そして世に(銀髪薄幸美少女傭兵との)純愛のあらんことを   作:アリマリア

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 今回はちょっと真面目回な勉強会。





そんな機体をアセンする気か、舐められたものだ!

 

 

 

『今日はアセンの話をしよう』

 

 いつも通りナインによってハッキング&占拠された、オールマインド所有サーバー上の一画。

 無機質なトレーニングルームではなく、恐らくはどこかの基地が再現されたのだろう疑似現実の上で、「Loader 4」と「フォーアンサー」に向けて声が放たれる。

 

 617の使う合成音声システムから発される音のようで、しかしそれより幾分か男性らしいもの。

 2人にとっては聞き慣れた、脳内に響く赤い声と同じそれは、ナインのものだ。

 

 そして、それを放ったのは一機のAC。

 オールマインドの用意するACトレーニングルームで再現される、本来はAI操作で入場者に襲い掛かって来るそれは、俗にトレーナーACと呼ばれるもの。

 しかし今、このACはナインに完全に掌握され、マシンガンを肩にハンガーして空いた左腕で一本人差し指を立てていた。

 

『アセン……アセンブル。つまりはACのパーツ構成の話だ。

 俺は独立傭兵の強さを、操作技術3割、知識3割、判断力1割、そしてアセンが3割だと思ってる。

 つまり、アセンの構成というのは戦場の趨勢を決め得る最も重いファクターの一つ。優れた傭兵であれば、一切妥協のない自分向けに最適化したアセンを組まなければならない。

 これを怠ることは、即ち相手にみすみすアドバンテージを譲ることになりかねないからだ』

『おにいさま、質問です。アドバンテージ、とは何でしょうか』

『有利のことだ。今回は相手に有利になって自分に不利になる、ってことね』

『了解しました』

 

 意思がわかりやすいようにだろう、ヘッドパーツをこくんと傾けたAC「フォーアンサー」。

 それをちらりとメインカメラで捉え、「Loader 4」の中の621は……少しだけ、頬を膨らませた。

 

 未だ目を覚まして数か月しか経っていない617と違い、既にルビコン騒動4周目の621は情緒も知識も蓄えがあるため、ある程度スムーズにナインの話を聞くことができる。

 ……しかし、しかしだ。

 その知識のせいで、彼女の「せんせい」たるナインとのコミュニケーションの回数が減っている、という現実があるのだ。

 

 いや、正確には減っているわけじゃない。ナインはちゃんと621と話をしてくれている。

 しかし、わからないことがあれば頻繁に尋ねる617と比べると、621とのやり取りは僅かとはいえど少なくなっているのだ。

 

 自分の方が強いし賢いのに、と。

 621の心が、小さな嫉妬にもやもやする。

 

『621? どうした? 何かあったか?』

「あ、ううん、なんでもない」

 

 しかし、そんな小さな変化にも気付いてくれるせんせいに、すぐさま不満は解消されてしまった。

 

 彼女は確かに617よりはずっと情緒を取り戻してこそいるが、それでも強化手術によって過去を失った一人の少女に過ぎない。

 未だその精神年齢は幼いままで、感情も移ろいやすいのだ。

 

 

 

『そうか? それでは話を戻すが……。

 先に言っておくと、アセンの組み方に正解はない。ぶっちゃけ俺も気に入っているものこそあるが、別にこれを最適解とは思ってないしね。

 結局のところ、自分が使いやすいと感じ、なおかつ理に適い、そして何より敵を斃せるアセンを組むのが一番、となる。

 とはいえ、基礎的な考え方くらいなら俺も教えられるから、今回はそこの座学をしていくぞ』

 

 ナインが2人に物事を教えるのは、決して珍しいことではない。

 むしろウォルターが離れる前から、戦術論や機体操作は勿論、敵の心理誘導に残弾管理、果てには四則演算を筆頭とする一般教養まで、彼はハウンズ2人によく教えを施していた。

 

 受講側の617は、戦闘技術の錬磨も含めてとても真面目な上、「おにいさま」へ向ける淡い想いもあり、素直にこれを聞きながら知識を蓄えており。

 621は……617と比べると真面目とは言えなかったが、それでもこの時のナインが一番「せんせい」っぽいということもあり、617とは別の形でこの時間を楽しんでいる。

 

 一方で変異波形のエアからしても、これまでほぼ全く知り得なかった人間の文化や思考に触れることができるこの時間は、なかなか特別なものだった。

 しかし同時、何故自分と同族的な存在らしいナインが、ここまで人間について詳しいのかと、疑問には思っていたが……。

 それを言い出すとナインにはわからないことが多すぎるので、疑問は後回しにしている状況だ。

 

 

 

 そんなわけで、良い生徒を3人得たナインは、授業を続ける。

 

『さて、それではアセンブルを組んでいくわけだが……。

 621に訊いてみようか。アセンを組む際、まず第一に決めるべきことは何だと思う?』

「うーん……武装、いや……コンセプト?」

『おお、正解。100点満点だ』

 

 言うや否や、ナインの言葉を発していたトレーナーACの姿が、すっと消える。

 続けてそこに、ずらっとACの各種パーツが並んだ。

 電子的に構成された疑似現実であるここは、ナインが完全に掌握している。データから再現した武装やACを出したり消したりするのはお手の物である。

 

【そう、まずはコンセプトだ。

 例えば、今の「フォーアンサー」のような軽量二脚。これであれば、敵から近距離で跳び回りながら削り、スタッガーしたら近接でダメージを取る。

 例えば、ヤクザの「テッポウオヤブン」のようなガチタン。タンク脚で最低限の移動能力を確保しつつ、高いAPと防御力、本来なら構えが必要な爆発系の武装で正面から殴り合う。

 例えば、キングの「アスタークラウン」のような盾四脚。上方の有利を取りながらパルススクトゥムを展開してダメージレースの有利を取り、隙を見て天使砲をぶち込む】

 

 「Loader 4」と「フォーアンサー」の前で、無数のパーツが組み合わされ、3機のACが再現される。

 それらは新たに現れた3機のトレーナーACと、まるで模擬演習でもするかのように戦い、それぞれ全く異なるスタイルを提示した。

 

 再現された「フォーアンサー」は、敵AC近辺を軽快に跳び回り、攪乱するように敵の攻撃を回避しながら反撃を入れていき。

 「テッポウオヤブン」は引き撃ちしようとする敵にグレネードを放ちながら豪快に突っ込み、そのキャタピラを叩き付け。

 「アスタークラウン」は敵ACと一定の距離を保ち、無理に敵の攻撃を回避はせず、ハンドガンとリニアライフルで撃ち合っていく。

 

【見てわかる通り、ACの基礎コンセプトによって適した戦い方は大きく異なってくるし、勿論それは敵とした時もそう。然るべき対応の方針も変わる。

 そしてこれらは、主に腕と肩の武装、そして脚部によって決定することが多い。

 というわけで、アセンブルを考える時はまず、武装と脚部を決めるのがおススメだな】

 

 

 

 【試しに、自分の考えるコンセプト通りにアセンを組んでみろ。621は試したいアセンがあればそれで】。

 そんなナインの言葉と共に、617と621に各種パーツの選択・編集の権限が与えられた。

 

 621は、スムーズな手付きで、前から抱いていた着想を形にしていく。

 レーザーハンドガンにレーザーライフル、肩にハンガーしたレーザーショットガンに可変式レーザーキャノン、脚部は彼女の使い慣れた中量二脚ではなく中量タンクを採用。

 ジェネレーターもアーキバスのEN出力特化のものを採用した、ガチガチのアーキバス一式。

 完全EN型。いつかやってみたいとは思っていた、しかし実戦では実弾を使うことが多かったために試せなかったコンセプトだ。

 

 対して617は……じっくり20分程かけてアセンを組み上げる。

 そもそもこれまではウォルターやナインがアセンブルを担当し、彼女はそれに乗って戦ってきただけでアセンブルにまで関わったことはない。

 初の試みに時間がかかるのは道理というものだろう。

 その上、617は戦力向上に対してはかなり真面目な性質。パーツ性能に関してわからないことがあれば一つ一つ尋ね、知識と経験を重ねていき……。

 

 ……結果として、今の「フォーアンサー」とそこまで変わらないコンセプトのアセンブルとなった。

 回避を重視した軽量二脚から耐久とのバランスを重視する中量二脚になったり、ジェネレーターの容量を妥協することで重い武装を積んだり、二丁のマシンガンがハンドガンとアサルトライフルになったりはしているが……。

 戦闘スタイルや立ち回り自体は、そう変わらないだろう。

 

「617、アセンブル、あんまり変えないの?」

『617は中量から軽量の二脚に慣れています。未だ621とおにいさまの両名に敵わない現状から、コンセプトは大きく変えることなく、その中で試行錯誤を重ねるべきと判断しました』

【悪い判断じゃない。ある程度親しんだコンセプトの中でなら、色々と発想も浮かぶだろうしね】

「でもせんせい、617、ENの供給……」

【うん、そこも含めて、今から使ってみて体感を確かめてみればいい】

 

 621の危惧を制してナインがそう言えば、周辺に散らばっていたパーツ群がすっと消えた。

 代わりにその場に現れたのは……先日617も見た、イグアスの乗機「ヘッドブリンガー」の再現機体が2つ。

 

 同時、2人のACにリペアキットが3つ付与され、戦闘モードが起動した。

 

【さ、実際にその機体で敵を倒してみな。

 何が使いやすいか、何が使いにくいか。自分の機体の強み弱みを意識してね】

 

 

 

 5分も経てば、戦闘は終わる。

 結果としては、617、621両名共に「ヘッドブリンガー」は撃破できたようだが……。

 

 621は、コックピットの中で頭を抱えていたし。

 617は、ほんのは微かに形の良い眉をひそめていた。

 

「うーん、やっぱりEN武装、使いづらい。供給効率も落ちるし、ぜんぜんスタッガー取れないし。あと、オーバーヒートの管理がたいへん」

『……機体が重いように思いました。また、普段に比べてクイックブーストによる回避を脅威に感じました。

 それから、ジェネレーターからのENの供給が、あまりにも遅すぎました。回避もままなりません』

 

 これまで実弾系武装を使うことの多かった621にとって、EN系で統一したアセンブルは経験不足もあって手に馴染まず、かなり手を焼かされたし。

 617に至っては、初のアセンブルであったために重量をどこまで抑えてどう速度を確保すべきか、敵の行動の穴を武装でどう埋めるか、どの程度のEN供給効率を確保しなければならないかもわからなかった。

 そのため、今回の試行錯誤は両者共に苦い経験となったようだ。

 

 621はともかく、617のそれは予期していたナインは、声に苦笑を滲ませて語る。

 

【まず621。EN武装は実弾武装とは違った運用が必要だ。

 衝撃を蓄積させてスタッガーさせ、直撃させることで真価を発揮する実弾武装と違って、EN武装はスタッガーしなくともある程度のダメージを見込める代わりにスタッガーさせ辛く、また直撃威力も低い。

 そのため、スタッガーに対して一点に叩き込むのではなく、持続的にダメージを与え続けて撃破する、という方向で戦う必要がある。

 ……オーバーヒートに関しては慣れだ。その内できるようになるよ、うん】

【次に617。君の方は初のアセンだ、失敗してもなんらおかしくはない。何もおかしくないから安心しなさい。

 今回で速度の重要性、防御性能の意味、武装によるACS蓄積への影響、EN供給効率がどれだけ必要かなど、色々なことがわかっただろう。

 結局のところ、こういうのは試行錯誤と慣れだ。これから何度も試して、自分のスタンスに合うものを探していけ】

 

 

 

 それから数時間、ナインのサポートを元に、621と617、そしてエアも、アセンブルを勉強し続けた。

 

 現在は、先の戦いで損傷した2人の愛機の修復中。

 カーラが「責任を持って直させてもらう」と語った通り、「Loader 4」と「フォーアンサー」はグリッド086内のドックで整備士たちの世話になっており……。

 それが終わるまで、そして封鎖機構の上層部への監視が緩まるまでの間、2人はグリッド086で世話になることとなっている。

 

 そのため、無限とは言えないまでも、今はある程度時間の余裕もあり。

 今の内にと、ナインは彼女たちに知識を詰め込んでいく。

 

 勿論、そうすることには意味と目的がある。

 ここからはコーラル獲得競争が激化するばかりで、こうしてきちんと勉強できる時間は減って行くだろうし……。

 

 ……何より、いつかは、自分が彼女たちの元を離れる日がくるかもしれないからだ。

 

 1周目のレイヴンがエアと決別したように、どうしても相容れなくなり、彼女たちと戦う他に選択肢がなくなることもあり得る。

 その時までに、彼女たちには伝えられることを伝えなければならないだろう。

 

 勿論、そうならないことが理想だが……。

 

 鬼畜生(フロム)の創った、ディストピア(アーマードコア)な世界の中で、その儚い祈りはどこまで通用するか。

 そして……己の中に確かにある想いを、どこまで見ないふりができるか。

 

 今のナインには、結論が出せなかった。

 

 

 







 多分プレイヤーの多くが一度考える、完全EN統一アセン。
 実際に組んでみて「あれ、こんなもん?」となったのは自分だけじゃないはず。
 操作負荷が強いのもあって、実弾で良くね? と思いがち。



(雑談)
 めちゃくちゃ好きなゆっくり実況者さんがAC6やってくれるかもしれなくて嬉しすぎた。
 これは道具でしかないはずの飼い犬を愛してしまう人間の鑑ことハンドラー・ウォルターだね。
 ……これはどのルートでも幸せになってくれない飼い主の屑ことハンドラー・ウォルターだね。
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