そして世に(銀髪薄幸美少女傭兵との)純愛のあらんことを 作:アリマリア
多分本編で一番綺麗に視線誘導&待ち伏せやってくるノーザーク君すき
じゃあ壁に追い詰めてパイルぶち当てるね……
【さて……ようやくグリッド086に腰を落ち着けられたところではあるが、仕事の話をしよう。
流石に理解していると思うが、617はともかく、621は現在カーラから信頼を得られていない。
俺たちの戦略目標は、中央氷原に向かうための大陸間輸送用カーゴランチャーの使用。そのためにも、土地勘がありカーゴランチャーを掌握しているカーラからの協力、そして信頼を得ておきたい。
また、かなり貯蓄のある621はともかく、617の懐事情も気になるところだ。戦いがいよいよ本格化すると思われる中央氷原行きに向けて、アセンブルの自由度も上げておきたいからな】
【その両面に都合の良いことに、カーラから617、621に対して、急ぎの依頼が届いています。
……ドーザーの依頼をどこまで信頼できるかはわかりませんが、あのカーラという人物は最低限の義理を通す人間あるように思えました。ナインの言う通り、恩を売ることには一定の有用性は見出せるかと思います。
それでは……ひとまず、依頼内容を見て見ましょう】
『やあ、ビジター、ストレンジャー。カーラだ。その節は世話になったね。
あんたたちを上層に案内するって話だが……その前に、一つ、いや二つ、掃除を頼みたい』
『今、グリッド086にお客さんが来ていてね。
ウチにとって商売敵のドーザー……「ジャンカー・コヨーテス」。
ヤツらは安定して回せてるウチを目の敵にしていてね。昔から何かと突っかかって来て、隙を見せようもんなら噛みついて来る、狭量でつまらない連中だよ。
本来なら、取るに足らない相手なんだが……連中が使ってるのは、闇市に流れたウチのMTだ。道具に限れば一級品と言っていいだろう』
『しかも連中、どうやら今回はやけに勢いづいているようでね。
正面から小規模の手勢で陽動を仕掛けると同時、裏から忍び込んだ鼠共がウチの大切な研究データをつまみ食いしようとしてやがるのさ』
『表に回ったMTは、追尾式の高威力ミサイルが厄介でね、無視してりゃウチの施設が「ボーン!」だ、さっさとお還りいただかなきゃいけない。
だが勿論、裏の鼠も面倒だ。設置されたハッキングドローンを1つでも残せば、虎の子の機密情報は全部あっちに抜かれちまう』
『どこの誰が糸を引いたのかは知らないが、これだけ積極的な攻勢に出られた以上、こっちも相応のもてなしってもんを見せてやらなきゃならない。
いつもなら門番代わりのラミーを出すんだが、「マッドスタンプ」はまだドックの中。流石に棺桶に入って戦場に出ろって言う程私も薄情じゃないんでね。
アンタたちの力、ここで見せてもらおうじゃないか』
【今回のミッションは、前門のドーザー他派勢力排除、後門の機密情報漏洩阻止の二正面作戦になる。
君たちそれぞれをどちらに振るかは、悩みどころではあるが……今回は前門を621ことレイヴン、後門を617ことリンクスに任せよう。
また、機密情報漏洩阻止だが……】
【ナイン、そろそろ】
【ん、ありがとう、エア。……緊急の依頼だ、時間がない。続きは移動中に話そう】
* * *
作戦時間になり、リンクスが作戦エリアに入った時。
既に、状況は進んでいた。
扉一枚挟んだグリッド086内部から、戦闘音らしきものは聞こえず。
網膜に投射されるUIの上部には、カーラが送信したと思しき、現在のハッキング被害状況が簡易的に表示された。
『……既に、戦闘は終わって?』
【いえ、カーラはあなたの到着に合わせて手勢を引かせたようです。
戦力の温存の面で見れば、正しい判断でしょう】
状況の把握に努めようとメインカメラの映像を確認する617に、エアが答え。
続けて、回線越しの荒いノイズを含む声が聞こえて来る。
『始めるよ、ストレンジャー。MTの掃除のオペレートはチャティに任せて来た、こっちは私が担当しよう。
卑しいコヨーテ共に設置されたハッキングドローンを残らず破壊するんだ。……アンタの実力と嗅覚からすれば児戯にも等しいかもしれないがね』
メインシステム、戦闘モード起動。
COMの声に、617の網膜上のインターフェースの表示が複雑化し……。
そこに、更に一つ、普段は表示されないデータが加わった。
【さて、仕事の時間だ、617。
グリッド086内部は侵入者迎撃のため、細かく入り組んだ構造をしている。
今回はそこを突かれ、各所に散りばめるようにハッキングドローンを配置されてしまっている状態だ。
現在被ハッキング率は10%前後、これが100%になれば機密情報は全て抜かれ、ミッション失敗となる。時間との戦いと言っていいだろう。
……とはいえ、既にその配置は俺が探り当てている。三次元マップが見えるな? それを参考に、効率的に破壊していこう】
2人の言葉にコクリと頷き、小さな少女は自らの巨大な体を動かし、前進を開始した。
独立傭兵リンクスとジャンカー・コヨーテスの最初の戦いは、唐突に始まり、瞬時に終わった。
コヨーテスが封鎖していた扉は、ナインがハッキングにて秒殺し、開錠。
無防備に開くそこに、『フォーアンサー』がアサルトブーストで突っ込み、滞空していたアサルトドローンを瞬く間にマシンガンで処理。
最後に、機密データを吸い上げていたハッキングドローンにプラズマミサイルを飛ばすことで、まずは一基撃破せしめた。
この間、僅か7秒足らず。
ドローンの向こうから覗いていたコヨーテスは、きっと何が起こったかも理解し切れなかっただろう。
息吐く暇もなく急旋回し、次に目指す通路へ歩みを進める『フォーアンサー』に、通信の向こうからは思わずといった調子の苦笑が聞こえて来た。
『相変わらず、恐ろしい程の嗅覚だ。ああ、猟犬の名は伊達じゃないってことかい?』
カーラの視点からすれば、リンクスはまだ、グリッド086の内部構造を知り得ていないはずだった。
彼女たちがここに踏み込んで来てから数日、少ないとはいえいくらか手傷を負った乗機を補修することにかかりきりで、ハウンズたちはろくに外を出歩くこともできていない。
複雑に入り組んだ通路は、おおよそ外観や一見から構造を把握することなどできようはずもなく、どころか実際に中を歩いたとしても、そう容易く把握されない自信があった。
それなのに、リンクスはまるで、内部構造や敵の配置を知悉しているかのように動く。
今も……そして以前も。
このルビコン3に到着した直後から、リンクスは不可思議な程の動きの良さを、カーラに見せて来た。
カーラはこれを、「超級のハッカーの支援と、優れた傭兵の直感によるもの」として納得していた。
……と言うより、それ以外に現実主義者であるカーラが納得のいく結論がなかったのだが。
『カーラ、オペレートをお願いします』
『ああ。……とはいえ、アンタのお察しの通り、その先の階下に1つだ。トイボックスっていうウチの重MTが2機、偽装されて配置してあるから気を付けな』
『了解』
リンクスの片割れである617は、カーラの意識を引き戻すように言い、再び作戦にその身を投じた。
* * *
道中には待ち伏せの軽MTや警備に乗り出してきた四脚重MTもいたが、今更リンクスがその程度に苦戦するわけもなく。
ジャンカー・コヨーテスの勢力は、リンクスの経験値の糧と散った。
また、念のための哨戒ということで赴いた、配管から続く隠し通路の先。
そこには、何やら様子のおかしい独立傭兵が、小賢しくも待ち伏せなどして隠れ潜んでいたが……。
『どうして理解しない!! 借りた金を、何故返す必要がある!?』
『「借りる」という行為が「返す」前提のものだからだボケがッ!! 返す気がないなら「借りる」じゃなくて「貰う」って言葉使え!!』
『くっ、仕方ないだろう、それでは金が集まらないのだ!!』
『それ即ち誰もお前の行為を許さないってことだろうがァ!! 金はちゃんと返せカスがァッ!!』
『なっ、この、馬鹿な……っ!!』
ナインとの熱いレスバの後、パルスブレードの直撃を以て撃墜された。
なかなか見られないくらいのナインの荒ぶり様に、617の視界の隅で、エアはぐねんと赤い光を歪める。
【リンクス。ナインは借金に対して、何か思うところがあるのでしょうか?】
『……おにいさまは、617のサポートのため、今まで何度も借金をしてくださいました。
その際の苦悩が、おにいさまをおかしくしているのかもしれません』
【な、なるほど……】
【いやおかしくはない! 借りたものは返す、それは自然の摂理! 社会のルール!
617、エア、君たちはちゃんと借りたものは返そうな! 特にお金関係は話拗れがちだから!】
そんなハプニングもありながらも、AC「フォーアンサー」は次々にハッキングドローンを破壊して回り。
そうしていよいよ、5つ全てを破壊し終わった。
そして同時、グリッド086内部に侵入した敵性勢力も、残らず排除完了。
この上ない戦果に対し、通信の向こうのカーラの声からも、上機嫌が響きが聞き取れた。
『良い仕事だ、ストレンジャー。流石だね。
あっちの方も、雑魚を蹴散らすだけとはいえ、危うげなくこなしてたよ。
……当たり外れの激しい旧世代強化人間から、あんたたちを引き当てるとは。アイツもようやく運が巡ってきたってところかね。
そして、こっちもカウンタープログラムを走らせ終わった。先方とその取引先のサーバーは今頃丸焦げさ。
取引先もなくして孤立したコヨーテ共、これで当分は……』
しかし、そこで彼女の声は、急速に不愉快そうな色を帯びた。
『……待ちな。レーダーに敵影、増援か?
ビジターは……ちっ、遠すぎる。ストレンジャー、悪いがあんたが一番近い、そっちで対処してくれ』
【熱源反応は屋外に。リンクス、迎撃に出ましょう】
カーラが風雲急を告げる報告を入れ、エアがサポートのために誘導を行い……。
しかし。
【……大丈夫だ、617。問題はない】
ナインが、617の頭を、風のように撫でた。
【この襲撃は織り込み済みだ。
というより、来てもらわなくては困ったところだよ】
* * *
その日、その時。
ベイラム専属AC部隊レッドガンの5番手、コールサインG5イグアスがそこを訪れた理由は、端的に言えば金稼ぎのためだった。
レッドガンという組織は、エースパイロット部隊という言葉が想像させる程には待遇が良くない。
むしろ、危険性の割りには悪いと言っていいだろう。
そもそもエースパイロット部隊とは言うが、所属している人員は士官学校で然るべき教育を受けたわけでもない、ただの一兵卒に過ぎない。
本社から遥か遠い辺境星系に派遣されていることからしても、彼らが如何に本社から軽視されているかも窺えるというもので……。
……あるいは、軽んじられているのではなく、恐れられている可能性もあるのだろうが。
とにかく、ベイラム全体で見ても、冷遇されていることは間違いないだろう。
故に、総長ミシガンは、隊員に対してある程度の「暇潰し」を黙認している。
勿論、作戦行動を阻害するようなことなどあれば雷どころか爆雷が降って来るだろうが、オフの間であれば民間からの依頼を受けても良い。
そこで起こった案件でベイラムは責任を取らないが、その分利益を吸い上げることもない、と。
イグアスがその日に受けた依頼も、そんな小遣い稼ぎの一環。
「調子に乗ったドーザーをぶん殴る」だけで、程々の資金を得ることができる、楽な仕事だ。
……そう、ただの、楽な仕事のはずだった。
「…………あァ?」
そこに。
『来たか』
自分の相棒、G4ヴォルタを殺した、独立傭兵。
リンクス・ウィズ・カラーが、いなければ。
Q.イグアス君はリンクスをどう認識してるの?
ヒント:31話。