そして世に(銀髪薄幸美少女傭兵との)純愛のあらんことを 作:アリマリア
自由度の高い基地攻めミッション好き。燃料基地襲撃とか旧宇宙港襲撃とか。
「宣伝とはな……。
617、お前はマスコットではない。アーキバスからの依頼、ナインの懸念もある。気を引き締めてかかれ」
やや気分を害しているらしいウォルターの言葉と共に、AC「フォーアンサー」は輸送ヘリから投下された。
上空から落下、細い二脚で雪に覆われた地面に着地し、同時に「フォーアンサー」のCOMが告げる。
『メインシステム、戦闘モード起動』
コックピット内にいる617──独立傭兵リンクスの網膜に、多くの情報が表示される。
自機のAPやリペアキットの数、両腕両脚の武装とその残弾、コンデンサー内に貯蔵されたEN、敵性反応を簡易的に示すマーカーやACS負荷状況、座標を示す数字や現在の小目標、ロックオンサイトと照準……。
本来であれば、あまりの情報過多で混乱してもおかしくはないが、一つの「ACの部品」として「強化」された強化人間である彼女の脳は、効率的にそれらを吸収し理解する。
……が、そもそも。
それらの情報は多いようでいて、実のところ、これまでで一番少なかったのだが。
【リンクス。今回、俺たちはオペレートこそ行うものの、情報や武装に関する支援は行わない。
マップや敵性存在の配置は君自身で確かめなくてはならないし、最近は慣れっこだろうが、FCSの性能も並みに落ちていると思っていい。
一人の独立傭兵として、自由にこの高難易度ミッションに向き合ってみろ】
『了解しました。独立傭兵リンクス、行きます』
宣言すると同時、彼女はACを前に進める。
即ち、今回の作戦地点……封鎖機構の補給拠点、ヨルゲン燃料基地へ。
今回リンクスが受けたミッションは、ヨルゲン燃料基地襲撃。
シュナイダーの親企業アーキバスが企図した、独立傭兵たちを駆り立てるための一手である。
これに対し、ナインは言った。
今回のミッションで、自分は617を情報的にサポートしない、と。
彼はこれまで617がミッションに挑む際、作戦地点の地形情報や敵配置、戦力等を事前に調べ、617に伝えていたが……当然ながら、これはオペレーターがパイロットにする支援としては破格すぎるもの。
独立傭兵としての実力に、大幅に下駄を履かせる行為だった。
それを止めたということは、勿論、彼が617を見放したというわけではなく……。
彼女を一人前の独立傭兵として認めた、ということ。
……であると、617はそう思う。
故に彼女は、一見して冷静沈着そうな様子でありつつも、内心ではふんすと意気込んでこのミッションに望んでいる。
今日こそ一人前の実力者として、ナインやウォルターの役に立てるようになるのだと。
ある意味での分水嶺であり、決戦場ではあるが……そこには緊張も油断もない。
ナインの課す
シミュレーションから実戦になったといえど、戦場での殺し合いは、「いつものこと」に過ぎないのだから。
【ミッション開始だ。封鎖部隊の駐屯部隊を排除しつつ、エネルギー精製プラントを目指せ】
オペレーターであるナインの声と、彼女の右肩に背負われた6連装プラズマミサイルの射出によって、戦端は開かれた。
新しく購入したFCSによる、以前より格段に早いマルチロック。
発射弾数が倍増したことにより、命中精度も高まったミサイル。
それらは過たず、基地前で哨戒していた小型の汎用兵器たちに降り注ぎ、プラズマの爆風によって機体を破損させ爆発せしめた。
しかし、こんなものは前哨戦。
リンクスはそれらに足を止めることなく、爆風の間を縫うようにすり抜け、数メートルという高さの外壁を跳び越えることで基地に侵入する。
しかし、基地の外部にいた汎用兵器たちは、恐らく破壊される前提で索敵と警戒のためにあったのだろう。
内部の封鎖機構構成員たちは、既に侵入者の存在を気取っていた。
『コード15、所属不明機体が基地に侵入した。
AC単騎。パーツの不統一から独立傭兵、企業の雇用戦力と推定。排除執行する』
侵入と同時、淡々とした声がリンクスの耳に入った。
AC「フォーアンサー」内部、通信システムから出力されたものだ。
ハウンズの乗機の通信システムには、ウォルターの手によって改造が施されている。
自分たちの使う回線や広域放送の他、一部の回線……封鎖機構のローカル通信を含むそれらを、彼女たちは傍受することができるのだ。
これまではナインがチャンネルを合わせてくれていたが、今回はその補助もなし。
617は基地までの経路で、この基地のローカル回線にチャンネルを合わせて来ていた。
情報は力だ。相手の言っていることを聞ければ、その分強く立ち回れる。
617はこれまでの経験から、それを理解していた。
『コード15……「襲撃の報告」、だったはず。
周囲を観察しながら一人呟き、冷却を終えたミサイルを再び射出。
ロックオンサイトに捉えた3機の軽MTたちに対して、流れるようにミサイルが飛び……着弾。
弾頭から強烈なプラズマが迸り、MTたちを爆散せしめた。
以前、621と共に、ナインから受けた授業を思い出す。
【ミサイルとプラズマミサイルの違いと住み分け。
これは一発の威力を重視するか持続火力を求めるか、そして誰を仮想敵にするか、の3つだ】
脳内の赤い光が形を変え、まるでボードのように四角く縁取り、中に文字を並べていく。
【ミサイルの主眼は、そのミサイル自体の命中。単発でスペック通りの攻撃を与えることができる。
プラズマに比べて一度に放てる数は多いが、最大威力は低い。ACSの稼働した敵に対するダメージとしてはあまり期待できるものじゃない。一発二発程度なら軽MTでも耐えて来るだろう。
個人的なおすすめの用途は、AC規格以上の大物狩りだ。ACS負荷を残留させたり、その弾幕によって相手の行動を縛ることができる。また直撃補正も高いため、スタッガーへの畳みかけにも有効だ】
【対してプラズマミサイルの主眼は、着弾時のプラズマ爆発。爆風は着弾から数秒間続き、爆心地付近に持続的にダメージを与える。
一度に放つ数が少なく、直撃補正の低さから畳みかけにはそこまで有効にならない。また爆心地からすぐに逃げられれば、微かにしかダメージを与えられない。
しかしその代わり、プラズマ爆発の中から逃れられないような足の遅い敵には、たとえACSが働いていても大きな打撃になる。
おすすめの使い道は、雑魚狩りだな。特にクイックブーストの機能がない、BAWSの軽二脚程度の機体なら、ミサイル一発で簡単に破壊できる】
ミサイルそれぞれのコンセプトと、有利不利。
それも、研究者が語る机上の空論ではなく、確かに実戦を経験しているからだろう、説得力のあるそれ。
617も621も正しく認識できてはいなかったが、それはこのルビコン3において、値千金と呼んでもいい情報だった。
【ミサイルは強敵に対して強い。プラズマは雑魚に対して強い。
それを踏まえて、自機のコンセプトと照らし合わせ、使うものを決めるといい】
果たして617が選んだのは、プラズマミサイル。
それも、Vvc-706PM──元の三連装から六連装へと、その同時発射数を強化したものだった。
「フォーアンサー」の、プラズマミサイルを除いた現在の武装は、3つ。
両腕に「
左肩に「
それらは主にナインブレイク、ナインとの1対1のAC戦に強く影響されたもの。
相手に息つく間もなく攻撃を浴びせ、スタッガーを取って一気に叩き潰す……。
つまるところ、相手に主導権を握らせずに一方的に圧殺することに主眼を置いたコンセプトだ。
対強敵用に調整されたアセンブル。
逆に言えばこの機体は、軽量MTや汎用兵器の対処を想定しておらず、それへの有効打に欠ける部分がある。
実際大量の敵と交戦するタイプのシミュレーションで、プラズマミサイルを使わなかった場合、リンクスのスコアは格段に下がっていた。
故に彼女が求めたのが、軽MT級までの敵を簡単に倒せる武装であり。
ある意味では、その決定版こそがこのプラズマミサイル。
視界のロックオンサイトに捉えさえすれば、後は自動的に照準に捉え。
完全に補足すれば強い誘導がかかり、敵に喰らい付き。
たとえ直撃せずとも、軽MT級の機動力では爆風に巻き込まれて破壊を免れず、配置次第では周りの敵にも被害を与えられる。
色々と試してはみたが、スムーズなミッション成功を目指せば、これ程にわかりやすく「フォーアンサー」の穴を埋めてくれ、なおかつ617の手に馴染む武装はなかった。
……まあ、元より
「フォーアンサー」が捉える映像の中で爆散する、三機の封鎖機構MT。
一機は回避しようと、クイックブーストで機体を躍らせていたが……。
挟みこむように飛んだプラズマミサイルの爆風からは逃れられず、その爆風の中に散った。
飛ばしたのが一発であれば、あるいは回避されたかもしれない。
六連装となり、三機にそれぞれ二発ずつミサイルを飛ばすことができたのが、今回は有用に働いたようだ。
「よ、し……!」
自分が購入した武装が、上手く機能した。
その達成感に617は思わず小さな呟きを漏らす。
【ふふ……いえ、すみません。
リンクス、燃料貯蔵タンクにも追加報酬が設定されています。そこに関してもお忘れなく】
【基地は広い。可能な限りCOAMを稼ぐのなら、弾数の消耗を減らすことも視野に入れた方がいいぞ】
『はい!』
二人の実地オペレーターの声に支えられるような心地で、617は機体を前へと走らせた。
* * *
警備を固める封鎖機構MTに、燃料を溜め込んだタンク、ミサイルを打ち出して来る固定砲台。
リンクスがそれらを、ミサイルやマシンガンを使って堅実に破壊しながら進む内……。
『コード5、所属不明AC。基地外縁部到達、排除執行を開始する』
「フォーアンサー」がブーストを走らせる先に待つ封鎖機構の敵機から、その報告を傍受する。
その機体の名は
全長はACの2倍近いこれは、ACのようにパーツを組み替えることを想定しておらず、その代わりに高度な性能で固められた、「執行機」と呼ばれるモデルの1つ。
汎用性を欠き、ただひたすらに敵を排除することに特化させた機体。
まさしく「封鎖の執行機体」というわけだ。
一機一機がACを凌駕する性能を持ち、下手なAC使いなどより余程驚異的なそれを前にして。
けれど617は全く怯むことはなかった。
なにせ、LC機体はこれまでに、何度も撃破してきたのだから。
相手に気付かれると同時、617はアサルトブーストを起動。
放たれるライフルの雨の中、軸をずらすことでそれらを躱し、あるいは直撃を避け。
両腕武装の有効射程150mまで接近してもなお止まらず、マシンガンの弾幕をまき散らしながら、ほんの目の前に至るまで突進する。
『なっ……!』
こちらから前に出て、相手に圧をかけようとしたLC機体のパイロットは、思わずと言わんばかりに驚嘆の吐息を漏らした。
現代機動戦は近距離での殴り合い。
しかしだからと言って、ACを遥かに凌駕したスペックを持つLC機体に対して、ここまで恐怖もなく距離を詰める動きは異常と言う他ない。
普通の傭兵なら、様子を見る。
ある程度の距離を取り、被害を抑え、付け入る隙を探そうとする。
LC機体を、ひいては封鎖機構を恐れるからこそ、そうして慎重に戦おうとする。
それをしないのは、余程の馬鹿か、あるいは───。
「…………」
617は、理解している。
LC機体には、一撃でスタッガーを強いる程の強力無比な武装はない。
故に一気に接近してしまえるし……。
ゼロ距離にまで詰め切ってしまえば。
そこは、彼女の射程だ。
この距離であれば、彼女は……あの621にさえ、遅れを取らないのだから。
「っ!」
機敏な動きでLC機体の背後を捉え、翻弄し。
外しようのない距離で、マシンガンの弾丸が嵐のように降り注ぎ。
クイックブーストで距離を離そうとすれば、即座に切り返してそれを埋められ。
殆ど何もできないまま、LCはスタッガー状態に陥ってしまう。
『なっ!?』
対して「フォーアンサー」は、クイックブーストで距離を詰め切り、左肩から武装をハンガー、それをほぼノータイムで振りかぶった。
繰り返しで染み付いた動作に、凝縮された殺意。
作業のように人を殺し、楽しんでその力を蓄える、その様は正しく。
『コード78C! この傭兵、
ガコォンッ!!
最後まで、言葉を語り切ることすらできず。
凄まじい轟音と共にLC機体はひしゃげ、壊れ、吹き飛ばされた。
そして、それを為した下手人と言えば。
『次に向かいます』
自分が下した、本来なら強敵と認識されるべき相手の方には目線すらくれず、アサルトブーストを噴かせて次の地点へと飛び去ったのだった。
LC機体とかいう強いようで弱い最高のやられ役、好き。
狙撃型はAPが1000しかないと知ってめちゃくちゃ驚いた思い出。