そして世に(銀髪薄幸美少女傭兵との)純愛のあらんことを 作:アリマリア
またウォッチポイントをウォッチしに来たのか?
ベリウス地方北部に構える施設、ウォッチポイント。
惑星封鎖機構がコーラルの流れの監視を行うここの前哨基地外縁部に、今、2機のACが降り立った。
赤い噴射炎をほんの一瞬だけ漏らしてスムーズに水上に着水、すぐに進行を開始する。
そんな二機のコックピットの中に、自らの飼い主の言葉が届く。
『独立傭兵が企業の支援も伴わず仕掛けて来るとは、封鎖機構も想定していないだろう。
再利用されているとはいえ、旧時代の施設だ。警備も決して厳重とは言えない。お前たちならば十分に突破が可能なはずだ。
……行って来い。仕事の時間だ』
「うん、いってきます」
『了解。ハウンズ617、作戦行動を開始します』
独立傭兵レイヴンのAC「Loader 4」と、独立傭兵リンクスのAC「フォーアンサー」。
ウォルターの駆る2人のハウンズは、建物の陰に隠れながらここに攻め入って行く。
まずは「Loader 4」、「フォーアンサー」共に揃って、SG部隊や監視員から補足されないよう、基地の左縁部に沿ってしばらく進み……。
【指定ポイントに到達。ここから2機は分離して動く。
レイヴン、手筈通り固定砲台4機とSGは全て破壊してくれ。
リンクス、先んじてウォッチポイントに向かい障害を排除】
「『了解』」
現地オペレーターの指揮に従い、分離。
レイヴンは基地正面の敵を平らげに、リンクスは先へと進み始めた。
* * *
レイヴンにとって、このミッションは既知のものであり、脅威ではない。
このルビコンでの戦いは実に4度目。
ウォッチポイントを襲った回数も──前回の周回では、ちょっとした変化もありはしたが──同じだけある。
元より3周目までの彼女は単騎でこの基地に攻め入り、その全ての固定砲台と警備、待ち構えていた傭兵にゴースト部隊、そして駆けつけたバルテウスを片付けていた。
強力な僚機が付いている今回は、むしろ今までにない程に楽な条件だ。
繰り返した戦いの日々は彼女の動作を最適化し、また敵の配置や地形情報を頭の中に定着させた。
もはや基地正面の敵を撃破することに、まともな被弾など伴わない。
故に、余裕を持って621は呟いた。
「……せっかくだし、新しい機体になれないと」
彼女の機体「Loader 4」は、前回のミッションからアセンブルを変更している。
先日ナインと戦い、621は敗北を、そして自分がもっと強くなれることを知った。
ナインと並ぶ程のイレギュラーがルビコンに他にいるとは思えないが、それでも機体に脆弱性があるというのなら最適化を図るのがAC乗りというもの。
彼女はナインのアドバイスを受けつつ、機体のパーツを組み替えた。
前回ナインに手も足も出ずに敗北した原因は、大きく分けて3つに大別できる。
621の単純な技量不足。
機体のコンセプトの相性。
そして、機体の機動速度だ。
……とはいえ、前者2つに関しては、急激に上昇させることは難しい。
技量は戦闘と戦場で培うしかないし……。
【急激なアセンブルの変更は危険だ。特に武装はな。
そちらはこれから、時間をかけてやっていくとして……今は一旦、外装パーツをもうちょっと詰めていこう。特に注目すべきは……AB速度だな】
前回、「Loader 4」はナインの再現機体に全く追い付けず、一方的に距離を取られて引き撃ちを受けた。
アサルトブーストの速度。これさえもっと速ければ……あるいは、あの機体に追いつけ、有効打を与えられたかもしれない。
【君のアセンブル……というかジマーマンのダブトリ自体は、かなり理に適っている。
あとはそれを敵に至近距離でぶつけられさえすればいい。そのための機体速度だ】
その言葉を受け、「Loader 4」は全体的に機体重量を落とし、ブースターも換装することで高速化を図っている。
その分、APの上限やACSの処理速度は大幅に削れてしまったが……ナインのように、どうしようもなく勝てない相性の相手と戦うことになれば、必ず死ぬのだ。
それならば、いっそこの状態に慣れておいた方が良い、と621は判断した。
「これなら……いつもよりはやく終わるかな。
リンクス、というかせんせいがアレに負けるとは思えないけど、一応いそごう」
スタンニードルランチャーを直撃させて固定砲台を破壊しながら、これから起こり得る状況を知る621は、一人呟いた。
* * *
基地正面でレイヴンが大立ち回りを見せる一方。
その騒動に隠れるように、617は基地の外縁部を進んだ。
【正確に言えば、ここはまだウォッチポイントではない。ウォッチポイント前哨基地「Br-11048」がここの正式名称になる。
俺たちが襲撃するウォッチポイントは、奥に見える、あの円筒状の建築物だ】
『なるほど』
ナインの声を聞きながら、617は周囲の様子を窺う。
ここに来るまでにウォルターのヘリを使ったこともあって、彼女の集中力は研ぎ澄まされている。
ここに「ゴースト」と呼ばれる、前にも戦ったステルス機体が配備されているとは聞いていた。故に、いつ狙撃されてもいいように備えている状態だ。
【君の仕事は、レイヴンが到着するまでにステルス機と……介入してくるかもしれない第三者を撃破しておくことだ。わかっているな?】
『はい』
【良し。ゴーストは俺が警戒し、現れればマーキングする。君はまず、ウォッチポイントの正面入り口に向かえ。
ただし、敵にバレないように。つまりは、アサルトブーストを使った移動は厳禁ということ】
『了解しました』
アサルトブーストは「強襲目的のブースト」という名の通り、強大な推進力を得る代わりに大きな音とエネルギーの振動を外部に漏らしてしまう。
戦闘時ならともかく、隠密行動時にこれをすれば、敵に嗅ぎつけられてしまいかねない。
故に静音でブーストを噴かせ、617は慎重を期して進む。
……そうして、進むこと暫く。
遠方から聞こえてくる621のもたらす破壊音と、傍受した惑星封鎖機構の混乱する声を聞いている内に、「フォーアンサー」はウォッチポイント前にまで辿り着いた。
『オペレーター、ゴーストはどうでしょうか』
尋ねた617は、しかし不安を抱いていたわけではない。
ナインが、617のおにいさまが、敵を見落としたりするわけもない。
これは念のための確認であり、同時に、続く沈黙に耐えるための彼女なりのコミュニケーションのつもりだったのだろう。
……しかし。
彼女視界の端でぴりぴりと赤色が光り、怪訝そうな声が脳内に響く。
【……いる。だが、数が少ないし……何よりこの感触、武装を積んでいない?
レーザーガンもレーザーウィップも、パルスガンも……何を考えている? 見に徹するつもりか?
いやしかし、それは変異波形を諦めることを意味する。リリースを成し遂げようと考えれば、まずそんな選択を取るはずは……】
これまでにない程の困惑と警戒を見せるオペレーターの声に、617は眉を寄せ……。
そんな彼女を気遣うように、ナインは努めて明るい声を出した。
【いや、すまない、今考えることではないな。
ゴーストは、今は後回しで良い。今は……】
しかし、そこで、彼の声は急激に緊迫感を帯びた。
【来たか、敵性AC。備えろ、617】
『!』
遠方から、急速接近する熱源反応。
それは、ナインからすれば予想していた相手であり、見慣れた相手でもあり……。
【……カメラ捉えた。映すぞ】
その言葉と共に、メインサイトに映ったのは。
『あれ……は!?』
617も見たことのある機体だった。
アリーナにも登録のある、独立傭兵のAC。
そして……617にとっても見覚えのある、因縁の機体。
『ウォッチポイントを襲撃するとは……相変わらずだな、ハンドラー・ウォルター』
赤と白、黒の三色で彩られる、中量二脚。
ウォッチポイントの屋上に降り立ち、こちらを睥睨してくるそれは……。
『また犬を飼ったようだが……新たな犬も、旧い犬も、何度でも殺してやろう』
AC「エンタングル」。
……かつて、617の愛する仲間を……C4-618を殺したACだった。
ちょっと短いけど、一旦ここで区切り。
何度でも物件を紹介してやろう。