そして世に(銀髪薄幸美少女傭兵との)純愛のあらんことを   作:アリマリア

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 語尾に(笑)が見える見える





最終的にはそちらの判断ですが、即断はしない方がよいのでは?

 

 

 

『うーん……』

 

 首に嵌められた首輪型のデバイスが、617の靄がかった内情を吐露する。

 特に意味を持つ言葉ではないが、しかしデバイスが汲み取ってしまう程に大きなそれ。

 が、彼女はそんな言葉が漏れたことに気付いた様子もなく、その目に映る資料を見つめ続けた。

 

 本来、下半身不随である彼女は、しかしナインの介助の下であれば、問題なく歩行が可能だ。

 勿論、そこには多少の面倒があるが……。

 使わない筋肉は落ちてしまい、それを取り戻すのはなかなかに手間がかかる。

 617が将来、平穏な日々と健常な身体能力を取り戻すことを考慮すれば、定期的に脚は使っておくべきだ。

 そんなわけでナインとウォルターの協議の下、617は休暇中、たまにセーフハウス内や近傍を散歩することに決まっている。

 

 そうしてその日もまた、彼女は拠点内をてこてこと歩いていたのだが……。

 歩いている最中もぼんやりとしている彼女の様子に苦笑したナインは、「一度休憩を挟もうか」と言い、彼女を椅子に座らせた。

 

 するとすぐ、彼女は言ったのだ。

 

 『おにいさま、パーツのカタログをください』と。

 

 

 

 先日のミッション、燃料基地破壊は、大きな儲けが出た。

 作戦以前に購入していた六連装プラズマミサイルの購入費を差っ引いてもなお、純利益20万COAMを越えるという、非常に大きな収入だ。

 

 617の経験を積むことと、パーツ購入のためのCOAMの確保。

 ナインの企てていた2つの目的は、十分すぎる程に達成されたと言っていいだろう。

 

 結果として、現在独立傭兵リンクスの所持COAMは、90万オーバー。

 おおよそどのようなパーツも買えてしまうだろう金額である。

 

 勿論、その全額を使うというわけにもいかないが……。

 これまで結構厳格に──と本人は思っているが、その実結構617にあまあまではあった──財布の紐を締めてきたナインが、それを緩めるには十分な契機と言えた。

 

 そんなわけで、ミッションが終わった4日前。

 ナインは彼女に、予算60万COAMで好きにパーツを買うことを許したのだ。

 

 ……それによって起こることなど、予測もできないままに。

 

 

 

 それ以来、617は変わってしまった。

 

 いや変わってしまったというか、なんというか。

 

「617。この前のミッションだが……617? 聞いているか?」

「…………」

 

「617、明日シミュレーションでもぎせんしよ。この前のえいぞう、すごく……あ、また見てる?」

「…………」

 

【617ー、617ー? ご飯の時間だぞ? ウォルターが呼んでるぞ?】

「…………」

 

【あの、リンクス? 流石にそろそろ……もう3時間になりますよ? 一度体を動かさないと】

「…………」

 

 別に、わざと仲間の声を無視しているというわけではない。

 この4日、617はずっとぼんやりしていたのだ。

 

 大好きなウォルターのご飯の時間になっても、鍛錬の時間になっても、散歩の時間になっても、621に声をかけられても……。

 結構強めに声をかけられない限り、反応もせず、ぼーっとしている。

 

 とはいえ、それはウォルターから見た場合の姿だ。

 変異波形2つ、そして彼らから事情を説明された621は、事情を知っている。

 

 617はぼーっとしているのではなく、その網膜に映るもの……。

 ナインが投射している、現在購入できるパーツ群のカタログとにらめっこしているのだ。

 

「おどろいた。617がこんなに夢中になるなんて、これまでになかったよね?」

【そうですね。……リンクスは、戦闘技術の錬磨に余念がありませんから、ある意味では予測できる結果だったかもしれませんが】

【んー、だからって4日はな。少々入れ込みすぎかもしれない。いい加減結論を出すように言おうか】

「訓練を忘れることはともかく……食事と睡眠を忘れることは、あってはならん」

 

 もはや保護者以外の何者でもない4人は、彼女の思わぬ変化にため息を吐きつつ、しかし同時に嬉しくも感じつつ、対策を図ることとなった。

 

 

 

 さて、そんな日々の中。

 散歩の途中で休憩のために座った椅子、再び617はカタログとにらめっこを開始してしまったわけだ。

 

 そんな彼女の脳内で、ナインは咳払い。

 

【さて、617。そろそろどのパーツを買うか決まったか?】

「…………」

【617、617ー。…………俺の可愛い617】

「はッ!? あ、ぅ……」

 

 思わぬ言葉に、尻尾があるならピンと立てただろう617。

 咄嗟に顔を上げて言葉を出そうとし、焼けた喉に引っかかり……。

 何度か咳払いした後、首輪デバイスを起動する。

 

『ええと、なんでしょうか……お、おにいさま』

【やっと答えてくれたか。少々熱を入れ過ぎだぞ、君。

 まあ気持ちはわかるがね。俺もパーツショップの冷やかし死ぬ程好きだし、これは傭兵の性か】

 

 苦笑交じりの言葉と共に、ナインは617の頭を撫でる。

 

 617は、その感触が、以前よりもずっと確かなものになっていると感じた。

 ルビコン1にいた頃は、微風に撫でられる程度のものだった。

 ルビコン3に入って、確かな感触を得られるようになった。

 そして、中央氷原に入ってから……それは、殆ど人の手に撫でられるのと変わらないものになった。

 

 実際、その感触の元に手を伸ばし、ゆっくりと引き寄せれば……。

 視界の中に赤い手のようなものが映り、617の頬へと移動してくれた。

 

 赤く輝く、眩い手。

 温かくて、優しくて、そして強くて……自分を守ってくれて、きっと自分が守る手だ。

 

【ふ……そんな表情をしてもらえるんなら、日々リソース拡張に努めた甲斐があったというものだ。その内、君たちの遊び相手でもできるようになるかもしれないな。

 ……いや、そうじゃなくて。617、そろそろ購入するパーツは決まったか?】

 

 一瞬和んで本題を忘れかけたナインは、慌てて話を戻す。

 

 昔の617は、とても真面目で真っすぐだったため、問題は起こらなかったのだが……。

 最近自我が育ちつつある彼女には天然気味な一面があり、ナインは時々振り回されてしまう。

 

 本人には振り回している自覚など欠片もない。

 もしかすると617は、魔性の女と呼ばれるようになる素質があるのかもしれない。

 

 

 

 ともあれ、今はパーツの話だ。

 

『はい。ある程度、候補を絞り込めました』

【……試用もなくカタログスペックだけ見て、4日でようやく絞り込みか。

 うん、やっぱり君、尋常じゃなく拘りが強いタイプだな】

 

 ふとナインが思い出すのは、ナインブレイカーの成績。

 ナインは、難易度の上下を示すレベルと、それぞれのレベルの中での成績を金銀銅で分けた評価を以て、成績表を付けているのだが……。

 

 621はレベル3以降にしか評価が付いていなかったり、低いレベルは銅の評価で終わっているものもある。

 対し617の方は、下のレベルから全て評価で埋めていっているし、金の評価を取れるまで何度も何度も同じトレーニングに挑み続けたりもしている。

 

 それぞれの、現時点の戦力の違いという要因もあるのだろうが……。

 何より、取り戻しつつあるハウンズたちの生来の性格が、そこには如実に表れていた。

 

【まあ、咎めはしないが、時間は待たないからな。ひとまず今は、君の判断を聞こうか】

『はい。おにいさま』

 

 小さく笑みを浮かべて、617は口を開く。

 

 

 

 まず、彼女が真っ先に目を付けたのは、どうやらアームパーツだったらしい。

 

『今使っているナハトライアーは、近接武装適性がカスすぎます』

【カッ……君、どこでそんな言葉覚えた。ラミーか? 場合によっちゃアイツぶん殴らないといけないが】

『いえ。ルビコン1で、パッチが打ち上げの際に言っていました。「めちゃくちゃ悪いってのはこう言うんだぜ」、と』

【あのロリコン小悪党がよぉ! 教育に悪いこと教えてんじゃねえぞボケ!

 ……いやしかし、それはそれとして。射撃武器適性は最高値だぞナイトライアー。悪いパーツじゃあない】

『駄目です。パイルを当てた時の火力は正義です。低くなるなんて受け付けられません』

【わァ……あ……染まっちゃった!】

 

 617は、パイルの火力に脳を焼かれてしまったらしい。

 強化手術、ウォルター、ナイン、そしてパイルで、通算四度目。

 ここまで脳を焼かれた人間はルビコン広しといえどいないだろう。とんでもない人生である。

 

 さて、そんな思想の上で、617が候補としたパーツは2つ。

 どちらも、今の「フォーアンサー」に適応する軽量機向けのパーツだ。

 

 1つはAA-J-123 BASHO。ルビコン現地企業BAWS製の、旧世代型パーツ。

 非常に安価でありながら最高級の近接武器適性を持つが、射撃反動抑制や射撃武器適性を筆頭に、他の性能が軒並み低い。

 言うならば、その性能を極端に全振りした、近接特化のアームパーツだ。

 

 1つはVP-46D。アーキバス謹製の最新パーツ。リンクスがアーキバスから厚い信頼を得たからこそ買えるようになった一品であり、実はナインが目標としていたものでもある。

 アームパーツとしてはかなり高額になるが、射撃武器適性と近接武器適性を非常に高い水準で両立しており、攻撃面においては万能と言っていい。

 その一方で、防御面の性能は決して高くはない。堅実なベイラムとは異なる、アーキバス特有の思想が見えるパーツである。

 

【うん、なるほど。見事にカタログの中で近接武器適性トップ2のパーツを選んで来たな君。そこは君にとって譲れない一線なわけだ】

『はい。常々思っていたのです、もっとスタッガー中への追撃火力を高められたら、と。

 たとえおにいさまに言われても…………おにいさまに言われたら、少しくらいは妥協しますが』

【その気持ちはこの上なくありがたいが、君が妥協する必要はないさ。乗り手が効率的に、そして楽しく戦えるのが一番だからな】

『はい!』

 

 その後、ナインが「安物買いの銭失い」という言葉を教えたことで、617はVP-46Dを購入することを選択した。

 

 その非常な高性能の対価は、258,000COAM。

 予算の半分近くを消費してしまったが、しかし617はむふーっと満足そうであった。

 

 

 

【さて、残りは342,000CAOM。他に気になるパーツがあったら……】

『はい! これとこれとこれとこれとこれとこれと』

【よーし一旦待とっか。ゆっくり一つずつ教えてね?】

 

 そこから617が提案した武装は、多種多様。

 

 遠距離に対する牽制としてリニアライフル。

 弾倉の増えた重マシンガン。

 621が愛用していた重ショットガン。

 範囲攻撃と衝撃蓄積に長けたバズーカ……。

 対ACの威圧能力に長けたハンドミサイル、ある程度武装を積み込めるようになる積載上限の高い中量二脚レッグ、逆に積載上限は下がる代わりに高い跳躍力を持つ軽量逆関節、ブースト移動特化のブースター、バランス型のブースターに上昇推力に長けたブースター、容量の増加したバランス型ジェネレーター。

 

 挙げたパーツ一つ一つに対して、彼女は『こちらはここが良いと思います』『この局面で役に立つかと』『実際に計算した結果、機体のEN上限が』と、必死に、そして楽しそうに語っていた。

 この四日間、どれだけ夢中になっていたかがわかる姿だった。

 

 ナインもそれに、一つ一つ丁寧に返答していく。

 微笑ましいという気持ちが半分、オペレーターとして相談相手になるという気概が半分。

 ……それから、見事にドハマリした後進に、しっかり楽しんでもらって沼に入ってもらおうというオタク心が少しだけ。

 

 他人のアセンの相談に乗ることが楽しくないわけもなく、彼も彼で盛り上がって。

 ミッションの状況、武装の有用性、四脚への移行の可否、ACのACSの脆弱性、ナインの電子戦能力について、617の現状の戦闘力分析、621との差、ナインとエアの関係、ミッションにおけるオペレートの方向性。

 

 たまにではなく頻繁に話が逸れながらも、2人は長いこと語り尽くし……。

 

 

 

【……あの、ナイン。楽しい気持ちはわかりますが、そろそろ……】

「617ー、ご飯……ご飯の時間……おーい」

 

 ミイラ取りがミイラになったか、と。

 ずっとテーブルで語り合う2人に、621とエアは呆れの籠った視線を向けていた。

 

「せんせいって、時々、天然だよね」

【まあその、少し変わったところはありますよね】

「…………たまには、617だけじゃなくて、私ともたくさん話してほしいんだけど」

【……ええ、私もそう思います】

 

 呆れ以外の感情も籠っていたかもしれない。

 

 

 







 平和な日常(なお話題は闘争関連か修羅場ばかり)
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