そして世に(銀髪薄幸美少女傭兵との)純愛のあらんことを 作:アリマリア
今日でリンクスに道を譲ってもらうぜ。レイヴンが!
独立傭兵レイヴン、もとい強化人間C4-621の駆る、「Loader 4」。
独立傭兵リンクス、もとい強化人間C4-617の駆る、「フォーアンサー」。
アーキバスの工業開発区域での両者の戦いは、「Loader 4」の強襲から始まった。
アサルトブーストを強襲用の最大速度で噴かし、「フォーアンサー」に詰め寄ろうとする「Loader 4」。
多少の被弾は受け入れて、速攻で勝負を決めるつもりなのだろう。
『…………』
迫って来る機体を前にして、617は操縦桿を握る腕に汗をにじませながら……。
自らのおにいさま、オペレーターたるナインに言われたことを思い出していた。
【ACによる現代機動戦は、超高速戦闘だ。半秒どころか1/10秒単位で戦況は変わり、即座にそれへ対応することを求められ、それが遅れた方が負ける。まさしく「迷えば敗れる」、というわけだ。
そのためにも、まずは二択。
一気呵成に攻めてダメージレースにリードを付けに行くか、相手の攻めをいなしながら反撃するか、選択せねばならない。
攻めか、守りか。最初のアクションをどちらにすべきか判断するためにも、まずは……】
相手の戦い方を掴め、と。
彼女のおにいさまは、そう言っていた。
617の思考が回る。
毎日のように繰り返してきた、実戦形式での
そして何より、ナインが操るACという有人機との戦闘。
これによって培った対人戦闘経験が、敵の行動を観察させた。
本来アドバンテージを取られやすい、積極的な仕掛け。
被弾を恐れない距離への強襲。
戦闘の直前にナインが網膜上に浮かべた、相手の武装の特徴。
殊更に周囲の地形を使おうとしない猪突猛進。
それらから総合して考えるに……。
相手は、かなり積極的に、こちらを攻め落としに来ている。
ナイン曰く、相手は簡単に倒せるような雑魚ではなく、強敵。
ならば……相手の戦い方に、対応しなければならない。
そして、もう1つ、ナインの忠言が脳裏をよぎる。
【一発が強力な武装はその分、避けさえすれば一切の負傷がないからな。意識を割いてもその分ペイできる。
グレネードに限らず、大きな攻撃はこれからも注意するように】
G7ハークラーと戦った日、それと同じアセンブルのナインと戦った後、言われた言葉。
一発が重い武装は、その分リロードにかかる時間が長く、それを躱しさえすれば一方的にアドバンテージを握ることができる。
ハークラーが握っていたバズーカもそうだが……ナインの情報が正しければ、目の前の敵性AC「Loader 4」の両手両肩の武装もその典型例。
「…………」
617は慎重に後ろへとブースターを噴かしながら、敵性ACの両手に視線を向ける。
そして……自然な状態で垂らされたそれが、ゆっくりと吊り上がると同時。
「ッ!」
グオンッ、と大きな音を響かせ、「フォーアンサー」はクイックブーストを噴かし進路を急変。
左へと跳び、横合いにあった建物の扉を突き破り、内部へと入っていく。
直後、「フォーアンサー」のいた場所を、何十発ものショットガンの弾丸が穿った。
「Loader 4」はアサルトブーストの勢いを、ほんの一瞬前へと強くブースターを噴かすことで殺し切り。
続けて、「フォーアンサー」が入って行った屋内に向けて残った片腕のショットガンを放つが……。
そこには、既に敵性ACは見当たらなかった。
* * *
逃げ出した敵性ACを追い、ブースターを噴かせる「Loader 4」内部、コックピットの中で……。
レイヴン、もとい621は、呟く。
「……つよい」
熟練の傭兵である621は、今の動きだけで、相手の実力をある程度測ることができた。
敵は、アリーナのランク27/F。
一応ランク圏内ではあるけど、決して上位ランカーではない。
「MTとそう大差ねぇ時代遅れのゴミ」や、「門番くらいにはなった間抜け」と変わらないはずの相手だ。
だからこそ、戦いを長引かせる必要など、ない。
相手に変な行動などさせることもなく、いつも通りショットガンで強襲し、蹴り、スタッガーを取って、スタンニードルランチャーを撃ち、耐えてもブーストキックで終わり。
抵抗など許さず、上から圧殺する。それがAC戦としてはベスト。
だからこそ、621はこうして速攻をしかけた。
しかし……今の動き。
こちらの動作や行動指針に即座に対応してきた手際の良さ。
毎秒どころか毎瞬変化する周辺地形を把握し、盾にする判断力。
それは、強者の動きに他ならない。
それこそ、レッドガンのタンク乗り、解放戦線のニンジャ、深度2で襲って来る殺し屋、あるいはヴェスパーが誇る最強……カーマンラインで戦った戦友。
621が戦ってきた強者たちのそれと、よく似ていた。
そしてそれは、AC「Loader 4」のメインカメラ映像を遠方から確認していた、オペレーターのウォルターにも理解できたのだろう。
彼は思わずといった風に、困惑の声を挙げた。
『馬鹿な、あれがランクFの傭兵の動きだと? 信じられん……。
621、警戒しろ。どうにも普通の相手ではないらしい』
「うん」
こくりと、彼女は銀髪を揺らして頷いて答える。
……わかっていたことだ。
周回を経て現れる相手は、どうせ胡散臭いのだ。ケイト・マークソンとかドルマヤンとかオキーフとか。
リンクス・ウィズ・カラー。
「前の周」には存在しなかったはずの傭兵もまた、その類。
決して油断できる相手ではない。
621は瞬殺を諦め、これを「処理」でなく「戦闘」として捉え直す。
……それでもどこか意識が緩んでいたのは、既にこの世界を3度も戦い抜き、ただの一度も誰にも負けなかったことの……絶対的な強さの弊害だろうか。
* * *
一方で。
工業区域を遮蔽から遮蔽へ、逃げるように荒く駆け抜ける「フォーアンサー」の内部では……。
「……ッ」
リンクス、もとい617が、荒く息を吐いていた。
その理由は……緊張。
それを招いたのは、先程の「Loader 4」との一瞬の接触だった。
圧。
617は、「Loader 4」から、圧力を感じた。
ただアサルトブーストで迫って来ただけ、一度両手の武器を撃っただけ。
それなのに、精神を気圧されてしまうような、凄まじい圧を。
それは、これまでに感じたことのないものだった。
618を殺した第一世代の殺し屋や、619と620を殺したカタフラクトからすら感じたことのない、怖気。
強者が放つ、恐ろしいまでの、けれどどこまでも自然な殺気。
それは、感情の大部分を失った617にすら、ほんの少しの萎縮を覚えさせた。
【落ち着け、617。大丈夫だ、君は十分戦える】
脳内に響く声に、617ははっとして、軽く首を振った。
今いるのは、死の飛び交う戦場だ。ここで余計なことを考えていろなどとは、ウォルターからもナインからも教わってはいない。
『あれは……ここまでの威圧感を持っているのは、想定外でした』
【君の反応もおかしなものじゃない。
レイヴンはトップランカー、文字通り今のルビコンの「最強」だ。カタフラクトも、エクドロモイも、ありとあらゆる兵器がアレの前には及ばない。手も足も出ない。
だから、こう考えろ、617。……アレは、本気の俺だと】
『本気の、ナイン……』
これまでに617は、本気のナインと戦ったことはない。
ナインブレイカーの内、ナインとの戦闘である教習項目ナインブレイク、レベル1。とても本気を出していない状態の、最適化されていないアセンブルで戦うもの。
それを以てなお、617はナインを倒せないでいるのが現状だ。
それが、今戦っている相手は……本気のナインであると。
つまりは、少なくともナインブレイクレベル4、あるいはレベル5にあたる相手だと。
そう言われ、617は操縦桿を握りしめる。
緊張と……ほんの少しの、歓喜から。
普段なら、恐ろしかっただろう。
勝てないと悟り、玉砕か、あるいは撤退を選んだかもしれない。
けれど……今、彼女は、一人ではない。
【さぁ、やるぞ。俺たちの強さを押し付けて……最強に、一矢報いる】
おにいさまと共に、戦っている。
赤い光が、彼女を守るように、視界と感覚全体に広がっている。
その存在が、617には暖かく、心強かった。
『了解しました。……行きます』
* * *
621が駆る「Loader 4」は、ブースターから赤い炎を噴出させ、基地を駆け抜ける。
勿論それは、「フォーアンサー」を追ってのことだったが……。
しかし。
「……っ、じゃま!」
COMから響く警告音を聞き、咄嗟にクイックブーストを噴かして大きく右へ跳ぶ。
直後、上空に飛ぶドローンから放たれた太いレーザーが、大地を削った。
……621はあれから、敵性AC「フォーアンサー」の元へと辿り着けずにいた。
道中、何度も無人のドローンやタレットから狙撃を受け、妨害されたからだ。
シュナイダー工業開発区域。
ベイラムの情報によれば、本来警備の配置転換中であるはずのそこには……。
まるで物陰に潜ませるかのように、多数の無人機が配置されていた。
『無人機に、ドローン、それに人が全くいない……この警戒網、まんまと誘い出されたか。
ベイラムは情報を掴んだのではなく、掴まされたということだろう。
ACさえ落とせば、この程度どうとでもなる。潰せ、621』
ウォルターからの言葉に、621は歯噛みする。
言いたいことはわかる。
あのACさえ潰せれば、残るは軽MT級の相手だけ。
どれだけ囲まれようと、621の駆る「Loader 4」の脅威とはなり得ない。
けれど、問題はその敵性AC、「フォーアンサー」だ。
アレは、強い。恐らくはルビコンでも有数の強者に並ぶ程に。
下位ランカーのようにすぐに瞬殺して先に進む、なんてことはできないだろう。きちんと相手に集中して、動きを見ていかなければならない。
……だからこそ、無人機が厄介になってくる。
「フォーアンサー」との戦いの最中に、衝撃力の高い攻撃が降って来るのが、厳しい。
敵性ACの動きに集中しているからこそ、そちらにはどうしても警戒が徹底できないからだ。
そもそも「Loader 4」のアセンブルは、相手のスタッガーに合わせて一気に火力を叩き込み、戦闘を長引かせずに終わらせるという、対ACや対大型兵器に特化したもの。
火力を搭載する為に、ブースター速度やクイックブースト性能などの回避性はある程度妥協している部分があるし、数多くの軽MTを潰すには時間がかかる。
空を飛ぶ無人ドローンや隠れ潜むタレット群の中、動きの機敏な軽量機との削り合いになってしまえば、どうしても相性的に不利になってしまう。
こちらが敵性ACのスタッガーを取り、追撃しようとした時に無人機の攻撃でスタッガーになりでもしたら……戦いは大きく長引き、ジリ貧の状態に持ち込まれるだろう。
故に……あの男の言葉を使うなら、「まずは、安そうな方から片づけ」なければならない。
「先に、ドローン!」
アサルトブーストを噴かし、621は進路上のドローンを潰して回ろうと判断する。
思い出すのは、1つ前の周でのウォッチポイント襲撃。
あの時も621は、先に無人機たちを潰して回ってから敵を排除した。
それ以外でも、イグアスと共闘した所属不明機体との戦いや、イグアスとの戦いの前座でもそうだった。
このアセンブルの「Loader 4」にとって、それは紛うことなく正答に近い選択肢だ。
故に彼女は、今回も同じように、多少の被弾は覚悟でドローンに向かって飛び……。
……しかし、まるでそれを、綺麗に読まれたかのように。
上空へ飛ぼうとする621に向かって、建物の物陰、光学スキャンがギリギリ届かない場所から、敵性AC「フォーアンサー」が飛び出して来る。
その左腕に見覚えのあるパルスブレードが握られていること、そしてそれからパルスの奔流が流れ出ていることを視認。
咄嗟にアサルトブーストを停止し、621はクイックブーストを噴かせて後ろへ跳び下がるが……。
「フォーアンサー」は、ブレードを振りかぶるより前にパルスを散逸させ、更に前へと……「Loader 4」へとクイックブーストを噴かせる。
「っ!?」
それを見て、621は更に横へクイックブーストを噴かして切り返すが……逃げ切れない。
いいや、逃がさないとばかりに、「フォーアンサー」もクイックブーストを噴かし、その動きに食い下がって来る。
「Loader 4」は火力のために機動力を妥協している。
こうして至近距離に踏み込まれれば……軽量機らしい「フォーアンサー」から逃れることは不可能。
それも……「フォーアンサー」のブースターはナインによって通常以上に性能が改良されているのだから、なおさらだ。
「フォーアンサー」は再びその手に持つブレードにパルスをたぎらせ、それを「Loader 4」に叩き付けて来る。
それを回避する術は……アサルトブーストの後、クイックブーストを連続で使ったためにENを消費し尽くした「Loader 4」には、ない。
高周波振動によるパルスを纏うブレードが、「Loader 4」を切り裂いた。
「ぐうっ!」
『621!』
ドローンからの攻撃によって蓄積したACS負荷もあり、「Loader 4」はスタッガーに追い込まれ……。
目の前で、フォーアンサーは続けてアサルトアーマーを展開。
体勢を崩しENも尽きた機体で回避する方法などあるはずもなく、621はそのパルスの奔流による追撃を甘んじて受けることになった。
……しかし、「Loader 4」は機体重量を妥協した分、軽量機に比べればAPの余裕がある。
全体の6割程度を削り取られはしたが、それでもこれだけで撃墜されることはない。
あるいはそれを悟っていたか、「フォーアンサー」は右肩のミサイルを放つと即座に反転し、アサルトブーストを噴かして再び建物の陰へと逃げ去った。
「……ちがう」
621はリペアキットを使いながら、コックピットの中で小さな呟きを漏らす。
「今までの敵とは、ちがう?」
先程の動き……。
光学スキャンの届かない、物陰からの奇襲。
そこまではいい。傭兵稼業をしていれば、待ち伏せなど日常茶飯事だ。
だが、その次。
距離を詰めながら敢えてブレードを展開して見せ、こちらのクイックブーストによる回避を誘導。
それを見た直後にブレードをキャンセルし、同じ方向へと追いすがり……こちらのENが尽きたであろうタイミングを読み切って、ブレードにパルスを十分以上に充填させ、叩き付けて来た。
……あまりに、戦い慣れている。
相手が……621のような強者がどう動くかをトレースし、ENの残量まである程度目測を付けた動きだったように思えた。
それは強者にのみ可能な動き。強者にのみ許された領域。
とても、ランク27/Fに相応しいとは思えない。
いや、それどころか……621が、今までに味わったことのないものだ。
更に言えば、「フォーアンサー」の動きは、過剰な程に丁寧で的確なもの。
今までの621のように、「さっさと相手を処理しよう」という、強者が故の不精がない。
それでいて今までの敵たちのように、一定の距離から撃ち合おうという意図も見えない。
そこにある地形を利用し、距離感や立ち回りによって差を付け、時には全力で逃げて、有利な状況で一方的に撃つという戦術。
強者というよりは弱者らしく、虎視眈々と相手の隙を伺い、時間をかけてでも着実に追い詰めようという強い意志を感じた。
この感じは……。
「…………ラスティ」
621のただ一人の戦友であり、いつか理解し合い手を取り合い……それでも救えなかった、彼の在り方に近い。
ハッキリ言って……最も厄介な手合いだった。
……だが、しかし。
それは、「厄介」であって、「困難」ではない。
『621、今相手について調べが付いた。
独立傭兵リンクス・ウィズ・カラー……アレは恐らく、お前と同じだ。
直前の傭兵ライセンス復旧以後、そのミッションの達成率は────100%。
身分を偽装した密航者。その実力とランクは、決して比例しない』
621の耳に入る、ウォルターの言葉。
先程、621が今までで初めてスタッガーに追い込まれたことに驚愕の声こそ上げたが……。
だからと言って、ウォルターが現在焦っているかと言えば、否。
むしろその声には、絶対の自信があった。
如何に相手が強かろうと……最終的には621が勝つという、自信が。
そして……。
「大丈夫」
それは、恐らく、過信ではない。
「多分、わかった」
* * *
『削れ、ました……リペアキット1つ分、でしょうか』
「Loader 4」から逃れ、再び遮蔽の裏へ回る「フォーアンサー」のコックピット内。
617は確かな感触と達成感を感じ、操縦桿を握る手に力が籠った。
先程の一瞬の交差で敵をスタッガーに追い込み、追い打ちもその後の逃走も成功。
COMによる分析によれば、APを6割近く消し飛ばした。
リペアキットで立て直されてしまったとはいえ、こちらは殆ど無被弾で、一方的に相手を削り取った形だ。
明らかな格上に、一矢報いた。
彼女からすれば、これは大健闘と言える。
ここまでの数か月のトレーニングが、確かに身になっていることをすら実感した程だ。
だが……。
【リンクス、違う。むしろここからだ】
未だ冷静なオペレーターの声が、彼女の歓喜を諫める。
【一度追い詰めた以上、レイヴンからはもう「流れ作業で雑魚を処理する」なんて意識が抜けただろう。
ここからは、本気でこちらを排除しにくる。……勝負所だぞ】
ミッション開始時のレイヴン→「ほな今回もやったりますか」とか言いながら背もたれにもたれかかってるくらいの空気感
今のレイヴン→黙り込んで居住まいを正し少し前かがみでディスプレイを睨んでるくらいの空気感
ここからが本番です。