そして世に(銀髪薄幸美少女傭兵との)純愛のあらんことを   作:アリマリア

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 人類に……新たな時代を……。





アナザーエイジ

 

 

 

 BAWS第二工廠。

 先んじて到着した特務機体カタフラクトを撃破したリンクス、もとい617ではあったが、しかし戦いがそれで終わることはなかった。

 

 本来、今回のミッションでは、リンクスは工廠の左方外縁の後方部隊を片付けながら、正面を突破してくるレイヴン、右方から回り込んで来るケイトと合流する手筈だった。

 そしてこれは617の知り得ないことではあったが、そこから遅れてやってきた3機の特務機体、カタフラクトにエクドロモイ2機と戦う、その予定……「だった」のだ。

 

 しかし今、状況にはいくつかのズレが生じていた。

 

 まず、リンクスが右方からやってきたカタフラクト1機を片付けている間に、レイヴンとケイトは正面で3機の特務機体と戦い、これを撃破していたらしい。

 単純計算、AC対特務機体の数を見れば、1対1よりも2対3、不利なレイヴン側が先に戦いを終わらせたことになる。こればかりは、流石は4周目のイレギュラーと賞賛すべきだろう。

 

 これだけであれば、喜ぶべき事態だった。

 

 617だって工廠各地に散ったゴースト部隊、そして特務機体を1機落としたのだ。今回の依頼、多額の前払い報酬に対して然るべき仕事は果たしたと言っていいし、遅れたことへの言い訳としても十分すぎる程だ。

 

 本来の依頼はこれにて達成。

 レイヴンたちからしてもカタフラクトがもう1機増えるというハプニングを防げたし。

 リンクスからしても、地獄みたいな特務機体ラッシュとの戦いは避けられた。

 ケイトからすれば、少なくとも表向き、BAWSからの依頼を無事に達成することができた。

 

 三方共に良し。これで終わることができれば、それが最上の形だったのだろうが……。

 

 

 

 ……しかし。

 

【キング、シャルトルーズ……】

 

 今、「フォーアンサー」の前には、二機のACが立ち塞がっていた。

 それも味方や増援でなく……敵対する独立傭兵として。

 

 その二機との戦いになる経験を、ナインは有していた。

 そう、この世界でも無事防衛されたらしい、ガリア多重ダム。

 そこを襲う二機の上位ランカーとの戦い……かと思いきや、それは全てレイヴンを誘い出すための罠で、騙して悪いが1対3される悪名高い防衛戦だ。

 

 今回は、仮称真レイヴンは合流する気配はない。

 そちらはどうやら、レイヴンこと621が抑えてくれているらしい。

 

 しかし、その分とでも言わんばかりに……キングとシャルトルーズは、完全に連携を取っている。

 

 そもそもガリア多重ダム防衛は、1対3と言いながらも、実のところ1対1の3連続だったからこそ楽に勝てたところが大きい。

 キングとシャルトルーズは一緒に攻めるとは言いながらも、解放戦線のMTに包囲されて滅多撃ちにされることを恐れてそちらの処理を優先し、その隙に片方が落ちて1対1となったし……。

 レイヴンの方は到着が遅れ、その時には既にキングとシャルトルーズは死んでいた。

 故に、ただ純粋なAC戦を3連続で行うだけで、1対2や1対3にはなり得なかったのだ。

 

 それでなお、完成されたコンセプトの機体と3連続で戦うのはやや厳しいものがあった。

 キングの「アスタークラウン」は厄介なパルススクトゥムによってスタッガーを取り辛く、構えから着弾までが早いレールガンによるスタッガーからアサルトアーマーに繋げて来るし……。

 シャルトルーズの「アンバーオックス」は宙を漂いながらグレネードや拡散エネルギーキャノン等、広範囲攻撃で着実に削りに来る。

 ナインだって各種補正を縛れば、毎回軽傷で済ますような余裕は生まれなかった程だ。

 

 今回に至っては、それより更に状況が良くない。

 ガン盾四脚「アスタークラウン」とふわふわタンク「アンバーオックス」の二機は、明確に「フォーアンサー」とリンクスを狙っているようだし……。

 このBAWS第二工廠に、彼らにとっての敵機はいない。

 より正確には、それを今、ケイトと真レイヴンが抑え込んでいるらしい。

 

 つまるところ、本当にこのまま2対1が始まってしまいかねない。

 

 

 

【………】

 

 ナインは思考を巡らせる。

 

 617に勝てるか?

 無理だろう。

 

 万全な状態、つまり補給を受けてさえいれば、可能性はあったかもしれない。

 

 「アンバーオックス」はタンクではあるが、その浮遊を得意とする特異な脚部の性質上、その姿勢安定性は高くはない。

 良い具合に削ってからアサルトアーマーでスタッガーを取り、そこからパルスブレードを直撃させれば、あるいは即座に排除できるかもしれない。

 そこからは「アスタークラウン」との1対1。近距離戦に付き合わなければ極まった脅威はなく、今のリンクスの実力からすれば、確実に勝てるとは言えずとも十分に勝ち得る相手と言えた。

 

 だが……今のリンクス、そして「フォーアンサー」は、少なからず消耗している。

 特務機体との戦いで集中力と精神力は消耗し、APこそ5,000強あるもののリペアキットは残りゼロ、両手に持つメインウェポンたるマシンガンの残弾は30%余りだ。

 

 この状況から上位ランカー2人を同時に相手して勝てるのは、それこそイレギュラーと呼べる人間だけ。

 ……というか、ぶっちゃけて言えばナインでさえもやりたくはない。他はともかく、残弾がないのは普通に面倒くさいのだ。

 パージしてルビコン神拳しようにも、アームパーツの近接適性が低い。とてもではないが複数戦は厳しいものがある。

 

 しかし、それでは戦闘を避けることは可能だろうか?

 ……それも無理だろう。

 

 キングとシャルトルーズが戦わずして引いてくれるかと言えば、恐らくそれは望めない。

 彼らは今、ほぼ間違いなく「ブランチ」としてここにいる。

 つまるところレイヴンと同じく、自らの意志によってここにいるのだ。それを覆せるのは、圧倒的な力に裏打ちされた他者の意志だけ。

 つまるところ、彼らを撃退する他に、この戦場を生き延びる術はない。

 

 だが、今の617ではまだ、この戦場において勝ち目がなく……。

 

 であれば、あまり取りたい選択肢ではないが……やるしかない。

 

 二度とこんなことをさせないよう、楔を打ち込む。

 あるいは……ここで、殺す。

 

 

 

 パチンと、617の視界の端の赤色が弾け……視界全体に散らばった。

 まるで脈打つようにして、617と感覚の繋がった「フォーアンサー」に、ナインが広がって行く。

 

【交代だ、617。ここからは俺が出る】

「おにいさま……」

【任せろ。……パートナーなんだ、時には活躍させてくれよ】

「……はい!」

 

 

 

 * * *

 

 

 

「さて……ここまでやるのは、少し心苦しいが」

 

 AC「アスタークラウン」、そのコックピットの中で、独立傭兵キングは呟いた。

 

 『ファンタズマ』。

 彼らにとって、これからの行動の指針になり得る、その存在が実在するかどうかを確かめる任務。

 確かにこれは、今後を考えれば非常に重要と言えただろう。

 

 しかし、そのためとはいえ、数で囲んで潰すのはキングの趣味ではなかった。

 

 「独立傭兵レイヴン」に対しては、レイヴンとケイトが。

 「独立傭兵リンクス」に対しては、キングとシャルトルーズが。

 傭兵集団ブランチが総出となってこの二者を潰す、総力戦。

 必要なこととはわかっているが、相手を数の暴力で虐げるこのやり方に、思うところがないではない。

 

 現代のACは基本の設計コンセプトとして、互角な1対1での戦いを強く想定している。

 つまるところ、ずっと古い時代の人間の肉体を使った戦いと同じで、対多数の攻撃/防御手段を多く有しているわけではなく、未だ「多勢に無勢」が成立しているのだ。

 たとえ相手がMTであろうと、取り囲まれればACS負荷の限界を迎え、まともに動くこともできず無様に屍を晒す他なくなってしまう程に。

 

 それが同じ規格のACとなればなおのこと。

 2機に囲まれれば、相手へ与える被害は相対的に1/2に、受けるダメージは2倍に、スタッガーで釘付けにされる頻度も2倍になる。

 

 有利だとか不利だとか、そういった次元ではない。

 対等なACでの戦いにおいて、数は致命的な程に大きな差となる。

 

 だからこそキングは、それが好きではないのだ。

 

 手段を選ばず勝つ。そういった意志には、むしろ潔さを感じる。

 だが、それはあくまでも弱者の生存法であり方法論。強者であるキングがそれを為すのは、さかしまに醜悪でしかない。

 

 ……しかし、今回に限ってはブランチの仕事だ。致し方ないと思う他ない、というのが結論だった。

 

 

 

 強者たる自分が、手段も選ばずに攻勢に出ている。

 元より自信家なキングにとって、それは退屈な未来と直結しているものだ。

 

 故に彼は、この戦いにおいて、ただ一つの可能性を除いては、殆ど勝利を確信しており……。

 

 

 

 ……けれど。

 

 

 

『はぁ。調子に乗って、殺されに来たんだな』

 

 

 

 AC「フォーアンサー」から不明な電波通信が届き、その機体に赤い光が集まるのを見て……。

 

 その危惧が、ケイトの仮説が、正しかったことを悟る。

 

 

 

『わからないか? ……邪魔なんだよ。やりすぎたんだ、お前らはな』

 

 

 

 AC「アスタークラウン」のメインサイトの中で、赤い燐光が……弾けた。

 

 

 

「脱出しろ、シャルトルーズッ!!」

 

 傭兵としての直感に基づき、キングは刹那の迷いもなく、緊急脱出装置を起動する。

 

 「『ファンタズマ』がリンクスの近くに存在する」。

 もしも「そう」であれば、自分たちには勝ち目はないだろうと、ケイトは語っていた。

 あくまでもそれを確かめることこそが今回の目的であり、だからこそ、その存在を確認できたら生命を最優先に脱出するように、と。

 

 しかし、仮にそう言われていなくとも、キングは脱出装置を使っていただろう。

 

 完成された傭兵とも称されるキングの作戦遂行率は、89.6%。

 29回中26回、殆どの依頼を達成に導いてきた。

 先代のレイヴンと戦闘した際、今代のレイヴンと戦闘した際、そして自分が作戦領域に入る前に護衛対象が撃破された際を除いて、キングは一度たりとも作戦に失敗したことがない。

 

 それは綿密な調査と調整、そして何より歴戦の経験による直感のもたらした輝かしい来歴。

 その直感をして、自分はそうしなければ1秒後には死ぬと、キングはそう思わされたのだ。

 

 

 

 そしてそれは、現実となる。

 

 

 

 瞬きを一度挟めるかどうかの、ほんの一刹那の後。

 その装甲を赤く変色させ、なおかつ還流する赤いコーラルを身に纏ったフォーアンサーは……ACではあり得ない程の初速と加速を以て「アスタークラウン」に急接近。

 

 一瞬で300メートルの距離を詰め切り、すれ違うようにその右隣を通り抜けながら、左腕に装備したパルスブレードを……青白いパルスではなく、赤く迸るナニカを纏ったそれを振り抜き。

 

 「アスタークラウン」のボディパーツを、真っ二つに、引き裂いた。

 

 

 

「……、な、」

 

 直前まで、確かに無傷だった「アスタークラウン」。

 その上半身は今、赤熱した断面を晒し、ガゴンと重い音を立てて地面に転がる。

 それはもはや、人型を模した戦闘兵器ではなく、ただの機体残骸と成り果てていた。

 

 シャルトルーズは、その光景に……絶句する。

 

 あり得ない。

 あり得ては、ならない、ことだ。

 

 AC戦は、リペアキットの搭載からも分かる通り、本来中から長期戦を想定している。

 これは全て、ACS……生きる傾斜装甲とも呼べる動的防弾制御調整機構が戦場に登場した影響だ。

 ACSは、あらゆる弾や衝撃を弾く。特に設計初期に想定されていたAC戦において、搭載し得る武装はこのACSによって尽く軽減することができた。

 勿論、大火力のグレネードやパルスブレードといった高威力兵器も例に漏れない。

 ACSが処理限界を迎えてスタッガーしない限り、ACは敵性存在から受けるダメージを大幅に軽減することができるのだ。

 

 勿論、キングの乗騎であった「アスタークラウン」、シャルトルーズの乗騎「アンバーオックス」のように、過剰とも言える火力を搭載することで、敵を確殺する戦術も存在する。

 ……しかし、それだって相手をスタッガーに追い込んでからの追い打ちを前提としている。

 

 各ACがACSを搭載する以上、短期決戦は難しい。

 故にこそのコア理論だ。高い機動力を誇る機体で攻撃を回避しながら近距離に接近し、敵のACSに負荷を与えて機能停止させることを主軸とした戦術論が、現代機動戦の行われる戦場を支配していた。

 

 ACSが働いた状態のACを一撃で確殺する手段など、おおよそ存在しない。

 それこそ、わざわざ自分から超巨大な兵器に踏み潰されでもしない限り、巨大なチェーンソーだろうが、戦艦の主砲だろうが、特殊兵器の狙撃だろうが、ACは受け止めてしまう。

 それこそが現代機動戦の、今の時代の常識だ。

 

 ……しかし、もしも、それが為されてしまうのなら。

 ACSを破綻させる程の、全てを焼き尽くしてしまうような圧倒的な暴力が、実在してしまうのなら。

 

 それは、ACによる機動戦の中核を担ってきた、ACSの無価値化。

 そして、新しい戦いの時代の、幕開けを意味しているのだろう。

 

 故に、その赤い機体に、名前を付けるのであれば……。

 

「次の時代……次の(ネクスト)、AC……」

 

 シャルトルーズの唇は、半ば無意識にそれを紡いだ。

 

 

 

 ゆっくりと、「フォーアンサー」が、「アンバーオックス」へと振り向く。

 

 既存のあらゆる文明と科学を超越し、既に喪われた国というグループ、それを代替した経済主体である企業を単騎で滅ぼし得る……戦略級決戦兵器。

 この世界において、ネクストACと定義されたそれが。

 

 咄嗟に腕を伸ばし、緊急脱出装置を起動させるシャルトルーズの元に……。

 

『全ては──』

 

 最後に、その言葉と、赤すぎる閃光が届いた。

 

 

 

『──俺たちの、4つ目の答えのために』

 

 

 

 * * *

 

 

 

 BAWS第二工廠の外縁一帯が、不可思議な妨害電波とジャミングによって観測不可となった、その数分後。

 

 ケイトの「TRANSCRIBER」とレイヴンの「ナイトフォール」をどうにか破壊し、焦りながら駆けつけたレイヴン……もとい、621。

 彼女が見たのは、上半身と下半身を真っ二つに両断された「アスタークラウン」と、左半身が消し飛ばされた「アンバーオックス」の残骸。

 そしてその横で、片膝を突いて待機状態になっている「フォーアンサー」と……。

 

 

 

『……待って、いました。レイヴン……そして、ウォルター』

 

 

 

 「フォーアンサー」の手の上に立ち、彼女を出迎えた少女、独立傭兵リンクス。

 

 その首には、621が付けているものととてもよく似た、首輪状のデバイスが取り付けられていた。

 

『な……に? そんな、いや、まさか……!?』

 

 これまでにない、呆然としたようなウォルターの声に当惑する、621の視界の先で……。

 

 赤と青の髪飾りを付けた銀髪の少女は、ふわりと、柔らかな微笑を浮かべた。

 

 

 

『ハウンズ、C4-617、ただいま帰還しました』

 

 

 

「……ただ、いま。うぉるたー」

 

 

 







 本日の傭兵事情

・識別名
 Rb31 独立傭兵「リンクス・ウィズ・カラー」
 ランク25/E(1↑)

・アセン
 前回から変更なし

・収支
 -99,687c

[強制監査妨害(ALT)]
 +420,000c(基本報酬、前払い)

[経費]
 -20,128c(武装修理費)
 -31,114c(外装修理費)
 -3,062c(内装修理費)
 -19,451c(弾薬費)
 -5c(必需品購入)
 -107c(ウォルター合流諸経費)
 ─────────────────────
 +246,446c(346,133cの黒字)


《ナイン追記》
 617に自信を付けさせるはずだったのに、ブランチってホント余計なことしかせんな……。
 どうやら脱出されたらしいけど、ひとまず示威行為には十分なはず。
 ケイトも併せて、これに凝りて手を出してこなくなればいいが……次の機会のために617の教育を更に進めなくてはならないだろう。

 それはそれとして、いよいよウォルターと合流だ。
 617は「いよいよ」という感じでかなりテンションが上がっているが、俺の方は踏ん張りどころだな。
 コーラルによるネクスト化は見られていないはずだが……はてさてどうなるか。

《617追記》
 ただいま、ウォルター。
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