そして世に(銀髪薄幸美少女傭兵との)純愛のあらんことを 作:アリマリア
本気モードの戦力が過小すぎる
ACにも乗ってないオーバーシアー1人にすら勝てないってマジ?
BAWS第二工廠の左方外縁、屋上。
617の操るAC「フォーアンサー」は、強襲速度のアサルトブーストを噴出させて空中を飛んでいた。
【2機反応ロスト、1機撤退開始。残敵反応4。特務機体到着まであと52】
コックピットの617の脳内に、冷静なオペレーターの声が響いた。
それを聞きながらも、彼女はメインサイトを睨み、自らの機体を駆る。
右手のマシンガンの引き金を引き続けながら、左手のマシンガンは肩に提げていた武装と換装。
スキャンを走らせて周囲を窺いながらも、握りしめたパルスブレードを起動した。
「……っ!」
十分以上にパルスを充填させ……アサルトブーストをオフにすると同時、前方にクイックブースト。
慣性のままに進みながら、大きく左腕を捻り、一閃。
強烈な微細振動によって赤熱し引き裂かれたのは、両肩と前面に円盤状の装備を付けた、奇妙な形状の兵器。
ルビコン3で頻繁に見るMT、ではない。
MT……Muscle Tracerとは、原義としてはACが技術的に確立されるより以前に設計された、本来戦闘向けではない作業機械を戦闘用に転用したものだ。
故にこそ、その装甲は戦闘用に設計されたACとは比べ物にならない程脆く、機動性もなければ火力もない。
その代わりに安価で購入できるため、数を揃えることは容易。そういった兵器だ。
現在617の前に立ち塞がっている敵は、確かにMTと同程度のサイズ感ではある。ただ一目見ただけではそう錯誤してもおかしくはない。
が、しかし。その装甲も火力も機動性も、MTとは似ても似つかない程の高性能だ。
牽制用のマシンガンでは1マガジン撃ちきっても斃れず、それどころかスタッガーすらせず。
その手に持つレーザーガンは、容易にACSを貫きAPを削り取って来る。
更にはつい先ほど、ACのクイックブーストもかくやという、驚異的な跳躍まで見せた程だ。
617が幾度か相手した、封鎖機構のLC機体。イメージとしては、それに近いだろう。
一機一機が確かな戦闘力を持ち、けれど数も揃えて包囲し攻撃してくる、そういった非常に厄介な手合いだ。
……が、しかし。
その才気を開花させつつある617にとって。
幾度かイレギュラーを相手に戦ってきた彼女にとって。
それは、非常な難敵とまではなり得ない。
カメラ越しに目を焼くようなパルスの光。
それが収まると、617の目に入るのはスタッガーに陥った敵機だ。
パルスブレードの起動中に確認していた残弾関係を元に、617の手は既にアサルトブーストを起動しており……。
ほんの一瞬の強い推進力を活かし、「フォーアンサー」の脚部を正面の円盤に叩き付けた。
バゴンッ!!
轟音と共に、円盤は凹み、白い放電を発生させ。
勢いそのままに敵機は吹き飛ばされ……横の壁に衝突し、爆散する。
【1機撃破、1機反応ロスト、残敵反応3。特務機体到着まで44】
『了解しました』
むせるような鉄と血の匂いが蔓延る戦場において、しかし617とオペレーターのナインは、極めて冷静に敵を排除していた。
BAWS第二工廠左方に入るや否や唐突に始まった、不明な機体による奇襲。
「フォーアンサー」は既に数発の攻撃を受けてしまい、リペアキット1つの使用を強いられている。
決して余裕があるとは言えない状況だった。
……しかし、617は実際に戦場に出た回数とさかしまに、非常に多くの濃密な経験を積んでいる。
ルビコン1での封鎖機構基地、武装ヘリや特務機体の殲滅。
ナインブレイカー内での、総合力やナインブレイクによる過酷な戦場。
こちらに来てからの、レッドガンのAC乗りや本物のイレギュラーとの戦い。
それらはおおよそ積むことのできないはずの、金にも勝る価値を持つものだ。
大規模な戦いがあれば雨後の筍のように生え、しかし二度三度と戦場に出る中で一気にその数を減らす傭兵は、基本的に多くの戦闘経験を積むことはない。
それこそ企業専属に選ばれるAC乗りや、余程の幸運か実力によって生き延びた傭兵だけが、それを手にすることができる。
その点、危険な戦場においてはナインに守られ、あるいはナインブレイカーという命の安全が担保された戦闘を行うことができた617の戦闘経験は、既に全傭兵の中でもトップクラスに入っていると言っていいだろう。
短期間であったが故に、その経験の全てを糧として吸収できたわけではないが……。
貪欲に学びを続ける彼女の精神もあり、その実力は既に企業所属のAC乗り、その最上位層と比べても遜色のないものとなっている。
そして、彼女の戦闘力に加えてもう1つ、この戦場を容易にしている要素がある。
今617を襲っている敵機体、その正式名称を「IA-27: GHOST」。
もはやこの世界に知る者は少ないが、これは元々ルビコン調査技研が製造していた、コーラルを利用したC兵器群の1つである。
この機体に任されていた任務は、主に強襲や情報戦。
何故それらを与えられたかと言えば、その非常に高い隠密性からだ。
ゴーストに取り付けられている両肩と正面の円盤の正体は、強力なレーダージャマー。コーラル干渉により、熱源探知や色彩感知を無力化することができる。
そして頭部にある特徴的な突起はアンテナであり、これによってゴーストは周辺機体のディスプレイを欺瞞し、半自動的にその存在を隠蔽する。
熱源と色彩の探知はジャマーによって防ぎ。
視界による発見は欺瞞によって塞ぐ。
これらによってゴーストは、非常に高い隠密性を持って活動することができる。
どこにいるかわからない、不確定の存在。故にこそ、これは「ゴースト」の名を冠しているのだ。
この隠密を看破する方法は、大きく分けて2つ。
相対的な動作速度が欺瞞の処理限界を超える距離にまで近付いて光学スキャンを用いるか、あるいは直接熱源を感知できる距離にまで近づく他ない。
前者を選んだとしても長く見て300m前後、後者であれば50m前後にまで接近しなければならない。
時に何十kmという広大な空間が戦場となる現代機動戦において、これらは非常な近距離と呼んでいい。
故にこそ、ゴーストの隠蔽能力は、何十年という時間が進んだ現代においてすら凄まじい効果を持っている。
特に、現在「フォーアンサー」が受けているような、遠方からの包囲射撃は脅威と言えるだろう。
射撃元を特定し辛いこれは、受動側が対処を開始するまでに、致命的なまでのラグを生んでしまう。
結果として、全ての敵を排除するよりも先に、APが完全に削り取られてしまってもなんらおかしくはない。
……だが、しかし。
それはあくまでも、現在の人類の常識と条理の上での話であり……。
新人類たるナインには通用しない。
【レーダージャマーにモニター欺瞞のジャミング……なるほどどうして厄介だな。
しかし、この程度のハッキング、無意味だ】
617の脳内に響く小さな言葉と共に、「フォーアンサー」のメインサイトに、一瞬だけ赤いノイズのような線が走り……。
それらの線はしかし散ることなく、すぐに集まって、特定の実像を映し出す。
距離にして、おおよそ400メートル。そこでレーザーガンを構えて「フォーアンサー」を狙撃しようとしている敵機体……そのシルエット。
輪郭を赤色の線が包み込み、敵の存在と現在の体勢を617に伝えた。
『敵影確認』
617はコンデンサにENが補充されるのを待ち、言葉もなくアサルトブーストを噴かしてそこに突進し……。
赤い輪郭の放つレーザーを、微かに右方へとブースターを噴かして軸をズラし、紙一重で躱してみせる。
そうして再び200メートル程度の距離からマシンガンを乱射し、ハンガーしたパルスブレードに持ち替え、滑らかな動きでそれを振り抜き……スタッガーした機体を蹴り飛ばすことで完全に破壊した。
戦闘と呼ぶには余りに一方的なそれは、流れ作業、あるいは処理と呼んだ方が正確かもしれない。
これによって617は、既に5機のゴーストを破壊した。
最初こそ若干の戸惑いもあったが、その動きは時を経る毎に洗練され、今や素早く的確な処理を可能としている。
ゴーストの脅威の大部分は、そのステルス性によるもの。
だがソレは、あくまでも視覚や熱源の探知を誤魔化すものであり、物理的接触を防ぐものではない。
ナインはコーラルに焼き付き再現された人格。人体という檻から解放された新たなるヒトの形だ。
その感覚は人類の領域を超えて拡張され、自らを構成する一部であるコーラルを、言うならば「手足のように」操ることができる。
その彼は今、BAWS第二工廠の近縁に極々少量のコーラルの網を散布していた。
勿論これら自体は感覚を持ち得ないが……ナインはこれらについて、その動きや接触を情報として得ることができる。
揺れるそれらの動きが阻害されたということは、即ちそこに何かがあるということであり……。
光学的スキャンと接触による探知の差異は、さかしまに敵がそこにいることを示してしまう。
これによってナインはゴーストの位置を特定、AC「フォーアンサー」のCOMをハックし、そのメインサイトに位置を表示していた。
つまるところ、ゴーストは今、その最大の取り柄を活かせていないのだ。
戦況が617、リンクスの側に大きく傾くのは当然と言えただろう。
【残敵反応1。……特務機体、12】
……そう。
「ゴーストとの」戦いは、殆ど一方的に進んだ。
しかし、そもそも今回のミッションの本題は、このような敵との戦いではない。
ゴーストは唐突に割り込んできた邪魔者に過ぎないのだ。
今回の任務はあくまで、封鎖機構の特務機体を含む強制監査部隊から、BAWS第二工廠を守ること。
617が真にその力を振るうべきは、これからだった。
【残敵反応、0……1。距離2000……1000。来るぞ!】
ギャリギャリと、これまでに何度か聞いた、地面を抉る音が聞こえてくる。
すぐ傍の丘陵の向こうから、凄まじい速度で迫って来るのは……。
『コード23、現着した。……なんだ、この機体残骸は? それに、その機体構成……独立傭兵か。レイヴンが他に傭兵を雇ったか?』
巨大な一対のキャタピラに挟まれるようにMTが取り付けられ、ガトリングガンとレーザーキャノン、ミサイルにバズーカと武装を固めた特務機体。
その名を、特務機体カタフラクト。
ルビコン1の封鎖拠点で、617の大切な仲間であった619と620を葬った機体。
その一週間後に再び相見え……617が再び殺されかけ、けれどナインによって撃破された敵だ。
汗ばんだ手で操縦桿を握る617の脳内に、パチパチと、電撃のように記憶がフラッシュバックする。
貫かれれば即死を免れないだろう収束したレーザーが、自機のほんの2m隣を通り抜け、機体に同期した肌が焼かれるようなヒリついた感覚。
620の機体、「scav620RF」を滅多撃ちにした、余りにも命中精度の高い、横に広がる拡散レーザーの殺意。
激情に身を任せた結果EN切れを引き起こし、敵の眼前に無防備な状態で放り出された瞬間の終わりの直感。
そして……。
目の前に広がった、赤く、温かい光。
【リンクス、行けるな】
脳内に響いた声は、いつも聞くものと、いつか聞いたものと同じ。
いつも617に寄り添い、617を守り、617と戦ってくれる「おにいさま」のものだ。
……617の手に籠った力が、抜ける。
彼女は一瞬だけ操縦桿から指を放し……いつも通りに、それを握り直した。
『問題ありません、オペレーター』
手は怯えに震えない。
声は怒りに飛び出ない。
過去の全ての因縁を置き去りにし、彼女はただ目の前の脅威を排除すべく、その機体を駆る。
……あるいは、今この瞬間。
彼女は強化人間C4-617でもなく、ハウンズの617でもなく。
ただ一人の独立傭兵、リンクス・ウィズ・カラーだったのかもしれない。
カタフラクト君、正面からの被弾を想定していないクソ雑魚装甲が面白過ぎてネタにされがちだけど、横に広いレザショはジャンプとか切り返しでの回避練習になるし、遠くに逃げたらAB使う習慣付いたりするし、総じて良ボスだと思う。
でもエクドロモイ殴ってるところに突っ込んで来るのだけはやめてほしい。張り倒すぞ。