そして世に(銀髪薄幸美少女傭兵との)純愛のあらんことを   作:アリマリア

40 / 84

 真っ当に戦ってくれないタイプのカスティ





そういうことであれば引き撃ちは任せてくれ、ガン引きには自信がある

 

 

 

「っ、この……!」

 

 砂漠地帯を駆るAC、「Loader 4」。

 そのコックピット内で、強化人間C4-621は苦し気な声を漏らした。

 

 ちらりと視線を動かした先は、網膜に投影された戦闘時用UI。

 戦闘開始からおおよそ1分、機体情報に記された数字は……刻一刻と減ってきている。

 

 残りAP5,611、万全な状態から見て残りAPはおおよそ半分。

 リペアなし。アサルトアーマーは残り2回。残弾は50%程。

 621が切れる手札は、少しずつ減ってきている。

 

 対し、メインサイト内、光学ロックオンによりCOMが捉えている敵性AC。

 そのAPは、未だ1割と減っていない。

 

 状況は、圧倒的に不利だ。

 追い詰められている。状況が改善しない。一方的に被害を受け続けている。

 ……久々の危機的状況が、621の心に炙るような焦燥をもたらす。

 

 

 

 621の愛機「Loader 4」の機体コンセプトは、飛び抜けた瞬間火力だ。

 

 両手に持つベイラム性ショットガンSG-027 ZIMMERMAN(ジマーマン)は瞬間火力に長け、特に100メートル以内の相手に対しては抜群の火力を誇る。

 それは何も削り取るAPに限った話ではなく……細かなペレットの面での攻撃は、動的防弾調整機能ACSの処理に極めて大きな負荷を与えるのだ。

 一発の威力を重視する分、リロード時間の長さという弱点を抱えている武器ではあるが、621は両腕にこれを抱えて交互に撃ち、それでも発生する隙にはブーストキックを差し込むことによりこれを解決している。

 

 そして、敵のACSが負荷限界を迎えてスタッガーしてしまえば、もはや勝負は付いたに等しい。

 両肩に備えられたVE-60SNA(スタンニードルランチャー)から撃ち出される杭は非常に鋭く、避弾経始されてしまえば一気に無力化されるものの、直撃した際の威力は他の武装から見ても頭一つ抜けている。

 更に、この杭の最大の特徴である先端よりの放電が、AC内部を巡る電流に干渉し強制的に外へ放電させることで更にAPを削ると同時、一瞬の完全無抵抗状態を作り出す。

 

 ここに更なるショットガンの射撃を重ねれれば、削れるAPは実に8,500以上。

 並大抵のACであれば、スタッガーを取るまでの削りと合わせ、相手にリペアキットを使う間も与えず破壊まで持って行くことができる。

 

 これこそが、621が度重なる周回の果てに見出した、「格下を可能な限り簡単に、短時間で処理する」ためのアセンブル。

 

 新たな可能性を探求していたとはいえ、彼女は繰り返す戦いと変わらない破滅に疲弊していた。

 「楽しい」よりも「簡単」、「戦い」よりも「処理」に意識の比率が傾いて行ったのは、当然のことと言えただろう。

 

 

 

 が、しかし。

 このような一辺倒なアセンブルでは、どうしても勝てない相手が生まれてくる。

 

 ルビコン3における殆どのAC乗りは、この機体構成で撃破することができた。

 一部相性の良くないACも存在はしたが、それでも圧倒的な火力と、何より621の操作技術によって、多少の不利は覆してきた。

 

 ……けれど、それはつまり、さかしまに言うなら。

 技量で勝つことのできない相手に対して、621が無力であることも意味している。

 

 

 

 621の視界に接続された「Loader 4」のメインサイトが、小さく映る敵機から走る、3発の紫の軌道を捉える。

 1秒と待たず飛んで来たプラズマミサイルを、621はクイックブーストで避け……。

 

「ぐっ!?」

 

 しかし、その冷却の隙を見計らったかのように……いいや、実際に見計らっていたのだろう。

 飛んで来たリニアライフルの弾丸がその機体を貫き、「Loader 4」はスタッガーに陥る。

 

 それと時を同じくして、200m強の相対距離を保っていたACが、急激に動きを変えた。

 片手に持つバーストマシンガンを乱射しながら、アサルトブーストで急接近する。

 

 迫る機影に対し、歴戦の傭兵たる621は殆ど反射的に、後方へのクイックブーストを入力。

 一瞬の遅れを置き、ACSを再起動させた「Loader 4」は、その命令に過たず答え……。

 

『甘い』

 

 しかし、敵性ACは一拍長くアサルトブーストを噴かしてその距離を詰め切り。

 その細い二脚で以て「Loader 4」の体を捉え、強かに蹴り飛ばす。

 

 何十トンという機体の重量が乗った蹴りは「Loader 4」のコアパーツを捉え、621は脳を揺らす衝撃に一瞬操作も覚束なくなる。

 ブーストキックの衝撃による一瞬の隙。それを見逃さず、敵機はすぐに距離を引き離した。

 

「っ、まだ!」

 

 完全に距離を取られる前にと、621は右手のショットガンを放ち、そのおおよそ0.3秒後に左手のショットガンを放つ。

 本来クイックブーストの後隙を刈り取るはずのそれは……。

 

『焦り過ぎ』

 

 しかし、一発目をパルスバックラーによるイニシャルガードで受け流され、続く二発目をクイックブーストで避けられ、綺麗にいなされてしまった。

 

 

 

 

「っ、うぅ……!!」

 

 残りAP30%。

 無機質なCOMの音声を聞きながら、621は焦燥に表情を歪めた。

 

 「Loader 4」はその火力のために、機動力をある程度妥協している。

 勿論「処理の早さ」を重視していたので、重量機と言える程には重くしていないものの、ブーストやアサルトブーストの速度は平均的な中量機程度のものでしかない。

 

 故に……機動性を重視した軽量機相手には、どう足掻いても追いつけない。

 

 「Loader 4」の持つ武装は、スタッガー時に極めて有効になるがそうでない時はまず回避されてしまうスタンニードルランチャーと、近距離でこそその本領を発揮するショットガン。

 中長距離の距離感を保たれ、そしてショットガンを綺麗にいなされれば……その武装の有用性は殆ど失われる。

 

 距離を詰めようにも、相手の技量は621以上。

 「Loader 4」を上回る速度で、スタッガーする瞬間までは綺麗に中距離以上を保たれてしまう。

 

 

 

「どう、する? どうすれば……?」

 

 普段はすぐに見える勝ち筋が、見えなかった。

 

 近付かないと、武装が有効にならない。

 しかし近付こうにも、技量と速度の両面で上回られている以上、距離を離されるばかり。

 相手は距離で威力減衰しないプラズマミサイルと長距離用のリニアライフルを持っており、621の機体の動きを見切ってこれらが容赦なく降り注ぐ。

 

 あまりにも、相性が悪い。

 ……勝ち目が、ない。

 

 それを内心で悟りながらも、それでも621は最後まで抵抗し続けた。

 アサルトアーマーと両手のショットガン、そして時にはスタンニードルランチャーを放ち、アサルトブーストで相手に迫り続け……。

 

 

 

 おおよそ3分の戦いの後。

 APをゼロにした「Loader 4」は、地面に片膝を突き、崩れ落ちた。

 

 

 

 * * *

 

 

 

「……負けた」

 

 視界がACのメインサイトからガレージへ移るのを確認し、621はがくりと肩を落とした。

 

 惜敗ですらない、圧倒的な惨敗。

 ログによれば、削れた相手のAPは、僅か874。

 

 全く、本当に全く、敵わなかった。

 

 実のところ、621は最初期にやっていた戦闘シミュレーターを除いて、AC戦で負けたことがなかった。

 ある意味では当たり前だろう。戦場で負けたのならば、621は今ここにいない。ただ戦場で野垂れ死んでしまっていた。

 

 あるいは621にとって、何度も大切な人を殺し続ける地獄よりは、その方がずっと楽だったのかもしれないが……。

 

 

 

 ……しかし今、彼女のそんな日々への苦痛は、大きく軽減されていた。

 

 今この瞬間、彼女は戦いへの倦怠感も、何度も見た破滅への絶望も、抱いてはいない。

 ただ純粋に、自分をすら上回る強者への憧憬と、この世界に及ばないものがあるという未知への興奮が、彼女の心を満たしていた。

 

 そして、それを導いたのが……。

 

【こう言っちゃなんだが、当然の結果だ。俺が使ったのは対近接ACガンメタアセンだからな。

 引き撃ちに近接機は基本勝てない。特にジマーマンには痛い目に合わされたからな、リロードタイミングとか肌感でわかるし、そうなればイニガも難しくないわけで。

 つまるところ、その辺のAC乗り(N P C)には勝てても、イレギュラー(プレイヤー)を相手にするのは厳しい。そういうアセンだよ、君のそれは】

 

 脳内に響く、赤い声。

 恐らくはエアと同じコーラル変異波形なのだろう、ナイン。

 

 彼こそが、621の閉塞感に包まれていた心を、解き放ってくれたのだ。

 

 

 

【ともあれ、君の動きは良かったよ。流石はオマちゃんに引導を下したイレギュラーだ。

 ナインブレイクレベル4、対人特化アセンを使った本気の俺を相手に、よくあそこまで懸命に抗ってくれた】

 

 ある種傲慢とも取れるその言葉に、けれど621が感じたのは、純粋な賞賛の念と喜びの感情だった。

 

「強かった、ナイン」

【ふふ、ありがとう。君の「自分より強い人と戦ってみたい」という欲求、少しは満たせたかな?】

 

 素直に賞賛を受け取る態度には、自らの強さへの誇りが垣間見える。

 

 自らの強さとそれへの賞賛を当然のことだと受け止める姿勢は、621にとっても既知のもの。

 ルビコンでの戦いを2周も3周もしていれば、ウォルターから向けられる褒めの言葉にも慣れてくる。それを向けられる自らの強さを誇れるようになる。

 

 それはきっと、ナインも同じで……。

 だからこそ、同類を、友人を、あるいは先達を、師を見つけたようで、嬉しくなってしまうのだろう。

 

 

 

「……せんせい」

【ん? 先生?】

「ウォルターのお話に出てくる、せんせいみたい。ナイン。

 私よりずっと強くて、かしこくて、みちびいてくれる人」

 

 ウォルターの読み聞かせてくれていた、旧世代の童話。そこに登場する、夢みたいな人物。

 

 かつて、621にとって、ウォルターこそがせんせいであり、おやであり、飼い主だった。

 けれどあの時、彼女は自ら選択を下し、その関係性と決別して……。

 

 ……そうして、孤独になった。

 

 

 

 けれど、もう、621は孤独ではない。

 

 621が欲しかったのは、王子様ではない。

 一歩先を歩き、手を引き、そして共に戦ってくれる……そんな無条件に信頼できる人が欲しかった。

 かつてウォルターがそうであったように、自分の言葉を信じてくれて、共に歩んでくれる人が欲しかった。

 

 そして今、それは満たされている。

 

 どうすればいいか、621と一緒に考えてくれる人がいる。

 レイヴンの火、ルビコンの解放者、コーラルリリース……犠牲を避けられない3つの結末を超える、4つ目の答えを共に目指してくれると、そう言ってくれた人がいる。

 

 だから。

 

「ナイン。せんせい、って、呼んでいい?」

 

 その関係性を、言葉に当てはめる。

 きっとそれは、リンクスと名乗っていた617と同じように、正しい使い方の言葉ではないけれど……。

 

 621が父のような人に抱いていた想いと、飼い主やハンドラーという言葉が一致しなかったように。

 結局のところ、呼び方など、正しい必要はないのだ。

 

 ただお互いに、それが特別なものであれば、それでだけで。

 

 

 

【ん……ああ、構わない。

 これからも、617と共に君の戦闘技術も鍛えていくつもりだし、ウォルターからもログさえ出すならと許可をもらってるからな。先生で構わないとも】

 

 ただ惜しむらくは、肝心の受け取り手が、その辺りの情緒に微妙に疎かったことだが。

 

 

 







 このラスティには、ルビコンで為すべきことがある。
 銀髪薄幸美少女ことハウンズの傭兵たちと色々あって「おにいさま」とか「せんせい」とか慕われるようないい感じの関係になったり、ンハンドラァウォルタァに警戒されつつも受け入れられたり、イレギュラーなC4-621と戦って勝ってみたい。
 戦友──君は、どうだ。

 ちなみに前半でナイン君が使ってたネオ邪神像ベースの引き撃ち機です。
 手加減は戦士にとって無礼だからね、仕方ないね。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。