そして世に(銀髪薄幸美少女傭兵との)純愛のあらんことを   作:アリマリア

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 案ずるなよ、ウォルター





間も無く、617はハウンズに戻る。それで準備は終わりだ

 

 

 

 グリッド139、セーフハウス。

 今日の分のナインブレイカー、そして本人が望んでの追加トレーニングをこなして、617が眠りに就いた後。

 

 ナインはいつも通り、ルビコン3内の情報を漁っていた。

 

【……よし、汚染市街は解放戦線の手に戻ったか。621は無事に依頼をこなせたみたいだな。

 オマちゃんの観測データからして……多数の砲台と防衛部隊、それにG2ナイルの守る防衛ラインを突破。かなり強引だが悪くはない。流石はアリーナのトップ、3周したイレギュラーといったところか。

 撃破されたナイルは……む、撤退したか。思ったよりもベイラムは焦っていない? それか621がそうしたのか……この辺りは今度話を聞くとして。

 一方でツィイーは……オマちゃんサーバー上では健在。ロスト扱いにもなっていないし、壁にも汚染市街にも来なかったのか? 3周目までと違って運が良いな。……いや、これまでが悪すぎたんだけども】

 

 その日最もルビコンを騒がせた一件、独立傭兵レイヴンによって為された依頼、汚染市街奪還。

 流石はトップランカーと言うべきか、彼女は一騎当千と言っていい活躍を見せ、駐在していたベイラムの軍を片端から撃破して回り、あっという間に戦力の空白地帯に戻したらしい。

 

 グリッド135直下であり、「壁」程ではないにしても、通行と補給の要衝であった汚染市街。

 これが解放戦線の手に戻ったことは、ストライダーが失陥しなかったことと合わせ、ルビコン3の情勢を解放戦線側に傾けるだろう。

 

 G7ハークラーが襲来した時のように、企業が本気になれば、ここに駐在する解放戦線を蹴散らすことはそう難しくもないが……。

 アーキバスとベイラムが互いに反目している状況、片方が対解放戦線にリソースを割けば、それだけ相手に付け入る隙とリードを許すこととなる。少なくとも、簡単には手を出すことはできないだろう。

 そのため、解放戦線は確かにアドバンテージを守ることに成功したと言える。

 

 ……とはいえ、それはあくまで「守ることに成功した」だけだ。

 事態が好転したかと言えば、そんなことは全くない。

 

 そもそも企業の資本力は莫大だ。それこそ、解放戦線とは比べ物にならない程に。

 単純な総力戦、リソースの削り合いになれば、解放戦線には全くと言っていい程に勝ち目がない。

 だからこそ、解放戦線はジリジリとルビコンの支配を奪われるという、悪化していく現状を受け入れている……というより、受け入れざるを得ないのだ。

 

 勿論、企業による侵略を受け入れているわけではない。

 張った根の先から種を蒔き、反転攻勢のために着々と策略を進めてもいるのだが……。

 

 

 

【……とはいえ、ここにはあまり大きな意味はない】

 

 これからコーラルの反応調査がどう動くかを知り得ない企業たち、その動向を窺う必要のある解放戦線、そして企業を押し留めなければならない封鎖機構はともかく。

 ナインと、そして同盟相手である621は、どこにコーラル集積地点があるか、企業がいつそれに気付くかについて、殆ど完璧と言っていいだけの知識がある。

 

 だからこそ、細かい情勢の変化、均衡のパワーバランス自体には、現時点では深い意味はない。

 情報戦をするまでもなく、肝要な点を知り得ているのだから。

 

 その上。

 

【いざとなれば全部ぶち壊せばいいしね】

 

 力を蓄えるまでもなく、誰よりも強い。

 それこそがイレギュラー。全てを焼き尽くす、圧倒的な暴力の化身だ。

 

 ぶっちゃけて言えば、だ。

 ナインと621が組めば、今この瞬間、ベイラムとアーキバスのどちらも潰せるだろう。

 

 なにせ、全ての企業専属AC乗りを片端から平らげればいいだけなのだ。

 単純無比な暴力に特化した621にとっては、このタイプの力戦は本領発揮と言ってもいいかもしれない。

 

 それこそ、相手に依頼形式で挑戦状を叩きつけられ、「偽りの依頼失礼しました。あなた方にはここで果てていただきます」という流れで2対5の地獄みたいなAC戦が始まりでもしない限りは楽勝なはずだ。

 というか、それぞれがへにゃへにゃのよわよわだったとはいえ、コーラルリリースで1対5のAC戦さえ乗り越えている2人だ。そうなっても跳ね除け、最も多くの企業を滅ぼした個人にすらなり得る。

 

 ……だが、単純な暴力は、時に情勢の悪化を招く。

 617と、そして今は同盟者たる621もそう。

 彼女たちが求める未来は、全てが焼き尽くされた灰の上にあるわけではない。

 

 だからこそ、おおよそ彼女たちよりも考えを深めることができるだろうナインが、その思考を止めることがあってはならないのだ。

 

 

 

 更に言えば、だ。

 情勢の変化自体には大きな意味がなくとも、それが導く617や621への依頼の変化、答えへと繋がる道筋の舗装については、大きな意味があった。

 

【621……レイヴンは、壁を落としたとはいえ、ストライダーと汚染市街の守護によって解放戦線側に傾いているか。もう少し補正をかけないとウォッチポイント・アルファの先行調査依頼が来なくなるか?

 リンクスの方は、今のところアーキバス寄り。レッドガンを2人潰した以上、もうそちらからの依頼はあまり望めないかもしれない、かな】

 

 独立傭兵レイヴン、独立傭兵リンクス。

 本来ハンドラー・ウォルターのハウンズたる2人は、現在のところ完全な別陣営、関わることすらない状態で活動している。

 結果として、それぞれで各勢力からのイメージが大きく異なっていた。

 

 ……より正確に言えば、ナインはそもそもそれを目的として、621と同盟を組んだ後もウォルター陣営への合流を遅らせていたのだが。

 

 近づく勢力が異なれば、それだけ得られる情報の量と来る依頼の多様性が増える。

 ウォルターの下に入れば同じ依頼を受けることが多くなるだろうし、その前にある程度傭兵としての信頼の下地を作っておきたかった、という都合があったのだ。

 

 そして……今、その目的は果たされつつある。

 

【最近、617は安定しているが……親が恋しくないわけもない。そろそろ合流の頃合いだな。

 強制監査妨害がどうなるか次第だが、そこか……あるいはウォッチポイント襲撃か? ウォルターが外部に秘匿しているこれに合流すれば、情報戦の強さはアピールできるが、それだけ警戒もされてしまうか。

 しかしそこを逃せば……中央氷原到達後、コーラル集積地点が判明しつつある頃に合流しても、信頼を勝ち取るのは難しいかもしれない。うーん……なんとも悩ましい】

 

 621の精神性という最大の懸念要素がなくなったとはいえ、ハンドラー・ウォルターとの関係性の構築という懸念点は未だ健在。

 ナインは知らずパチパチと赤い光を放ちながら、どうすべきかを考えていたが……。

 

 

 

 そんな時、ふと、彼の元に……。

 正確に言えば、独立傭兵リンクス専属オペレーターの元に、一件の依頼が届き。

 

【…………ああ、なるほど、そう来るか。

 それなら、タイミングはここしかあるまいな】

 

 彼はぼそりと、そう呟いた。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 翌日。

 

「っ!」

 

 617は、仮想戦闘シミュレーション、ナインブレイカーでのテストをこなしていた。

 

 今617が受けているのは、総合力、総合試行(レベル3)

 ナインが設定するプログラム、その中でもナインブレイクを除けば最難関のものの、5段階中3段階。

 端的に言えば、単純な戦闘能力や判断力と同時、あらゆる局面への柔軟な対応力を問うものだ。

 

 プログラムを開始した瞬間、617の脳内にはこのミッションの概要が叩き込まれる。

 それは時に輸送ヘリの護衛ミッションとなり、時に基地の防衛ミッションとなり、時に敵拠点への攻勢ミッションとなり、時にタイマンのAC戦となり、時にMT群や特殊兵器の殲滅ミッションとなる。

 無作為に構成されるそれらにはお決まりの流れなどはなく、ただ一つ共通するのは、その難易度だ。

 

 このプログラムのレベルを3に上げて以来、617は未だ、これを「楽勝だった」と言えるだけの余裕を持ってクリアできていない。

 いつもリペアキット3つと多大な集中力を使っての達成で、ナインからは及第点をもらえていないのが現状だ。

 

 そして、今日の総合力テストは、砂漠地帯で全方位からやってくる敵の撃退。

 敵自体はジャンクのようなACとMT群だったが……これまた、決して楽なミッションではなかった。

 前提としてナインとの交信は封印しており、吹き荒れる激しい砂嵐によって視界不良となり、ACにかかる慣性が大きく乱れ、ECMフォグが撒かれてスキャンの効果が低減。

 対して相手は、特殊なゴーグルと回線チャンネルにより、その影響を受けない状態。

 その上で、MTによる全方位からのグレネードランチャーの狙撃に気を付けながら、ACを捌かなければならなかったからだ。

 

 地形の把握ミスによるグレネードの直撃が1回、クイックブーストの方向を間違えて爆風に呑まれることが1回、単純な操作ミスが1回。

 ただそれだけで、グレネードやマシンガンの嵐に呑まれ、一気にAPが削られる。

 

 そうして……終わる頃にはいつもと同じように、ボロボロの状態のAC「フォーアンサー」が残されていた。

 武装の残弾も30%以下、とても余裕のある終わりとは言えない。

 

 

 

『ミッション、達成。評価は……どうでしょうか』

 

 プログラムが終了し、視界がドックへと戻ったのを確認し、617は問いかける。

 果たして、彼女の脳内の声は、【むむむ】と呻ってから答えた。

 

【悩ましいが……ギリギリ銅かな。

 今回はいつもに比べてもやや難易度が高かった。あと2,000APが残れば銀にしても良かったが……やはり終盤に操作が粗くなっていたのが良くなかったな】

『……はい』

 

 すっぱりと見抜かれ、617は肩を落とす。

 

 確かに終盤、617は被害を受け入れてでも敵を撃破することを優先してしまった。

 あの時はそれがベストであると判断したが、それが尚早な判断であったと言われれば、彼女自身それを否定することはできなかった。

 

【状況が悪くなって焦る気持ちはよくわかる。だが、そういう時だからこそ勝負を投げず、落ち着いて対処しないといけない。

 君の最大の持ち味は、その機動の鋭さだ。ブースターをALULAに変えてからは更に磨きがかかったように思うよ。

 だが、そのためにアセンは軽量機にしてるし、肉を切らせて骨を断つ戦法は合わなくなる。

 既に十分な下地はできてきている、判断さえ間違えなければ、じきにレベル3の銀も取れるはずだ】

『了解、しました』

 

 617は忸怩たる思いと共に、喜びを呑み込む。

 彼女のおにいさまたるナインに、評価はされている。十分に下地はできていると、そう言ってもらえた。

 それが嬉しく……けれど、それを上手く使いこなせないことに、心にもやもやが広がる。

 

 少しずつ、力は付いてきていると思える。おにいさまやウォルターを守るための力が。

 けれど、未だにそれは、十全なものとは言い切れない。

 

【何、気にするな617。君の成長速度は人一倍早いよ。

 今足りないものは、明日身に付ければいい。君には、ずっと先にまで未来があるんだから】

 

 ふわりと、温かな何かに、頭を撫でられる。

 うっすらと輝く赤色の集合であるそれは、彼女のおにいさまの意思そのもので。

 

『……はい、了解しました』

 

 617は、心にわだかまったものが、薄れていくのを感じた。

 

 

 

 そうして、彼女が落ち着いたのを確認し。

 ナインは、咳払いの音を再現した後、声をかけた。

 

【さて、普段は一度休憩を挟むところだが……その前に、一つ。

 仕事が来たぞ、617。

 今回のミッションは……BAWS第二工廠の強制監査妨害。その僚機としての出動だ。

 先日は敵だった、トップランカーレイヴン。彼女の作戦に随行することとなる】

 

 

 







 トップランカーレイヴンが主導。
 フォーアンサーが僚機に付き、リンクスは側面から支援、か。
 やりすぎだな、ケイト。

 ……いや、本当にやりすぎだぞケイト。
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