そして世に(銀髪薄幸美少女傭兵との)純愛のあらんことを   作:アリマリア

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 ラスティの言葉、含蓄に富み過ぎて再現が難しい。





理由なき強さ程、危ういものはないぞ

 

 

 

 惑星封鎖機構が、本格的に実力行使に出た。

 

 617が封鎖基地でのミッションを成し遂げてセーフルームに帰った数日後、飛んで来た急報がそれだ。

 

 別地方でミッションに当たっていた621は、その最中に出くわしたらしいが……。

 617もまた、セーフルームの窓から、異様な光景を目にすることになった。

 

 即ち、封鎖機構が誇る航空戦力の主力たる、強襲艦による制圧艦隊。

 無数の封鎖兵器が、空を埋め尽くすように横断していく様を。

 

『ルビコンに不法侵入した全ての勢力に告ぐ。

 直ちに武装解除し、封鎖圏外へと退去せよ。

 これ以上の進駐は惑星封鎖機構への宣戦布告と見なし、例外なく排除対象とする。

 繰り返す。例外はない』

 

 恐らくは旗艦なのだろう、先頭を行く艦から放たれたアナウンス。

 それはルビコン3、その中央氷原付近に、残さず響き渡った。

 

 強大に過ぎる戦力を見せ付けての、退去の要求。

 それは企業や独立傭兵への明確な示威行為であり、敵対宣言だ。

 

 617が封鎖基地で取得した情報は、そしてアーキバスの危惧は、正しかった。

 これまで定期的な哨戒や牽制で様子見を行っていた封鎖機構は、企業が中央氷原へ進出したことを契機として、積極的に動き出したのだ。

 

 

 

 これを以て、ルビコン3の情勢は一気に塗り替わった。

 

 これまでのルビコンの戦いは、主にベイラムとアーキバス間の競り合いの側面が強かった。

 両者共に集積コーラルの獲得を狙う2つの企業は、それぞれが調査のアドバンテージを握らないようにと足を引っ張り合っていた。

 封鎖機構に対しては刺激しすぎないようその目を掻い潜っていたし、合間に挟まる解放戦線からの横槍を厭いながらではあったものの……。

 戦場の中核は、この2つの企業が占めていたと言っていいだろう。

 

 しかし、封鎖機構が本格的に動き出したとなれば、もはや悠長に足を引っ張り合う余裕はない。

 封鎖機構の保有する戦力は、企業のそれとは、文字通り桁が違うのだから。

 

 そもそも惑星封鎖機構は、ルビコン3に根を張って長い。

 約半世紀前、アイビスの火と呼ばれる大災厄によってルビコンが廃星となって以来、決して外部から勢力を寄せ付けないように、内部にあるモノが持ち出されないようにと、徹底的に封鎖網を構築してきたのだ。

 その幾重もの防衛機構は、今まさにその真価を発揮しようとしている。

 

 それらの封鎖網の中で、両企業にとって何よりも厄介なのは……。

 やはり、ルビコン3の周囲を周遊する幾つもの衛星だろう。

 

 それからAI制御の下放たれる超高速・超高威力の砲撃は、違法な渡航者を問答無用で焼き滅ぼす。

 封鎖機構肝入りのセキュリティによって尋常にはハッキングすることもできず、相互に補完し合う広大な射程範囲によって守られて破壊することも困難。

 監視網は非常に手厚く、星系内の衛星基地の一つでも破壊しない限り、これに穴が空くこともない。

 まさしく最強の矛であり盾。機構の誇る絶対の封鎖だ。

 

 この衛星の下では、如何に巨大な資本を持つ企業といえど、ルビコン3に大戦力を送り込むことができない。

 戦場を支えるMTやドローンといった戦力は現地企業から購入して揃える他なく、星外から持ち込めるのは精々が専属AC部隊の人員とそのACくらいのものだ。

 

 対して封鎖機構の戦力は、極めて膨大。

 その恐るべき衛星砲や、巨大かつ強力な破壊力を持つ強襲艦隊を筆頭に……。

 互換性や汎用性を妥協する代わりに、全てのスペックがACを大幅に越えた執行機体。

 凄まじい機動性を持つエクドロモイや、正面戦闘に長けたカタフラクト等の特務機体。

 そして……ルビコン調査技研が生み出した負の遺産たる、C兵器の数々。

 それらの兵器を膨大な数保有し、またパイロットに関しても非常に高い練度を保持している。

 

 企業本社から戦力を引き出せるのならともかく、この封鎖環境下のルビコン3においては、正面きって封鎖機構とぶつかるのは愚の骨頂。

 圧倒的な物量で押しつぶされた挙句、静観していたもう一方の企業に出し抜かれて終わるだけ。

 

 それを理解していたからこそ、ベイラムもアーキバスも、封鎖機構とは本格的に事を構えずにいた。

 

 これを前提とし、ルビコン3の戦況は、危ういバランスではありつつも均衡を保っていたのだが……。

 その均衡は今、封鎖機構の手によって、打ち砕かれた。

 

 

 

 * * *

 

 

 

『外部通信、一件』

 

 AC「Loader4」とAC「フォーアンサー」。

 ハウンズの所有する二機のACのコックピットに、淡々としたCOMボイスが響く。

 

 その表情を微かに真剣な色に染めた617と、軽くストレッチをしながら気負いせず言葉を待つ621。

 対照的な反応を見せる2人に対して、果たして向こうから届いた声は、既知の男性のものだった。

 

『やあ、レイヴン、リンクス。

 君の良き戦友、あるいは朋友……ヴェスパー部隊のラスティだ。

 ベリウス以来か、久しぶりだな。再び君たちと言葉を交わせたこと、嬉しく思うよ』

 

 アーキバス専属AC部隊、V.IVラスティ。

 ハウンズの両者が共闘したことのある相手だ。

 

 

 

「ひさしぶり、ラスティ」

 

 応える621の声は、気楽なものだった。

 

 621にとって、ラスティは良き戦友であり、ある意味では同志でもある。

 自らの大切なものの為にルビコンで戦い、時に肩を並べ、時に覇を競ってきた……戦いの中で友となった、文字通りの戦友。

 たとえラスティがその記憶を持っておらずとも、621は彼が気持ちの良い友であると知っている。

 故にこそ、返事は気楽で、なおかつ気安い。

 

『お久しぶりです』

 

 一方で、617の合成音声には、最近少しだけ見られるようになった感情が籠っていない。

 

 彼女にとって、ラスティは未だ、他人にも近しい立ち位置の相手だ。

 確かに依頼で一度共闘はしたが、特にその後にやり取りなどもしていない現状、何故「朋友」と呼んでくるのか、何故微妙に馴れ馴れしいのかわからず、むしろ困惑している部分が大きい。

 

 621との心情の違いは、やはりラスティと接した時間と……。

 その情緒が発達する段階から、彼女を認めてくれる「おにいさま」が存在した、という側面が大きいだろうか。

 

 

 

 621の気安い対応と、617のやや警戒の覗ける対応。

 対極的な2つの反応に苦笑した後、ラスティは話を続ける。

 

『積もる話はあるが……今は時期が時期だ、早速本題に入ろう』

 

 彼の挙げる本題は、やはり封鎖機構の動きについてだった。

 

 封鎖機構はその強襲艦隊をルビコン全面に展開。徹底した封鎖の声明を出した。

 そこまでは、617も知るところだったが……。

 その先に語られたのは、企業所属のラスティだからこそ知り得る情報だ。

 

『朋友から貰った情報を元に防備は固めていたが、何分相手の動きが早かった。

 うちもいくつかの調査拠点を失ったよ。ベイラムよりは被害軽微に済んだがね』

 

 強襲艦隊を動かす以上、ただパレードをするだけで終わるわけもない。

 封鎖機構は行きがけの駄賃と言わんばかりに、両企業の拠点に一斉攻撃をしかけていた。

 この動きを予期していなかったベイラムは勿論、617から情報を得ていたアーキバスでさえも、その一気呵成な侵攻を前には被害を避けられなかったらしい。

 

 ……そうして、企業が打撃を受けた一方で、第三勢力はと言えば。

 

『両企業にダメージが入り、封鎖機構への対策に追われる現状。

 ルビコン解放戦線は、ある意味ではこれを好機と捉えているようだが……私から言わせれば、甘く見積もり過ぎている。

 封鎖機構の危惧の本質は、コーラルの星外への漏出ではなく、コーラルの危険性そのものだ。

 今は両企業に対応に追われているが、それらが撤退したとなれば、彼らは当然のようにルビコニアンのコーラル利用すら制限し始めるだろう。

 そしてこの未来は、おおよそ最も現実的と言っていい程にすぐ傍にある』

 

 ルビコン3を守ろうとする現地勢力、解放戦線の立ち位置は、とても微妙なものだ。

 

 まず、ルビコン3に不法に居を構え、自分たちに不当な圧政を強いて来る企業は、何においても優先して排除しなければならない。

 その点で言えば、封鎖機構が本格的に動き出したのは確かに好機だ。

 この状況を上手く活用すれば、企業の力を大きく削ぎ、あるいは星外へ撤退させられるかもしれない。

 

 しかし、それで封鎖機構だけが残ったとすれば……。

 そこに待っているのは封鎖による秩序というお題目の下での飢え死にだ。

 

 ルビコン3は不毛の大地。ルビコニアンたちの主食は、コーラルによって育成するミールワームである。

 コーラルの使用が制限されることは、即ち流通するミールワームの数が減少し、そのまま餓える者が増えることを意味する。

 そして、宇宙や人類総体といったマクロな観点に焦点を置く封鎖機構は、そのようなミクロの観点に配慮することはない。

 

 企業は排斥せねばならず、かと言って封鎖機構を残すわけにもいかない。

 彼らが真に故郷を、故郷の人々を守りたいと望むのなら、全ての星外勢力を排除するべきだろう。

 

 その難易度は果てしなく高い。

 短絡的な益に目がくらめば、一瞬でその道が途絶えてしまう程に。

 

 

 

『総じて、このままでは企業も解放戦線も、それらから仕事を得る独立傭兵も、共倒れだろう。

 上の方でも、ベイラムと一時的な不可侵を取り付ける方向で動いているらしい。共通の敵は集団を結束させる、というわけだ。

 そういう意味では、君たちと肩を並べて戦う、またとない好機とも言えるか。私にとっては幸運かもしれないな』

 

 冗談めかしてそう纏めたラスティは、しかし。

 不意にその笑みを収め、やにわに口調に真剣さを宿した。

 

『企業は封鎖機構への対策に追われ、解放戦線は浮足立っている。

 強力な独立傭兵たる君たちにとっても、あるいはこの環境は好機と言えるのかもしれない。

 それでは……君たちは、この戦いの果てに、どんな未来を見ている?』

 

 一つの陣営に強力な傭兵が固まっていることを危惧してか、投げかけられた疑問。

 それに即答したのは、621だった。

 

「独立傭兵レイヴンの答えはひとつ。

 選んで生かし、選んで殺す、4つ目の答え(フォーアンサー)を……私のせんせいと、共に」

 

 声は静かで、固い決意が秘められていた。

 

 それが621の、ただ一つの願い。

 救いたい、救いたかった人を、救う。

 この世にただ一人だけ現れた、理解者と一緒に。

 

『なるほど……君には、戦うに能うだけの背景があるのか、戦友。

 それが私の望む未来と交わることを願うよ』

 

 ラスティの応えも、どこか満足したものだった。

 

 理由のある強さ。理由のある力。世界を変えるに能う信念ある存在が、戦友であること。

 それは彼にとって、快いものだ。

 

 仮に敵となれば、正面からその力をぶつけ、乗り越える。

 仮に友となれば、肩を並べて共に戦い、故郷を救う。

 

 そのどちらになったとしても……きっと彼は、後悔だけはしないだろうから。

 

 

 

 ……その一方で、617は。

 

『リンクスは……』

 

 そこで、合成音声の発話が、止まる。

 それはつまるところ、彼女の思考の行き詰まりを意味していた。

 

 彼女の望みは、端的に言うならば、621のそれに近い。

 大切な人を守りたい。大事な人を助けたい。

 621の想う未来と異なる点は……その像が、明確ではないことだ。

 

 どのような未来を見るのかと問われ、彼女は初めて気付いた。

 617には、真の意味で望む未来がないことを。

 

 「望むものが何もない」と言えば、それは嘘になるだろう。

 しかしそれは、未来ではない。

 ウォルターの下にあり、ハウンズの仲間に戦場を駆け、おにいさまと共に生きる……彼女の望みは「今この瞬間に叶っている現在」だ。

 

 彼女の望みは、既に叶っている。

 彼女は今、非常に満足している。

 言い換えてしまえば……未来にかける願いを、何も持っていない。

 

 実のところ。目の前のことはともかくとして、遠い未来のことなど、彼女は考えたことがなかった。

 そもそもが兵器の一部品に過ぎない強化人間。幸運にもウォルターという善良な人間に拾われたとはいえ、その将来が明るいものになどなるはずもなく……。

 ……実際、あり得べからざるイレギュラーさえ発生しなければ、彼女はルビコン1での封鎖基地の戦いで死ぬはずだった。

 ただその瞬間を生きることに必死であった彼女は、未来に目を配る余裕などなかった。必死に生き足掻くしかなかったのだ。

 

 けれど、あの地獄の戦場を境に、彼女を取り巻く状況は変化した。

 一人のイレギュラーの介入が、彼女に余裕と成長の機会を与えたのである。

 

 そうして、あれから1年弱。

 

 ウォルターやナイン、パッチに621、カーラ。

 様々な人との触れ合いによって育ちつつある、情緒。

 

 それがラスティからの真摯な問いかけという契機を得て、彼女自身に悟らせてしまった。

 

 自分たちに語りはしないが、明確な絵図を描いているウォルター。

 時々おにいさまと共に、どのように戦況を進めるか相談している621。

 2人と、617は違う。

 

 ハンドラーとハウンズの中で、ただ一人。

 彼女だけが、未来を見ることができていない、と。

 

『…………』

 

 そのショックは、彼女の言葉を発せぬ口を閉ざさせるに十分なものだ。

 

『……朋友は、未だ見出せないか。君自身が戦う理由を。

 これからはよく考えておくといい。理由なき強さ程、危ういものもないぞ。

 いずれ、君が君自身の背景を手に入れた時……共に並び戦えることを期待しよう』

 

 返されたラスティの言葉は、厳しくもあるが……。

 同時、どこか後進を見守るような、優し気な色合いも秘めていた。

 

 

 

『……少し、踏み込みが過ぎたな。すまない、二人とも。

 改めて、封鎖機構が事を構えた以上、ルビコン3の戦況はこれから過酷を極めていくだろう。

 それに向けて、君たちにはアーキバスから、一つ依頼を出させてもらっている。

 傭兵部隊ハウンズの力、ぜひとも貸してほしい。

 互いに、守るべきものを守るために、この戦場を駆けるとしよう』

 

 

 







 今周のハウンズ陣営の戦力はこれまでより相当手厚いので、ラスティはこれまで以上に積極的にアタックしてきます。

 そういえば、1周目プレイ時、この辺りまではラスティに半信半疑だった思い出。
 こういうカッコ良すぎる男、最後までカッコ良いか裏切るかの二択ですからね。
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