬間火力。特に機体とACSへの負荷の強いグレネードによる爆発は確実に回避すべきでしょう』

 

『当然ですが、我々アーキバスグループは、このようなベイラムの無法行為を許容することはありません。

 襲撃者を敢えて区域へと招き入れ、侵入した証拠を確保した後、潜ませていた無人ドローンとタレットによる飽和攻撃、そしてACによってこれを撃破することを決定しました。

 対外的な面目のため、一度警告はしますが、襲撃者が投降しない場合は即時戦闘を開始してください』

 

『本来これは、我々アーキバス内部、ヴェスパーで解決すべき問題ですが……これが陽動である可能性もあり、またこれからの作戦を考えても、ヴェスパーの本隊を動かすことは困難。

 そこで、力ある独立傭兵たるあなたに白羽の矢が立ちました。

 G7ハークラーを撃破したその力、是非とも我々アーキバスグループにお貸しください』

 

『ブリーフィングは以上です。よろしくお願いします』

 

 

 

【……以上だ。どう思う、617】

『ルビコン1の、第十四基地副長? と比べると……むかむかしない言い方でした』

【ふむ。まぁ、確かに間違いない。ペイター君は人格は純正サイコパスだけどブリーフィングは結構丁寧だからな。

 では、引っかかった部分などはあったか? ここが気になった、ここがわからない、など】

『レッドガン……は、確か、ベイラムのAC部隊、だったと思います。

 では、ヴェスパー、とは?』

【ベイラムが専属AC部隊レッドガンを抱えているように、アーキバスもヴェスパーというAC部隊を抱えている。

 今ブリーフィングをやっていたペイター君は、その8番手。V.Ⅷ(ヴェスパーエイト)だ。

 これからもルビコンで生活していけば、自然と関わることも増えるだろう。覚えておけ】

『了解しました』

 

【他には何かあるか?】

『……特にありません。重量タンクとの戦闘は、ナインブレイクで何度も体験しました。問題なく突破できるかと思います』

【いや……それは少し自信過剰だ、617。企業のAC乗りの上位ナンバーを舐めない方が良い。

 操作精度とか立ち回りはともかくとして、G4ことガチタンヤクザはアセンがかなり最適化されてる。正直そのまま使っても全然強いくらいだ。

 なので、もしヴォルタにぶつかることになれば、覚悟しておけ。撃破難易度は……ナインブレイクレベル1と同等か、それ以上と思っていい。

 前に伝えた通り、相手の武装と戦術を把握し、その上で自分が有利になるよう戦いを進めなさい】

『了解しました』

 

【とはいえ、正直なところ、今回必ずしもヴォルタと戦闘になるかはわからないんだがな】

『ブリーフィングでは、G4ヴォルタが登用されるだろう、とのことでしたが』

【……必要のないことは一切喋らず恣意的な解釈をさせる言い回し、慇懃無礼で傭兵を替えの利く消耗品と見ている感じは、なんともアーキバスらしかったが……しかし、らしくないと言えばらしくなかったからな】

『?』

【アーキバスは嫌味な奴らではあるが、情報の確度はまずまず高かったはずだ。なんだかんだ言って情報戦に強いんだ、アイツら。

 それなのに、今回は「登用される可能性が高い」なんていう不確かな言い方を……。

 アーキバスが情報戦でベイラムに勝てないとは思い難いし、何かしら含むものがあるように思える。

 ……これ、また騙して悪いが案件かもしれんな。こんなんばっかだわAC世界は】

『……617は、どうすればいいですか?』

【さて。ひとまず今は……どんな予想外が来てもいいよう警戒を怠らず、最優先で生きて帰ることを、そして可能であればミッションの達成を目指そう】

 

 

 

 * * *

 

 

 

 ……そんなブリーフィングが、おおよそ2時間前のこと。

 

 アーキバスの輸送ヘリによって運ばれたAC「フォーアンサー」は、襲撃の予定時間より数時間早くシュナイダーの工業開発区域に投下され、その片隅に潜んでいた。

 下手にスキャンで存在を悟られないよう、念のためにメインシステムをシャットダウンした状態で、待つことしばらく……。

 

【617……いや、リンクス。そろそろ仕事の時間だ】

 

 アーキバスから聞いていた、ベイラムの襲撃作戦の開始時間。

 それが来ると同時、区域の外周の方から、派手な破壊音が聞こえて来た。

 

 それと同時、617の網膜と鼓膜に、声が響く。

 

 メインシステム、戦闘モード起動。

 

【さぁ、仕事の時間だ、617。ベイラムの襲撃者を……】

 

 しかし、それに続く冷静なナインの声は……。

 

【……いや全然レッドガンじゃねえ! それどころかトップランカー、というかレイヴンじゃねーか!?】

 

 直後、ミッション中の彼らしくない、怒号のような悲鳴のような声に置き換わった。

 

 

 

 ナインにとって、これは想定外極まることだった。

 

 彼は、独立傭兵レイヴンが受ける可能性のあるミッションを、全て暗記している。

 その中には今回のような、シュナイダーの工業区域への破壊工作など存在しなかったはずだ。

 そこに油断してしまった、というのが1つ。

 

 もう1つの誤算が、この時点でレイヴンがベイラムに重用されている、という事実。

 時系列から考えて、レイヴンはG13のコールサインをもらうどころか、未だベイラムから指名での依頼をもらったことがなかったはずだ。

 つまりはこれが、初の指名依頼となる。

 それなのに、本来はレッドガンに任されるような高難易度のミッションに登用されたという、不可思議。

 

 そして、極めつけに。

 

【オマちゃんサーバー上ではこんなミッションの受諾はなかったのに……ああクソそうか!】

 

 オールマインド上で、レイヴンがこのミッションを受諾した痕跡はなかった。

 ……つまるところこれは、オールマインドを介さない、個人的な依頼ということになる。

 

 そこまで考えれば、ナインも事情に大方の察しが付いた。

 

 まず、ベイラム本社がレッドガンに、今回のシュナイダー襲撃の仕事を任せた。

 レッドガン総長たるG1(ガンズワン)ミシガンは、レイヴンの飼い主たるウォルターと個人的な交友を持つ。

 恐らくは621ことレイヴンが使うに能う傭兵か、その実力の程を測るためにウォルターにこれを流し、ウォルターから言われた通りに621はこれを受領したのだろう。

 

 つまるところ、オールマインドを介さない、個人的な依頼として621はこのミッションに赴いているのだ。

 オールマインドのデータサーバーを監視していても出てこないわけである。

 

【失敗した、今後はレイヴン側のサーバーを監視……いやしかし、その場合……】

 

 621とウォルターのやり取り、それに不正にアクセスするのは危険だ。

 なにせ向こうのバックには、ハッキングに長ける女性、オーバーシアーのカーラが付いている。

 如何な新人類たるナインといえど、老練な彼女との電子戦には多少のリスクが付き纏うだろう。最終的に勝利する自信はあれど、自らの存在を悟らせずに無敗を貫く自信まではなかった。

 

 故にこそ、これまではオールマインドのサーバーをハッキングするに留めていたのだが……。

 今回は、それが悪い方向に転んでしまったらしい。

 

 

 

『オペレーター』

 

 617の言葉に、ナインは思考を現実に引き戻される。

 

 彼女の声は、先日までに聞いていた、どこか弛緩した穏やかなものではなく……。

 戦場に立つ傭兵、一匹の猟犬としての、無感情で冷たいもの。

 

 「ナイン」でも、「おにいさま」でもなく、「オペレーター」。

 その呼び名は、彼女が作戦に臨む戦士であることを、ここが殺し殺されの戦場であることを、ナインに思い出させた。

 

『敵が接近しています。オペレートを』

【……すまん、そして了解した。

 そうだな、俺自身が言ったことだ。今はとにかく、生きてミッションを終えることを考えよう】

 

 ……ここで621と戦わねばならないのは、あまり良い状況とは言えない。

 その理由は、どちらか片方はミッションに失敗し、その名に泥を塗らねばならないから、というのが1つ。

 617の実力だけでは、まだ621に勝てない可能性が高い、というのが1つ。

 そして、未だナインが621のことを測りかねているから、というのがもう1つだ。

 

 だが、前者はともかく、後者2つに関しては……むしろ好機と捉えることもできるだろう。

 

 どちらにしろ、こうなってしまった以上、ナインにできるのは……。

 サポーターとして、617を支えることだけだ。

 

【今回のミッション、欠片たりとも余裕はない。

 617、今回君は戦闘にだけ集中しろ。投降の呼びかけやその場での判断は、俺がしよう】

 

 

 

『あの機体構成……独立傭兵レイヴン? アリーナのトップがどうして……。

 ……いいや、理由など分かり切ったことか。全く、何のためのブリーフィングだよ』

 

 アーキバスの監視の目がある可能性を考え、広域回線で敢えて今知った風を装った言葉を吐き捨てながら、AC「フォーアンサー」はインフラを破壊している敵性AC「Loader 4」に迫った。

 夜の工業地帯に、内燃型ジェネレーターからもたらされるオレンジの炎が駆ける。

 

『──シュナイダー工業開発区域への許諾なき侵入、及び破壊活動は認められていない。

 そこのAC、直ちに投降しろ。抵抗するならば容赦なく攻撃する……と。

 警告はこんなものか。元より撃ち合いに来ている相手に無意味だとは思うが、これも仕事なのでね』

 

 自分で言っていながら、ナインは苦笑してしまった。

 

 仮にナインがあちらの立場であれば、当然、警告など無視する。

 なにせ相手はアリーナのランク1/S、トップランカーであり、こちらは先日昇級したとはいえ27/F。

 数字から判断した戦力はあちらの方が上位であり……実際の戦力も、恐らくはそうだろう。

 

 そしてそもそも、相手はこれが不法行為であることを理解した上でミッションを受諾し、実行しているのだ。今更引き下がるわけもない。

 

 実際敵性AC「Loader 4」は、こちらの警告を一顧だにせず、むしろアサルトブーストでこちらに迫って来る。

 

 相手をぶち殺すことしか考えていない猪突猛進。

 それに、思わずかつての自分の姿を重ねてしまい、ナインは苦笑しながら言った。

 

『まさかこんな形での遭遇になるとは、想定していなかったが……。

 まぁしかし、悪くはない。独立傭兵レイヴン、その背景をここで量らせてもらうと同時、この子の成長の糧となってもらおう。

 さぁ、リンクス、仕事の時間だ。

 相手はイレギュラー……殺す気で行かないと、殺される。俺もサポートしよう』

 

 

 

 * * *

 

 

 

 敵性AC「Loader 4」が迫る、「フォーアンサー」内部、コックピットの中で、赤い光が輝く。

 

【外装は……外の目を考えると危険。今回は内装だけの強化に留めるか】

 

 617の頭に響く声と共に……。

 AC「フォーアンサー」の内部に、ナインの伸ばしたコーラルの指が広がる。

 

 COMにアクセス、その動作を最適化し、617の操作入力から機体動作までにかかるラグを軽減。

 ジェネレーターに干渉し、内燃リソースの一部にコーラルを混流させ供給効率を向上。

 FCSの機能を改竄、ナインが計算した上で補正を入力する形へと変更。

 ブースターをコンデンサへ接続、機能改善と共に余剰ENを冷却に利用しQB間隔を短縮。

 

 各種、パーツの限界以上の機能向上。

 それに伴い、「フォーアンサー」の全身のランプが、赤く灯る。

 

 

 

【行けるか、リンクス】

『はい』

 

 「フォーアンサー」、コアパーツ内のコックピット、リンクスという傭兵名で呼ばれた617。

 

 操縦桿を握る彼女は、表情にこそ出さないものの……。

 内心では、とても強い、快感を感じていた。

 

 これまでに何度か体験したことのある、ナインによる機体の機能向上。

 ルビコン1にいた頃は、封鎖基地でカタフラクトと戦う際やパッチを守る際に、ルビコン3では主にシミュレーター上で行われたそれ。

 

 これは、強化人間……つまりはACのパーツとして改造され、その感覚をACそのものと同調させる617にとっては、強い快感と法悦を伴うものだ。

 

 なにせ、自らの感覚が拡張され、できないことができるようになる……それを自らの体で体感するのだ。

 コーラルが弱い中毒性と向精神性を持つこともあり、これまで味わったことのなかったような、恐ろしい程に甘美な感覚が全身を走り抜ける。

 

 更に言えば……これはナインがACにその手を伸ばすことで発生する現象だ。

 そして617もまた、ACにその感覚を同期している。

 つまるところ、617は彼女の「おにいさま」と、ACという体を通して繋がり、一体化しているような状況。

 普段は声を聞いたり赤い光を見るだけで、その存在を殆ど感じられない「おにいさま」が、すぐ傍にいてくれると実感することができるのだ。

 

 

 

 心身共に、漲る充実感。

 

 脳内が澄んでいく。

 複雑で難しくて面倒だった世界が、透明になっていくような感覚。

 

 彼女の信じる、きっと世界で一番強い「おにいさま」との一体化。

 今ならなんだってできるんじゃないかと思えるような、万能感。

 

 それが617には嬉しく、心地良く……。

 

 

 

 だからこそ。

 

 自らの生きる意味を明かすため。

 そうして、ウォルターの下へと帰るために。 

 

 おにいさまに代わり、戦うため。

 そうして、おにいさまに褒めてもらうために。

 

『行きます』

 

 その快感の全てを殺意へと転化し、全身全霊を以て、敵を殺すのだ。

 

 

 







 次回、617withナイン vs. 621。

 ダブトリジマーマンに両肩ワーム砲とかいう思考停止の瞬殺アセンに、617は抗うことができるか。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。