そして世に(銀髪薄幸美少女傭兵との)純愛のあらんことを   作:アリマリア

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 そんなに目立たないキャラに解釈を付与、コレ二次創作の基本ネ





ああ……俺も……いい感じの出番が欲しかったなあ……

 

 

 

「あん?」

 

 グリッド086の片隅に、胡散臭げな声が響く。

 

 声の主は、このグリッドを根城にするドーザー「RaD」の構成員。

 「ラミー」という名、もしくは「RaDの番犬」という役割で知られる彼は、二週間程前に「ちょっとしたハプニング」で左肩をバキバキに折るという災難に遭ってしまった。

 なお、本人はその時のことを覚えていない。いつも通りコーラルキメてたらいつの間にか片腕がぶち折れていた、という状況である。

 本人は泣き言を叫んだが、ボスにもそのサポートAIにも『笑える状況だ』と切り捨てられてしまった。

 

 誠に残念なことだが、この状態ではRaDの門番という本業もまともにこなせない。

 かと言って何もしないというのも、ラミーには耐え難い退屈だった。

 

 そんなわけで、彼は今、暇潰しにグリッド内部をウロウロ放浪していた。

 本人は「パトロール」と宣っているが、その周辺は監視カメラとドローンによって管理されているため、やはり特に意味のないただのお散歩である。

 

 そして、彼はその最中……。

 至極珍しいことに、異常を発見した。

 

 向こうから歩いて来たのは、差し込む恒星の光を受けて輝く、銀の髪を揺らす2人の少女。

 仲睦まじいことに手を繋いでゆっくりと歩いて来る彼女たちは、芸術というものをとんと介さないラミーから見ても、なかなか絵になったが……。

 

 問題は、そこそこ古株であるラミーが、その顔に見覚えがなかったことである。

 

「オイ、誰だてめえら? ここが誰のシマだかわかってんのかあ?」

 

 RaDの門番を自称するラミーは、推定不審者である見慣れない少女に誰何を投げかけたのだが……。

 

「これで、3回目……」

『……617は倦怠感を覚えています』

 

 対する少女たちの反応は、ため息を吐き捨てるという、なかなかに冷ややかなものだった。

 

 

 

 勿論、銀髪の少女たちとは、617と621、ハンドラー・ウォルターが従えるハウンズたちであった。

 

 彼女たちの目的地点たるグリッド086上層部には、封鎖機構による衛星軌道上からの監視が敷かれている。

 単純に不審な動きを見咎める目的の他にも、ここに配置されている大陸間輸送カーゴランチャーは巨大な兵器も運送することが可能であるため、不審な使用を制限するという意味合いもあった。

 

 そのため、何も考えず上層に上がれば、衛星砲の集中砲火に襲われることとなる。

 砲撃の嵐の中では回避する暇すらない。ACSという万能の防壁を持つACであっても、ほんの5秒足らずで撃墜されてしまうだろう。

 

 そのため、カーゴランチャーを使うには、封鎖機構の監視が緩まるタイミングを狙うしかない。

 「AIに管理されているとはいえ、奴らも人間だ。隙ってモンはできるさ」。

 カーラからそう聞かされたハウンズたちは、時が来るまでのしばらくの間、グリッド086のお世話になることとなった。

 

 ハウンズの中でもおとなしい、というかまだ情緒の薄い617は、作戦実行まで「フォーアンサー」のコックピットで待機するつもりであったが……。

 彼女の情操教育のために刺激が必要だと考えたナイン、あまり退屈が好きではない621、617の体を歩行に慣らすことを提案したエアによって連れ出され。

 現在はナインによる脚部機能補佐と621による介助の元、グリッド086内部を見学していた。

 

 当然ながら、首領たるカーラからは許可ももらっている。

 関係各所にも伝達してもらった以上、彼女たちを見咎める者などいるはずもなかったのだが……。

 

 

 

 残念ながら、ここに若干一名、例外がいた。

 

「ああ~? なんだお前らはよお? 見覚えねえぞ?」

 

 彼女たちが二週間程前に撃破した、AC「マッドスタンプ」のパイロット、ラミー。

 彼はハウンズによって秒殺されたことも、カーラから出された敵対禁止の命令も、それどころかつい一昨日も彼女たちに会ったことすらも覚えてはいなかった。

 

 というのも、ラミーは重度のコーラル中毒者。

 ルビコンの恵みことコーラルドラッグをナマでイッている彼は、パチパチ弾けて脳みそ幸せになっており、認識能力や記憶能力が大きく欠損している。

 具体的に言えば、なんと前の日のことすらまともに思い出すことができない可能性がある程だ。

 

 そのため、彼はたとえ自機「マッドスタンプ」に乗って撃破されたとしても、次の日になれば忘れてしまう。

 これまで既に複数回撃破され、かろうじて脱出することを繰り返してきたというのに、なんと彼の自認の上では敗北したことがないのである。

 

 そして彼は、コーラルのキメすぎにより抜けきらなくなった酩酊状態もあって、「自分は負けたことがない、つまり自分は無敵!」という、とんでもない理屈にまで辿り着いている。

 故にこその、自称無敵の(インビンシブル)ラミー、である。

 

 無知というのは恐ろしい。色んな意味で。

 ナインはしみじみとそう思った。

 

 

 

 そして、そんなラミーを前にして。

 

【……はあ】

【エア……】

 

 617と621の脳内では、だらんと項垂れる赤い光に、もう一つの赤い光が心配そうに寄り添っていた。

 

【いえ、すみません。特別に隔意があるわけではない……のですが】

【いや、気持ちはわかるよ。俺はともかく、君の立場からするとな……】

【ええ……思うところは、あります】

 

 偶発的にコーラルの波形の中に目覚めた意思……つまりはコーラルそのものであるエアからすれば、ラミーのようなドーザーは快い存在とは言えなかった。

 

 エアは基本的に、別種族である人類に対しても、非常に友好的だ。

 自分たちコーラルが、親愛なる隣人として、人と共存する未来を夢見ており……。

 しかし、人間がコーラルを資源として求めることも理解しているため、自分たちが消費されることも、ある程度は「歩み寄り」として納得する程に。

 

 それは人間の尺度としては、あり得ない程の譲歩だろう。

 無論、彼女が極めて寛容というだけではない。

 自己増殖性を持つために種の保存が容易であったり、コーラルは明瞭な個を持っていなかったりといった、人間にはない生態から来る人と異なる本能が、それを許容させやすくしている部分もあるのだが……。

 それはともかく。

 

 だからと言って、彼女がいたずらにコーラルが消費されることを喜ぶかと言えば、それは否だ。

 人類の未来を切り拓くための資源にもせず、生きるための糧とするでもなく……ただ快楽を得るためにコーラルを摂取し。

 果てにはそれによって、その人間自身の精神や脳を破壊してしまう、ともなれば。

 コーラルとしての立場、人間への隣人愛。その両面から、エアは嫌悪感を覚えてしまう。

 

 そのため、基本的には人類に友好的であるエアはしかし、コーラルドラッグを用いるドーザーに対しては少なからぬ嫌悪感を持っているのだった。

 

【RaDを知る内に、全てのドーザーがコーラルドラッグを使用しているわけではないと、そう理解はできたのですが……やはり、こういった人間は少々……苦手かもしれません】

【まあそうなるよなぁ……わかるよ。

 同胞食ってラリって体壊してるヤツら見て好感を持てって方が難しい。うん、君は間違ってないぞ】

 

 言い辛そうに、けれど素直に思いを告白するエア。

 それにナインはしみじみと頷いた。

 

 元は人間とはいえ、今のナインはコーラルパルスに依る命。

 それを無為に消費する人間への薄っすらとした嫌悪感は、彼にも理解できるものだ。

 

 それに……彼からすれば、そうして誰かを嫌うことに罪悪感を覚える必要はないとも思える。

 617と621の視界の上でへにょんとたわむ光に、もう一つの光……ナインが、まるで抱き合うようにその半身を重ねた。

 

【な、ナインっ……その……】

【大丈夫、君は特定の人を嫌ってもいいんだ。特定の人を好きになってもいいように。

 コーラルを好む人がいれば嫌う人がいるように、好き嫌いというのはおかしな感情ではない。むしろ無理に抑え込む方が不自然だろう。

 どうか、自分の感情を、君という存在の意志を否定しないでくれ。

 それはエアが勝ち得た、大切なものなはずだ】

【……はい。ありがとう、ございます……ナイン】

 

 エアが恥ずかし気に上擦った声で、けれど素直に感謝を述べる一方で。

 

「……617。なんか、この2人見てると……胸がずきずき、しない?」

『共感します。617は脳と胸にダメージが入っていることを確認しています』

 

 621は何とも言えないもにょもにょとした表情をして。

 表情の変化が小さいはずの617も、少しだけ眉をひそめていた。

 

 

 

 さて、そんな調子でため息を吐いたり頭を抱えられたりと、割と失礼な態度を取られたラミーだったが……。

 彼は彼で、コーラルで真っ赤っかの脳を動かし、目の前の不審者の正体を探り当てようとしていた。

 

 まず、その見た目からして、おおよそ敵対組織の破壊工作員ではないだろう。

 女やガキを工作員として送り込んで来ることは、あり得ないわけではないが……。

 目の前の2人のガキは、そうするには見た目が目立ちすぎた。

 

 煌めくショートの銀髪、滑らかなセミロングの銀髪。

 顔形も、それぞれ方向性こそ違っているものの整っている。

 彼女たちは、紛れもなく銀髪薄幸美少女だ。

 

 ドーザーという無法者の中にそんな美少女がそういるわけもなく、ここまで目立ってしまうのは潜入工作員としては不適格だろう。

 

 であればその正体は何かと、ラミーはラミーなりに推理を進め……。

 彼の脳内の赤いシが付いた電球が、ピカッと輝く。

 

「あッわかったぜ! お前ら、RaDの誰かの娘だなッ!?」

「「?」」

 

 2人はまるで双子のように揃って首を傾げる。

 

 無論、617も621も、RaDのメンバーの娘なんかではない。

 ……正確に言えば、強化手術前の記憶と戸籍を失ってしまっている以上、彼女たちがルビコン3の出であるという可能性は絶無というわけではないが、限りなく低いと言っていいだろう。

 そのため、迷推理を聞いた2人+2コーラルは、「何言ってんだコイツ」と思っていたのだが……。

 

 

 

 ラミーはそんな訝し気な視線が見えているのかいないのか、したり顔で顎を撫でた。

 

「まあ俺あ、ちっとだけ記憶が怪しいからなあ、覚えてなくても仕方ねえ。

 しかし、誰の子だ? んな綺麗なガキ生むたあ、タオの奴か? それともリリアンか? まさかボス……はねえか、うん。

 んまあいいや、RaDの人間っつうんなら仲間だ! これからよろしくなあ!」

 

 ぐっとサムズアップして歯を見せて来るラミーに、2人は顔を見合わせる。

 どうしようか、という無言の相談に、脳内コーラルたちが応えた。

 

【……うん、まあ、そういうことでいいんじゃないかここは?

 別に今更ラミーと敵対する必要もないし、逆に引き込む意味ってのもない……こう言っちゃなんだが、選んで生かすべきでも殺すべきでもない、俺としてはどうでもいい相手だ。

 強いて言えば、まあRaDの多少の戦力にはなるだろうが……今やアリーナ圏外だしなぁ……】

【レイヴン、リンクス。悪いことは言いません、こうなりたくないのなら、娯楽目的での過度のコーラル摂取は控えるようおすすめします】

 

 2人の声からも、ラミーへの呆れと薄っすらとした嫌悪、そして617、621両名に二の轍を踏ませないようにという意図が窺えた。

 

【コーラルの人体への毒性自体は微弱ですが、酩酊作用と中毒性があり、繰り返し摂取すれば……このように、様子のおかしな人になってしまいます。

 ルビコン3で育成されるミールワームは、摂取したコーラルを分解、無毒化する能力を持っています。もしも食料に困った場合も、こちらで済ます方が穏当でしょう】

「あ、ミールワーム、食べたことある。ぶにぶにで美味しいよね」

『617も「嫌い」ではありません。ウォルターのご飯とドライフルーツの方が「好き」ですが』

「うん、それは私もそう。フルーツ、美味しいね」

 

 621はルビコンの解放者となった後、次の周へとループするまでの僅かな時間、解放戦線の面々と宴会をした際に食べたことがあり。

 617はルビコン1でパッチと打ち上げをした際に食べたことがあった。

 

 先日イグアスに食べさせた時は、どうやら食感が気に入らなかったようだが……。

 あまり食事の経験をしたことがなく、また星外の常識も知らない2人からすれば、ミールワームは「面白い食感のぶにぶにした食べ物」でしかない。

 少なくとも、ハウンズとして作戦時に支給されるレーションに比べれば、ずっと美味しいと感じられた。

 

 

 

 ……ところで。

 今更だが、エアとナイン2人の声は、617と621以外には届いていない。

 

 コーラルの織りなす波長であるそれを感じ取れるのは、脳深部コーラル管理デバイスの中に特殊な処置をされた、「特別な強化人間」だけ。

 621は強化手術の際、それを為され……。

 617はナインによって、後天的にそれを叶えた。

 

 しかし、この場にいる最後の一人、真人間であるラミーに、それを聞き取れるわけもなく。

 4人の会話はしかし、彼にとっては2人の少女の唐突な呟きに過ぎない。

 

 普通の人間であれば、その文脈の不明な言葉に眉をひそめたかもしれないが……。

 幸運にも、彼女たちの目の前にいる男性は、細かいことを気にする質ではなかった。

 

「あ? なんだお前ら、ミールワーム好きなのかよ? ちょうどいいぜ、ツイてんなお前ら!

 今日の晩な、北東部の第五食用区画でよお、ワームとコーラルでパーティすんのよ。

 お前らはまだガキだからコーラルと酒は駄目だけどよお、もしワーム食いてえんなら来てもいいぜ!

 予算はボスが下ろしてくれるから食い放題! 月に一度のパーティだあ!!」

 

 ひゃっはーと言わんばかりに両手を上げて喜びをアピールするラミー。

 しかしその直後、彼はぐっと眉をひそめて続けた。

 

「あ、ただ、そこまでの通路は……知ってるかもしれねえけど、あー、真っ直ぐな通路と右から回る通路があるんだろ? 真っ直ぐな通路の方は、この前あったっていう襲撃で大穴空いてっからな。気を付けな。

 あとは……お前らはまだまだ小せえし、人さらいとかにも気を付けんだぞ。コヨーテス共が潜入してねえとも限らねえんだからな。できれば誰か大人に付いてきてもらえよ?」

 

 彼女たちをRaDの仲間として、そしてまだ小さな子供として見ているのだろう。

 ラミーは、617や621がこれまでに聞いて来たものとは全く違う、気遣わし気で温かな声音で笑い、ひらひらと手を振りながら振り返り、去っていく。

 

「ま、とはいえ心配は無用だがなあ!

 ここの門番は、無敵のラミー様だ! 未だに無敗の最強だ!

 コヨーテスのカス共なんざ、このグリッドに入れやしねえからよお!」

 

 それはまさしく、幼い子供を安心させようとする、大人の後ろ姿だった。

 

 

 

 結局、誤解も解かないままに立ち去って行くラミー。

 その後ろ姿を、617と621は、なんとも微妙な顔で見送った。

 

「いろいろ教えてくれた……けっこう、面倒見がいい人?」

【身内には優しいチンピラ、と言うと身も蓋もないが。

 このグリッドを守る門番をやってるだけあって、仲間への想いは本物……なのかもしれないな】

【……正直に言うと、複雑な心境です。コーラルドラッグの影響がなければ、あるいは慕われる人物だったのでしょうか】

 

 仲間の子供と思ったのだろうが、想像よりも真っ当に注意と忠告、そして勧誘をしてくれたラミーに、3人は何とも言えない後ろめたさを覚えた。

 

 621とナインにとっては、幾度となく瞬殺してきた敵であり。

 エアにとっては、コーラルドラッグを濫用する好ましからざる相手。

 そんなラミーの人間味のある側面を今更ながらに見せ付けられると、どうにも気まずいものがある。

 

 その一方で……。

 

「……ああ」

 

 焼けた喉から微かに吐息を漏らしたのは、617。

 彼女の脳裏には、一人の男の顔が思い浮かんでいた。

 

 ハゲで、太っていて、小悪党で。

 けれど真面目で、なんだかんだ優しかった……。

 617にできた、多分「友人」と呼べる、一番最初の人。

 

 ラミーに向けられた視線には、その男……パッチ、ザ・グッドガイから感じたものと同じ、親しみを感じた。

 

『同じ、なのですね』

 

 首輪型デバイスを通して無意識に呟かれた、その思い。

 果たしてそれが何を意味するか、617以外の誰にも、あるいは617自身にもわからず……。

 

 ……ただ、今までずっと無感情だったそれに、微かな喜びの感情が込められていたことだけを、その場にいた全員が理解できた。

 

 

 







 次回から、chapter最終ミッション。
 Chapter2、なんとたった3ミッションで終わっちゃうんですよね。切ない。
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