そして世に(銀髪薄幸美少女傭兵との)純愛のあらんことを 作:アリマリア
それいけ僕らがハウンズチーム
『617、621……仕事の時間だ。ブリーフィングを開始する』
『これは……ある友人からの、私的な依頼だ』
『「ウォッチポイント」と呼ばれる施設がある。
地中に眠るコーラルの支脈を監視し、「アイビスの火」以前はその流量制御も行っていた施設だ』
『お前たちには、そこを襲撃してもらう』
『当該施設は、コーラルの危険性を星系外に持ち出さないことを趣旨とする惑星封鎖機構にとって、これを監視するための重要拠点の1つだ。故にSG部隊が警備に当たっている。
手を出せば、封鎖機構と正面から事を構えることになりかねない。ベイラムもアーキバスも、表立っての手出しは避けるだろう。
企業との協働は望めないが……お前たちにとってはさしたる問題にはなるまい。むしろ逆に、余計な横槍が入らない、と捉えることもできるだろう』
『ミッションの最終目標は、最奥にあるセンシングバルブの破壊になるが……。
今回からは、細かなミッションプランの立案、及び現地でのオペレートを俺以外が担当する。
621も、先日の戦闘シミュレーションで知っているとは思うが、改めて自己紹介を』
『元リンクス・ウィズ・カラー専属オペレーター、ナインだ。
ハンドラー・ウォルターとの協議の結果、今回のミッションでの現地オペレートを任された。
617は改めてこれからも、そして621はこれからよろしく頼む』
『それでは早速、今回のミッションについてのプランだが。
独立傭兵レイヴン、独立傭兵リンクスはそれぞれ、十分以上の力を備えている。二機を同部隊で運用するより、一機ずつの二部隊を動かす方が効率が良く安全性も高いと判断した。
そのため、今回のミッションは疑似的な二正面作戦となる。……要するに、前回の強制監査妨害と似たような、それぞれで違う動きをするミッションだな』
『まず、レイヴン。君には基地正面から殴り込んでもらう。
俺が通信妨害をかけている内に、計4機の固定砲台、及びSG部隊を残さず片付けて前進してくれ。
これには背後から撃たれる危険性を防止すると共に、派手な動きで目を引く意味合いもある』
『これと同時、リンクスは基地正面を避け、左方から工廠へ続く通路へ潜入。
ウォルターの話には出なかったが、俺の調べによれば、ここには強制監査妨害でも当たった所属不明機体、仮称「ゴースト」がいくらか潜入しているようだ。
レイヴンが到達する前に君は先んじてこれらを片付け、露払いを行う。
また、レイヴンの道を妨げようとする敵性存在が乱入してくれば、この除去も君の役目となる』
『そして再びレイヴン。リンクスが拓いた道を通り、最短経路でウォッチポイント中枢へ侵入。センシングバルブを破壊する』
『以後、二者は基地から南南東13キロメートル地点で合流し、ウォルターが操縦するヘリでAC2機を回収、撤退を開始する。目標地点のマークや調整などはこちらで請け負おう』
『以上が、現地でのおおまかなミッションプランになる。
それぞれが十全に役割を果たさなければ成功しない作戦だが……君たちであればこなせるはずだ。
ここ数日のシミュレーターでの訓練を糧とし、無事に生きて帰ろう』
* * *
独立傭兵のAC乗りが戦場に赴く際には、大きく分けて2つの交通手段に頼ることとなる。
1つは、617がこれまでに行っていた、自らのACを操縦しての移動だ。
現在の鉄火場であるルビコン3は、比較的小さいとはいえ立派な惑星である。
傭兵たちの拠点から何百キロ、あるいは何千キロという遠方が戦場となることも珍しくはなく、だからこそ超長距離の移動手段はどうしても限られてしまう。
殊に、十全な後ろ盾がなく、オペレーターもいない傭兵は、輸送機を出してもらうこともできず、ACを駆って戦場へ赴く他ない。
勿論そんなことをすれば、道中で敵からの襲撃を受ける可能性もあり、集中力は戦場に入る前から削れてしまうだろう。
更に言えば機密も何もあったものではなく、ACがそこに向かっているという情報をみすみす相手に渡してしまうことになる。
一方で、もう1つの移動手段は、現在ハウンズが行っている、輸送機に愛機を格納しての移動だ。
傭兵を支えるオペレーターなり企業の人員なりが輸送機を操縦し、傭兵たちは現地付近に到着するまで格納されたACのコックピット内で待つことになる。
ACを動かしての移動と違い、周囲に注意を払う必要がないため、万全のパフォーマンスを保ったままに戦場に突入することができ。
なおかつ、少なくともただ外から見た限りでは、そのACが戦場に向かっているという情報を漏らさずに済む。
戦闘力の維持という面から見ても、依頼人から受ける依頼の情報秘匿性の面から見ても、やはり輸送機による移動はあらゆる赤貧傭兵の目指すところだろう。
ルビコン1では名無しの傭兵として活動し、ルビコン3ではナインと2人で割と厳しいお財布事情をやりくりしていた617は、当然ながらこれまで輸送機で運搬された経験などなく……。
ウォルターの下に合流した今、その初体験を味わっていた。
「楽だなぁ」。
ブロロと響くプロペラの音を聞きながら、輸送機内に格納されたAC「フォーアンサー」のコックピットで、617はぼんやりとそう思う。
何が楽かと言えばやはり、常に注意を切らさず周囲を見渡し、定期的にスキャンをかけたり地形の傾斜に注意を払ったりしなくて良いことだ。
ちらりと回りを見回しても、映るのは格納庫の壁と、吊り下げられ固定されたもう1機のACだけ。
スキャンも、あくまでも光学によるものである以上、壁の向こうには届かない。
周囲の状態を窺えないことは、いつもの617には強い不安とストレスを与えていただろうが……。
この輸送ヘリの中は、特別だ。
彼女たちを運ぶ輸送機はウォルターによって操縦されており、その上でナインが周囲を探ってくれている。
ウォルターは自身の命に価値を与えてくれた人であり、ナインはこれまで何度も命を守ってくれた人。
617はこの2人に対してなら、全てを任せられる。信じ、頼ることができる。
勿論ACに乗り戦場に向かっている以上、操縦桿から手を放すことはない。
けれど、あくまでも手を添えるだけで、強く握りしめているわけでもない。
背筋を伸ばすこともなく、パイロットシートの背もたれにゆったりと体を預ける彼女は、拠点にいる時と同じくらいに気を休められていた。
そんな617の元に、一瞬のノイズと共に通信が届く。
発信元は……すぐ隣、「フォーアンサー」の横でハンガーに吊られたAC、「Loader 4」。
ハウンズとしては彼女の後輩にあたるC4-621が話しかけて来たのだ。
『ええと……617、いや、リンクス? ……どっちで呼べばいい?』
応答するため、617は首輪デバイスの電源を入れる。
『……現在は作戦時間ではありませんので、617で問題ありません、621』
『あ、そうなんだ。それじゃあ、617』
『はい』
『ええと…………元気?』
『? はい。617の健康状態は良好です』
合成音声による発声デバイスを通していることもあるが、淡々と感情を込めずに言葉を返す617に対し、621の声からはどこか困惑や躊躇のようなものが窺えた。
これが1周目となる617に対し、621にとってルビコンでの戦いは実に3周目。
彼女が受けた劣悪な強化手術は、ウォルターに買われる以前の過去を燃やし尽くしてしまったが……ルビコンでの繰り返しの日々は、それから先を非常に長いものとした。
結果として621の自我や情緒は、先に目覚めたはずの617よりも成熟、あるいは復元されていると言っていい状態にあった。
……しかし、あるいはその弊害と言うべきか。
半端に育ってしまった彼女の情緒は、これまでの周回でただの一度も会ったことのない人間との距離感を測りかねていた。
いいや、この言い方は正確ではないだろう。
621はこれまでにも、周回前には全く面識のなかった相手と知り合ったことがあった。
ただこれまでは、その全員が露骨に怪しかったり、621を騙して悪いがして来たり、殺しに来ていたのだ。
621にとって、自分に一切の殺意を向けず、それどころかやや好意的に接してくる617は、ナインに続く未知の相手なのである。
故に何と声をかけたものかと、彼女は少々逡巡し……。
「……ええと、私、C4-621、レイヴン。これから、同じハウンズとしてよろしく」
結局、無難な自己紹介から始めることにした。
『……? 自己紹介と挨拶は2日前に済ませたと記憶していますが。
私はC4-617、リンクス・ウィズ・カラーという名称で活動しています。よろしくお願いします』
対し、通信の向こうからは、これまた無感情な返答が届いた。
621も、617が強化手術によって喉を焼かれて声が出せず、発声デバイスを使って会話をすることは事前に聞かされていた。なんならその状態で何度か話したこともある。
しかし、いくら脳内の言葉を文字にして出力したとして、ここまで事務的で無感情なものになるだろうか?
……なるだろうなと、621は思い直した。
思い返せば、1周目の彼女も、惑星封鎖機構が本気を出し始める辺りまではこんな感じだった。
とはいえ、コミュニケーションを放棄するわけにもいかない。
この世界、この周の戦歴で言えば617は621の先輩に当たるが、周回込みの精神的な経験で言えば、621は彼女の先輩と言っても過言ではない。
故に、なんとか会話を通して仲良くなろうと、彼女は普段あまり働かせない頭をフル稼働した。
「617は……ハウンズの『せんぱい』、なんだよね?」
『はい。あなたが購入されるタイミングまで、私たち三代目ハウンズがウォルターの下で動いていました。
そのため、617は621の「先輩」であると定義できます』
「さんだいめ……? ええと、ウォルターが言ってた、618、619、620?」
『ええ』
そこで一瞬、通信の向こうの声が止まり。
『617の、仲間たちでした』
再び聞こえて来たそれには、少しだけ、懐古の情が滲んでいた。
その声音を聞いて……621の肩に入っていた力が、抜ける。
そこに含まれていた感情には、覚えがあった。
1周目の621がウォルターに抱いていたそれに……限りない親愛と信頼に、近い。
621にも、仲間だった者たちがいた。
世界の繰り返しによって分断され、関係性はリセットされてしまったが……。
ウォルターと、カーラと、チャティと、ラスティと。多くの戦友と共に戦ってきた。
きっと、それと同じ。
617はハウンズのことを、とても大切に思っていたのだろう。
感情も思考も読めず、よくわからなかった相手が……。
けれど今、少しだけ理解できた気がした。
「……私で代わりになるかはわからないけど、がんばるよ」
『はい。今や残されたハウンズは私たち2人のみ。ウォルターの為、共に頑張りましょう、621』
『ところで、621はナインとはどういう関係なのですか?』
「んぐっ!?」
信頼関係を構築し始めたと思えた相手からの不意打ちに、621の精神がスタッガーする。
彼女の精神性は、「Loader 4」の機体構成によく表れている。
特に外敵に対しては顕著になるが、彼女はこう見えて、敵対者への加害性が強いのだ。
しかしそれはさかしまに、彼女の身内への思いやりの深さを示してもいる。
誰かを大事に思うからこそ、慈しむからこそ、それを傷付ける者を嫌い、攻撃する。
ある意味では、ナインの語る「選んで殺す」という主義に近い在り方と言っていいだろう。
そういった精神性を有するからこそ、一度「身内」と認識した相手に対して、621はとても優しく……。
……そんな人に対する
「え、えーっと」
621は混乱する頭を必死に回した。
ナインとの関係性。どう答えるべきだろうか?
大前提として、今の617には、自らが周回していることや、ナインがそれを知っていることを明かしてはいけない。
……と、ナインから言われている。
ウォルターですら信じることも理解することもできないこの情報を与えても、617を混乱させ、その情緒教育を阻害するだけだから、とのことだ。
実際621もそう思うし、打ち明けようとは思わない。2周目の始まりでウォルターに向けられた懐疑と疑惑の目は、少なからず彼女のトラウマになっている。
だからこそ、ナインとの関係性を聞かれると、なかなかに困るところがある。
何と誤魔化したものかと彼女は必死に考え……。
そもそも先日が初対面ということになっているのに何故「関係性がある」と思われたのか? と更に思考が混迷に落ちていく。
「えっと、うーんと……」
そうして621が口ごもっているのを聞いて、617は言葉を継ぎ足した。
『ナインは独立傭兵レイヴンを明確に特別視していました。
ナインに届くのではないかと思わせるその強さを考えれば、妥当な判断であると認識していたのですが……先日からの話を聞くに、ナインはあなたを戦力ではなく個人としても特別視しているように思います。
それは何故かと考え、以前からナインと関係を持っているのではないかと判断しました』
相手が言葉に詰まっているのは、大体自分が言うべきことをちゃんと言えてないから。
そういう時は、何故そう思ったかをちゃんと伝えるのが一番。
617のナイン直伝のコミュニケーション技術は、今この瞬間確かに621を助けてくれた。
「あ、うん、そう! あの時……えと、シュナイダーでリンクスと戦った時! その時から、せんせいが連絡をくれるようになったの!」
『……せんせい?』
「あうっ!?」
完璧に思えた取り繕いの言葉に、見事な蛇足。
まるでカタフラクトに付けられたMTみたいだぁ、と621の精神は現実逃避し始めた。
『……何故、ナインを「せんせい」と?』
「い、いや、なんだろう、ナインって強くてたよれて色々教えてくれて、せんせいみたいだなって。
ほら、ウォルターが話してくれた童話に出てくる、がっこうのせんせい。617も知ってるでしょ?」
『……………………』
「あれ? 617?……回線ふりょう?」
これまでにない長い沈黙に、621は首を傾げ……。
『ナインは、617のおにいさまです』
聞こえて来た、どことなく底冷えのする言葉に、何故かパイロットスーツの内、背筋に冷や汗が流れる。
仮に戦えば必ず勝つ自信があるというのに、621は今、617のナニカに気圧されてしまっていた。
「え? あ、うん、そうだね? ……そうなの? え、お兄様?」
『617の、です』
「う、うん……?」
何やら強い圧に押され、思わず肯定してしまったが……。
しかしここまで「自分のものだ」と言われてしまうと、621の薄い胸にも、もやっとしたものがこみ上げて来る。
前回のミッションまでと違って、もうナインは617だけのオペレーターではないのである。
一緒にいてくれるはずの、自分を知って共に歩んでくれるはずの、せんせいの独占。到底許されることではない。
負けないもん、と気合いを入れた621は、先輩として保っていた威厳を投げ捨て呟いた。
「まあ……ナインはこれからはハウンズのオペレーターしてくれるみたいだし、私もトレーニング付けてもらったりしてるけどね。
もう『あなただけの』ナイン、じゃないけど?」
ちょっとした意地悪のつもりで口にした621に対し、617は急激に声の響きを暗くする。
『うっ…………頭痛を検知。脳細胞が破壊されるような錯覚を覚えます……』
「だ、大丈夫? えっと、あの、ごめんねいじわる言って?」
『いえ……ああ、ウォルターの元に戻れたのは嬉しいのですが……おにいさまが、おにいさまが、617だけではなく……うう……』
その後621は、先程までと打って変わって少なからず感情を覗かせるようになった617を慰めながら、ミッション開始を待つこととなった。
* * *
格納庫でそんな会話が繰り広げられている一方で、操縦席の方では。
「それで、ナイン。言っていた件だが……確かなのか?」
『ああ、間違いない』
確かな確信を含むナインの断言に、ウォルターは思わず唸りを上げた。
「そうか……ドライフルーツ、か……」
『一方でジャーキーの反応は微妙だった。子供らしいと言えばらしいが、やはり甘味が好きらしい。
あなたから買ってあげれば、彼女も喜ぶだろう』
「……考えておく」
617の帰還のお祝いで使う、彼女が喜ぶものについて情報共有であった。
ウォッチポイントに向かうそのヘリは、あるいはその圧倒的な戦力が故だろうか、作戦前だというのにどこか緩い雰囲気に満ちていた。
ナイン君「あとルビコン1で617がとてもお世話になった商人がいるから、星系外から甘味取り寄せるんならソイツ通してあげてほしい」
(追伸)
なんかネオ邪神像強化されて草。と思ったら当たり判定正常化!
前回のお話がちょっと歪んじゃいましたが、まぁこれがリアルタイムの創作ってことで一つ。