そして世に(銀髪薄幸美少女傭兵との)純愛のあらんことを 作:アリマリア
やぁレイヴン、久しぶりだな。海越え以来か。
積もる話もあるが、おさらいに入ろう。
617:強化人間C4-617。イレギュラーの素質を持った銀髪薄幸美少女傭兵。だいすきなおにいさまとハウンズの家族、そして不思議な仲間を得て、徐々に情緒を取り戻しつつある毎日。
621:強化人間C4-621。原作主人公でイレギュラーな銀髪薄幸美少女傭兵。思考停止アセンを卒業し、今は色々試行錯誤の最中。最近は自分との模擬戦闘を経て育っていく617を見て、後方腕組み先輩面している。
ナイン:転生したらコーラルだった件。「4つ目の答え」に向けて日々暗躍中。最近の楽しみは、617と621が穏やかに一緒に過ごしている姿を見てほっこりすること。
エア:意思を持つコーラルの変異波形。交信相手2人と接触可能な同種を一気に得て、なんか逆ハーレムみたいな状態になっている。617と621が寝静まった夜、こっそりナインと触れ合うのが毎日の楽しみ。
カーラ:RaDの頭領兼監視者の一人。ウォルターがとんでもない猟犬を得て、喜べばいいのか憐れめばいいのか微妙なところ。ともあれ計画の為の力にはなりそうなので肯定的ではある。
強制排除を執行する
ルビコン3、吹雪荒ぶ中央氷原。
既に人類が空間の軛を越えて活動するようになった現代、本来であれば未開の地などどこにも存在し得ないのだが……。
広大な氷雪と苛烈な天候、不毛極まる大地に、そして何よりアイビスの火の余波によって生じた観測機器の乱れは、この氷原を閉ざして久しく。
封鎖機構を除くすべての勢力から、ここにあるモノを隠していた。
ウォッチポイント・アルファと呼ばれる巨大施設が、その筆頭だ。
ルビコン3で最初に作られた、コーラルの流動管理を行うためのウォッチポイント。
封鎖機構がこの場所にウォッチポイント・アルファを建設したのは、偶然でもなければ無作為でもない。
彼らは……より正確に言えば、彼らの判断を一手に担うAIシステムは、この場所をおいて他にないと判断した。
それは即ち……ここが、ルビコンを対流するコーラルの流れ、その根幹であることを示している。
ウォッチポイントによって塞がれた、中央氷原に穿たれた大穴の先。
ずっとずっと下降していった先にあるモノこそ、彼らが封鎖し、秘匿し続けるべきもの。
「技研都市」という通称で知られる廃墟群。
アイビスの火以前のコーラル技術研究が多数遺された、負の遺産だ。
ここにある研究群が表に出、コーラルの有用性が示されれば、それだけ需要は上昇、企業によるコーラル奪取と星外への持ち出しの危険性が高まってしまう。
それは、封鎖による秩序を企図する封鎖機構にとって望ましい展開ではない。
そのためにも、彼らは必ずこの都市を封鎖せねばならなかった。
……勿論、理由はそれだけではない。
もう一つ、あるいは何よりも肝要な、ここを封鎖する必要性もあったのだが……。
それはともかく。
ウォッチポイント・アルファ内部。
その深度2と呼ばれるエリアを、今、2機の封鎖機構謹製MTが歩いていた。
ウォッチポイント内部は、常に監視システムとAIによって警戒が敷かれている他、ハッキングやクラッキングの危険性も加味して、人力での哨戒も行われていた。
彼らも、この任を負わされた者たちだ。
無機質な通路の中、ガシャン、ガシャンと、MTの脚部が床を捉える音が響く。
2機は静けさに満ちる基地の中を歩きながら、何か異常がないかと見て回った。
格納倉庫に吊られた待機状態の封鎖兵器の状態──異常なし。
物資輸送用のエレベーター稼働状態──異常なし。
各部点検工事進捗──異常なし。
深部2を高速で哨戒する大型無人機──異常なし。
複雑に入り組んだ通路や部屋のどこにも問題はないか、隅々まで丁寧に調べて回る。
システムに従う彼らには、油断も怠慢もない。
ゆっくりと一つ一つ、自らに与えられたタスクを実行していった。
しかしあるいは、ただそれだけだと退屈だったのだろうか。
MTの片割れが、通信を通して、もう一機のMTに話しかけた。
『そう言えば、知ってるか、ファントムの噂』
『…………何?』
ファントム。
それは現在、封鎖機構内部に流れている噂。あるいは怪談の類だった。
唐突な話題提起に、話を振られた方のMTは、数秒沈黙した後に答える。
『……ああ、知っているとも。
点検工や、俺のような哨戒兵の間で伝わっている噂だろう』
1か月程前から流れるようになった噂、「ファントム」。
それはこの数か月の間、ウォッチポイント・アルファで謎めいたエラーが数件続いていることに端を発した、いわば怪談のようなものだ。
例えば、点検工が見た倉庫の物資が、以前に確認した際よりも減っていたり。
例えば、哨戒兵が確認した修復用汎用兵器が、確認していたデータと異なる挙動をしていたり。
そういった、一つ一つは小さな勘違いや思い違いと認識されるべきものが、何度も連続していたのだ。
そして何よりも奇妙なことが、この異変を封鎖機構のシステムが異常と判断していないことだ。
「倉庫の中にある物資は、この数で間違いない」
「元より修復用汎用兵器は、そのように動かす予定だった」
構成員たちの違和感に対して、システムの返答がそれだ。
「全ては構成員の思い違いである」。
これがシステムの、そして惑星封鎖機構の判断なのである。
確かにそれらは一つ取ってみれば、ただの偶然、構成員の勘違いや記憶違いでしかなかっただろう。
けれど、それらの欠片が複数重なれば、偶然は必然となる。
連続したこのエラーを、構成員たちは不審に思い始めていた。
封鎖機構は、その全てをAIシステムに管理されている。
当然「全て」なのだから、倉庫の物資数も、修復用兵器の挙動も、例外ではない。
ルビコン3の上に伸ばされた数多の情報網から然るべき情報を収集、それらから計算して求められる行動と然るべき結果を叩き出し……それらを、末端たる構成員が忠実に実行する。
それが惑星封鎖機構という組織の在り方だ。
だからこそ、連続するエラーは、彼らにあってはならないことだった。
人なのだから、ヒューマンエラーは起こり得る。これは仕方がない。
けれど、それも連続するとなれば、ただのミスではない可能性が生まれる。
つまりは、組織構成員の怠慢か、あるいはシステムのエラー、もしくは何者かによる電子攻撃である可能性が浮上するわけだ。
その内、システムエラーは決してあり得ない。あり得てはならない可能性だ。
彼らの頂点、判断基準たるシステムが完璧であるからこそ、惑星封鎖機構は成立し得る。
もしもシステムに1つでもエラーが生まれれば、彼らの正当性は致命的に揺らいでしまうだろう。
故に、組織構成員は、この可能性を考慮すらしていない。
では、構成員の怠慢かと言えば……それもまた、考えにくい。
ただ一人の構成員がミスを犯したならばともかく、両手の指の数にも迫る人数が違和感を覚えているというのだから、これがただの怠慢で終わる可能性は低いだろう。
電子攻撃の可能性も、一応は考えられはしたが……。
システムには外部から攻撃を受けた痕も、編集・改竄された痕跡も見つからず。
封鎖機構のシステムエンジニアが総出で作り上げた人類最高峰の防衛プログラムを、感知すらされずに突破が可能な存在など、全宇宙を探しても殆どいない。
そのため、これも現実味がないと判断されたのだった。
構成員たちからして、正体不明のこの怪現象だが……。
何より問題なのが、システムがこれを問題であると判定していないこと。
ただの構成員たちの錯乱とでも判定したのか、システムはこの現象の解決を封鎖機構構成員たちに命令して来ないままだ。
解明されない怪現象は、もはや怪談だ。
捉えどころがない、幻か何かを見せられたかのような違和感。
封鎖機構の中ではこの現象、もしくはそれを起こした犯人を「ファントム」と呼称し、私的な時間を使って原因究明を図る者まで現れていた。
基地の巡回を続けながらも、MTは自らの同僚に向かって言葉を投げかける。
『俺は対面したことがないから半信半疑なんだが、本当にあるのか、アレは。
システムによる管理が不完全とは思い難いが……』
『…………逆だ。システムによる管理が完全であるからこそ、「ファントム」は尻尾を出した。
本来であれば発覚しなかっただろう小さな違和感は、しかしシステムによって管理され、常に正常な状態を確認できる我々を相手にしたからこそ露呈したのだろう』
『なるほどな。確かに、あの程度の違和感であれば、解放戦線や企業は掴めなかったかもしれない』
システムに全ての判断を委託し、人がその手足として働く機構。
これは言ってしまえば、厳格な数字と計算によって精緻に管理される、完成した組織とも言える。
だからこそ、細かい物資の数や兵器の動きなど、本来は何かの間違いだろうと見逃されるそれらも、大きな問題となっているのだろう。
そういった誤差やノイズを洗い出す精度こそ、惑星封鎖機構にとっての強みであり。
……しかし、システムが判断しなければまともに問題に対処ができなくなることが、惑星封鎖機構にとっての弱みだった。
『……お前は、この噂をどう思う。システムは、これについて消極的だが』
唐突に話を振って来た同僚のMTに対し、静かに、ゆっくりとそう問いながら……。
話を振られた方のMTに乗る、封鎖機構構成員の一人である伍長は、システムとの通信を開始する。
一方、もう一機のMTから返って来たのは、無感動な言葉だった。
『特にどうも。システムが何の判断も下さないということは、これ自体はただの錯誤であると認識している。
企業共の動きがきな臭くなってきている今、そこに注意を割く必要性があるとは思えないな』
『……そうか』
伍長のMTに、システムよりの返答が届く。
彼がそれを読んで一つ頷いていると、向こう側から疑問を投げ返された。
『そちらはどう思う。これはただの勘違いか? それとも……』
『いや、もう話はいい』
『何?』
疑問の声を発した、同僚のMTに対し……。
伍長の乗るMTは、その腕に持つ電熱カッターを振り下ろした。
『ガッ……!? な、何を……っ!?』
頭部、コックピットにあたる部分に、その赤熱する刃を喰い込ませ……逃がさないよう重量をかけながら、機体表面を削り取って行く。
この唐突な攻撃を行いながら、しかし伍長の声は至極冷静だった。
『非番の時ならばともかく、封鎖機構の人員が、集中を要する巡回任務中に無駄口を叩くことはあり得ない。
既にお前との会話ログはシステムに送信し、結果、システムはお前を侵入者であると判断した』
伍長に過ぎない彼は、戦場において主役として立つ程の人材ではない。
けれどそれでも、彼もまた封鎖による秩序のため、システムにその全ての判断を託す、封鎖機構の人間だ。
その判断は苛烈にして冷徹、何より合理的だった。
『お前がどうやってその機体に乗ったのか。お前が何者なのか。それはわからない。
だがどうであれ、お前がここに潜入した、封鎖にとっての脅威であるという一点は変わらん。
故に……ここで、排除する!』
ギャリギャリと鳴り響く、耳障りな金属音。
反応を見せなくなった同僚のMT……いいや、敵性MTに対し、伍長はそのカッターを抉り込ませ……。
やがて、カッターの駆動を止め、引き抜く。
両断とまでは行かないまでも、コックピットを担う頭部は、確実に破壊した。
そう確信した伍長は……しかし。
『なっ、に……?』
破壊され切った、無人の、コックピットを目の当たりにした。
『ちっ……失敗した。全く封鎖機構め、面倒な性質してるわ』
思わず数歩退き、周囲に視線を巡らせる伍長のMTを前に、一度はシャットダウンしたはずの敵性MTが、再起動する。
既に中枢に近い回路を切り裂かれ、バチバチとスパークを見せるそれはしかし、確かに立ち上がった。
無人運用ができないはずの、有人機が……ひとりでに。
『情報を抜こうと思っても無駄口一つ叩かないし、こっちから話を振れば即敵対だ。本当に隙がない。
やっぱ情報はシステムから抜くべきか……めちゃくちゃ面倒だけど』
それは、今までの多少なりともかしこまった口調とは違う、砕けた口調で。
伍長に語りかけていたものとは違う、どうやら独り言らしきもの。
演技をやめた侵入者は、たじろぐ伍長の前で……。
一度立ち上がらせた機体にしかし、再びガクリと膝を突かせる。
『……ああ、駄目だ、機体は限界か。おかげでまた計画遅延だ、面倒くさい。
ベイラムってあれで結構健闘してたんだな、万全な状態のウォッチポイント・アルファの攻略、とんでもなくめんどくさいわ』
侵入者の正体が何であれ、そのMTは確実にAPを枯らしていた。
頭部を切り裂かれたダメージは致命傷、どうあってもその機体は爆散する運命にある。
しかしながら、その言葉には悲壮感などなく。
まるで、面倒なミッションに失敗し、仕方なくリトライする時のような。
そんな、倦怠感だけが籠っていた。
無人のままに、あり得ない挙動をし、不可解な言葉を放つMT。
それを前に、伍長の脳裏にとある言葉がよぎる。
ファントム。
それが意味するのは、幻。幻影。幽霊……。
……あるいは、恐怖、そのもの。
微かにその身を震わせた伍長は、しかしすぐさま、封鎖機構として然るべき行動を取る。
即ち、システムへの情報送信である。
『っ、システムに情報ログを送信! コード31、指示を……!?』
しかし、それが彼らの崇拝するシステムにまで届くことはなく。
ただ、電波が遮断されていることを意味する、不鮮明なノイズのみが、彼の耳を揺らす。
そして、その直後。
『何が、』
彼の意識は、MTを背後から撃ち抜いた無人ドローンのレーザーガンによって、その生命活動と共に途絶えた。
『やっちまったなぁ……ジェネレーターイジって事故った風にして、崖にでも投げとくか。
ああくそ、なんとか深度2までは来たが、間に合わんか、これは。
エアに申し訳ないな。早く2人と共に戦う、生きる実感を与えてやりたかったが……。
ま、その辺りは、俺が可能な限り補完するか。どれだけできるかはわからんけども』
唐突なガバから、Chapter3前編、更新開始です。
Chapter3はかなり長く、かつはちゃめちゃな章ですので前後編となります。
前半は主に封鎖機構との戦い。後半は……スロー♡スロー♡クイッククイックスロー♡の、二本立てになります。