そして世に(銀髪薄幸美少女傭兵との)純愛のあらんことを   作:アリマリア

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 だははははwwww(逃がすと約束したスウィンバーンにパイルをぶち当てながら)





上等だ、傭兵が稼ぎ方を選べる立場かよ!

 

 

 

 海越えを果たし、中央氷原に突入したリンクス。

 彼女の現在の実力は如何ほどかと言えば……おおよそ、アリーナトップランカー級と言えば分かりやすいだろうか。

 

 アリーナランク2/SのV.Ⅰフロイトや、3/SのG1ミシガン。

 彼らの再現データとの戦いであれば、大抵の場合は勝利を刻むことができる。

 ……しかしそれらは、あくまで再現データに過ぎない。

 実物の圧力や戦況判断、対集団戦等を加味すれば、実戦での勝率は五分五分といったところだろう、というのがナインの予測だ。

 617は懸命に成長してはいるが、何分相手は生粋の戦闘狂と熟練の老兵。まだまだ踏んだ場数が違う。

 

 そんな617をどう評価するかは、人によって異なるだろう。

 このルビコン3でも最上級の戦力相手に五分五分になる程にまで成熟している、とも言えるし。

 未だ例外(イレギュラー)でない相手にも勝ち切れない程度の実力でしかない、とも言える。

 

 ともあれ、彼女の実力が伸びているのは確固とした事実だ。

 真の最強たる621相手のシミュレーション戦では、白星こそ刻めていないが、以前よりも明らかに生存時間が伸びてきていたし……。

 ついには、ナインの課す教習(ナインブレイカー)、その最終試験であるナインブレイクにおいて、レベル2を突破するに至った。

 

 ナインブレイク、レベル2。

 彼女の敬愛する最強、「おにいさま」が程々に力を抜いて操縦する、アリーナ上位層の機体との勝負だ。

 手を抜くとは言っても、その実力はアリーナ最上位層に相当するもの。更に圧力や揺さぶり、読みに至っては621以外の誰も及ばない程の高みにある。

 

 そんな相手との戦いを征することができたのは、ひとえにナインとの戦闘経験を積み上げた故の、いわゆる「人読み」だ。

 おにいさまならこうするだろう。おにいさまだからこうしてくる。……自分が想像し得る、一番嫌な行動を押し付けて来るはずだ、と。

 それらの予測が段々と、命中するようになってきた。

 

 故に、避けられる。

 避けられなくとも、心構えができ、即座に切り返しができる。

 そんなアドバンテージと、何より彼女自身の実力を積み上げた上に……。

 彼女はなんとか、レベル2を突破したのだ。

 

 ……とはいえ、そこで得た自信は、次のレベル3に挑んで秒で砕け散ることとなった。

 ナインが自ら組み上げた汎用ビルドのAC機体は、レベル2までとは比べ物にならない程実戦的な構成になっていたし、これまでに有効だった人読みは残らず外されてしまった。

 アレはあくまで手加減をしていたから通用していたのだと、617はほとほと思い知ることとなった。

 

 彼女の心に達成感と成長の自覚を残しながらも、けれど決して慢心はさせない。

 常に上には上がいるのだと、未だ最強や例外には届かないと、自覚させ続ける。

 

 そんなナインの育成方針もあって、617の心には油断はない。

 あるいは生来のものもあるのか、その気性はすくすくと真っ直ぐに成長を続けていた。

 

 

 

 そして、その実直さは今、十全に機能していた。

 

『敵はLC機体が5、HC機体が1、軽量MTとドローンが多数。

 それに、起動していない武装ヘリと、エクドロモイが1機ずつ……』

 

 封鎖基地外周、内部から探知できないよう窪みの中に身を隠した、AC「フォーアンサー」。

 そのコックピットの中で、独立傭兵リンクス・ウィズ・カラー……617は呟いた。

 

 彼女の網膜上には、ナインが探り当てたこの基地のマップが表示され、赤い点で敵の配置が記されている。

 エアは未だ対人経験も傭兵経験も浅いため、こういったところにまで気が回らないので、初見ミッションの恐ろしさというものをその身で知るナイン主導での表示だ。

 

 もう少し簡単なミッションであれば、あるいは617の地形把握能力や判断力を鍛えるため、マップは出さない方が良かったかもしれないが……。

 ナインの最優先目標は、あくまで617の保護。彼女の成長はその次点だ。

 封鎖機構の、それもかなり警備が手厚い基地を襲撃するとなれば、ほんの一瞬のミスが飽和攻撃による死を招きかねない。

 そのため、彼の手で難易度を調整している形だ。

 

 とはいえ、独立傭兵としての仕事の中には、作戦地点の地形や敵の配置が割れている状態から始まるものも少なくはない。

 この形式でのミッションも、617の成長の一助になるだろう。

 

 

 

 実際、彼女はコックピットの中で、必死に頭を巡らせていた。

 

『……エクドロモイも脅威ではありますが、武装ヘリのミサイルの追尾は、他の敵と戦っている際に極めて厄介になると思います。

 であれば、起動前に破壊を……いえ、そこまでにMTやドローンに発見されてしまう。

 ヘリとエクドロモイの起動前に、可能な限りMTやドローン、LC機体を片付けておくべきでしょうか?

 いえ、そもそも今回のミッションの主目標は、サーバーのハッキング。道中のMTを片付けつつ切り抜けて、二機の起動前に退路を確保する方が大切でしょうか』

 

 以前まではあまりものを考えないことの多かった617は、けれどここ最近、ナインとエアに思考を共有するためだろう、合成音声に載せてその意志を示すことが多くなった。

 

 一人きりのコックピットで呟かれるまるで独り言のようなそれに、けれど彼女の視界の隅でナインが赤い光を瞬かせて応える。

 

【そうだな。戦闘が発生したとなれば、周囲の警戒部隊も少なからず応援に来るだろう。

 LC機体やHC機体と同時に、武装ヘリとエクドロモイと戦えると思うのなら、真正面から戦ってもいいが】

『……今のリンクスの実力では不可能であると推測します』

 

 HC機体と実際には戦ったことのない617ではあるが、ナインがシミュレーター上で再現したそれとは何度か矛を交えたことがある。

 その上で言えるのは……LC機体や武装ヘリはともかく、HC機体やエクドロモイは片手間には相手できない、ということ。

 

 それらの機体の攻撃は、時に広範囲であり正確、何より高火力だ。

 群がるMTやドローンを片付けながら、意識をそちらに割いて的確に避ける……なんて器用な真似は、今の617にはできない。

 そもそもが一対多に弱いACだ、囲まれれば一方的に削られ、死あるのみだろう。

 

 

 

 多数の敵と真正面からぶつかる愚は避けなければならない。

 であれば、選択肢は2つ。

 

『目的をこなし、即座に撤退するか……分断し、各個撃破するか』

 

 617の挙げた2つの策に、変異波形たちは応える。

 

【撤退を選ぶのなら、俺たちから過度の手出しは避けよう。今の君ならば十全以上にこなせる。……勿論、急いでやる必要はあるがね】

【分断を選ぶのなら、私とナインで基地内の情報欺瞞を行いましょう。

 東のポイントから突入すれば、HC、エクドロモイが到着するまで、それぞれ2分……いえ、2分半持たせてみせます。その間に目標の撃破を】

『ありがとうございます、二人とも』

 

 本来、速力に特化したエクドロモイであれば、この広い基地も20秒前後で横断できる。

 厳戒態勢であることからして、パイロットの騎乗から現場到達まで、40秒かかるかどうかだろう。

 それを、封鎖機構の手堅いプロテクトの上から情報操作と妨害によって150秒稼ぐというのだから、エアの言葉は驚嘆する他ないものだ。

 ……まあ、それを正しく評価できるだけの知識は、残念ながら617になかったのだが。

 

 現代機動戦は、1秒どころか刹那に趨勢が決してしまう程の超高速戦。

 2分半という時間は短いようでいて、しかしやりようによっては、敵機を撃破するに十分足る時間だ。

 

 逆に言えば、上手くやらなければ撃破が間に合わなくなるだろう時間でもある。

 つまり、もしも617が下手を打って手こずれば、増援の到着で戦況が覆ってしまいかねないわけだ。

 

 

 

 安全だが報酬が少なくなり、単騎で挑まなければならない撤退か。

 危険だが報酬が多くなり、これまでの訓練の成果を試される攻撃か。

 

 617はしかし、殆ど迷うことなく。

 

『可能な限り、敵を撃滅します。おにいさま、エア、力を貸してください』

 

 後者を選び取る。

 

【成程。……最後に、何故そちらを選んだか聞いてもいいか?】

 

 どこか楽し気に弾むナインの問いかけに、617は……。

 

『リンクスは、もっと強くならなければなりませんし……』

 

 合成音声の中に、ほんの僅かな勝気を見せて、答えた。

 

『更に言えば、より充実したアセンブルのため、資金を求めています。

 もっとたくさんCOAMを溜めて、新たなパーツを買いたいのです』

 

 左肩に提げた、最近のトレーニングで練習し続けているパイルバンカー。

 それはどうやら彼女に、生への渇望や仲間への想いの他に、新たな欲求を与えたらしい。

 

【ふ……独立傭兵らしい、最高の答えだ。それでは、君の健闘に期待しよう】

 

 ナインの声は、穏やかな喜びに満ちたものだった。

 あるいはそれは、聞きようによっては、兄が妹の門出を祝うようなものにも聞こえたかもしれない。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 そうして待つこと暫く、作戦開始時刻が迫る頃。

 

【それでは、そろそろ作戦開始時刻です。封鎖基地に突入……】

 

 しかし、エアの言葉をナインが遮り、617の視界の端で赤い光が瞬く。

 

【いや、待てエア。リンクス宛てに緊急の連絡だ。相手は……】

【これは……解放戦線の実質的指導者、ミドル・フラットウェル!?】

【……唾を付けに来たか、あるいは。繋ぐぞ】

 

 617にとっては聞き覚えのない名前。

 しかし「解放戦線の実質的指導者」と来れば、偉い人なんだろうな、くらいのことは今の617にも理解できた。

 

 作戦前に何の用かと、僅かに眉をひそめる617を前に……。

 ザザ、という荒いノイズの後に、通信の向こうから男の声が聞こえて来る。

 

『独立傭兵リンクス。我々はルビコン解放戦線だ。

 単刀直入に言う。その基地で得られたデータを複製し、我々に売って欲しい。

 報酬は150,000COAM、情報の内容によって色を付けさせてもらう。

 色好い返事を期待している』

 

 通信相手はそれだけ言って、言葉を途切れさせる。

 

 得た情報……つまりは、封鎖機構の動向についての情報の複製を、売る。

 これ自体は、アーキバスとの契約違反にはならない。

 アーキバスが求めてきているのは、情報の取得と、それをアーキバスに譲渡すること。

 譲渡までの間に複製を取ったり、それを売ることについて、契約上の制限はかかっていない。

 

 そもそもアーキバスだって、長期間情報を隠蔽できるとは思っていないのだろう。

 これは他勢力に一手先んじるための作戦であり、その一手が過ぎた後には情報は無価値化する、という認識だ。

 

 しかし同時、考えようによっては不義理にもなるだろう。

 報酬が出る以上、617の今回の作戦行動中は、アーキバス雇用下でのものとなる。

 一時的とはいえ雇用された状態での行動は、基本的にアーキバスに対して利になるものでなくてはならない。そうでなく、あまつさえ敵対関係にある解放戦線の利になるなど論外だ。

 もし露見してしまえば、アーキバスからの評価を落とすことに繋がる可能性がある。

 

 617は少し考え、一度マイクをミュートにして、2人の仲間に声を投げかけた。

 

『ウォルターは?』

【君の判断に任せる、と】

『……売って、何か悪いことはあるでしょうか?』

【私とナインであれば、アーキバスに露見しないようバックアップを取ることが可能です。独立傭兵リンクスに悪い影響はないでしょう】

【ルビコン3の戦況に関しても、解放戦線に肩入れしていいと思うのなら、特段の問題はない。むしろ推奨するくらいだね】

『了解しました』

 

 こくりと頷き、617は再びマイクをオンにする。

 

 ……かつて、ルビコン1で「決断を下す」ということに戸惑っていた彼女は、もういない。

 既に617は、自ら考え、それを行うことができるようになっていた。

 

『こちら独立傭兵リンクス。提案を受け入れます。ミッションの後、データを送信します』

【感謝する。

 ……噂に違わず、合成音声か。闇に紛れた軽やかなその身と、いつか肩を並べられることを願おう】

 

 ブツリと音を立てて、通信が途切れる。

 

 それと同時、会話の邪魔をしないようにしていたエアが、困惑を隠せない様子で赤色を瞬かせた。

 

【……驚きました。ミドル・フラットウェル、彼は解放戦線の戦争指導者です。

 ベイラムすら封鎖機構の動きには勘付いていない様子でしたが……ここで情報を求めるということは、彼らはその兆候に気付いたということでしょうか?】

【そうとしか考えられんな。

 更に言えば、達成するまでは伏せられるはずの依頼内容や、その実行者がリンクスであるということまでフラットウェルは悟っていた】

『…………つまり、アーキバスの中に、解放戦線に情報を渡した誰かがいる?』

 

 エアとナインの会話に、珍しいことに617が口を挟む。

 

【ああ、そういうことになる。よく考えているな、617】

【はい、偉いですよ、リンクス】

 

 ナインとエアは温かな口調で言い、軽く固体化させたコーラルで以て617の頭を撫でた。

 微かに微笑を浮かべる617の脳内で、更にコーラルたちは会話を続ける。

 

【更に言えば、今後行う作戦内容を閲覧できるだけの上層部……それこそヴェスパー部隊級の権限を持った誰かがそれをした、ということになる。

 流石、と言うべきだろうな。彼らは弱小の勢力だが、弱小なりの生き方、戦い方を知っている】

【専属部隊にスパイを……しかし、そんなことが可能なのでしょうか?】

【そりゃあ、相手の専属部隊に裏切れと言っても、余程ソイツが現状に不満を持ってない限り無理だろう。……それこそ、ずっと信じてた大切な誰かが上層部のせいで死んだとか、そんなことがない限り。

 だが、専属部隊をスパイにするのではなく、スパイを専属部隊にする、と考えれば現実味はあるだろ?】

【そちらもそちらで……余程優れた人材でもない限り、確実に専属AC部隊にまで上り詰めることなど、できないと思いますが】

【ああ、そうだな。余程輝く才覚と固い覚悟がある、ヒーローのような誰かがいない限り、そんなことは不可能だろうが……】

【…………?】

『?』

 

 どことなく物言いたげ、あるいは自慢げなナインに、エアと617は揃って首(エアは赤い球体の上部)を傾けていたが……。

 

 仕切り直すように、ナインが言葉を挙げた。

 

【さて、思案の時間はここまでだ。作戦時間30秒前。独立傭兵リンクス、仕事の時間だぞ】

『はい、了解しました、オペレーター』

 

 何はともあれ、目の前のことをこなさなければならない。

 617は、きゅっと操縦桿を握り直した。

 

 

 







 本日の傭兵事情

・識別名
 Rb31 独立傭兵「リンクス・ウィズ・カラー」
 ランク21/D(2↑)

・アセン
  『フォーアンサー』

 右腕:MG-014 LUDLOW(実弾軽マシンガン)
 左腕:MG-014 LUDLOW(同上)
 右肩:Vvc-703PM(三連プラズマミサイル)
 左肩:PB-033M ASHMEAD(パイルバンカー)

 ヘッド:HC-2000/SOS HOUND EYE(オリジナル)
 コア:EL-TC-10 FIRMEZA
 アーム:NACHTREIHER/46E
 レッグ:NACHTREIHER/42E

 ブースター:ALULA/21E(高性能高燃費)
 FSC:FC-008 TALBOT(近中距離改良型)
 ジェネレーター:DF-GN-06 MING-TANG(中容量高補充)
 コア拡張:アサルトアーマー(3回)
 リペアキット:使用可能(3回)

・収支
 +380,035c

[封鎖情報奪取]
 +200,000c(基本報酬)
 +24,000c(LC機体撃破4機)
 +20,000c(HC機体撃破)
 +18,000c(武装ヘリ撃破)
 +30,000c(特務機体撃破)
 +54,400c(軽MT撃破16機)
 +17,600c(汎用兵器撃破22機)

[臨時収入]
 +220,000c(解放戦線情報売却)

[経費]
 -25,960c(武装修理費)
 -49,992c(外装修理費)
 -8,801c(内装修理費)
 -64,400c(弾薬費)
 -5c(必需品購入)
 -155,000c(FC-008 TALBOT購入費)
 -22c(セーフルーム改築費)
 ─────────────────────
 +664,855c(284,820cの黒字)



《ナイン追記》
 617、めちゃくちゃ頑張った……!
 かなりギリギリではあったが、キッチリ基地は壊滅。
 マップや敵配置情報、俺とエアの情報工作があったっとはいえ、確かに彼女は力を示した。
 思わず手が出そうになることは何度かあったがしかし、やはり手を出さなくて正解だ。
 この死線もまた、彼女の成長の糧になってくれただろう。

 最近の617は情緒も豊かになってきたし、戦術的にも人間的にも伸び盛り。
 こんな時こそ、エアと一緒にしっかり支えていかないとな。



《617追記》
 つかれた……。
 でも、おにいさまもウォルターも、すっごくたくさんほめてくれた。
 がんばって良かった。もっともっと、ほめてほしい。
 次もがんばる。むん。

 はんせい点
 ・HC戦でスタッガーのたいみんぐがずれた パイルはずした! さいあく
 ・プラズマミサイルの数がたりない
 ・もっとパイルとキックでせつやくすべき



─────────────────────



 今回のミッションは結果から言うとAP4,000くらいしか残らない死闘でしたが、残念ながら大胆カット。
 ch3は書くべきことが多すぎるのです。
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