そして世に(銀髪薄幸美少女傭兵との)純愛のあらんことを   作:アリマリア

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 5話にしてようやくミッションですよ(笑) あ~あ、地の文多めの辛いとこね、これ。


(追記)
 C4-617の機体名についてご指摘いただき、訂正させていただきました。以後は「scav617MG」となります。
 ご指摘ありがとうございました!


今のやり口は、コーラルに教わったのですか?

 

 

 

 惑星封鎖機構。

 ナインのそれへの印象は、はっきり言ってしまえば「強陣営っぽいだけの雑魚陣営」だった。

 

 かつてナインがやっていたゲームで、封鎖機構は凄まじくカッコ良くて強そうな参入の仕方をしてきたくせ、イレギュラーたちに陣営をボコボコにされた結果仕方なく最終兵器を投入。

 しかしそれもヴェスパーの最高傑作と夢女子製造男によってぶち壊され、ルビコン3から涙目敗走していった。

 

 他の陣営が立派というわけではないが……なんというか、最初の強そうな印象と最後の情けない姿のギャップがすごいのだ。

 いっそ憐れまであるとナインは思っていた。

 

 

 

 では、この世界における実際の惑星封鎖機構はどうだったかと言えば、だ。

 

 ……ナインから見て、戦力的には、やはり雑魚だった。

 

 というか、ナインと617が強すぎた。

 

『ばっ、馬鹿な! どこからミサイルが……!』

『垂直ミサイルだ! 発信源を逆探知しろ、どこかに侵入者がいる!』

『馬鹿な、ロックオン距離から考えて基地の中にいるとしか……!?』

『くそ、コード15送信、特務機体へコード78送信!』

 

 降り注ぐミサイルが、封鎖機構のMT……戦闘に特化したACとは違う、量産の利く汎用機械たちを爆破していく。

 

 10日前にこの基地で拾ったBML-G1/P07VTC-12(垂直12連装ミサイル)

 これはどうやらハウンズの遺品であったらしく、気付いた617には『回収していただき、感謝します』と言われ、わざわざ頭を下げられてしまった。

 

 実のところ、その事情を知らなかったナインとしては、個人的に垂直ミサイルが好きではなかったこともあり、「良いパーツあるやん! ジャンクとはいえ良い価値になるやろこれ!」程度の考えで拾ったのだが……。

 そこまで言われて資金にしようと言い出せる程外道ではなく、ナインは「ハウンズたちの意志を継いで戦おう」と、同じく遺品であるらしいハンドガンと共に修理して使うことを決めた。

 

 

 

 ……しかし、結果として、このミサイルを持って来たのは正解だった。

 

 12連装ミサイルは現在、MT相手に猛威を振るっていた。

 敵の位置を把握した617がマルチロックして撃ち出すだけで、ACに比べると劣悪なブースターやレッグパーツしか持たないMTたちは高い誘導性を持つそれらを回避もできず、面白いくらいに斃れていく。

 

 ……そう。

 倒れていく、ではなく。

 斃れていく。

 

 

 

『なっ、やめ、があぁ────』

 

 ナインがハッキングして繋いだ敵の回線に、兵士たちの悲鳴が乗り……爆音と共に、反応がなくなる。

 

 それは間違いなく、617の放ったミサイルによって搭乗機体を破壊されて死んだ、人間の断末魔だった。

 

【…………】

 

 それに、その光景に、音に、現実に。

 ナインは、黙り込む。

 

 2020年代の日本で育ったが故の倫理観が起こす、人の命が簡単に喪われていく現実への絶句……。

 

 ……では、ない。

 

 どういうことだ、と。ナインは困惑していたのだ。

 

 

 

 何故自分は……そこまで強く、動揺していないのか。

 

 

 

 目の前で命が失われていく。

 それを理解できていないわけではない。

 むしろ、それにショックを受けるべきだと、悲壮な感情を覚えるべきだと、そう思える。

 

 では、まだこの現実をゲームとして捉えているのか?

 そうでもない。

 目の前で起きる爆発と悲惨、飛び散る破片と血は、これ以上ない程のリアリズムを以て、これが現実であるとナインの脳に理解させてくる。

 

 けれど、実際には彼の感情は──コーラルによって再現された感情の波長は、大きく揺らがない。

 

 ナインは、自分はそこまで悪い奴ではないと自負していた。

 サイコパスでもなければ悪人でもない、程々の善良さを持った普通の人間だと。

 

 けれど、けれどそれなら、何故目の前の現実に吐き気も起きなければ涙も流せないのか。

 勿論、それをするだけの体はもうないけれど、それに至るだけの悪感情すらも湧かないのは、何故か。

 

 同族が死ねば、あるいは殺せば、人間は強い拒絶感を覚えるはず。

 少なくとも現代日本人は、そのような倫理観に教育されるはずなのだ。

 少なくとも、前世のナインはそうだった。そのはずだった。

 

 それなのに、何故、ナインは今動揺していないのか?

 これは、まるで……既にナインが「人という枠組みを超えてしまっている」かのような──。

 

 

 

『ナイン?』

 

 その声に、ナインの思考は現実に引き戻される。

 

 使い切ったエネルギー(E N)の回復と封鎖機構の混乱の波及待ちを兼ねて、「scav617MG」は遮蔽物の裏に回っていた。

 そして、617は……メインカメラではなく、あらぬ方向を見ている。

 

 即ち、しばらく言葉を発さないサポーター……しんと静まり返って身動き一つしない、赤い光を。

 

 ナインは自分が思慮に沈んでいたことを悟り、咄嗟に言葉を発する。

 

【あ……悪い、少し考えこんでいた。オペレートに戻る】

『よろしくお願いします。ナインのオペレートは有効であり、現在の617の戦闘に必要です』

 

 617が視線をカメラに戻す。

 その態度や言動は、明らかにナインのオペレートを信頼していることを意味していた。

 

 いくら協力者とはいえど、彼女たちは未だ知り合ったばかりで、そのオペレートもまだ初回。

 あまりにもその能力を評価するのが早いように思われるが……。

 

 実際、ナインによるオペレートは、作戦の効率を大きく向上させていた。

 

【周囲の反応を探る。ちょっと待ってくれ】

 

 瞬間、「scav617MG」から、人の目に見えない、微細なコーラルの流れが迸る。

 まるで空中に根を張るように伸びていくそれは、物体に衝突すれば絡みつくように付着し、遮蔽に隠れようとする敵や屋内に逃れる敵、それどころか屋内の詳細な構造や、未だ起動していない機体の状態までも探り当てる。

 

【……本当、なんで俺はこんなことできるんだ? チートか? チートなのか?】

 

 ナインはそれをコーラルによって行っていることを認識していない。

 ただ手を伸ばして何かに触れるように、あるいはそこに目を向けて何かを見るように、「ごく自然に、無意識的に」それを行っている。

 本人からすれば「なんでできるのかわからないが、なんかできてしまう」という認識。

 例えれば、目の構造を理解していなくとも目の前の光景を見ることはできる、という感覚に近いかもしれない。

 

 ぼそぼそと呟くナインの言葉を617が聞き流しながら──本人はそれが617にまで届いているとは思っていないが──、ほんの1秒、ACのスキャン程度の時間が過ぎ。

 

【スキャン完了。基地内には……固定砲台はもうない。残るは、逆関節MTがあと15機、二脚MTが21機、ドローンが8機いる。それから無人の輸送ヘリが6機、今大慌てで乗り込まれてるLC機体が1機……そして遠方から飛んで来てる大型武装ヘリが1機。

 ヘリの到着予定時間は3分19秒後。コイツは結構厄介だ、最悪逃げよう。カメラ映すよ】

 

 その言葉と同時、617の網膜に移るメインカメラ上に、壁の向こう側にあるのだろう複数の機影が映る。

 617はすぐさま、わたわたと迎撃姿勢を整えようとするMTたちをマルチロックし、ジャンプしながら垂直ミサイルを発射した。

 

 ナインが行っているコーラルによるスキャンは、やろうとすれば数百キロもの遠方にまで届き、更にはごく少量のコーラルが絡みつき続けるために、おおよそ見失うということがない。

 そしてそのデータを「scav617MG」のCOMに流し込んで表示させるので、617はどれだけ遠くにいる対象でもロックすることが可能であった。

 

 それらを使って現在彼女たちが行っているのは、ミサイルの飛翔限界距離からの、狙撃じみた爆撃だった。

 封鎖機構の外壁から内へ入ることなく、外側を周遊しながら、3キロメートルもの遠方に向かってミサイルを飛ばし、ナインがその弾道をコントロールして敵に命中させていく。

 

 ミサイル類の中では飛び抜けて高誘導な垂直ミサイルの性質、建物の内部にいようと問答無用で上から爆撃される容赦のなさも合わさり、それはもはや死の雨どころか直送される死そのものだった。

 

 

 

『……凄まじい分析能力。617はあなたを非常に高く評価します、ナイン』

 

 猟犬は基本的に無駄な言葉を漏らさない。特に、作戦中には。

 だからこそ、その作戦中の意味のない私語は、617としては非常に珍しいものだった。

 

 しかし、それを発するのもむべなるかな。

 617は今、心の底から、その表情を高揚に歪めてしまうくらいに、驚嘆していたのだ。

 

 ……10日前。

 ハンドラー・ウォルターの猟犬たるハウンズである、C4-617、C4-619、C4-620の三人は、ウォルターから破壊ミッションを与えられ、この基地に突入した。

 

 しかし、元より三人は、この仕事から生還できるとは思っていなかった。

 恐らくは、酷く歪んで悲しそうな顔でミッションを告げたウォルターもそうだったのだろう。

 

 何故なら、単純な話、この基地の守備があまりにも整っていたからだ。

 

 備えられた、幾つもの砲台。

 ACのACSすら貫く、凄まじい威力と射程範囲を誇る主砲。

 侵入すれば確実に発見される、MT部隊とドローンによる徹底した監視網。

 実体盾で遠方からの攻撃を逸らしながらスナイパーライフルで狙撃してくるLC機体。

 そして何より……619と620を、617の仲間たちを殺した、特務機体。

 

 それらを前にして、ハウンズたちは、ただ愚直に突撃することしかできなかった。

 ACのスキャン機能によって探るには外壁から内部までが遠すぎたし、外壁の特殊扉はハッキングして開けることが叶わなかった。

 

 故に外壁を乗り越え、光学ロックで内部の敵の配置と構造を確認し、突破を目指すしかなく……。

 そうなれば当然、敵からも視認されてしまう。

 

 この基地は、そもそもそれを企図した構造であり。

 617たちは危険も承知で、誘い込まれるように死地に飛び込むしかなかったのだ。

 

 その結果。

 ハウンズたちは、二人の犠牲を……いいや、ナインがいなければ全員が犠牲となって、この要衝を陥落させたのである。

 

 

 

 ……けれど、今。

 617は、無傷の内に、この基地の戦力を大幅に削いでいる。

 

 機体構成は、むしろあの時よりも悪い。

 あのパッチとかいう男に押し付けられたパーツはジャンク同然で、二連装グレネードやジェネレーターは新品を買ったものの、だからと言って機体性能が大幅に上がったわけではない。

 

 だからこそ……。

 617は、言葉にこそしなかったが、今度こそこの基地で死ぬのだろうと思っていた。

 

 サポーターが一人付いたところでどうなる。

 617は、ウォルターの作戦の下、ハウンズの頼れる2人と共にここに挑み、……失敗したのだ。

 

 この基地の何十という砲台、何十倍という戦力に囲まれ、ACよりも遥かに高い性能を持つ機体と戦えば、どうしようもなく死ぬしかなかった。

 3人で狙いを分散したってギリギリだったのだ。単騎で突入すれば、まともに戦うこともできないだろう。

 

 ……が、それでも。

 自分よりずっと賢いナインがそう言うのならば、そうするのが最適解なのだろう、と。

 どれだけ生存の確率が低いと思えても、そうするしかないのだろう、と。

 

 感情が薄く、そして仲間をどこまでも信じるハウンズとして、617は、そう……諦めていた。

 

 

 

 けれど、現実はどうだ。

 

 ナインのオペレートは、おおよそ尋常なものではなかった。

 この直径にして十キロ以上の広さの基地の内部を正確無比にスキャンし、撃つべき相手の位置を割り出して、ミサイルを放った後にもその誘導をコントロールする。

 

 MTたちは抵抗もできず、混乱の内に撃破されていくし……。

 そうやって数を減らすことができれば、残った四脚MTやLC、来るというヘリに特務機体、それらとの戦いは段違いに楽になる。

 

 ……無論、だからと言って、この劣化した機体でACを超える相手に勝てるとは限らないが。

 それでも、617は、一筋の希望の光を見た気がした。

 

 

 

 一方でナインは、そんな617の僅かな頬の緩みを嬉しく思いながら、返答。

 

【どうも。正直自分でもどうやってるかわからないし、素直に賞賛を受け取れないのが悲しいところだ。

 それに……俺一人が優れているってわけでもないさ】

 

 ナインは、改めてメインカメラを見やる。

 617は手慣れた動きで操縦桿を操り、それに合わせて「scav617MG」はその機体を躍らせるのだが……。

 

【……ああ。良い動きだ】

 

 ナインから見ても、その動きは悪くないものだった。

 

 時に鋭く、時に柔軟に、そして常に新たな可能性を探すことをやめない駆動。

 その上、殆ど無意識なのだろう、直線的にではなく不規則的にくねくねと軌道を変えながら進んでいる。

 

 更に言えば、機体の動きだけではない。

 こうして敵に気付かれていない時にも警戒を怠らず、そしてナインの索敵能力だけに頼ることなく、クールダウンタイムが終わると同時すぐにスキャンをかける徹底っぷり。

 617の視線の動きを見れば、その場の光景から垂直ミサイルのクールタイム、スキャンのクールタイムの確認、ナインが出した敵影の把握と、忙しなく動いているのがわかる。

 

 素晴らしいと言う他ない、戦場における戦士の動き。

 傭兵の技量は本当にピンからキリまであり、酷い者は本当に酷いのだが……。

 617の動きは、十分以上に戦士としての力を、あるいは素質を証明していた。

 

【俺の方こそ、高く評価するよ、617。君のACの操作精度はかなり高い。俺は良い傭兵に巡り合ったらしい】

『ありがたく評価を受け取ります』

 

 興奮と僅かな喜びにやや赤らみ緩んだ頬で言葉を返し、617は再びミサイルを発射。

 多少立て直した封鎖機構の陣営は、再び大きな被害に襲われた。

 

 

 







 本日の傭兵事情

・アセン
 『scav617MG』
 右腕:HG-003 COQUILLETT(軽ハンドガン)
 左腕:HG-003 COQUILLETT(同上)
 右肩:BML-G1/P07VTC-12(12連垂直ミサイル)
 左肩:SONGBIRDS(二連装グレネードキャノン)

 ヘッド:HC-2000 FINDER EYE
 コア:BD-011/JNK JUNKER(オリジナル)
 アーム:VP-46S?JNK JUNKER(オリジナル)
 レッグ:2C-2000 CRAWLER

 ブースター:BST-G1/P10(軽量機用初期ブースター)
 FSC:FCS-G1/P01(低性能初期FCS)
 ジェネレーター:DF-GN-06 MING-TANG(中容量高補充ジェネレーター)
 コア拡張:アサルトアーマー(機能破損、使用不可)
 リペアキット:補充なし、使用不可

・収支
 54,676c

[経費]
 -50,000c(パッチよりコア及びレッグパーツ購入。『誠意』ある値段)
 -182,000c(SONGBIRDS購入)
 -170,000c(DF-GN-06 MING-TAN購入)
 -5c(食料や衣類など必需品購入)
───────────────────────
 -347,319c



《ナイン追記》
 修復不可だったパーツはパッチに安価で譲ってもらったジャンクパーツに換装。性能は落ちたしなんかCOMが不明なユニットが接続とか言ってるけどまぁ動くからヨシ!
 追加で小鳥砲と明堂を購入。流石にメイン火力とジェネはないとどうにもなんないからね。まぁそのせいで大幅に借金してしまったので、今回のミッションで結果残さないとマズいんですけども。
 というか改めて見ると高いわパーツ! これでも安い方ってマジ? 地底世界なら6回強化手術受けてるぞこの借金額。ルビコン星系はインフレがエグすぎる。
 ……しかし、いくつかジャンク譲ったとはいえ、フロムのパッチが借金をさせてくれるとは思わなんだ。パッチにあるまじきグッドガイっぷりだ。

《617追記》
 scav617MGが大きくなった。
 ウォルターも「時が来ればお前たちもパーツを選ぶことになるだろう。その時は迷わず良いと思ったパーツを買っていけ」って言ってたし、変えるのはいい。
 生き残れなかった618、619、620の分まで、いっぱい改造して、いっぱい戦いたい。
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