そして世に(銀髪薄幸美少女傭兵との)純愛のあらんことを 作:アリマリア
やぁレイヴン、久しぶりだな。年末以来か。
積もる話もあるが、おさらいに入ろう。
617:強化人間C4-617。イレギュラーの素質を持った銀髪薄幸美少女傭兵。色々あって生存、日々ナインブレーカーをさせられるという拷問を受けながらもすくすく成長中。
ナイン:転生したらコーラルだった件。617の脳内おにいさまとして彼女を鍛えつつ4つ目のルート=4つ目の答えを目指している。621との接触でついに自身の正体を自覚してしまった。
621:強化人間C4-621。4周目のイレギュラーな銀髪薄幸美少女傭兵。ループする世界での孤独な闘いに疲れ果てていたが、自身のこれまでを知るナインの存在にほんの少しの救いを見出す。ナインと協力関係を結んでいる。
楽しくない地獄の始まりだ!
ベリウス中部にそびえたつその交易拠点は、「壁」と呼ばれていた。
「壁」はその名に象徴される通り、上下方向に大きく伸びた超巨大建築物だ。
その高さは実に500メートルにも迫る程であり、内部でACによる機動戦闘すらも可能とする程の広大さを備えている。
更にその周囲には、交易と生産のため円状に市街が築かれ、戦時にはこの複雑な構造を利用して解放戦線による手厚い防護が築かれる。
ルビコン3の現地民であり、アーキバスとベイラム、そして惑星封鎖機構による圧政に抵抗する、ルビコニアンたちの反抗組織……ルビコン解放戦線。
彼らにとって各所に伸びる補給路の拠点となり、なおかつ守りやすい地形条件を持つ「壁」は、通商と反抗の要衝だ。
利便性が高く、だからこそ決して失ってはならない非常に重要な拠点であり……。
故にそこには、武装採掘艦「ストライダー」と並んで、非常に厚い防備が敷かれていた。
市街外縁部には、MT部隊による手厚い監視と警備が敷かれ、迫り来る外敵を見逃さず。
ここから市街部へと続く入り口には、備え付けられた巨大なマシンガンとバズーカ群が敷設され、MTどころかACさえも撃退できる程の火力を誇る。
いざこの警備網を潜り抜けて市街部に入っても、むしろ問題はそこからだ。
市街正面、壁に直結する広大な通路は、建築物もなく真っ直ぐなので進みやすく見えるが……。
ここを進もうとすれば、「壁」の外壁に備え付けられた多数のレールガンや、市街地ビルの屋上から狙撃を狙うMT狙撃部隊から一斉に集中砲火され、抵抗など許されず一瞬でスクラップになる定め。
正面を避けて外壁部から「壁」に忍び込もうとしても、AI制御されるレールガンや市街の建物屋上から目を光らせるMTの脅威を完全に排することはできない。
そして、何よりもこの周辺における脅威になるのが……。
「壁」屋上に備える、強大な二機の兵器。
重装機動砲台、「ジャガーノート」。
汎用性を捨て、狙撃に特化した右肩の三連グレネードキャノンの射程は、脅威の3キロメートル。
その弾速は恐ろしく速く、AC規格のグレネードとは比べ物にすらならない。
爆発範囲もまた広大で、ルビコン3における機動戦闘の主役たるACのクイックブーストですら躱し切れない程のものだ。
直撃しようものなら最新鋭のACSですら負荷を抑えきることはできず、APも3000近く飛ばされることは間違いないだろう。
それが、同時に三発、ほぼ同じ箇所に撃ち込まれるのだ。下手を打てば、ACでさえ一瞬で大破しかねない。
更に、「壁」の屋上という高所から撃ちおろす射角の都合上、この射程範囲はおおよそ周辺市街部全域を覆い尽くしている。
「壁」付近において、この脅威から逃れられる場所はない。
本来、企業の戦力は、解放戦線を大きく凌いでいる。
それ自体が目的というわけではないので、積極的に攻め滅ぼしているわけではないが……。
ルビコン3の調査のために障害となると判断すれば、両企業は次々に解放戦線の基地や拠点を攻め落としている、というのが現状だった。
その例外が、この「壁」と、武装採掘艦「ストライダー」。
両企業はこれまで複数回にわたってこの2つへ攻勢をしかけてきたが、それらの作戦は一度として成功したことがない。
専属AC部隊を用いた攻勢でさえ跳ね除けられ、撤退に追い込まれているのが現状だ。
故にこそ、「壁」はその形状だけでなく、企業によるルビコンへの攻勢と搾取を阻害するという意味でも「壁」として立ち塞がっていたのだ。
ベイラム・アーキバス両社にとって、これは頭痛の種の一つだ。
なにせ交通の要衝でもある交通拠点。ここから各地へと伸ばされる補給の指は非常に長く多く、さかしまにここさえ落とせればべリウス地方における解放戦線の補給路を大きく制限できる。
その上、仮にここを破壊することなく占拠でもできれば、それは陣営からすれば非常に大きなアドバンテージとなり得るだろう。
が、それがわかっているからこそ、解放戦線は戦力を結集してこれを守ろうとするし……。
もしも半端に攻めて失敗でもしようものなら、もう片方の企業にとっては格好の漁夫の利の対象。
もしもやるのなら十分以上の大戦力で行う、大規模な攻勢作戦となるだろうと予測されていた。
……そう、予測されていたのだ。
両社の専属AC部隊にとって、「壁」が難敵であることは暗黙の了解だった。
だからこそ、ヴェスパーの実質的な作戦担当である
一方でレッドガンの棟梁である
……しかし。
G7ハークラーは、汚染市街の解放戦線撃滅作戦の際、最近台頭してきた独立傭兵リンクス・ウィズ・カラーによって撃破されてしまい。
G5イグアスは……直前の作戦で重大な機密漏洩を行い、1か月の謹慎処分をもらったため、作戦に起用できなくなってしまった。
ミシガンはこれを以て、壁の攻略を諦め、これを一旦静止する決断を下そうとしたが……。
この状況が見えているのは、現地ルビコン3にいる、専属AC部隊だけであり。
星系外から現地の様子も知らず、数字だけを見て判断を下すベイラム上層部は、以下の決定を下した。
「戦力が足りないのは工夫が足りないのだ。そもそもベイラムの誇る精鋭が貧しい現地民に負けるわけがない。G1ミシガンの責任を以て現有戦力で作戦を成功させよ」、と。
* * *
その結果がこのザマだと、G4ヴォルタはため息を吐いた。
大口径のバズーカを起点とし、軽負荷ながらも汎用性に長けた計8門のミサイルを使う、施設破壊に向くハークラーの「ストレングス」。
極めて高い火力の武装はなくとも、遠距離へのスナイプを可能とするリニアライフルに近距離戦に長けたマシンガン、対重MTやACに有用なパルスシールドと、万能で穴を埋めることに向くイグアスの「ヘッドブリンガー」。
そして高火力な武装を山のように積み込み、純粋な真正面からの戦いにおいてはレッドガンでも並ぶものもないヴォルタの「キャノンヘッド」。
本来壁の攻略は、以上の三機のACによる作戦となるはずだった。
スピードに優れる「ストレングス」が突出し、敵の固定砲台や街中に駐在するMT部隊を削り。
広い視界や戦略的な視点に欠けるハークラーを「ヘッドブリンガー」がサポート、狙撃を分断しつつある程度安全な道を確保。
MT部隊によって市街部の安全を確保しつつ進路を拓き。
これを以て、速度の遅い代わりに火力のある「キャノンヘッド」が壁内部へと突入し二機と合流、壁上へと上がって三機のACを以て二機のジャガーノートを撃破する。
ヴォルタがこの作戦概要を聞いた時、憎くはあってもやはりミシガンの戦略眼は確かなものだと感じた。
そこには希望的観測もなければ悲観的観測もなく、冷徹なまでに数値化された戦況と、それに対して最適戦力をぶつけるという、間違いなく勝機の高い作戦があった。
……問題は。
ハークラーの馬鹿が先走って死んだこと?
イグアスの馬鹿が熱くなった結果口を滑らせたこと?
いいや、違う。
そうやってやらかした部下の責任を取ろうとせず、上層部が無理な作戦を押し付けてきやがったことだ。
少なくとも、単騎でMT部隊を率いて壁へ向かうことになったヴォルタにとっては、それだけが絶対的な事実だった。
作戦が成功したかと聞かれれば、ヴォルタは「んなわけねぇだろ、死ね」と返すだろう。
……今実際に死にかけているのは、むしろ彼の方ではあったが。
とはいえ、彼にミスがあったというわけではない。
むしろヴォルタはその厳しい状況の中で、最善を尽くしたと言っていいだろう。
壁の市街を取り囲む外縁部は、突破した。
数多のMTたちが控える警備網を、自らの率いるベイラムMT部隊を操り掻い潜り、片端から平らげて突破した。
微に入り細を穿つ動きは、本来ヴォルタの本領ではない。が、それでも作戦だ。やるしかないと腹をくくり、無線を介して兵たちを手繰った。
そうして外縁部を突破した後に立ちふさがるのは、市街正面に控える固定砲台の数々。
ヴォルタはもはやこれの破壊を諦めた。
本隊であるヴォルタの被害を抑えるため、外縁部突破の時点でベイラムMT部隊の損耗は相当のものになっていた。
ACであれば簡単に破壊できる固定砲台も、機動力に劣るMTで破壊しようとすれば、3機から4機必要になる。
それが固まって互いを補完できる位置となれば、10機がかりでかからなければならないだろう。
ヴォルタの後に付いてくる決死隊は残り30機余り。もはや全ての砲台は破壊すべくもない。
だからこそ、ヴォルタは強引な突破を試み。
……その時点で、彼の運命は決まったのだ。
壁直下、交易市街。
その外れで、ヴォルタは壁面砲台と壁上のジャガーノート、そしてMT部隊に包囲され……。
乗機「キャノンヘッド」は大破。その中で、ヴォルタは死にかけている。
率いていたMT部隊は、全員死んだ。
ヴォルタに壁の攻略を託し、最期まで抵抗を続け、その命を以て道を拓いた。
けれど……結果として、彼らは犬死にとなった。
ここでこうして、ヴォルタは死ぬのだから。
「ちっ……ああ、クソ、内蔵ブースターがイカれやがった! ここまでかよ……!」
コックピットの内部で、ヴォルタは呻く。
タンクタイプのレッグパーツに内蔵されたブースターが、恐らくはジャガーノートのグレネードによってだろう、その機能を停止していた。
今や「キャノンヘッド」は動けない。自由に撃たれる訓練用の的とそう変わらなかった。
それはあるいは、走馬灯と呼ばれるものだったかもしれない。
ヴォルタの脳内に凄まじい勢いで思考が巡り、解決策を探し……。
孤立無援。ACは機能停止。増援は望むべくもない。脱出装置は反応なし。
その捜索の手は、空を切る。
生き残る方法は、ない。
それを認識した瞬間に、ヴォルタは思考を切り替えた。
それならばせめて、できることをしなければならない。
そして今の彼にとってできることと言えば……遺される者への伝言くらいで。
かろうじて生きている通信機能によって、彼は悪友との回線を繋いだ。
向こうから聞こえてくる情けない悲鳴のような叫びを無視し、ヴォルタは一方的に語る。
「イグアス……ミシガンの言うことは聞いとけ。
あいつは本社のボケ共とは違う。クソ親父だが俺らを切り捨てるような真似はしねぇ。
この作戦を考えたゴミ野郎を殺してやりたいぜ。おめえは上手いことサボったな。俺も──」
……酷い振動と共に、ヴォルタの耳元に警告音が響き、通信が途絶する。
どうやら通信機能が停止したらしい。
「ああクソ、せめて最後まで言わせろよ……」
最後に呻き、彼はゆるりと、操縦桿から手を離した。
武装まで叩き落され、あるいは破壊された今、もはや抵抗の手段もない。
ただその時を待つことしかできず……。
最後に、ポツリと、誰にも届かない呟きを漏らした。
「……ミシガンの野郎。最後に一言くらい……感謝でも、してやるべきだったか」
ジャガーノートが、そのグレネードキャノンを構え……放つ。
破綻した作戦は妥当な末路を迎え、レッドガンの最強戦力の一つは、ここに撃破される。
そのはずだった。
「っ!?」
網膜に投射される映像。
その上で、ヴォルタは見た。
放たれたグレネードキャノンが……パルスプロテクションによって防がれる光景を。
青いパルスの輝き。
広く展開され、長く残る、誰かを守るための拡張コア。
それにヴォルタは……いいや、全てのレッドガン隊員は。
必ず一度以上、救われてきた。
故に、ヴォルタは口を開いて、忘我の呟きを漏らす。
決して誰にも漏らすことのなかった、その呼び名を。
「…………親、父?」
あり得ない。
ミシガンは今、別の場所で作戦に就いている。それもアーキバス基地を叩く面倒なものだ。
奇跡的にそれをさっさと終わらせ、奇跡的にこんなタイミングで駆けつける?
奇跡は簡単に起こらないから奇跡と呼ぶ。この冷たい鉄と血の世界で、そんなに都合良く奇跡が二つ重なるわけもない。
……だが、奇跡は重ならないと言うのなら。
それはつまり、一つまでは起こり得るということでもある。
『……レッドガン、G4ヴォルタだな。
こちら独立傭兵リンクス・ウィズ・カラー、お前の救助に来た。
死にたくないのなら、ACを降りてこっちに来い』
死んだと思っていた通信機能が復活したのか、ヴォルタの耳にそんな言葉が響く。
……彼は機体を脱出するまで気付くことはなかったが。
「キャノンヘッド」の通信機能は、確かに死んでいた。
その声は、「キャノンヘッド」の機体内部から放たれていたのだ。
ギリギリ3月上旬滑り込み!!
そんなわけで、Chapter1後編の更新開始です。
べリウス地方で起こる戦い。壁やストライダーの攻略、BAWS第二工廠での戦い……そして何度でもウォッチしてやろうポイント襲撃。
果たして3周目以前までとどう変わるか、お楽しみに。