そして世に(銀髪薄幸美少女傭兵との)純愛のあらんことを   作:アリマリア

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 この辺りから独自解釈マシマシ。621、フロム脳の時間だ。





ルビコンへようこそ

 

 

 

 レイヴンこと、独立傭兵C4-621との戦いが終わってから、数日。

 

 617が、ナインブレイクのレベル1を突破した。

 

 その時にナインが用いていたアセンブル再現データは、ランク24/E、ルビコン解放戦線のリトル・ツィイーの乗機、AC「ユエユー」のもの。

 

 「ユエユー」は……歯に衣着せず言えば、まるであり合わせで構成したような、全く最適化されていないアセンブルのACである。

 近接適性特化で射撃適正劣悪なBASHO腕に何故か二丁のハンドグレネードを持ち、肩武装に至ってはパルスバックラー一丁と言う潔すぎる構成。

 FCSや機動力の面でも決して優れているというわけでもなく、構えて使用するパルスバックラーとハンドグレネードは相性も悪い。

 

 そもそも「ユエユー」の持つ遠方の敵への攻撃手段は、姿勢制御のための溜め時間が非常に長い両腕のグレネードのみ。

 それはつまり、一定の距離間を保ち、なおかつ自機の解析警告音に合わせて適切にクイックブーストを切り続ければ、一切の攻撃が命中しないことを意味する。

 仮に当たったとしても、ACSの負荷を維持する意図の軽武装もないので、すぐさま冷却されて終わりだろう。

 

 総じて言って、機動兵器というよりは、火力支援機としての運用が正しいのではないかと思える程の、かなり歪なアセンである。

 

 とはいえ、そんな機体に乗ってもなおナインは、不規則な動きによる揺さぶりと意識の隙間に挟まるブーストキック、上空からの撃ち下ろしによって、617に互角以上に競り合っていたが。

 

 根本的な機体の操作技術の面で、ナインと617の間には大きな差が開いている。

 現にこれまでだってずっと低ランカーの最適化されていない機体を使って617をボコり続けていたわけで、今回特別に機体が弱かったせいで負けた、というわけではない。

 

 617がナインの打倒を成し遂げた、その理由はただ1つ。

 単に、617の操作技術が、一気に向上したからだ。

 

 

 

「はぁ……はぁ……はぁ……っ」

 

 手汗と共に操縦桿を握り、脳を駆け巡る脳内麻薬と込みあがる達成感に酔いしれている617。

 彼女に対し、その視界の端に瞬く赤い光は、落ち着いた声で言葉を投げかけた。

 

【おめでとう、617。今までの君の中で、最も良い動きだった。

 ……その技術向上が俺ではなく、レイヴン由来というのが、少し残念なところではあるがな】

 

 そう。

 先日のシュナイダー工業開発地区の防衛……という名の、ベイラム主力AC撃滅ミッション。

 そこでぶつかった、ベイラムが雇用したアリーナのトップランカー、独立傭兵レイヴンの搭乗するAC「Loader 4」との戦いが、彼女の戦闘能力を一歩上のステージへと押しやったのだ。

 

【勿論完全ではないにしろ、あのレイヴンの動きをよく噛み砕いて落とし込んでいる。

 見事な学習能力だ、617】

『……617は、もっと強くならないといけませんので』

 

 荒く息を吐きながらも首輪デバイスを起動し、617は……。

 きっと最初の頃のナインなら見逃していただろう、ほんの微かな喜びの感情が籠った声音で、そう言った。

 

 

 

 先日のミッション以来、617はナインに対し、何度も研究とトレーニングを申し入れていた。

 その目的こそが、レイヴンの動きの学習だ。

 

 617から見て、独立傭兵レイヴンの動きは、「本気のおにいさま」の次に優れていた。

 強さに貪欲で勤勉な617は、それを見て盗もうとしたわけである。

 

 しかし、曖昧な記憶を元に行っても効率が悪い。

 そんなわけで、彼女の意思と目的を聞いたナインが、具体的なプランを提案した。

 

 ナインが撮影していた「フォーアンサー」と「Loader 4」との戦いの映像を何度も見ながら、自機の動きの欠点やその際の緊張と感情、思考を言語化していくと同時。

 「Loader 4」の武装やアセンブルへの理解を深め、その瞬間にレイヴンが何故そう動いたのか、何故その武装を使ったのか、どういう判断をしたのかを考えていく、というものだ。

 

 一言で纏めれば、座学である。

 

【絵が上手くなるための最短経路は、基礎トレとデッサンと上手い絵の模写と勉強。

 であればAC操作を上手くする最短経路は、基礎トレと実践と強者の戦術コピーと座学だ。

 そして、座学の中で特に大事なのは、「その時何故その判断をしたのか」を考えること。

 自分の動きであれば悪癖やパターンの少なさを、相手の動きであれば新たな戦術やその長所を見出すことができるからな】

 

 そう言われ、ナインと話す形で分析していく中で……。

 617は自分の動きについて一定の法則があることに気付いた。

 

 例えば、ショットガンを回避しようとする際、6割以上の場合は向かって左にクイックブーストをしている。

 例えば、ENを余剰に回復させることが多く、攻撃の回避と切り返し以外でクイックブーストをしていない。

 例えば、常に引け腰でヒット&アウェイを繰り返し、自分から攻めることがほぼない。

 例えば、ショットガンが直撃すると、射撃などの動作を全てやめ、必ず回避に集中している。

 

 無意識にやっていた癖から、わざとやっていたことまで。

 617は、「loader 4」の動きに対して、均一的な動きで返すことがあった。

 そういったお決まりの対処は、敵に学習されて読まれやすく、だからこそ不規則にその戦術を切り替えなくてはならないのだとナインは語った。

 

【ナインブレイカーの訓練もあって、基礎部分はだいぶ堅実な動きができるようになってきている。

 後はそれらを組み合わせたり、大体均等な確率で色んな選択肢を取ったり、逆に敢えて隙を見せたりする応用部分。意識して不規則な動きをするように心がけていこう】

『了解、しました。……相手の動きに合わせる、というのは』

【そこをきちんと勉強するのはもう少ししてから。まず自機の捌き方をしっかり身に付けてから、だ。

 ナインブレイカーにいくつか講習項目を追加しておく。これからはレベル1相当の敵機……まぁ俺なんだが。俺と戦いまくって、無意識的な弱点を克服していくぞ】

『はい。ご指導のほど、よろしくお願いします』

 

 

 

 無意識的な癖と、動きの甘さの克服。

 そして何より……レイヴンの戦闘データの研究による、新たな戦い方の構築。

 それらによって、617の戦闘技術は飛躍的と言っていい向上を見せた。

 

 そして、ボロボロにされた「フォーアンサー」の修復すら終わっていない、一週間後。

 

 残AP、773。

 本当にギリギリで、評価としてはまだまだ銅、及第点には届かないとはいえ……。

 

 ついには、ナインを相手に、一本取ることに成功したのだった。

 

 

 

「……ふぅ」

 

 617にとって、ナインは「たいせつなひと」だ。

 ウォルターに命をもらい、ハウンズたちと命を使い、そしてナイン……おにいさまに命を守られた。

 彼女にとってナインはもう家族の一員であり、共に生きていく者の1人である。

 

 扱いとしては、共に戦場を駆けるハウンズよりも、後方から彼女たちを支えていたウォルターの「守りたい人」に近いかもしれない。

 可能であれば代わりに戦い、危険を肩代わりして、その代わりに褒めてもらいたい。

 その出会い方やオペレーターから始まった関係性などもあってか、617からナインへ向けた感情は、現状そういうものが強い。

 

 しかし、現実的に見て。

 617とナインの戦闘能力を比較すれば……後者の方が、圧倒的に強い。

 ルビコン1でのカタフラクト戦、惑星封鎖機構撃滅。あれらは、その時点の617の戦闘能力ではとても突破できない戦いだった。

 

 戦いを肩代わりするどころか、むしろ今は、617の方がナインに守ってもらっている状況だ。

 彼女はそれを心苦しく思っているし、だからこそもっともっと強くなって、ウォルターとおにいさまの代わりに戦い、そして2人にたくさん褒めてもらえるような日を目指している。

 

 そんな617にとって、仮に相手が本気を出していないとしても、ラッキーパンチが当たっただけだったとしても、ナインに勝てたことは確かな自信となった。

 

 まずは、一歩。

 いつかおにいさまに、心の底から「強くなったな」と言ってもらえるように、一歩目を踏み出したのだ、と。

 

 

 

『おにいさま……わたし』

 

 手を握ったり開いたりして感慨に浸る617に、ナインは……最も欲しかった言葉をくれた。

 

【ああ、本当に良く頑張ったし、強くなったな、617。お祝いに、今日は美味しいものでも食べよう】

『それは……ドライフルーツを……』

【勿論。他にも、いくつか甘いものでも身繕おう。いわゆるチートデー、食べ放題を楽しんでくれ】

『はい』

 

 そう言って、赤い光を見上げる617は……。

 

【……ふふ】

 

 その、いつも無表情だった顔に、確かな喜びの感情を乗せていた。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 ルビコン3、某所。

 ドックの中で修復中のACのコックピットに、オペレーターの言葉が響く。

 

『……レイヴン、見えてる?』

「──」

 

 通常モードでシステムを起動する、AC「ナイトフォール」。

 その中で、メインディスプレイに移る映像に目をやり、独立傭兵レイヴン……C4-621ではない、本来のその名義の持ち主は、短く肯定を返した。

 

 彼女の目に映るのは、所属する独立傭兵集団「ブランチ」のメンバーが取得したという、映像データログ。

 先日シュナイダー工業開発区域で行われた、独立傭兵同士の戦いが映されたものだった。

 

 やや粗い画質で、なおかつところどころ乱れる映像ではあるが、そこで戦っているのは間違いなく……。

 

『片や、あなたが先日目を付けていた、独立傭兵リンクス・ウィズ・カラーの「フォーアンサー」。

 片や、あなたの名義を使って活動し始めた、独立傭兵レイヴンの「Loader 4」。

 なんとも因果な2人が争っているものね。羽ばたいた風の起こした竜巻、といったところかしら』

「────」

 

 レイヴンは、相変わらずポエミーな言葉遣いのオペレーターに、軽く一言入れた後……。

 改めて、映像に注目する。

 

 

 

 一見すれば、戦いはおおよそ互角……のように思えるものだった。

 

 まずは「フォーアンサー」が引きながら、周囲に飛び立った無数のドローン群などと連携し、堅実に相手にダメージを入れていき。

 「Loader 4」がそれらを撃ち落とした後は、やや「Loader 4」の優勢と言える状態で勝負が進む。

 

 が、時間が経つにつれ、「フォーアンサー」の動きがまるで平静を欠くように、徐々に荒くなっていき。

 最後は「Loader 4」がスタッガーを取る、というところで……。

 

 不自然に映像が乱れ、止まった。

 

「────?」

『ええ、映像はここまで。「彼女」によると、外部から何らかの強力な干渉があって、撮影に回していたドローンとMTがまとめて機能停止したらしいわ。

 リアルタイムでバックアップを取っていたから良かったものの、もしそうでなければ、ここまでの映像も残らなかったかもしれない、と』

 

 オペレーターの、不可解な言葉。

 それに対し、レイヴンは考察と疑問を投げかける。

 

「…………、──?」

『そうね。先日から続くハッキング騒動と合わせ、「彼女」の能力を超える規模の干渉が続いている。

 そしてそれは……あの独立傭兵、リンクス・ウィズ・カラーが傭兵ライセンスを復旧した日の前後から。

 あの独立傭兵、「彼女」もルビコン1に流れ着く以前の足取りを辿れないらしいし……余程強いバックが付いている、と思っていいでしょうね』

 

 

 

 オペレーターの分析を聞きながら、レイヴンは再び映像を再生する。

 

 特に着目するのは……「フォーアンサー」と「Loader 4」が一対一になってからの戦闘だ。

 

『……やっぱり「Loader 4」が、あなたの翼を奪った独立傭兵が気になる?

 確かに、相当に最適化されたアセンブルだし、その動きも……あなたに劣らない程かもしれない。

 アリーナのトップを名乗っても違和感のない実力だとは思うけれど……』

「──」

『違う? じゃあ、見ているのは……「フォーアンサー」?

 確かに彼女も優れているとは思うけれど……贔屓目なしに見て、上位ランカーと並ぶ程度でしょう。

 可能性はあっても、既にその翼を広げている「Loader 4」の独立傭兵程ではないと思うけれど……』

「──、──」

『パイロットじゃなく、機体?』

 

 レイヴンが動画を操作し、一部をクリップに切り取って、己のオペレーターに見せる。

 それは、「フォーアンサー」が相手のショットガンをクイックブーストで回避する瞬間だ。

 

「────」

『クイックブーストに違和感、か。

 画質が粗いからブースターの機種は確認できないけれど、冷却性能の高いブースターなら、この頻度のクイックブーストはあり得ないって程じゃないでしょう?』

「──。────」

『……機動?』

 

 首を傾げるオペレーターに、レイヴンは珍しく饒舌に語った。

 

 

 

 ACのクイックブーストは、実のところ、かなり新しい技術だ。

 

 何百トンという質量を持つ巨大な機械を、それまでの慣性を殺し切りながら、時速何百キロメートルという初速で動かす……。

 それに要求されるエネルギー量は凄まじく、またブースターにかかる負荷も甚大なもの。

 それらを解決できるだけのジェネレーターとブースターの冷却性能が実現したのは、ここ半世紀……「前回のコーラル争奪戦」が終結してからしばらくのことになる。

 

 その上で、クイックブーストには依然として、少なくないENの消費、そしてブースターの焼き付きという問題が残っている。

 これを解決するよりも早く、ACはもはや時代遅れの兵器となってしまったのだが……それはともかく。

 

 更に、これらに加えてさらにもう1つ、クイックブーストには問題が残っていた。

 その噴射時間や距離に関しても、重量機にとっては十分なものとは言いづらいのだ。

 小さな弾丸はともかく、プラズマやバズーカの爆風、拡散レーザーにレーザー攻撃の類は、これを噴かしてもなお、完璧には躱し切れない場合も出てくる。

 

 この問題を解決するため、ACはそのレッグパーツを活かし、不足分を補う。

 二脚や逆関節、そして四脚のACがクイックブーストをする際には、その脚部で地面を蹴ることにより、推進力を更に増そうとするのだ。

 その際当然ながら、水平だけでなく垂直にも推進力が生まれるため、特に「フォーアンサー」のような軽量機の場合、軽く跳ねるような機動になるはずなのだが……。

 

 

 

『……確かに、言われてみればおかしいわね。

 「フォーアンサー」は、まるでスライドするようにクイックブーストをしている……つまりはレッグパーツを使わず、ブースターの能力だけでこれを行っている?

 軽量機ならこのような戦い方も……いえ、しかし、それだけでここまでの推進力は……しかも、それだけブースターを酷使したにしては、その後の冷却が早すぎる……?』

 

 疑念の趣旨を理解し、考え込んだオペレーターの声を聴きながら、レイヴンは考える。

 

 先日、パイロットからは可能性を感じた。

 リンクス・ウィズ・カラー。その名を騙る誰か。

 その独立傭兵は、確かに……オペレーターの言葉を使うなら、「このルビコンの空を羽ばたく可能性」を秘めている、と。

 

 しかし……今、彼女は、機体にも可能性を感じていた。

 意志なき機械に可能性を感じるなど、おかしな話ではあるが……。

 それでも確かに、傭兵としての彼女の直感は、そこに何かの萌芽を感じ取ったのだ。

 

 その正体が何なのかを、彼女は考え……。

 

 

 

 しかし、結論が出るよりも早く、そんな2人の元に通信が入る。

 オペレーターがレイヴンに確認を取った後に回線を開くと、コックピットに落ち着いた女性の声が響いた。

 

『……レイヴン、レイヴンオペレーター。

 こちらから一件、急ぎ報告しておきたいことが』

 

 それは、彼ら「ブランチ」の仲間の一人。

 キング、シャルトルーズ、レイヴンに続く、最後の1人のものだった。

 

『何でしょう? 映像のこと?』

『ええ、その通りです。

 あの映像を撮影したベリウス北部、シュナイダー工業開発区域、A.S-2へMTを派遣し、調査を行いました。

 その結果判明したとある事実と、事実に基づく考察を報告します』

 

 その声は、平常の冷静沈着で感情の籠らない声ではなく……どこか喜色を含んだ、興奮冷めやらぬもので。

 常ならぬ様子に驚くレイヴンとそのオペレーターを前に、彼女は……。

 

『映像撮影直後、この区域周辺では、空気中に漂うごく少量の微細コーラルが確認できませんでした』

『それは……群知能による収束、ではありませんね。コーラルは一定量の閾値を超えるまでは群知能を持たない。収束もしないはず。

 では、シュナイダーが、微細コーラルを収束させる技術を開発した、と?

 あまりにもコストパフォーマンスが低いため、企業は集積コーラルを捜索する方向に舵を切ったものと思っていたのですが』

『いいえ。基地の残骸からはそのようなデータは検出されませんでした。この一件に関しては、企業は関与していない、と考えて構わないでしょう』

『……それじゃあ、一体誰が、何の目的で……』

『あくまで、私()()の考察にすぎませんが』

 

 彼女は──ブランチの最後の1人、「ケイト」の名を継いでいた彼女は、言った。

 

 

 

『「ファンタズマ」。

 独立傭兵リンクスの周囲には、それが存在する可能性があります』

 

 

 






 読者の皆様にとってはもう遥か遠い過去のことかもしれませんが、作者がこれを書いている頃にちょうどアマプラACことsecret levelが公開されました。
 オペ子とかラストカナブンならぬラストゴキブリとかVOBとか右腕ブレとか有澤重工とかVっぽい造形とかラストのフェードアウトとか、楽しいところが本当にたくさんあったんですが、個人的にはやっぱりE.T.じゃなくてA.C.やってくれたのが最高でしたね。
 ACの腕は誰かと手を繋ぐためじゃなく、武器を以て誰かを〇すためにある。
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