そして世に(銀髪薄幸美少女傭兵との)純愛のあらんことを 作:アリマリア
空が……空が衛星砲で埋まっているぞ!?
冗談抜きで、何機並べてるんですかね封鎖機構は。密度すごいんですケド。
【さて、休憩時間は終わり。いよいよ次の仕事の時間だ、617、621。
改めて、上層部の大陸間輸送カーゴランチャーを目指して、グリッド086を進行していこう】
【カーラからは約束通り、案内するとの連絡が入っています。
ひとまず、彼女から受信したメッセージを再生しますね】
『さて……待たせたね、ストレンジャー、ビジター。
封鎖機構の配置転換のタイミングが来た。今なら比較的安全にカーゴランチャーを使えるだろう』
『とはいえ、完全に監視がなくなるってわけじゃない。
目視による監視はほぼないだろうが、動く目標に対してはAI制御された衛星砲が問答無用に降って来る。
ドーザーってのは間抜けなもんでね、ウチの馬鹿共が何人か、それでお陀仏になった。
奴らのサーチ範囲はこちらで概算して、あんたらのUI上に予測線を出しといてやる。可能な限りそれに掴まらないように立ち回りな』
『こっちとしても、あんたらとはこれからも良い関係を続けたい。可能なら、こっちで衛星砲なんてモンは止めてやりたいところだが……。
アレは封鎖機構の持つ最大の抑止力だ。ガチガチに固められていて、そう易々とは手が出せない。
それこそ一機落としている間に、他の衛星から滅多撃ちにされたらおしまいだからね』
『幸い、今の狙撃密度なら、ACの機動力で回避し切れないわけじゃない。相手が超音速の衛星砲である以上、勿論難しいだろうけどね。
可能なら屋根の下を通って、それがなくなったら予測線を避けて進む、どうしようもなくなったらクイックブーストでも噴かすのがベストかね』
『カーゴランチャーの元にまで辿り着ければ、照準と操作はこっちで請け負おう。
あんたらの足の速さ、見せてもらうよ』
【私とナインで確認してみましたが、確かに現在、惑星封鎖機構の監視はいくらか弱まっています。今ならば衛星砲の密度は下がっているでしょう。
この調子であれば、カーラの協力も、得られる可能性が高いと思います】
【さて、いよいよ中央氷原行きだ。
今回は積極的に撃ち合う仕事ではないが……それでも、617、きちんと注意を払っておけ。
いつ何時、何が起こってもおかしくないのがルビコン3。不測の事態を予測するんだ。
……ふふ、今更か。俺たちはずっと、不測の事態に見舞われ続けて来たものな】
* * *
グリッド086上層。
機能停止している機材搬出用エレベーターの床板を引っぺがし、並んだ配線に接続して無理やり動かして、中で待つこと数分。
辿り着いた先で、ゆっくりと開いた隔壁の先には……。
赤と黄に彩られた、灼けた空が広がっていた。
慣れた様子でエレベーターから出ていく「Loader 4」とは違い、「フォーアンサー」は一瞬、それに視線を奪われたように固まった。
『空が……』
【時間帯もあるが、これまでで一番高高度に昇ったからな。
ルビコン3のカーマンラインには、「アイビスの火」の際に飛散したコーラルが滞留している。気体の密度なので明確に見えるわけではないが……夕方の頃合いになれば、高所では赤が目立つようになる。
……さて、そろそろ行こう、リンクス。「Loader 4」に続け】
『はい、オペレート、了解しました』
617はクイックブーストを噴かして一気に加速し、少し先で待ってくれていたレイヴンの元にまで急いだ。
「Loader 4」と「フォーアンサー」が見下ろす、グリッド086の上層区画。
そこにはグリッドの他箇所と同じように、流体タンクやエネルギーパイプといった施設がまばらに配置されているが……。
それ以上に目立つのが、そこらじゅうを行ったり来たりしている赤い予測線と、いくつかの汎用無人兵器。
赤い予測線は、カーラが表示している、封鎖機構の衛星AIによる監視の目だ。
近づかなければ問題はないが、一度捉えられればそれでおしまい。ACSが稼働したACですら致命傷になりかねない超音速の一撃が衛星軌道上から降り注ぐ。
おおよそこのミッションで、最も気を付けるべき障害だろう。
だが同時、衛星の監視をより厄介にするのが、宙を漂う汎用兵器群だ。
「AM06:WATCHER」と呼ばれる、封鎖機構の手になるそれらは、監視者の名の通り侵入者へのけん制と撃退に特化したもの。
機体側面に大量の機雷を吊るしており、侵入者を検知すればそれを周囲にバラ撒いて滞空させ進行を阻み、衛星砲が降るまでの時間を稼ぐという趣旨の兵器である。
実に嫌な組み合わせではあったが……。
621とナインにとって、これらは障害というよりは、悪くない餌であった。
「ログ、取る?」
【道中で取れる分は。無理はしない方向でいこう】
先を見据えた621の言葉に、ナインは答え。
続いて、カーラの声がACのコックピット内に響く。
『さて、改めてにはなるが、表示される赤い予測線には気を付けな。
それは封鎖機構の監視の目だ。ピッタリ触れずとも、ある程度近くにまで行けば補足されて、衛星砲が確実に降って来る。
そこからは狙撃を避け切れるかどうか。……1発程度ならACSで受けきれるはずだが、2発連続で受けるのはあんたたちの機体じゃ無理だ』
【617。カーゴランチャーに至るまで、俺は基本的に手出ししない。オペレートという意味で口出しはするが、それも多く行う気はない。
与えられた戦況で自分が取るべき行動を見定めろ。……ナインブレーカーを経た今の君なら、できるはずだ】
『了解しました』
封鎖機構が配置転換を行い、警戒網に隙を見せるのは、おおよそ30分程度。
今回の作戦の残り時間は、おおよそ25分となる。
限られた時間を無駄にできないと、「Loader 4」と「フォーアンサー」の二機は、エレベーターの搬出口から跳び出した。
機材搬出用エレベーターからカーゴランチャーまでは、実に10キロメートル程度の距離がある。
空中に建設されるメガストラクチャーたるグリッドは、基礎的なスケールが恐ろしく大きいのだ。
それこそ、ACで以て直線的に横断しようとしても、5分強の時間を要する程に。
焦って突撃して衛星砲に射抜かれては、元も子もない。
レイヴンとリンクスの2人は、事前に打ち合わせていた通り、慎重に事を進めた。
可能な限り天井のある区画を進むことで、衛星砲からの狙撃を避け。
区画の分かれ目に入れば、連絡用の通路の下を進むことで、監視の目事態を掻い潜り。
カーゴランチャーのある区画に入れば、監視に補足されながらも天井の下へと滑り込んで回避。
最後にカーゴランチャー発射場前、まるで待ち構えるように滞空する「AM06:WATCHER」を、それぞれマルチロックしたミサイルで片付けていく。
当然ながらレイヴンは、この戦場にいる敵も、衛星砲の狙撃タイミングも、その全てを知り得ている。
もしもレイヴン一人であるならば、「正面からABぶっ飛ばしてQBぶんぶんして躱せばいいや」と思っただろうが……そこには諸々の問題がある。
まず一つ目の問題が、リンクスの実力。
レイヴンはこれまでの数度の手合わせである程度リンクスの力を把握したが、それは確実に衛星砲を躱しうるとまで言えるものではない。
リンクスはレイヴンと違って一周目ということもあり、万が一が起こってしまう可能性がある。
そしてもう一つの問題が、カーラたちの目。
レイヴンがあまりにも良い動きをし過ぎれば、周回のことを明かしていないカーラや617、エアに、無用な疑いを持たれてしまうかもしれない。
そういった問題を回避するため、事前にナインと打ち合わせていた通り、カーラからも既に評価を得ている617、リンクスを中心として作戦を行うこととしていた。
そして、その617はといえば。
慎重に光学スキャンをかけて索敵し、細かく地形の情報を探って頭に入れ。
初見であるグリッド086上層を、的確に踏破していった。
堅実で手堅い定石。無理のない進行。
まさしく模範解答のような、スムーズな作戦遂行だ。
「……うん、いい感じ」
ナンバー的には先輩で、戦歴的には後輩な、不思議な関係の仲間の奮闘に、621は薄く微笑んだ。
……そうして、ついに。
「フォーアンサー」と「Loader 4」は、目的地点へと到達した。
『作戦時間17分、目的地点へ到達。
良い手並みだ、ストレンジャー。あんたにしては積極性がない気もするが、衛星砲が相手なんだ、むしろ正しい判断さ』
いくつものカーゴランチャーが並ぶそこ。
カーラからの評価を聞きつつ、617はACを滑らせて、カーゴランチャーに向かう。
予定の上では、ミッションはもはや終盤。
この後は、ACからローカル回線でカーゴランチャーのシステムにハッキングをかけ、封鎖機構に奪われた制御権を取り戻し、カーラに移譲。
「Loader 4」「フォーアンサー」両機が内部に収まった状態で、カーラがこれを起動する。
これを以て、ミッションは完了となる……。
……その、はずだった。
「せんせい」
【大丈夫】
囁いた621に脳内のナインが答え、エアはそれにない首を傾げ、617は……なんとなく、嫌な予感がして。
けれど、行動を止めるには遅すぎた。
「フォーアンサー」がカーゴランチャーに、アクセスを図り……。
瞬間。
『ッ、待ちな!』
【敵性反応!?】
「っ!」
617がクイックブーストを横に噴かしたのは、反射だった。
ナインブレーカー、総合力。
傭兵としての応用力を培うこのトレーニングでは、あらゆるシチュエーションが無作為に選出されて再現され、それに対応することを強いられる。
その中には、油断したところを唐突に奇襲される、なんてものもあり……。
今回、リンクスが事態の急変に反応できたのは、ひとえに多くの経験を積んだが故の慣れと直感故だった。
そうして飛び跳ねた「フォーアンサー」がいた場所に……。
凄まじい勢いで、槍のようなナニカが突き刺さる。
『これは……!?』
【リンクス、距離を……!】
もしも直撃していれば、多大なダメージとスタッガーは避けられなかっただろう一撃。
それに617とエアが焦り、状況の整理と姿勢の立て直しのため、一旦退こうとしたのに対し……。
「違う、離れないで!」
【リンクス……行けッ!】
かけられた、怒声にも近いオペレート。
それを聞いて……617は咄嗟に、驚きと躊躇を噛み潰す。
何が起こったのか、思考を整理する暇が欲しい。
敵の全景を捉えたい、という思いはある。
心の中に、微かな恐怖心すらあったかもしれない。
けれど。
いつだって正しいオペレーターと、恐ろしく強い後輩が、退くなと言っている。
「ッ!!」
独立傭兵リンクスは、その意志で以て、その場に踏みとどまり……。
さかしまに、敵の懐へとクイックブーストを噴かした。
ACによる現代機動戦において中核となる、コア理論。
近距離にまで詰めて敵を削るインファイトを主眼とするそれからすれば、敵と距離を離すのは悪手以外の何物でもなく。
それを理解する617は、全ての感情を抑え込んで、むしろ回避のために空いた敵との距離を詰めに行く。
敵の側面に取り付けられていた砲から放たれた、赤い閃光。
それとすれ違うように、「フォーアンサー」は敵へと急接近し……。
ガコン、と。
左肩にハンガーされていた武装を、左腕に換装。
ルビコン3に到着して以来使ってきた、愛用のパルスブレード……では、ない。
先日、アセンブルについてナインから教わった後に、彼女自身の意思で購入したパーツ。
ベイラムが生み出した、AC規格では最上の瞬間火力を誇る武装。
細身の機体からすればあまりにも巨大なその武装は、ギリリリと音を立てて、駆動を開始し……。
「っ、らぁッ!!」
鈍い痛みを訴える焼けた喉から、しかし決起の声を吐き出して。
AC「フォーアンサー」は、左腕に装着したそれを。
ガコォンッ!!
炸薬の爆裂によって射出された金属の杭が、敵の装甲に叩き込まれた。
敵機に搭載されたACSは、その極大の衝撃を逸らそうと試みる。
機体を最適な角度で傾けることで、外へとエネルギーを逃がそうとして……。
けれど、それすら完全ではなく。
高さ40メートルを遥かに越える敵の巨体が、まるで引っ張られたように、その姿勢を崩す。
その期に乗じ、リンクスは機体を駆る。
いくつもの脚部を横目に見ながら敵の後ろへ回り込み、少しだけ距離を取った。
そうしてようやく、メインカメラが敵の全景を捉える。
ひっくり返した三角錐から6本の脚を生やしたような、不可思議な形状の巨大兵器。
その全身から赤色の粒子を漏らす、奇怪な怪物を。
そしてそれを前に、「フォーアンサー」の隣へと「Loader 4」が並び立った。
【完璧だ、見事だったぞ、617!】
『リンクス、続けていくよ!』
【っ、情報収集とオペレート、再開します! ご武運を!】
仲間たちの声が聞こえた。
死が間隣にある戦場での興奮と……褒められ、認められることによる歓喜。
それらに、脳が沸騰させられるような錯覚と共に、617は応える。
『はい……リンクス、行きます!』
・tips
617はカタフラクトにゼロ距離ガトリング連射するくらいにはインファイト指向が強い。