そして世に(銀髪薄幸美少女傭兵との)純愛のあらんことを   作:アリマリア

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 まぁ、ありじゃないか? スマートクリーナー。





笑える敵と、心強い味方……まるでファルスだ

 

 

 

 グリッド086、その片隅の区画の倉庫。

 そこには、スマートクリーナーと呼ばれるRaDの特殊兵器が鎮座していた。

 それも他とは違う、特殊な……特殊すぎる武装を積み込んだ特注品だ。

 

 そもそも一般的なスマートクリーナーとは、主に外敵のMTやACを早急に撃破し、処分するための警備戦力だ。

 両腕に装備した巨大な破砕アーム、その表面では刃が高速で回転し、白熱する程の摩擦と熱、そして何より質量で以て、即座に敵をミンチならぬスクラップへと解体。

 そうして発生した機体残骸を、背負った巨大な溶鉱炉へと投げ入れることで、スペースを取る邪魔物を処分しつつ資源に変える。

 文字通りの「お利口な(スマート)掃除屋(クリーナー)」、というわけだ。

 RaDのリーダー、シンダー・カーラの「殺しの道具だからこそ、ひとつ笑える必要がある」という主義もあり、その名前にはシニカルなミーニングが強く、見た目の奇抜さも他組織の機械から群を抜いている。

 

 これまでに3度ルビコンの戦いを超えた621としても、スマートクリーナーはなかなかに印象深い敵だった。

 一見してパワーしか考えていない脳筋機体のようにも思えるが、実のところ分厚い装甲を纏うことで防御性能にも長け、正面の開口部と背後の溶鉱炉の装入口以外にはまともに銃弾が通らない。

 そして開口部を狙えば両の破砕アームがぶん殴ってきて、装入口を狙えば火山弾のように噴出する溶鉄の被害に遭う。

 

 完全に防備を固めるのではなく、敢えて小さな隙を作り、そこを狙ってきた敵を叩き潰す。

 こう見えて理知的でコンセプトの整った機体である。

 

 621の個人的な印象は、奇抜な見た目ながらも自らの弱点を補う手段を持っており、ACSも優秀なようで短期決戦も決めにくく、総じて圧力のある厄介な相手、というもの。

 解放戦線のジャガーノートも、初見の際はばら撒かれる地雷に手こずったりしたし、総じてルビコニアンの装甲持ち機体は優秀なのだ。封鎖機構と違って。

 

 

 

 ……ともあれ。

 それが普通のスマートクリーナーなら、621は今更慌てはしなかっただろう。

 何度も戦ってきた相手であり、避けるべき攻撃も、責めるべき弱点もわかっているのだから。

 

「っ……! こいつ!」

 

 それなのに今、「Loader 4」のコックピットの中で、621が眉をひそめているのは……。

 ひとえに、それが初見と言っていい相手であるが故に他ならない。

 

 今、621の眼前に立ち塞がっているのは、スマートクリーナーにしてスマートクリーナーにあらず。

 左手には、コンテナと見紛うような巨大なコンデンサとジェネレーターを、無理やりひっさげ。

 右手には、ただでさえ馬鹿みたいな大きさだった破砕アームを、無理くり6本括りつけている。

 

 これまでのスマートクリーナーなど、比べ物にならない。

 本物の馬鹿機体が、今621と617の前に鎮座している。

 

【こんなものを作って笑うか……変態技術者が!】

『オペレーター、敵機のデータを』

【スマートクリーナー、その試作グラインドブレードバージョン。

 気を付けるべきは勿論、その巨大に過ぎる破砕アームの集合。だが鈍重そうな見た目に騙されるな、設計要綱通りなら、アイツの最大の脅威は……】

 

 その瞬間、右手のクソデカ破砕アーム群を構えていたスマートクリーナーが、ゆっくりと動き出す。

 三つずつ二列に纏めた破砕アームを、一列に展開。

 続けて、まるで指のように扇状に開いたそれらを巨大な一本に纏めて、振りかぶるように後ろへと構え……。

 

【あっヤバい来るぞ命懸けで避けろォ!!】

 

 機体後方、レイヴンからは窺えない位置に増設されていた、計12機のブースターの出力を最大に。

 ACのクイックブーストもかくやという勢いで、スマートクリーナーは弾丸のように飛び出した。

 

「なっえっ!?」

『……!』

 

 どうしても今までのスマートクリーナーの動きを想定してしまう621と、ナインの声を聞いて警戒し備えていた617。

 結果として、彼女たちの取った反射的な行動は殆ど同時となり……。

 前に突き出された破砕アームを、クイックブーストで辛うじて避け切った。

 

 

 

 ロックオンサイトすら振り切る勢いで後方へと消えたスマートクリーナー。

 しかし、一度攻撃を回避できたからと言って、ハウンズたちに余裕があるかと言えば、否だ。

 

「ぜ、ぜんぜん違う、動き! こんなにはやいの!? それに……!」

『オペレーター、この威力は……!』

 

 621と617は、それぞれ驚愕と警戒の声を上げる。

 

 今の一瞬、凄まじい速度で、数十センチ先を通り抜けていった武装。

 その威力が常軌を逸していたことは、回避に成功した2人ですら感じ取れた。

 

 単純な話、亜音速にも迫ろうかという速度でぶつかってくる数十トンの鉄塊という時点で、それは致命的なまでの威力を持つ。

 とはいえ、ACの動的防弾調整機構(A C S)は極めて優秀だ。それ自体の衝撃は大部分を受け流すことができるだろうが……。

 事は、それだけでは済まない。

 

 スマートクリーナーの抱える、6つの破砕アーム。

 もしもこれに直撃し、それらの中央へ巻き込まれでもすれば……相対速度によって機体はアーム群の中へと押し付けられ、たとえ反射的にクイックブーストを噴かそうが、脱出は不可能。

 

 そして、アームの表面で高速回転する細かな刃──6つのアーム全体から見れば、の話であり、それら1つ1つは1メートルを越える程の大型の刃なのだが──によって、ACの装甲板がガリガリと削り取られる。

 細かな衝撃の連続は、ACSに対する最適解。一瞬でスタッガーに追い込まれてしまうだろう。

 

 同時、赤熱するそれらに取り囲まれれば、機体炎上どころの話では済まない。

 下手をすれば細かく破砕された装甲板の奥、ACの内部にまで熱が浸透し融解してしまう恐れすらある。

 

 それらの被害を受けてなお、ACのAPが残るかと言われれば……否。

 たとえ重装甲のタンクだろうが、直撃すれば1発で問答無用のスタッガー、残ったAPも尽く削り取られてしまうだろう。

 

 

 

 ……つまり、端的に言えば。

 

 今の突進に直撃すれば、即死だ。

 

 

 

【凄まじい威力……レイヴン、リンクス、警戒を。

 ふざけた見た目ではありますが、あの威力と速度、下手をすれば一瞬で勝負が決してしまいかねない】

 

 冷静なエアの忠言は、的を射ている。

 イレギュラーである621、未だ情緒が育ち切らない617とはいえど、これには気を引き締めざるを得なかった。

 

 なにせ、文字通り一瞬の隙が命取りなのだ。

 寸前までのどことなく緩んだ空気は捨て去り、ハウンズとして敵を殺すため、彼女たちは意識を研ぎ澄ます。

 

 そして、まずは遥か後方へと消えた敵機をメインサイトで捉えようと、クイックターンで振り返り……。

 

 

 

「え?」

『……なるほど』

 

 彼女たちが目撃したのは、ぶち抜かれた壁と、ずっと先まで残るキャタピラ跡。

 

 恐らくは、止まるための機構を用意していなかったのだろう。

 破砕アーム群が壁をぶち抜いた後、スマートクリーナーは勢いそのまま、グリッドの端から外へ落下していったらしい。

 

 敵性反応、ロスト。残敵なし。

 

 ぱちくりと目を瞬かせる独立傭兵2人の耳に、COMの立てる無機質な機械音声に続いて、広域放送の回線が拾ったカーラの苦笑が届いた。

 

『あらら、まさかコイツを使っても勝てないとはねぇ』

【扱い辛いパーツとかって次元じゃねえし、負けるわけねぇだろォ!】

【レイヴン……私はなんだか混乱してきました】

「私も」

『同意します』

 

 

 

 * * *

 

 

 

【つまり、話を纏めると……。

 リンクスがこの星に密航した際、彼女たちRaDと争いになりかけ、なんとか和解。

 その際に、一時的な拠点の貸与とヘッドパーツの改造の対価として、ナインが新たな武装のアイディアを提供した、と?】

【まぁ……そうなるね、うん。

 いや、最初はただの与太話だったんだけどね? 思いの外食いつきが良くて……。

 依頼しなくていいからアイディア寄越せって言われたら、そりゃあ教えるじゃん? リスクヘッジ的にも。それがまさか、回り回ってそれが自分たちに向けられるとは思わないじゃん?

 というかまさか、ホントにグラブレ実戦に持ち込めるレベルにしてくるとは思わんじゃん。それもスマートクリーナーの規模で】

【ナイン。あなたの判断に過失があるわけではありませんが、危険の種を生んだことについては、レイヴンとリンクスに謝罪の必要があるかと思います】

【すみませんでした……】

 

 2つの赤色の内片方は呆れたように丸くなり、もう片方は反省するようにだるんとたわむ。

 そんな奇妙な、けれど見慣れつつある光景を視界の端に捉えながら、617と621は広域放送で流れて来る女性の言葉を聞いた。

 

『いやはや、迷惑をかけたね。あの兵器は作りたてでね、ちょうど良いと思って試させてもらったよ』

「あの変なのを? ……それとも、私たちを?」

 

 レイヴンの問いかけに、広域放送の人物は面白がるように笑った。

 

『ほう……さて、どっちだろうねぇ。

 ともあれ、試験は合格だ。

 改めて、久しぶりだストレンジャー。そしてようこそビジター、私たちRaDのグリッド086へ。歓迎しようじゃないか』

 

 

 

 今度こそグリッド086の安全地帯へと通され、617と621はそれぞれのACをドックへ入れた。

 

【良いのでしょうか? 彼らドーザーは、信頼がおけるとは言い難いものがありますが……】

 

 独立傭兵にとって、ACは武器であり鎧だ。

 それから降りることは、即ち日常へと戻る、もしくは相手を信用する意味合いがある。

 一度は襲い掛かって来た相手であるカーラに対して、すぐに気を許しすぎではないかと、2人の身を案じていたエアだったが……。

 

【事情はわかるが、ドーザーだからって一纏めにするのは良くないよ。実際RaDにはコーラルを「使う」類の人間は多くないだろう? いないわけではないだろうが】

【確かに……そのようですが】

「だいじょうぶ。カーラは、いい人だから」

『長時間接していたわけではありませんが、悪意の強い女性ではなかったと617も思います』

 

 ナインはエアのことを知り、またその心配が617と621を慮ってのものと知っており。

 621はカーラが悪い人間ではないと周回を経て理解し、エアにもいつか理解してもらいたいと願い。

 617は2人に比べて経験が少なくはあれど、カーラは悪質な嘘を吐くようなタイプではないと判断していた。

 

 3人に説得されたエアは、少しためらいがちにではあるが納得を示し、AC「Loader 4」と「フォーアンサー」は、RaDのドックに預けられることとなった。

 ……それでも、ようやく得た交信相手を喪うのが怖かったのだろう、エアは【決して警戒は解かないように】と2人に強く言い含め、ナインはそんな彼女を落ち着かせるように光の先端を絡み付かせていた。

 

【あっ……ナイン……】

『621、何故でしょうか。光が絡んでいるだけの光景に、617は微かに心臓が痛むような錯覚を覚えます』

「エアがなんかえっちな声出してるのがわるい」

【えっエッチ!? いえ、そんな、私はただ……その、ナインは、温かくて……】

【エッチ……? あれ、あの声ってエッチなのか? 最近そういうの、よくわからなくなってきたな……】

 

 一行は諸々話しながら、グリッド086の人間用通路を徒歩で──下半身を強化手術で焼かれた617は、ナインによる神経の介護の下──進んでいく。

 エアは周りの様子を機敏に窺ってはいたが、「もう敵対はしないさ」と言っていたカーラの言葉通り、2人と2波形に襲い掛かってくるMTや兵器は存在せず……。

 

 

 

 その通路の果てにあった一室。

 そこには、一人の妙齢の女性が、笑って一行を待っていた。

 

「ご足労をかけたね、ストレンジャー、ビジター。

 さて、もう調べも付いているかもしれないが、改めて自己紹介でもしようか。

 私はRaDを仕切ってる、シンダー・カーラ。然るべき対価さえあれば相応の商品を用意する商売人さ。

 さぁ……アンタらは、私たちに何を求める?」

 

 

 







 グリッド086侵入、めちゃくちゃ好きなミッションなのですが泣く泣く大幅カット。
 全敵破壊しようとすると弾薬切れになりがちで、やりくりするのがとても楽しいんですけどね。
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