そして世に(銀髪薄幸美少女傭兵との)純愛のあらんことを 作:アリマリア
それとも──この私の金と呼ぶべきかな?
「そんじゃあ今回のミッションの説明をしてくぜ。
今回ぶっ壊してもらうのは東部寒冷地帯の惑星封鎖機構基地、封鎖拠点ISB2260-2……まぁつまりは、てめぇが一回はぶっ壊したっていうあそこだな。
10日前にてめぇがやってくれたアレのおかげでクソ野郎共は大慌て、俺たちの通商ルートの封鎖にもでけぇ風穴が空いた。おかげで最近鉄火場になってるルビコン3に資源持ち込んでウッハウハってわけだ!
このままいきゃあ、こんな片田舎のボロ惑星捨ててとっとと中央星系にぶっ飛べる、と思ってたんだが……まぁ人生そう上手くはいかねーな。
封鎖機構の野郎共、付け込まれてたまるかつって、おっとり刀で防衛部隊を送りつけやがった。それも情報によりゃ馬鹿みてーな量と質、前に配置されてた兵力に迫るって話だ。
正式配備じゃねえ、臨時の防衛部隊、その第一陣でだぜ? ったく、あそこのトップだっつうAIは何考えてやがんだかな。
んで、てめぇに依頼してぇのはソイツらの排除、あるいは勢力をできるだけ多く削ることだ。
報酬はてめぇがぶっ潰した機体に応じて支払うが、ハッキリ言ってこの辺の傭兵稼業としちゃあ相当に破格の値段にしてやってる。俺の人徳のなせる技ってヤツだ。実際の量はさっき送ったデータ見てくれ。
で、更に! 特務機体を撃破できりゃあ報酬にボーナスで10,000C! 基地を完全に制圧できりゃあ更に50,000cだ! こんなにうめぇ話はここいらじゃそうそうねぇぜ!
なぁに、てめぇのあの意味わかんねーくねくねした動きとすげぇ命中精度がありゃあ、封鎖機構なんて大した敵でもねぇだろ? それこそミールワームを炙るようなもんだぜぇ!
あ? 俺に僚機に付けだぁ? 冗談やめろって、俺なんかがあんな鉄火場にいきゃあ一瞬で蜂の巣だってぇの!
負ける戦いをすんのはかっけぇ男とは言えねぇんだ。パッチ様はクールに勝つのさ。
……こう言っちゃなんだがな、これを依頼すんのは俺にだって馬鹿でけぇリスクがある。
封鎖機構を敵に回しゃあ、俺たちしがない商売人なんて抵抗もできねぇ。お前が掴まって拷問でもされて情報が流れりゃあ、俺たちゃ一発でご破算だ。
ただその上で、俺をあんなボロ機体で一方的にボコったてめぇの強さにベットしてんだよ。
実際適性価格で企業のパーツ流してやったし、何よりタダ同然で機体パーツ見繕ってやったろ?
……廃品処分? んなこと言いっこ無しだろ兄弟!
おし、わかったか? それなら頼んだぜ、オイ!
約束通り、過半数ぶっ潰してくれたらブローカーに渡りつけてやっからよぉ!!」
* * *
【というわけで、仕事を受けることになったわけだ】
『疑問を提起します。どういうわけでしょうか』
ブースターを噴かせ、寒冷地帯の大地を駆ける一機のAC。
そのコックピット内で、一組の男女……ならぬ一人の少女が、脳内に響く声と会話を交わす。
飼い主の元から逸れたハウンズ、強化人間C4-617と、その脳内のコーラル管理デバイスに住み着いたサポーター、ナインの2人だ。
【えーと……もしかして話、聞いてなかった?】
『617は肯定します』
617の視界の端で、ちかちか瞬いていた赤い光のようなものが、ぐにょんと凹む。
なんとなく凹んでいるっぽい動きである。
これが……この光のようなものが見え始めたのは、今日の朝、目が覚めた時。
なんだか世界が少しだけ赤くなったような感覚と共に、617の目には、丸っぽかったり尖ったりするおかしな赤色が見え始めたのだ。
特にナインが何か言ったわけではないが、617は恐らくこれがナインなのだろうと思っていた。
だってナインの言葉に合わせて飛んだり跳ねたりしてるし。
協力者たるナインがすることならば害が発生することはあるまいと、617はこれを黙認している。
……当のナインは、既に617との感覚同調を切って久しいこともあり、そんなものが出ていることにすら気付いてはいないのだが。
この辺りの報連相の不足は、やはり彼女が未だ兵士として幼すぎるが故の弊害だろう。
どことなく愛嬌を感じる赤い光から視線を逸らし、617は改めてメインカメラを見やった。
考えるのは、作戦を受けるに至った経緯ではなく、作戦そのものについてである。
617は猟犬である。名前はもうない。
猟犬は猟犬なので、飼い主の意図とか本当の狙いとか、そういうことは考えない。
ただただひたすら、言われた通り外敵に噛み付くのがお役目であり生き方である。
それが習慣付いている617は、当然というか、今回も全然話を聞いていない。
ただ、ナインはこれを強く責める気にもならなかった。
ちゃんと話を聞けと言葉で言うのは簡単だが、そもそも脳機能が退化してしまっている617に「人の話を聞いてきちんと意味を理解する」という頭脳労働を求めること自体がお門違いのようにも感じていた。
なので、脳内彼氏ならぬ脳内サポーターを請け負ったナインが、それを分かりやすく解して伝える必要がある。
これも彼女のサポーターとか保護者代理、教育係と同じように、自身の役目なのだろうと、ナインは自らを納得させた。
【よしわかった、簡単に説明するから聞いてくれ】
『…………』
【いや、作戦の成功率にも関わって来るから。ひいては君の帰還にも関わるから】
『了解しました、617はナインの話を聞きます』
617の視界の端で、赤い光はぐでんと脱力した。
【さて、今回この依頼を受けた経緯だが……端的に言えば、君のルビコン3密航のためだ。
密航、というか密入星のために必要なものは何だと思う?】
ぱちぱちと青い目を瞬かせて、617はしばらく考えた後……。
『…………お金、であると617は考えます』
【おお、正解! よく考えたな、偉い偉い】
ぷかぷかと浮いて球体に戻った赤い光が、操縦桿を握る617を撫でるように頭の上を行ったり来たりする。
617は、感情が薄い。強化手術によってその大部分を失ったからである。
けれど薄いとしても、持っているものは持っている。というかウォルターの元で取り戻した。
つまるところ今の彼女は、相手がウォルターではないとしても、誰かに褒められるのは普通に嬉しかった。
内心で微かな達成感を覚えている617に、ナインは話を続ける。
【君の言う通り、一番必要なのはお金だ。より正確に言えばCOAM、企業保証通貨。
これがなくちゃやれるもんもやれないからな。傭兵としてまず考えるべきはやっぱりこれだよ。
……だが、それほどではないが、他にも必要なものがある】
『お聞かせ願います』
気持ちテンション高く尋ねる617に、ナインは答える。
【信用だ】
『信用』
【密航は犯罪だ、当然だけど。もしバレればソイツは封鎖機構に捕まったり殺されたりするし、何より密航を手伝ってくれるブローカーも足が付く可能性がある】
『疑問を提起します。足が付く、とは何でしょうか』
【バレるってことだね。ブローカーも悪事の手伝いをしてるから、バレちゃ良くないんだ】
『理解しました、話を続けてください』
617は周囲への警戒を続けながらも、ナインの話を聞く。
彼女は、自分と比べてナインの方が頭が良いのだろうことを理解していた。
だからこそ、ウォルターがいない今、617はナインの言葉を聞いて行動すべきであると判断している。
とはいえ、彼の言葉の全てを完璧に理解できているというわけではない。
あくまでも「よくわからないけどそういうことなんだなぁ」と、ぼんやり聞いているだけだ。
ただ、『わからないことがあれば訊くように』と言われ、それを命令と認識してはいるので、ひとまず疑問に感じた部分は尋ねることにしてはいるが。
【ブローカー視点だと、よく知らない奴を紹介して足が付く、これが一番嫌だよな。なにせ全く得がない。
だから、「しっかり仕事をこなす真面目でそつがない奴」……つまりはバレるようなヘマをしない人間だっていう信用が必要になるんだ。
で、パッチ曰く、アイツは結構顔が広くてそういうブローカーの知り合いの知り合いがいるらしい。今回の仕事に成功すれば、紹介を頼んでもいいってさ】
『……要約すると、「ブローカー」という人間に接触しながら、必要なCOAMを稼ぐことができるから、この仕事を受けた……ということでしょうか』
【イエス! 偉いぞー617、ちゃんと考えられてるな!】
617の頭を行き来する赤い光のスピードが上がる。
また褒められてしまったと、617は少しばかりの満足感と、どこかこそばゆいような感覚を覚えながら、ACのブースターを噴かせた。
パッチ、悪いが──金を、貸してほしい。