そして世に(銀髪薄幸美少女傭兵との)純愛のあらんことを 作:アリマリア
50話続いてもタイトルのネタが尽きないことにACの歴史を感じる。
「んで……こりゃあどういうことか、説明してもらおうか」
グリッド086内部、工業廃棄フロアの片隅に、不満げな男の声が響く。
その主は、G5イグアス。
つい先程、晒した隙に付け込まれて内部コックピットから引きずり出された彼は、現在てきとうな作りの金属椅子に、鎖で雑にがんじがらめにされ拘束されていた。
とはいえ、これは決して手酷い扱いというわけでもない。
拘束とはいえ、自分の力では決して外せこそしないものの、痛みを感じる程に強いものではなく。
RaDがジャンカー・コヨーテスの捕虜や破壊されたMTパーツといったごたごたの後片付けに回っている間には、カーラの部下によって食事が与えられていた。
……まあ、ミールワームのぶにぶにした食感はイグアスの口には合わず嘔吐しそうにはなったが、与えた部下たちの驚愕の表情からしてもわざとではないだろう。
かつて捕虜の扱いを保証していた国際条約など、国家という枠組みが破綻した際に破棄されて久しい。
今時、捕虜に対してここまで人道的な扱いをするのも珍しい話であった。
実際、ベイラムでは尋問と言う名の私的折檻、泣きを入れたらもう一発コースであり、アーキバスでは再教育センターに送って駄目ならファクトリーで改造という流れだ。
誠ルビコンは地獄である。
イグアスとしても、レッドガンでその地獄っぷりを知っているが故に、自分が比較的人道な扱いを受けていることを自覚していたし。
AC「テッポウオヤブン」のコックピットからのそっと顔を出した、死んだはずの悪友のこともあり……。
無駄に拘束を破ろうとするような抵抗は見せず、精々監視者を睨め付ける程度で済ませ、その場でじっとかつての悪友を待っていた。
そうして待つこと数時間。
諸々の作業を済ませたらしい一行……。
少々痩せたようには思えるが見覚えのありすぎる悪友と、それから何やらこの場には似つかわしくない薄幸そうな銀髪の美少女が2人、部屋に入って来た。
イグアスはその集団を見て、眉根を寄せる。
彼は長年共にいた悪友、ヴォルタの価値観から少なからぬ影響を受けている。「戦場は男の場所であり、女子供が立ち入るべきじゃない」という思いを、少なからず持っていたのだ。
故に、どう見てもヴォルタらしい傭兵はともかくとして、残った美少女2人の正体に思い至らない。
彼は色々と思いを巡らせ……答えらしきものへ至る。
恐らくコイツらは、ここを拠点とするドーザーが面倒を見ているガキ共だろう。
あるいは、食客として抱えているヴォルタへの接待要員を兼ねたりしているのかもしれない。
妙に見目が良いのは、あるいは娼婦にでもするつもりなのか。
そう思えば、揃って首に巻いている首輪のようなものにも納得がいかなくもない。
確かに、見てくれは悪くない、あと10年すればイグアスの食指も動くようになるだろう。
特にあちらだ、儚げでありながらどこか芯の強さを思わせる、こちらに冷ややかな視線を向けて来る短髪の少女。イグアスは妙に彼女が気にかかり……。
……と、そこまで考えて首を振る。
今考えるべき本題はそこではないのだ。
「んで……こりゃあどういうことか、説明してもらおうか」
そんなこんなで、冒頭の台詞に戻る。
イグアスからすれば、あまりに意味不明な状況だった。
小遣い稼ぎにルビコニアンを殴りに来たら、あり得ない速度で友軍MT部隊が撃破されているし。
仕方ないからせめて敵を殺して敵討ちしてやろうと思えば、そこには憎き仇がいるし。
逃げた仇を追えば、そこには死んだと思っていた悪友がいるし。
敵として捕虜にされたかと思えば、やけに丁重な扱いをされるし。
何が起きているのか説明しろと、イグアスは旧い悪友に視線を投げかけた。
対し、G4ヴォルタであるはずの男性は……。
その厳つい顔を苦笑に染め、一歩後ろへ退いた。
「あぁ?」
困惑するイグアスに対し、彼と入れ替わるように前に出たのは……。
どこか無機質な印象を受ける、長い銀髪に赤と青の髪飾りを付けた少女。
彼女はその口を開く……ことはなく。
右手で操作された首輪状の合成音声出力装置が、中性的な声を発した。
『ベイラム・インダストリー専属AC部隊レッドガン、コールサインG5イグアスに違いありませんか』
感情のない、機械的な声音だ。
別にそれ自体はどうでもいいのだが、なんでヴォルタでもなければこの組織のリーダーでもないだろうただのガキに尋問されにゃならんのかと、イグアスの無駄な反骨心がざわめいていた。
「おいヴォルタ、なんだコイツ」
「まあいいから答えろや。悪ぃようにはしねえよ」
相変わらず苦笑を浮かべているヴォルタにイグアスは困惑と苛立ちを向けるが、あちらから返って来るのはつれない返答だけ。
こうなった悪友は、まともにこっちの言うことを聞きやしない。
現在イグアスは拘束までされているわけで、これ以上は無駄な抵抗だろう。
せめてビビらせてやろうと鋭い視線を向けながら、彼は少女の問いに答えることにした。
「ああ、俺がイグアスだ。てめぇ、レッドガンにこんな真似してどうなるかわかってんだろうな」
『ヤクザから聞いていた外見情報との照会完了。及び本人よりの告白を確認。G5イグアスであると認めます』
しかし、イグアスの脅しはどうやら効果を為さなかったようで。
前に出た長髪の少女は全く表情を動かさないし、後ろにいる短髪の少女はほんの微かに失笑を浮かべ、推定ヴォルタはその苦笑を強くする。
イグアスは元々、無知なガキをハメて巻き上げる路地裏の博徒だ。
元より人相の悪いヴォルタ程ではないが、表情で威圧感を出すことには多少の覚えがあるはずだった。
しかし、残念ながらそれは効果を為すことはない。
何故なら……。
『それでは改めまして、先程までは失礼しました。
あなたの機体「ヘッドブリンガー」を傷つけたことを、リンクスはお詫びします』
目の前にいる銀髪の少女は、戦場に慣れ切った存在。
独立傭兵リンクス・ウィズ・カラーであるからだ。
「…………は?」
* * *
「はぁ~~~っっっ!?!? てっ、てめぇ、てめぇがリンクス・ウィズ・カラー!?
そんで後ろの、そのほっせぇガキが、あの野良犬だァ!?!?」
イグアスの脳内は現在、混乱を極めていた。
独立傭兵リンクス・ウィズ・カラー。
そして独立傭兵レイヴン。
イグアスが憎んでいた二者が、まさかの銀髪薄幸美少女傭兵であったからだ。
そもそもヴォルタからの影響で、戦場は男の場所であると思ってもいるし……。
ヒトに男女の区別なしと言える程、イグアスは枯れ切ってもいない。
というかむしろ、年齢的にはまさしく性の真っ盛りと言えるお年頃。
性差や美醜というものは、イグアスにとって非常に重いファクターである。
しかし同時、二人の銀髪薄幸美少女傭兵は、未だ幼いと言って差し支えない年頃。
特に幼女趣味というわけでもないイグアスからすれば、彼女たちは性の対象にはならない。
どちらかと言えばむしろ、庇護の対象になる相手だった。
そんなガキが、まさか……。
G7ハークラーを圧倒して瞬殺し、これはどうやら欺瞞があったようだがG4ヴォルタまで殺した、リンクス。
イグアスとヴォルタの組み合わせをリペアキット2つだけでボコボコにし、果てには解放戦線の厄介な拠点「壁」をほぼ単騎で壊滅せしめたレイヴンだとは。
イグアスを悩ませ続けた、2人の傭兵。
歴戦の傭兵だとしか思えなかった2者が、こんなにも儚げで可愛らしい少女とは、予想だにしなかった。
混乱するのも道理というものだろう。
一方で、ヴォルタとリンクス、レイヴンの反応は……。
「ほら見ろ、俺の反応もおかしくはねぇだろ。こんな最前線でテメェらみてぇなガキはそう見ねぇんだよ」
『なるほど、そういうものですか』
「どうでもいい。はやく話すすめよう」
ヴォルタは共感、リンクスは理解、レイヴンは面倒、といった感じだった。
ちなみにリンクスとレイヴンの脳内では、ナインが【あっこれ二次創作ゼミで親の顔より見た奴だ! イグアスがコックピットの中覗いて呆然とするシチュ!】ときゃっきゃしていた。
エアの方は【??? ゼミ? 親の顔……?】と困惑しきりである。
そこからしばらく、イグアスが落ち着くのを待って。
改めて、リンクス……脳内に響く声にサポートされた617を中心として、事情を説明していった。
まずはあの日、ベイラムが壁越えに失敗した日のこと。
ヴォルタが死んだというのは、リンクスのオペレーターによる謀。
出されていたG4ヴォルタの排除というミッション自体が自演工作であり、ベイラムの頭のおかしい上層部を消沈させて落ち着かせ、なおかつヴォルタを安全圏へ逃がすための一手である。
実際には、広い範囲に情報欺瞞を働かせつつ、死にかけていたヴォルタを救助し戦場を離脱していた。
その後、ベイラムにはヴォルタの死の情報を流しつつ……。
リンクスとレイヴンで100万COAMを上回る莫大な資金援助を行い、ヴォルタの独立傭兵デビューをサポート。
現在は彼はG4ヴォルタの名を捨て、AC「テッポウオヤブン」を繰る「独立傭兵ヤクザ・オブ・ザ・ガチタンゴッド」として活動している、と。
「改めてなんだその地獄みてぇにダセェ名前!?」
『は? カッコ良いだろうがよぶち殺すぞカス』
「!? お、おう……? え、なんだこの猫急に噛み付いてきやがったんだが……」
「イグアス、ソイツに喧嘩売るのはやめとけ。殺されるぞ」
「こんなチビに!?」
ヴォルタ改めヤクザは、諦めの表情で首を振った。
彼は現在、オールマインドを通して独立傭兵として仕事をこなしながらも、特にリンクスからの僚機等の依頼を優先して受領している。
それ自体は彼としても大きな利のある、いわばwin-winの関係なのだが……。
その中で彼は、リンクスの恐ろしさを嫌という程味わった。
『ヤクザ、この封鎖機構の基地を潰して来い。
え、できない? なんで? 全部避けて全部撃てばいいじゃん。お前ガチタンでミッションこなせないとか恥ずかしくないの?
あーもういい、言い訳は聞かん。今の戦力じゃちょっとばかし後半不安だしちょうどいいわ。
今からナインブレイカーレベル2金達成まで休ませねぇぞ、死にたくなきゃ頑張れ』
……味わったのだ。
何百回とボコボコにされ、グチャグチャにされ、ザクザクにされ、穴だらけにされて。
いくら仮想現実だろうと、30時間ぶっ続けで戦場に立たされ殺され続ければ、精神が摩耗する。
最終的には多少なりとも、というかかなりの戦力向上には繋がりはしたのだが……。
それはそれとして、強化人間としては比較的真っ当なヴォルタの精神は、終わった頃には壊死寸前であった。
助けてはくれる。希望もくれる。なんなら手取り足取り教えてくれる。
だが、ミシガン以上に鬼だ。一切の情け容赦がない。まるで、人間というものの精神の限界を忘れてしまったかのようだ。
総評するに。
嫌なことや無理なことはやらせて来ないし、十分以上に金も出してくれるし、必要なら鍛錬も付けてくれる、悪かねぇ頭領。
ただし、キレさせると何をしでかすかわからんから刺激すべきじゃねえ、狂人。
それがヤクザの、赤い目の方のリンクスに対する評価だった。
リンクス、もとい617とナインは、体の主導権を握る側によって瞳の色が変わる。
恐らくはコーラル管理デバイスから全身に微弱なコーラルを流し命令系統を掌握する際の副作用なのだろう、本来は青いはずのその瞳は、ナインが表出する際にのみ赤くなるのだ。
かつてはパッチにそうしたように、617は自身を二重人格であると、瞳の色がそのまま人格を表していると説明しているが……。
ヤクザはそれを以て、「比較的ガキらしくて情緒が薄いのが青い方」「頭が良くてガキらしくないヤベぇのが赤い方」と見分けていた。
その辺りもイグアスは追加で説明されて……。
やはりと言うか、目を白黒させた。
「二重人格で旧世代強化人間で女でガキでエース級の実力者だぁ!? なんだテメェ!?
つうか野良猫だけじゃなくて野良犬テメェもか!? 二重人格じゃねえ代わりにアリーナランク1!? マジでなんなんだテメェらは!?!?」
『褒められました』
「リンクス。こういう時は、ぶい」
『ぶい?』
「褒めてねェ!!」
二人して無表情ダブルピースを決めるハウンズに、ヴォルタは苦笑いし、イグアスは更に混乱を深めた。
* * *
その後色々あって、イグアスへの裁定は決した。
即ち、破壊した一部施設の修繕費補償と慰謝料の支払いを前提とした、放免。
補償とは言っても、彼はそこまで施設を壊したわけではなく、慰謝料込みで100COAMだ。
一応は企業専属AC乗りであるイグアスにとって、これは決して重すぎる代償ではない。
支払いを済ませたイグアスは、混乱する頭を抱えながらも「ヘッドブリンガー」を駆り、レッドガンの拠点へと戻って行った。
簡単と思われたドーザーの依頼に失敗したことを、同僚たちからは揶揄われたりどやされたりするかもしれないが……。
それに噛み付き返すだけの余裕を、今のイグアスは持ち合わせてはいない。
心身の疲労を癒すため、すぐに床に就くこととなった。
なにせずっと死んだと思っていた悪友の生存、野良犬と野良猫の正体を知った後であるし……。
それだけではなく。
彼の脳の中には、決して誰にも言えない、一つの提案が渦を巻いていたのだ。
『俺の手を取れ、イグアス。
お前の守りたいものを選び、お前自身の力で守るために』
そう言ったリンクスの瞳が、網膜に焼き付いている。
共鳴するように響いた幻聴が、脳を揺らしている。
路地裏の住人であった時に感じていた、自分には踏み入ることもできない、深い深い闇のような。
彼が心のどこかで憧れていた、泥のような停滞を破壊する、非日常的な未知の輝きのような。
……あるいは。
全ての争いの火種たる、コーラルのような。
蠱惑的に耀く
本日の傭兵事情
・識別名
Rb31 独立傭兵「リンクス・ウィズ・カラー」
ランク24/E
・アセン
変更なし
・収支
+56,096
[機密情報漏洩阻止(ALT)]
+380,000c(基本報酬)
+50,000c(借金カス撃破ボーナス)
[経費]
-9,050c(武装修理費)
-15,601c(外装修理費)
-2,086c(内装修理費)
-12,992c(弾薬費)
-5c(必需品購入)
─────────────────────
+446,362c(390,266cの黒字)
《ナイン追記》
イグアスの勧誘まで事はスムーズに運び、ひとまず計画は順調といったところか。
カーラはイグアスを絞りたがっていたが、こちらを我慢してもらうことに関しては俺から新しい「笑える」発想をもたらすことで対価とした。
実のところ、イグアス坊やをアレに掌握されないことは必須の勝利条件なんだよなぁ……。ヴォルタを助けたのも大部分はコイツの懐柔のため。アレをされたら俺だって無事かわからんしね。
まあ……あっちの出方的に、もう警戒の必要もないかもしれないが。
一方で621の方は、今回の戦闘で新しいアセンブルを試していた。
悪くはないが、ほぼ全パーツ持ってるにしては少々最適化が甘いように思える。
カーゴランチャーを使えるようになるまで少しかかるって話だったし、この辺りで617と621にアセンブル講習とかした方がいいだろうか。
ただなぁ……正直俺、アセンに関しては人に教えられる程自信あるわけじゃないんだよな。明確な正解とかってないから、どうしても人それぞれになっちゃうし。
ていうか俺が組んだらどうしても軽量二脚になるし。いいよね、軽量機。速さは強さ。
《617追記》
いぐあす、うるさかった。
621もきゃんきゃんうるさいって言ってたし、わたしは好きじゃない。
でも、おにいさまはきらいじゃないって言ってた。きゃんきゃんうるさいのが良いって。
……よくわからないけど、おにいさまの言ってることだから、わるい人じゃないのかも。