そして世に(銀髪薄幸美少女傭兵との)純愛のあらんことを   作:アリマリア

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 本作はACの二次創作なので、日常回はあまり多く書かないようにしてます。
 617とウォルターの再会。余りにも予想外の現実に何を言えばいいかわからないウォルターに対して、617が敢えて首輪デバイスの電源を切り、合成音声ではなく肉声で「ただい、ま」と言って仄かに笑い、ウォルターが何も言えないまま彼女を抱きしめたシーンは、みんなの焼かれた脳で再現してくれ!





コーラルツゴウノイイカイニュウシャ

 

 

 

 ハウンズ。

 そう呼ばれる彼女らは、ウォルターが手ずから育て上げた傭兵集団だ。

 

 その最大の特徴は、他にはそう見られない、飼い主との厚い信頼関係。

 ウォルターの時代錯誤な程に人情味のある人柄もあり、ハウンズは自らを買い、育て、その命に意味を与えてくれる彼を慕うことが大半。

 故にこそ裏切りもなく怠慢もなく、死ぬまで彼の忠実な猟犬として働く、というわけだ。

 

 その上、ウォルターの教育プログラムはかなり負荷の強いものではあるものの、短期間で実力を培うと考えればかなり理に適ったものだ。

 人類が無限に等しいフロンティアを得、企業の資本による支配が蔓延しつつあるこの時代、たかだか傭兵にそこまでの高度な鍛錬を積ませる者は極めて珍しく……。

 結果として、「ハンドラー・ウォルターのハウンズ部隊」は、知る人ぞ知る少数精鋭の傭兵部隊として認められている。

 

 が、しかし。

 ウォルターはルビコン3への密航のため、ハウンズの大半を、殆ど使い捨て同然に戦場へ駆り立てた。

 ……彼の内心でどのような感情が渦巻いていたかはともかく、少なくとも本人と周囲からの認識ではそうなっている。

 

 三代目ハウンズ、第四世代強化人間のC4-617も、そんな「死ぬはずだったハウンズ」の一人であった。

 

 しかし、彼女は機体反応こそロストしたものの、もはや残骸とも言えるその機体の中で命を繋ぎ。

 ルビコン1に身をひそめ、独自に傭兵として活動して金を稼ぎ、ルビコン3に密航。

 到着後もどこかより手に入れたライセンスを使い、一人の独立傭兵として身を立て……。

 その正体を隠していたはずのレイヴンの正体を見抜き、ついにはウォルターの下へと帰還してみせた。

 

 

 

『……と、流石にそんな甘い話はあるはずもない。

 617は基地を壊滅させた後気絶してしまった。あのまま放置していれば、封鎖機構に殺されていただろう。

 仮に生き延びたとしても、当時のジャンクに等しい機体では金稼ぎもままならなかった。

 信頼できる仲介人の選定も、まぁ厳しかっただろうな。彼女はルビコンの荒波に生きるには、あまりに世間知らずが過ぎたし、人を疑うことを知らなかった。

 急いでルビコン3に密航するため、困難な依頼をこなすのも難しかったはずだ。当時の彼女は、カタフラクトを単身撃破できる程の実力はなかったし。

 勿論、ルビコン3に到着してからも、傭兵として立ち回るのは困難を極めただろう。

 ……総じて、彼女には単身で生きていくだけの力はなかった。その部分は本来、あなたが背負うはずだったんだろうが……少しばかり時期が悪かったな』

「…………」

 

 ハンドラー・ウォルター。

 そう名乗る男は、ルビコン3に用意した拠点の中、ディスプレイを睨む。

 

 彼が仮想キーボードを叩くまでもなく、そこには流れるように文字列が表示されていく。

 完全にオフラインにし、あらゆる機材から切り離しているはずのそれに、だ。

 

『ともあれ、幸いそこはこちらでなんとかできた。……大変なことがなかったわけではないけどね。

 今や617は、傭兵としての勉強もAC操作の精度も、程々以上の進展を見せている。

 依頼のブリーフィングを聞いて疑う癖は付けさせたし、彼女のAC乗りとしての素質もあって、特務機体程度なら単身でも潰せる実力は付けてくれた。

 一人の独立傭兵としてやっていくだけの下地はできた、と思っていいはずだ』

 

 音もなく、文字列は入力されていく。

 勿論、ウォルターが入力しているわけでもなく……。

 いいや、それどころか、誰にだって入力できるはずもないそれ。

 

 しかし、文字列は……617曰く「おにいさま」である「ナイン」なる存在の意思は、淡々とこれまでの状況を並べていく。

 

『俺は成り行きで617を助けた後、自らの強化を手伝ってほしいと請われ、それに応えた。

 さらにその後、ハウンズとしての帰還の後にもサポートを続けてほしい、とも言われている。

 故に、もしもあなたが許容するのなら、俺は今後とも617の、必要であれば621の現地オペレートを行いたいと思っている。

 ……こちらから告げるべき状況は以上かな』

「…………」

 

 ウォルターはその文字列が止まっても、しばらくの間、沈黙を保ち続けた。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 BAWS第二工廠での強制監査妨害。

 名も知らない独立傭兵からの怪しげな依頼ではあったものの、621の力ならば多少の理不尽も跳ね除けられるだろうと、ウォルターはこの依頼を受け……。

 しかし、様々な想定外の事態に直面した。

 

 アリーナに登録のない独立傭兵。

 強制監査には明らかに過剰な戦力投入。

 特務機体三機との戦闘という死地。

 そして、元トップランカーの傭兵と不明な傭兵による挟み撃ち。

 

 621は確かに埒外の強さを持っているが、それでも失敗という概念を持たないわけではない。

 流石に不味いかと、通信機の前で手に汗握っていたウォルターは、しかしこの窮地すらも乗り越えた彼女に更なる信頼を寄せ……。

 

 ……その直後、更なる想定外の事態に直面した。

 

 C4-617の生還。

 

 文字通り夢にまで見た、奇跡が起こったのだ。

 

 

 

 617と619、620を喪った、封鎖拠点の壊滅作戦。

 アレは、どうしても必要だった。

 ルビコン1方面に封鎖機構の目を向けさせ、621の基礎訓練とルビコン進駐を果たすためには、必ず。

 

 ウォルターには果たすべき使命と役割があり、それは何事にも代えがたく。

 そのために彼は、心のどこかで娘のように思っていた彼女たちを……「使い潰した」。

 

 相当に鍛えたハウンズをして、けれど封鎖拠点への突貫はおおよそ特攻に等しい。

 その上とある一人の傭兵によって、ハウンズの一人が殺されてしまった直後。

 あまりにも、戦力が足りなかった。

 

 生存などおおよそ望めるものではなかったし、一縷の望みをかけて確認したシグナルは、全て途絶していた。

 ただ唯一、617だけは生命反応ではなく、機体反応がロストしていたが……これだって、コアパーツのシグナル機能が先に喪われていたとすれば不自然なことではない。

 むしろコックピットに程近い位置にあるはずのシグナル機能が喪失した以上、生存は絶望的と言って良かった。

 

 だからこそ、ウォルターは全てを、最後のハウンズである621に託した。

 「単独でルビコン3を踏破し、あらゆる企業や勢力を出し抜いてコーラルの集積地点を掴む」という無理難題にも程がある役割りを押し付け、呪いに等しい祈りを彼女へと向け……。

 

 

 

 ……けれど、しかし。

 

 ウォルターが自分の目的のために殺したはずの少女は、ウォルターに……以前は浮かべなかったような柔らかな笑みを向け、言ってくれたのだ。

 

 「ただいま」、と。

 

 

 

「…………まず」

『まず?』

 

 相槌を打つ文字列に対し……。

 ウォルターは、深々とその頭を下げた。

 

「まず、感謝する。617の救助と援助に。

 お前の言う通り、あいつ一人では窮地を切り抜けられなかっただろう。

 ……ありがとう。あいつを、救ってくれて」

 

 万感の想いの籠った言葉。

 ミッション中ですら冷静、いっそ冷徹ですらある彼が、しかし今はその声を震わせていた。

 

 ウォルターにとって、617を喪った過去は、傷痕と言っても過言ではないもの。

 無論、617だけではない。618も、619も、620も……それ以前に指揮していた傭兵たちもそうだ。

 

 購入した強化人間を一人一人育てようとするウォルターのやり方は、強力な個人を生む可能性がある反面、本来ACのパーツであり消耗品でしかない強化人間個人に感情移入してしまう危険性を秘めている。

 戦場において最も不要な「情」というものを、確かにウォルターは持ってしまっていた。

 

 果たさねばならない使命のためとはいえ、自らの宿痾に彼女たちを巻き込み、その命を奪ったという事実は、決して慣れるものではなく……。

 その度に、ウォルターはその心に、癒えぬ傷を残してきた。

 

 その内の1つが、617の喪失という真新しいそれが、覆された。

 ただ1つであろうと、喪われたと思った傭兵が、健在だった。

 

 それはウォルターにとって、どれ程の救いだったことか。

 

 更に言えば、617の焼け付いて二度と使い物にならないはずの足を、介助こそ必要とはいえ再び自在に動かすことができるのだ。

 あまりにも都合の良い、非現実的な話すぎて、また夢を見ているのかと諦めかけた程だった。

 

 

 

 その感情だけで判断するのなら、ウォルターはそれこそ、ナインに対して望むままの報酬を与えていたかもしれない。

 それが617の育成とオペレートであれば、即座にそれを許容していただろう。

 

 617に好意的な人間は、少ない。

 それこそ、既に死んでいったハウンズたちと、ウォルターくらいのものだろう。

 だからこそ、ナインと名乗る好意的な存在と触れ合うことは、617の情操教育にとって大きなプラスになってくれるはずだ。

 

 ウォルターから見て、617は自身を助けたナインへ、大きな好感を持っているように思えた。

 そもそも617にとって、「おにいさま」という呼び名は特別な意味を持っている。

 ウォルターが読み聞かせていた童話に登場する「王子様」を彼女が呼び間違えたことから始まったそれは、おおよそ617にとって理想の男性を意味する言葉。

 その名で呼んでいるのだ、少なくともナインに向けられた信頼の情は確かで……親愛、もしくはそれ以上の感情を持っている可能性もある。

 

 617がそう思える人物を見出したのは、そう呼べる人物と巡り会えたことは、素直に祝福すべきことだ。

 そして、彼女がそれを認められる程に情緒を取り戻せたことも、また。

 

 ウォルターの感情からすれば、拒む理由などどこにもない。

 ナインという存在は、彼にとって、暗闇に差し込んだ一筋の光のようなものだったのだから。

 

 

 

 ……しかし、それはあくまで感情論での話。

 自らの心よりも優先すべきことが、彼にはあった。

 

 故に、全ての感情を殺し、冷たい声で恩知らずな言葉を吐き捨てる。

 

「だが、ハウンズのオペレートを任せるとなれば、話は変わる。

 お前はどうやら、こちらの事情をある程度理解しているようだが……それをどこで知った?

 そもそも、顔も見せず声も聞かせないお前は、何者だ。

 自らを明かさない者を信頼などできないし、信頼できない者にハウンズを預けようとは思わん」

 

 ウォルターには、友人より託された使命がある。

 

 コーラルを、人には早すぎるその資源を、破綻をもたらす可能性を、残らず焼却する。

 

 この目的は、ウォルターの個人的な感傷を遥かに超えて優先される。

 目標達成を阻害し得る危惧や危険性があるのなら、ウォルターはそれを決して認めないだろう。

 

 

 

 厳しい表情を浮かべたウォルターに対し、ディスプレイ上のナインは応える。

 

『……ふむ。それを明かすのは、少々難しいな。

 そちらにそちらの都合があるように、こちらにもこちらの都合がある。

 617の発声システムを通したり、こうしてメッセージを表示することはできるんだが、あなたに俺自身の声を出したり顔を見せるのは……ああ、少々難しいと言わざるを得ないな。

 申し訳ない、あなたが俺を疑うのは当然のことだろう』

 

 メッセージの反応は至極落ち着いたものだった。

 あるいは、ウォルターのその反応さえも予想通りのものだったのかもしれない。

 

 実際、ナインは続けて澱みなく文章を記した。

 

『まぁしかし……少々露悪的に、なおかつ歯に衣着せず言えば、だ。

 ウォルター、あなたは俺の所在を特定したり、正体を突き止めることはできないはずだ。たとえあなたの後ろにある「組織」の力を振るっても……少なくとも、そう簡単にはね。

 こうしてオフラインのはずの機械にどうやって干渉しているか、カメラ機能のないそれでどうやってあなたの反応を窺っているかも、わからない。そうだろう?

 つまるところ、あなたには俺を排除する手段を持っていない。

 そんな俺を敵に回すと、まぁ厄介ではないかな。やろうとすれば機械とか全部ハッキングしてぶっ壊せるわけだし。ああいや、勿論そんなことをするつもりはないけどね』

「…………」

 

 鋭い視線と沈黙を以て認めるウォルターに、ナインは切り替えるように今までの文字列を消して、再度入力していく。

 

『……なら、発想の逆転だ。俺を敵に回さなければいい。

 617をあなたの元に連れ帰ったことから分かってもらえる通り、俺のスタンスはあなたたちに相当に寄っている。少なからず協力はし合えるはずだ。

 勿論、心底から信頼しろと言っているわけじゃない。そもそもどれ程尽くそうが、人の言葉はそう重いものじゃないからな。

 だからこそ、あなたの信頼は、これからの行動と選択で勝ち取るさ』

 

『今は俺を利用してくれ。信じて頼るのではなく、利己のために用いてくれ。

 自分で言うのもなんだが、割に有用な存在だと思う。ハッキングもできれば敵性存在の位置特定もできるし、なんならオマちゃんサーバーを乗っ取って彼女たちに適切な教習プログラムを提供することもできる。勿論、コーラル集積地点特定にも助力できるはずだ。

 現場でのオペレートも……ルビコン1では封鎖拠点を潰したし、ルビコン3でもほとんどの依頼を達成しているし、あなたのレイヴン相手にも張り合ってみせた辺りからも、ある程度はあると自負している。

 仮にあなたの通信が届かないような場所でも、彼女たちを最適に導くことができるだろう。

 そんな便利な俺を、企業たちと同じように、使える時に使い倒す。常に観察して、裏切ったり不必要になったら、即座に協力は打ち切る。

 ……今は、それくらいのスタンスと距離感で十分なんだが、どうかな』

 

 

 

「…………」

 

 ウォルターは、判断力と決断力のある男だ。

 それがプラスの要素になり得るなら使い、マイナスの要素になり得るなら潰す。

 それができる彼は、だからこそ上手く企業に取り入りその力を利用していたし、敵対勢力を容赦なくあらゆる方法で排除してきた。

 

 では何故、今、彼が迷っているかと言われれば……。

 それがウォルターからして、あまりにも都合の良すぎる提案だったからだ。

 

 ナイン。

 死にかけた617を救い、ウォルターの下に連れ戻した存在。

 

 617の受けたコーラル強化手術に絡んでいるのかもしれない、不可思議な手段で彼女の体を掌握できる──正確には、身体の支配優先度は617の方が高いらしいが、それも真実かはわからない──誰か。

 その命を救い、窮地を共に生き延びたこともあって、617との信頼関係はしばらく離れていたウォルターと同等以上に良好かもしれない程。

 戦術及び戦略的なオペレート技術も高く、617曰くAC操作精度は『おにいさまは絶対に負けません』と呼べる程らしい。

 その上、何故かウォルターやハウンズに対して好意的に接し、含むところはあるにしろ、それを隠そうともせず利用しろと言ってくる始末だ。

 

 勿論疑わしいことは多いが、それにしても、マイナスの要素を補って余りあるプラスがあった。

 ウォルターの目的に向けて、とても大きな推進力になり得る存在であることは間違いない。

 

 しかし、だからこそ。

 このタイミングで接触を図って来たのは……出来過ぎている。

 

 

 

『勿論。……ウォッチポイントの襲撃に関しても、サポートする。

 既に封鎖機構の警備配置については情報を抜いて来た。あなたの端末に送信しよう』

「……どこまで、掴んでいる?」

『さて。これも能力の証明だと思ってほしいな。

 俺から言えるのは、617も出し、俺がサポートすれば、621の負担は相当に減るだろうってことだ』

 

 ウォルターはその文字列を目にして、再び黙り込み。

 そうして……ただ一つ、尋ねた。

 

「お前の目的は、何だ」

 

 対し、文字列は一瞬だけ止まった後……。

 改めて、文字を以て想いを述べた。

 

『彼女たちにとって、陳腐なまでのハッピーエンドと、その先を。

 ルビコンでの戦いで喪われるものを減らし、最適な方法で617たちに勝たせる。

 この戦いが終わった後、あなたの隣で彼女たちが笑っている……いや、違うな。彼女たちの隣で、あなたが笑ってくれている。

 俺はそんな、夢のような未来が見たかったんだよ…………ごす』

 

 

 







 まぁそれはそれとして体は闘争を求めるが……。
 戦い続ける歓びを欲してしまうが……。
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