そして世に(銀髪薄幸美少女傭兵との)純愛のあらんことを 作:アリマリア
他とは次元の違う物量と技術力を持ってて、多くのC兵器を掌握してて、衛星砲も自由に使えて、完全に制空権を確保してて、AI管理だから組織腐敗もしない。
こんなぼくのかんがえたさいきょうそしきが勢力争いに負けるわけないだろ!
「……さて、617、十分に休養は取れたか。
中央氷原では既に企業が動き出している。俺たちはそこに便乗し、コーラル集積地点を探すぞ」
「今回の仕事は、ベイラムの依頼を受ける621とは別口、アーキバスからもたらされた依頼だ。
まずは内容を確認しろ」
『独立傭兵リンクス。当社系列企業、シュナイダーからの依頼です』
『作戦地点は中央氷原、惑星封鎖機構戦術拠点、ISB1088。
作戦内容は、この基地に対する威力偵察、及び情報の奪取となります』
『惑星封鎖機構はこれまでも幾度となく当社のルビコン3での活動を妨害してきましたが、昨今その動きに不穏な兆候が見て取れます』
『中央氷原での本格的なコーラル調査を進める上で、封鎖機構の動向及び妨害は大きな障害となり得る可能性があり、当社内でも情報を収集していますが……。
封鎖機構の特殊な体制や秘匿回線を用いた連絡方式を前にこれは難航しており、後手に回らざるを得ない状況となっています』
『貴下にはこの問題解決の一助となっていただきたい』
『今回の作戦地点であるISB1088は、惑星封鎖機構が構えた戦術拠点の一つであり、アーレア海を挟んだ東方と中央氷原とを繋ぐ、補給ルートの一つの途上。
もしも封鎖機構がその戦力を集結させているのならば、この基地には少なからず物資が運び込まれ、あるいは運び出されているはずです』
『そこで、あなたにはこの基地に対して襲撃をしかけ、データサーバーに物理的に接触、そこから情報を抜き出していただきたい』
『全てをAIが管理する組織の構成上、基地のデータサーバーには必ず情報が残っているはず。
封鎖機構のセキュリティは極めて厳重ではありますが、基地の外部からではなく内部からの攻撃に対しては大幅な弱体化が見込めます。
当社の用意したハッキングツールを使えば、問題なく情報を得られるはずです』
『また、情報不足のため断言はできませんが、当基地には想定以上の戦力が存在する可能性があります。
今回の依頼は威力偵察の意味合いも含まれていますが、主眼はあくまでも情報収集。
破壊した機体に応じて報酬は加算させていただきますが、何より貴下の安全を優先し、必要とあらば撤退することも考慮にお入れください』
『ブリーフィングは以上です。よろしくお願いします』
「……以上がお前に届けられた依頼だ。
先程も触れたが、621の元にはベイラムより、中央氷原ヒアルマー採掘所、アーキバス調査キャンプ襲撃の依頼が来ている。
そのため、この依頼はお前だけでこなさなければならない」
「……どうやらベイラムは勘付いていないようだが、アーキバスは封鎖機構の動きを察知したらしい。これは疑惑を払うためではなく、むしろ確たる証拠を掴むための裏取りだろう。
ナインに言われ、こちらでも封鎖機構の動きは注視していたが……確かに、少々きな臭い部分があった」
『少々性急にも思える対応だが、封鎖機構のこれは理解できないものでもないだろう。
コーラルの集積地点が中央氷原にあることを嗅ぎ付けられた以上、企業がコーラルを星外に持ち出す危険性は一気に高まった。あちらもうかうかしていられないわけだ。
ベイラムが嗅ぎ付けられなかったことからしても、情報封鎖は徹底していたはずだが……アーキバス、流石の情報収集力だな』
「封鎖機構の動向は、集積コーラルを求めている俺たちにとっても、少なからず妨害要素になる可能性がある。お前の方でも十分に注意を払っておけ」
「……話を戻すが、今回の仕事の主目的は、データサーバーのハッキングだ。
敵機の破壊はあくまで副次的なものとして捉え、迅速にこれを実行、不測の事態が発生する前に撤退できる準備を整えろ。以上だ」
* * *
中央氷原に入った617の最初のミッションは、封鎖機構の拠点襲撃。
ただ、襲撃と言っても武力制圧ではない。
この拠点内にあるデータサーバーからの情報の抜き取り、そして駐在する敵戦力の調査が主題となる。
【621は現在、大豊から依頼された観測データ奪取のミッションに入っている。開始時刻は俺たちより数日遅れるが。
そのため、今回のミッションは久々に……シュナイダー工業地区防衛以来の単騎ミッションになる。
十分に気を引き締めて挑もう、617──いいや、リンクス】
『了解しました、オペレーター』
視界上の赤い声に応える617に、もう一つの赤色も声を投げかけた。
【とはいえ、私とナインは、レイヴンと並行してあなたのオペレートを実行できます。
情報処理と索敵は任せてください。リンクス、あなたはACの操作に集中を】
『はい、ありがとうございます、エア』
AC「フォーアンサー」、そのコックピットの中で、617とコーラルの波長が言葉を交わす。
617にとってそれは、もはや慣れ親しんだものだった。
当初は困惑……は、していなかったが、少なからず不思議には思っていた脳内での会話。
けれどいつしか、617にとってこれは当然の日常と、そしてなくてはならないものとなっていた。
自分を死の運命から救い、ここまで導いてくれたナインは勿論。
新しく仲間となり、何かと気を遣ってくれるエアと会話を交わすことも、617は楽しんでいる。
元より傭兵は、特に特定個人の子飼いであるハウンズは、他者と会話を交わす機会が少ない。
故にかつての彼女にとっての他者とは、ウォルターとハウンズの他は、殺すべき対象だけで構成されていた。
それが今や、パッチやカーラ、チャティにラミーと、たくさんの人間と知り合い……。
常に言葉を交わせる、最も近しい他者までも得た。
そういった日々が……いつか621も辿ったその道が、彼女の人格と情緒をゆっくりと培っているのだろう。
617自身もまた、そんな日常の変化を不快に思うわけもなく。
彼女にとってこの2つの声は、もはや自分の一部と言っても差し支えのないものとなっていた。
封鎖拠点、ISB1088。
ウォルターが購入した二機目の輸送ヘリ──現在はナインが操縦システムをハッキングして操作している──に乗って、ミッションエリアへと向かう道中。
これからのミッション概要を振り返りながら、1人と2波形は話を続ける。
【封鎖拠点を攻めるのは実に二度目、いや、三度目になるか】
【そういえば、リンクスはルビコン1で封鎖拠点を攻めた経験があるのでしたね。
封鎖機構は両企業と比べて、ずっと多くの戦力を保有しているという話でしたが……成功したのですか?】
『はい。おにいさまが助けてくださいました』
もうずっと前のことのようにも感じる、いつかのことを思い出す。
未だナインのことを「おにいさま」とは認めていなかった頃。
そして、心底までは信頼を置いていなかった頃。
……そして、それが変わるようになった、きっかけ。
温かく輝いた、命の赤色を。
『あの頃の617は、今よりもっと弱かったのですが。
おにいさまがたくさんたくさん助けてくれて、617は何度も危機を乗り越えて来ました』
過保護に守ることは617の成長を阻害するとして、最近は行っていないが……。
ナインはACのCOMに干渉し、内部からシステムのハッキングを行い、各種性能を引き上げることができる。
そうして生まれる強化機体は、
FCSの精度は遥かに向上し、ミサイルの誘導はロックせずとも可能、そしていざという時にはコーラルによる疑似シールドの展開すら叶う。
LC機体、封鎖機構の武装ヘリ、特務機体カタフラクト。
その力を以て、ナインは617を支え、幾度となく難敵を排除してきた。
……しかし、いつまでもそんな介護を続けるわけにもいかない。
傭兵たらば、自ら力を付けなくてはならないのだから。
【そういえば、俺のサポートなしで封鎖機構とぶつかるのは初のことか。
617、幾度となくナインブレイカーをこなし、実戦を乗り越えてきた君には、もはや補助輪など必要ないだろう。余程のことがない限り、俺から支援は行わない。
君自身の力で、そして君自身の判断で、このミッションをこなしてみせろ】
『了解しました』
* * *
ACのスキャンやロック機能は、その大部分を光学的な仕組みに依存している。
これはそもそもの土台として、開発初期段階のACが、スムーズな操縦のため、人間の身体機能を延長・拡大するというコンセプトを持っていたことに由来する。
人間の情報収集は、その殆どを視覚情報に頼っている。
その状態から急激に他の感覚情報が増えてしまえば、混乱が避けられない。
専用機でもない兵器に求められるのはピーキーな超性能ではなく、誰でも使えるような汎用性。
そのため、封鎖機構における特務機体等はともかくとして、ルビコンでの戦場の主役たるMTやACの多くは、他感覚器による情報が重要視されていないのだ。
とはいえACの操作性が人口に膾炙している昨今、企業によっては従来の人型の軛を脱し、変則的な形状──それこそ空力とか──を取るものも増えてきてはいるのだが……。
それはさておき。
617が搭乗する「フォーアンサー」を含む、現在ルビコン3で活動しているACもまた、主に視覚によってのみ情報収集することは変わらない。
そのため封鎖機構の基地には、高さ500メートルにも及ぶ、非常に堅固な外壁が立てられている。
物理的な障壁など、現代機動戦からすれば意味の薄いもののようにも思えるが……。
外部からの攻撃を遮断する他にも、ACからの視界を遮ることもできるそれは、僻地たるルビコン3においては非常に有効だ。
……そう、有効なはずだった。
617が、ハウンズたちが、彼と彼女を抱えていなければ。
【索敵、完了しました。
執行機が6機に、運用機が1機、特務機体1機。ドローンの警戒網は厚く、補給物資も運び込まれている……確かに、少なからず戦力を集めているようです】
【追加するなら、構成員たちの空気もピリついている。重要な作戦直前、という感じだな。
アーキバスの危惧はどうやら正しいらしい。本格的に封鎖を執行するつもりか】
617の視界の上で、パチパチと2つの赤い光が弾ける。
コーラル潮流の織りなす波形で形作られる意思である彼らは、ある意味ではコーラルそのもの。
極低濃度とはいえ大気中にコーラルが滞留しているルビコン3において、彼らの行動を制限することはおおよそできない。
基地の中にまでコーラルの感覚を伸ばし、壁に遮られているはずの内部を探ることなど、赤子の手を捻るに等しい。
というか、むしろ赤子の手を捻る方が難しい。物理干渉を行うためには、大気中の微量コーラルを高密度にまで圧縮させる必要があるからだ。
そんなわけで、617を突入させる前に、一旦ナインたちが情報収集を行っているのだった。
617が一度閉じた瞳が開かれた時、青かったそれが赤に染まる。
その体をナインが使っている証だ。
『ウォルター、どうやら懸念は正しかったらしい。
基地の外観からして東方から物資が運び込まれているし、複数の執行機と特務機体を確認した。
ミサイルを中心とした弾幕に特化するバルテウス、正面戦闘に長けたカタフラクト……二機に挟まれるのは危険だな。攪乱か、各個撃破か、あるいはスルーが妥当なところだろう』
ウォルターには存在を隠しているエアの調査結果も含めて報告を行うナイン。
対して、通信の向こうから返って来た声には険がこもる。
『617、厳しいと感じるのなら戦闘は避けていけ。
今回の仕事の主目的はあくまでデータサーバーのハッキング、敵戦力の撃破はサブの目標に過ぎない』
『了解しました』
すぐさまその瞳を青に戻し、返事をする617。
続けて彼女は「フォーアンサー」を走らせ始める。
ウォルターには気遣われたが、彼女は戦闘を全て避ける気はなかった。
彼女はナインの敷くトレーニングたるナインブレイカーや、シミュレーター上での621との戦い、そしてこれまでの死線を潜って来た経験から、一つのことを悟っていた。
弱ければ死ぬだけだ。
死は、可能な限り避けなければならない。
そんなある意味では当然の事実を、ボコボコにボコされる中で思い知ったのだ。
しかし、それではどうすれば強くなれるか?
その方法は、彼女の「おにいさま」たるナイン曰く、ただ一つ。
即ち、十分以上にトレーニングを積み、死の隣接する実戦を経験し続けること。
戦いを続けた果てにしか、強さは得られない、と。
故に、彼女は闘争に躊躇しない。強くなることに躊躇しない。
むしろ、自分をサポートしてくれるナインやエア、621にウォルター……家族たちに報いるためにも、力を蓄えることに対して貪欲だ。
そして、そのために……目の前の基地は、使える。
下手を打てば囲まれて叩かれることになるだろう、危険なミッション。
緊張感のある現実の戦場だからこそ、普段のシミュレーションでは得られない経験から力を培える。
死が隣り合った戦場にて、617は冷静にいっそ冷徹と言えるくらいに、命のリスクを割り切っている。
それは、彼女の「おにいさま」がその命を保障してくれると信頼しているからか……。
あるいは、自らの命以上に大切な、家族と友を守らんとするためか。
彼女の髪に付けられた、近頃はトレードマークとなりつつある丁寧に手入れされた赤と青の髪飾りが、鈍い光を照り返していた。
主目的がどうあれ「最終的に全員殺せばいいのだ!」となる独立傭兵はレーイヴン?