そして世に(銀髪薄幸美少女傭兵との)純愛のあらんことを 作:アリマリア
それぞれの状況
617「フォーアンサー」
・最初期に揃えられるパーツばかりの機体
・ナインによる内装ネクスト化
・技量は上位ランカーと張り合える程度
・慢心への不意打ちでアドバンテージ確保
621「Loader 4」
・621の好みのアセンブルで組まれた機体
・技量はイレギュラー(4周目)
・不意打ち受けて慢心off
・じまーまん、さいきょう
ACによる機動戦において、より素早く、より確実に勝利するためにどうすればいいか。
ルビコン3での動乱を戦い抜く中で、強化人間C4-621は、何度も何度もそれを考えてきた。
強力無比な一撃を放てる武装を搭載する?
──そういった武装は決まってリロードが長く、躱された時のリスクが大きすぎる。
ジェネレーターやブースターの性能を重視する?
──それは勿論大事だけど、アセンブルの最適化なんて強者なら誰でもやってる。
ACの操縦テクニックを磨く?
──それにも限度がある。ある程度以上の技術は習得のためにかかる時間が多くなりすぎ、効率良く勝率を高められるとは言えない。
オールマインド提供のテストルームで、何百時間と自己流で答えを探し続け……。
彼女はその最果てに、1つの答えに辿り着いた。
それは、「複雑なことを考えなくていいアセンブルを組むこと」だ。
両手の武装、それぞれの残弾とリロード時間、冷却時間。
肩の武装、それぞれの有効な距離と使用法、立ち回りの変更。
……そんなことに頭を回すくらいなら、その分、敵の攻撃回避に集中した方がいい。
結局のところ、敵の攻撃さえ躱し続ければ、いつかは勝てるのだから。
そんな思考があるからこそ、「Loader 4」のアセンブルのコンセプトは、非常に簡潔なものだった。
両手のショットガンを主武装とし、それらのリロード中には攻撃を回避しつつキックを入れ込んで相手に圧をかけ、リロードが終わったら再びショットガンを放つ。
そうして両手武装でスタッガーに追い込んだ後は、両肩のスタンニードルランチャーを放ち……その高い直撃威力と強制放電によって、敵のAPを完全に削り切る。
対単体特化、破壊力重視。
ただそれだけを叶える、安直なアセンブル。
……けれど、安直ということは、即ち思考を費やす必要がなく安定感がある、ということで。
621は、この「Loader 4」で、あらゆるミッションをこなしてきた。
ACも、巨大兵器も、C兵器も、邪魔なものは片端から破壊した。
だからこそ……621は、自らの組んだアセンブルに、決して少なからぬ自信を抱いていた。
そうして今、実に4回目になるルビコン3での戦い、その4度目の依頼。
以前までの「テスターAC撃破」から変化した、「シュナイダー破壊工作」のミッション中……。
「…………」
シュナイダー工業開発区域、西区。
その中で、621は言葉も発さず、ACを走らせていた。
最後に敵性AC「フォーアンサー」と交差した時から、おおよそ3分が経過。
「Loader 4」はリペアキットを更に1つ消費したものの、ついに作戦領域内の全ての無人機……レーザードローンやタレットを片付け切った。
『残すはACのみだ、やれ、621』
機内に響くウォルターの声に、621は小さく頷く。
懸命に距離を離そうと後ろにブースターを噴かせる敵機に対し、621はアサルトブーストで一気に詰め寄りながら、その右手に持つショットガンを放つ。
ある程度離れた距離にも耐えうる集弾性の高いそれによる攻撃は、けれど敵機の横へのクイックブーストによって躱され……。
……直後、621が放った左手のショットガンの弾丸が、「フォーアンサー」に襲いかかった。
ACは、非常に高い機動力を持つ兵器だ。
その中でも、アサルトブーストと並んで特に驚異的なのが、一瞬だけブースターの性能限界を越えた推進力を得る、クイックブーストである。
おおよそ10mの巨体が繰り出す、人の反射神経では捉えることすら難しい程の速度。
現在開発されている如何なるAC用FCSでさえ、このあまりにも速い動きに追従して照準の補正をかけることはできない。
つまるところ、タイミングさえ間違えなければ、これはあらゆる攻撃を回避し得る万能の回避手段となる。
……が。
だからと言って、クイックブーストさえ連打していれば戦いに勝てる、というわけではない。
これには2つの弱点があるからだ。
内1つは、性能限界以上の出力を得るために、コンデンサーに蓄えられたENを消費してしまうこと。
ジェネレーターから供給されるENは、ACにとっての命に等しい。
ルビコン1での封鎖拠点殲滅作戦で617がやってしまったように、敵の前でEN切れを起こせば、無防備に攻撃を受けることに繋がってしまう。
クイックブーストは、絶対的な回避を叶える代わりに、大きく自らのリソースを削る行為でもあるわけだ。
そして、もう1つの弱点が……ブースターの焼き付き。
性能限界を大きく越える出力は、ブースターを一発でオーバーヒートさせ、一時的に使用不可に追い込む。
その冷却性能にもよるが、発動から大体1秒前後、ACはそのクイックブーストによって得た慣性に逆らうことができなくなる。勿論クイックブーストを再度使うこともできない。
だからこそACは、クイックブーストの直後のほんの僅かの間、無防備と言っていい状態になる。
FCSとアームパーツの射撃適性の性能次第ではあるが……そこを狙って攻撃を入れ込むのが、熟練の傭兵にとっての基本となってくる。
当然ながら、熟達の傭兵たる621も、それを狙っていた。
両手のショットガンの内片方は、掠れば御の字程度のものでしかなく……。
それを回避した相手への、もう一発のショットガンのクリーンヒットこそ、本命。
ここまでの戦いで、相手のブースターのクイックブースト性能は確かめた。
そのクールダウンを考えれば……最適のタイミングは、相手がその手札を切ってから、0.6秒。クイックブーストの推進力が弱った瞬間。
そのタイミングで、621は満を持して、残った片腕のショットガンを放つ。
不可避の一撃。
確実に相手のAPを、そしてACSの耐久性を削り取るはずのそれは……しかし。
……当たらない。
敵性AC「フォーアンサー」は、まだ焼き付いているはずのブースターを用い、けれど如何なる方法を以てかクイックブーストを使って……。
滑るように地面を跳んで、弾丸の嵐を避け切った。
「やっぱり、おかしい」
それを見て、621は眉をひそめる。
敵性ACがアサルトブーストを使ってこちらに背を向けた際、そのブースターは窺えた。
BST-G2/P04。奇しくも621の「Loader 4」に組み込んであるものと同じブースター。
やや重めの中量機用ブースターであり、汎用性こそあるものの……その冷却性能は、決して高いとは言えない。
それなのに……。
今、「フォーアンサー」は、クイックブーストの僅か0.4秒後に、再びクイックブーストを噴かせた。
敵機の両手のマシンガンによる射撃被害を、ジャンプとクイックブーストを組み合わせて抑えながら……。
621は、思考を纏めるため、呟く。
「やけつきがほとんどないし、速すぎる。出てる炎の色はないねん型……に近いけど、ちがう。ちょっと、赤がつよい。
それに、ブースターだけじゃない。ENのほじゅう効率が良すぎるし……何より、FCSのせいのうが、高すぎる。ほしくなるくらいに」
敵性AC「フォーアンサー」。
その違和感に、621は気付きつつあった。
特におかしいのが、FCSだ。
「Loader 4」のクイックブーストやジャンプによってその照準補正を切った後、再びそれが合わさるまでにかかる時間が、あまりにも早すぎる。
ほんの一刹那、0.1秒もかかっていない。それも、近距離中距離両方で、だ。
マニュアルエイムかとも思ったが……違う。
FCSらしい射線の癖は、窺える。けれどやはり、その性能は常軌を逸しているように思えた。
その恐るべき射撃精度もあって……。
彼我のダメージレースは今のところ、若干相手側の有利程度に収まっている。
「フォーアンサー」は現在、リペアキットを1つ使い、残AP7割。
「Loader 4」の方は、リペアキットを2つ使い、残AP9割。
ただしこの状況は、無人機がいた頃や、最初の奇襲もあってのもの。
その異次元の内装性能は脅威だが、残念ながら武装と機体捌きの練度が違い過ぎる。
ここから真っ当に削り合えば……十中八九、621が勝てるはずだ。
……だが、100%ではない。
相手が何かしら隠し玉を持っていたり、増援が来る可能性もある。
不測の事態は、予測するもの。
目の前の敵は、危険だ。早急に片付けねばならない。
「殺す」
相手は強敵だ。
ACの形をしているが……操縦技術はともかく、その性能はACを超えているように思える。
だからこそ、余裕を見せることはない。
621はその心を凍てつかせ、目の前のACを撃破することにのみ、集中力を注ぎ込んだ。
* * *
アセンブルにおいて最も考えるべきは何か、と問われれば。
現在617のオペレーターを行っているナインなら、「思考停止できること」だと答えるだろう。
別に、操作負荷の軽いパーツを使え、複雑で込み合ったアセンを組むな、という意味ではない。
そういうアセンを組む場合は、自らの機体を十全に使いこなし、超高速戦闘の中で瞬時に適切な判断を下せるようになるまで、ひたすらに訓練と実戦で脳に動きを刻み込めばいい。
大事なのは、実戦闘の際、自機の動きではなく相手の動きに集中できる状態にあることだ。
自分の機体など手足のように使えなければ、勝てる戦いにも勝てない。
そんな考えの上で。
強化人間C4-617を育てることを請け負ったナインは、パッチのAC「ハンサム」や販売されているACパーツから、今の「フォーアンサー」を組み上げた。
両手には、ひたすら引き金を引き続ければ、着実に相手に負荷を与えられるマシンガン。
右肩には、対複数の敵を攻撃でき、また相手のACS負荷を維持できるミサイル。
左肩には、物理シールドへの有効打となり、スタッガー状態の敵へのダメージソースとなるブレード。
深く思考を巡らせる必要がない、安直なアセンブル。
どのような状況にも対応でき、またどのような相手にも均一な対策が取れる構成であり。
何より、複雑なことを考えずに戦えるものだった。
彼のパートナーたる617は……はっきり言えば、現時点で極めて優秀なパイロットとは言えない。その卵、という評価が妥当なところだろう。
だからこそ、まずは基礎から鍛え上げなければならない。
特定の機体を乗りこなすこと以前に、ACの適切な動かし方、戦闘における立ち回り方やEN管理から鍛え上げる必要がある。
故にこその、安直なアセンブル。わかりやすい構成。
戦況に応じて自機の動きを変える必要をなくし、可能な限り単純な戦術構築に集中できるようにしている。
実際、「フォーアンサー」のシンプルなアセンブルは、今の617にとってこれ以上ないものだった。
下駄を履くことはできていない。それぞれのパーツは、極めて高性能というわけではない。
けれど、機体に振り回されるということは、決してない。
そのおかげで、617は戦えている。
きちんと敵性AC「Loader 4」の動きを見て、それに食らいついて行けている。
……とはいえ、ナインによる内装のアップグレードも込みでギリギリに、ではあったが。
「は、ぁ……はぁ……っ!」
「フォーアンサー」のコックピットで、617はその額に脂汗を流し、荒く息を吐いていた。
視線は網膜上のインターフェースの上で行き来し、少しでも多くの情報を得、少しでも正しい判断をし、必死に今を生き延びようと割れんばかりに頭を回している。
ここまで1つのことに集中するのは、あの時……。
ウォルターからの最後の依頼で、特務機体カタフラクトと戦った時以来。
圧倒的な強者を前に、一瞬気を抜けばこちらが殺されるという確信が、彼女の思考を全力で回転させる。
普段以上のポテンシャルを発揮している。できていると、そう思う。
しかし、その代わりに……。
617は、自身の体力と集中力が著しい速度で減耗していくことを感じていた。
長くは持たないだろう。
あと何分、何十秒持つかもわからない。
それまでに相手のAPを削り切れるか、と言われると……わからない。
いいや。
目を逸らさずに現実を見れば、かなり厳しいだろう。
『まだ……まだ、やらせてください……!』
思考の底から湧いて来た微かな焦りが、617の操縦を荒くしていく。
青くなっていくその顔色は、そのまま、彼女の本音を示していて……。
【…………】
ナインは、そんな彼女を……そして敵性ACを、黙って見つめていた。
ちょっと長くなりすぎたので前後編に分けました。
決着は次回。