そして世に(銀髪薄幸美少女傭兵との)純愛のあらんことを   作:アリマリア

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 問題を力づくで解決するからこそのイレギュラー。





あ、そうなんだ。で? それが何か問題?

 

 

 

【レイヴン、リンクス。改めて、依頼の確認、ありがとうございます。

 解放戦線の実質的指導者、ミドル・フラットウェルより依頼が届いています】

 

 

 

「ルビコン解放戦線、中央氷原支部司令、ミドル・フラットウェルだ」

 

「企業が海越えを果たして以来、我々は両企業への反抗姿勢を強めているが……。

 本格的な反転攻勢を行う前準備として、まずは足元を固めなければならない。

 特に、東西から挟むように両面作戦を図るためにも、まずはベリウス地方に展開する我々解放戦線の本部との連携を強めることが急務だ」

 

「ベリウス本部との通信・交易の効率化のため、我々は交易拠点『壁』の奪還を決断した。

 企業が中央氷原に戦力を集めている今、『壁』の警備は手薄となっている。ここを抑えれば、ベリウス本部の力は増し、企業への両面作戦は現実的なものとなるだろう」

 

「『壁』に駐屯している、ヴェスパー正規ナンバー含むアーキバス駐屯部隊を全て排除してほしい。然るべき報酬を以て応えさせてもらおう。

 独立傭兵レイヴン、独立傭兵リンクス……独立傭兵ヤクザ・オブ・ザ・ガチタンゴッド。色好い返事を期待している」

 

 

 

【かつてレイヴンが失陥させたという、「壁」の奪還。それをレイヴン自身に依頼するというのは……なんといいますか、その】

【解放戦線に余裕がない、あるいは過去の因縁を呑み込んででも本懐を果たすという覚悟がある、ということだろうな。

 あるいは、壁が一度失陥することは織り込み済みだった、とも考えられるが】

【「独立傭兵として」という観点であれば、この依頼は販路を増やす契機にもなるでしょう。

 このルビコンに生きる者たちについて知り、そしてあなたたちさえ良ければ、彼らとも共にあってくれれば……私は嬉しいです】

 

 

 

 * * *

 

 

 

 依頼が詰まっていることもあり、今回のハウンズの休暇は短いものとなった。

 リンクスが購入した「フォーアンサー」のパーツが届き、換装が完了すれば、すぐに出発である。

 なにせ今回の作戦地点はアーレア海を挟んだベリウス地方。早急に動かなければ機を逸してしまうのだ。

 

「むう……可能であれば、617のトレーニングの時間は確保したかったが」

 

 ウォルターは新しい武装の慣らしができないことを危惧していたが……。

 そこは、ナインが解決することとなった。

 

『問題ない。俺がいればトレーニングはできるよ』

 

 如何なオールマインドとはいえ、ほぼ無人のアーレア海の上や進路上の僻地にまで電波を飛ばしてはいない。

 本来その移動中、疑似戦闘シミュレーターに接続することはできないはずだが……。

 

 ナインの本質は、エアとほぼ同質のコーラル。

 彼の使うリソースを目に見えないケーブルのように細く伸ばせば、勿論多少の負荷こそかかるが、衛星からの電波を拾ったり陸地まで電波を届けたりすることすら可能。

 そのため、べリウス地方へ移動する輸送ヘリ機内でも、武装の慣らしを行うことができるわけだ。

 

「……今、お前の正体を問い質すつもりはないが。ナイン、然るべき時には話してもらうぞ」

『わかっているさ、ウォルター。俺だっていつまでもミステリアスで有能なオペレーターで終わる気はない。

 いずれ……それこそ、集積コーラルに到達する頃には、色々と話すとも』

 

 ハウンズの保護者2人は、出発前、そんな言葉を交わしていた。

 

 

 

 そうして、移動中。

 617と621が、それぞれ組み替えた武装の慣らしを終えても、未だ移動時間はたっぷり残っていた。

 

 それもそのはず。障害物のない空間なら高速飛行が可能な輸送ヘリとはいえ、中央氷原からベリウス地方へ渡るには、殆ど丸一日の時間を要する。

 訓練に4時間、睡眠に8時間、更に訓練に4時間使ったとしても、それでもまだ6時間近い時間が残る計算だ。

 

 定期的にACを出て体を伸ばしたり、食事を取ったり、簡易的な食事や洗浄シートによる身繕いをしたりしても、それでもなお余暇は発生する。

 

 ちなみに、ハウンズ両名が体を拭いている最中には、こんなやり取りもあった。

 

【…………】

【ナイン? どうしました?】

【いや、気まずくて。俺は君のように女性的な人格じゃないからさ】

【あ、そ、そうですよね! 確かに、ナインは男性的人格、ハウンズの2人とは異性……しかし、体を拭きもしないのは衛生的に……】

【いやまあ、仕方ないんだけどさ。ルビコン1にいた頃もしてたし。

 一応感覚の大半は遮断してるんだけど、全部カットすると周囲の警戒とか熱減探知もできなくて危険だし。

 ……せめて、ハウンズが羞恥から責めてくれれば、ある意味じゃ気が楽なんだが】

【まあ……旧世代型、第四世代後半の強化人間ですので】

 

 ナインは既に人間的な感性の多くを削ぎ落してしまってはいるが、どうやらそこは残っていたらしい。

 自分の目があるというのに、平然とスーツを脱いで洗浄シートで身を清める2人に、ナインは思わず唸らされることとなった。

 

 一方、ぐにゃんと折れ曲がるナインに、ハウンズは首を傾げていた。

 

「せんせい、なんかおちこんでる?」

『おにいさまは、裸は本当に信頼できる者にしか見せてはいけない、と言っていました』

「じゃあ、ウォルターとせんせいと617とエアはいいじゃん」

『617もそう思います。むしろ見てほしいと思います』

「617?」

 

 

 

 * * *

 

 

 

【……さて、それでは時間も空いたことだし、ここにはウォルターの目もない。

 これからのことを見据えて、いずれしなければならない話をするとしようか】

「いずれしなければならない、話?」

「……?」

 

 ナインの言葉に、621が首を傾げる。

 ライブ感で生きるパッション系ハウンズである621には、これといって心当たりがない。

 ナインによって色々と考える癖を付けられた617もまた、そこまでは思慮が至っていないのだろう、小首を傾げた。

 

【そう、ですね。しっかり話しておかないといけないと思います】

 

 しかしその一方で、エアには心当たりがあるようだった。

 彼女はどこか緊張したような口調でナインに同調する。

 

【端的に言えば……それぞれの至りたい未来の表明と統一だな。今はあくまで軽く、になるが】

 

 

 

 ハウンズは現状、チームとして上手く回っていると言っていいだろう。

 617と621、ナインにウォルター、ウォルターからは認知されていないが、エアも。

 それぞれが反目し合うことなく、むしろ極めて友好的な関係を築けている。

 

 が、決して離れがたい比翼連理かと言えば、それは否だ。

 

 ウォルターやナイン、621には、それぞれに話せないような事情があり、秘密がある。

 エアもそうだ。ミステリアス美女ムーブしようと思ったらおもくっそ正体バラされたりもしたが、なんだかんだそこへの言及は避け続けている。

 617だけは秘すべき情報を持っていないが、彼女は彼女で、陣営で唯一至りたい未来を思い浮かべることができていない。

 

 そのため、彼女たちの思い描く未来には、決して小さくない齟齬がある。

 これに関しては、ナインと621でさえ例外ではない。

 

 だからこそ、時間のある内に、ある程度そこを示し合わせておこう、と。

 ナインはそう言っているのだ。

 

 

 

 そうして、彼が真っ先に尋ねたのは……己の同族、エアだった。

 

【エア。君に聞きたい。

 君の求める未来は、どのようなものだ?

 このルビコン3での戦いの果てに、君はどのような状態を望んでいる?】

【…………】

 

 ナインの問いかけに、エアは一瞬、言葉を詰まらせた。

 

 617と621の視界の端で、赤い光の片割れに緊張のさざめきが走り……。

 一度、それを落ち着けるような間の後、彼女は言葉を発する。

 

【私は……私が望むのは、人とコーラルの共生、です】

 

 その赤い声は静かに、心の秘め事を漏らすように語り始めた。

 

【私は、ルビコニアン……ルビコンに生まれ、ルビコンに生きたもの。ですが、人類ではありません。

 この星の、人の視点で言うところの資源である、コーラル。それらの間に発生する波形の変異体。

 ……すみません、617。わかりやすく言えば、私は意思を持ったコーラルなのです】

 

 617としては、そのカミングアウトはそこまで意外なものでもなかった。

 むしろ予想が的中したと言っていい程だ。

 ナインは時折、自分の正体を暗示するようなことを言っていたし、エアがその同族のような存在であることは見た目からしても明らかだった。

 

【その上で……人間がコーラルを資源として消費すること、それ自体は構わないのです。

 私たちは容易に増える。個々の消失はそこまで重い事象ではありません。

 ルビコニアンが私たちを愛するように、私たちもルビコニアンを愛する。その形で関わることに、特別な不快感はありませんから】

 

 コーラル独特の倫理観や価値観。

 それを語ったエアは、しかしすぐに声を固くした。

 

【ですが……かつてのアイビスの火。

 ルビコンに生きる人間、ルビコンに生きるコーラル。その全てを焼き払うような惨事は、避けたい。

 ……ルビコンを守りたい、と。少し大仰になってしまいますが、私の目的を一言で表すのなら、そうなると思います】

 

 

 

 自らの想いを言葉にしていくエア。

 617が真剣に聞く横で、621は密かに顔を俯かせた。

 

 思い出すのは、あの時。

 レイヴンの火と呼ばれる災いを引き起こした瞬間だ。

 

 後悔はない。

 ウォルターの猟犬として、必死に戦い、勝ち得た未来だ。

 悔いるようなことは、ウォルターとカーラ、チャティ……オーバーシアーの皆に失礼だろう。

 

 だが……。

 何か、どうにか、衝突を避ける方法はなかったのかと、そうも思ってしまう。

 

 難しいのはわかっているし、無理なのかもしれないが。

 どうしても……。

 

【レイヴン……それでも、私は……。

 人と……コーラル……の……】

 

 そう言い。

 まるで助けを、あるいは理解を求めるように、こちらに手を伸ばすC兵器。

 

 あれを見て以来、ずっとずっと、その疑問が621の脳裏に焼き付いていて……。

 

 

 

【ああ、そうしようとも。

 ルビコンを焼き払い、人もコーラルも死に果てる……それは些か急進的な考えだ。

 俺と君とハウンズたちで次なる火を回避し、ルビコンが生き残る未来を作り上げよう】

 

 ……だから。

 その声に、いつだって救われる。

 

 自分にはできない、成し得ない、叶わないことを。

 一緒にならできると言って、手を取ってくれる……導いてくれる声。

 

 621にとって、ナインはそれ。

 彼女にもっと語彙力があれば、あるいは「希望の象徴」とでも表現したかもしれないものだった。

 

 

 

「うん……私も、がんばるから、一緒になしとげよう、エア。

 でも、だからって、ウォルターが死ぬのもだめだよ、せんせい」

【わかっているとも】

 

 621の確認の言葉に、鷹揚に応えるナイン。

 しかし、それに他2人が反応する。

 

『しぬ? ウォルターが?』

【それは……ウォルターの目的は…………】

 

 思ってもない言葉を疑問に思う617。

 寂し気に声を揺らすエア。

 

 彼女たちに……いいや、エアに。

 ナインは、淡々と告げた。

 

【端的に言えば、ウォルターの目的はルビコンを焼き払うことだ。

 コーラルは無限に増殖・拡散し、宇宙を……エアの手前こういう言い方をするのは申し訳ないが、人類の住みづらい環境に汚染していく。

 アイビスの火でほぼゼロにまで減ったコーラルは、しかしたった半世紀で星外に漏出しかねない程の量にまで増えた。増殖量は指数関数的に増加し、いつかは星系外、宇宙全域にまで広がるだろう。

 人類総体から見れば、これは明確な侵略行為。自分たちの生きる場を奪う攻撃だ。

 ……だからこそ、アイビスの火は起きた。あれは一種の生存競争の末でもあると言えるだろうし、ウォルターの目的も不条理なものとは言い切れない】

【…………ナイン、それは……】

 

 声を震わせるエアに。

 ナインはそっと寄り添い、その赤色を重ねた。

 

【君はとても賢い。薄々、わかっていただろう。

 次なる火を回避すること、ルビコンを救うことは、そう難しくないが……人とコーラルの共存となると、その難易度は急激に上昇する。

 人とコーラルの共存は、本質的に大きな困難を伴う。隣人を愛するなんて誰でも知る美徳だが、実際にそれを行うのは極端な程に難しい。

 君はここまで、ハウンズたちの戦いを見て来たはずだ。自分と仲間を守るために他者を傷つける様を。

 人間とコーラルもまた、そんな関係性の例に漏れるわけではない】

【…………そう、ですね】

 

 コーラルが繁栄すれば、宇宙に汚染が広がり、人類の活動圏が減っていく。

 人類が繁栄すれば、コーラルの消費量は増え続け、いつか枯渇させかねない。

 

 同族ですら憎しみ合い、殺し合うことがあるのが人間だ。

 別の種族、別のグループに属する以上、これらの共存はとても難しいものになるだろう。

 

 ナインの言葉は、エアには十分に理解できるものだった。

 ……これまで、薄々理解しつつも目を背け続けて来た事実なのだから、目を向けさえすれば、いとも簡単に。

 

 彼女の夢見るものは、所詮幼稚な夢物語に過ぎないのだと。

 この冷たい世界で、そのようなハッピーエンドは成立しないのだと……。

 

 

 

【だが、その無理を通すためにこそ俺がいる】

 

 

 

 ……そう、思っていたのだが。

 

 ナインは、直前までの言葉をひっくり返すように、そう言ってのけた。

 

【問題は多い。その筆頭は時間だ。コーラルの爆散──破綻までの時間が、あまりにも短い。

 次の火を避けてルビコンを解放したとて、そこにあるのは破綻まで秒読みになった集積コーラル。

 人類とコーラルの共存の道を見つけるだけの時間が圧倒的に足りない】

 

【更に言えば、時間だけあったって意味はないからな。

 コーラルと共存する道を見つけるための、資源と技術と研究者が足りない。

 俺たちはまず、最低限それを解決せねばならないだろう】

 

【問題はそれだけじゃない。

 コーラルの爆発的な増殖・拡散や、人体・土地への有毒性。

 人類によるコーラルの浪費や、未来のない使用用途、盗難や隠蔽による管理漏れ。

 考えられる溝は大きい。これをどうにかして埋めていく必要もあるだろう】

 

【……が。逆に言えば、立ち塞がる問題は明確だ。

 それらを全てこなせば、奇跡も不可能も為しうるということ】

 

 そこで一度、彼は話を区切り。

 不安に揺れるエアを、自らの赤い光で包み込んだ。

 

 

 

【エア。俺が君の夢を叶える。

 どうかその先の景色を……人とコーラルの夜明けを、見届けてくれ】

 

 

 

 その声に、果たして、彼女は何を思ったか。

 

【ナイン……やはり、私は、あなたと……】

 

 2つの波形はしばらくの間、離れることなく、寄り添いあっていた。

 

 

 

 

 

 

『あの……おにいさま、エア。結局、どういう話なのでしょう』

「2人とも、人の頭の中でいちゃいちゃしないで。するなら私として」

『621?』

 

 この後めちゃくちゃ説明した。

 

 

 







 ウォルター除くハウンズチーム内で認識を共有しました。
 「エアとナインは意思を持つコーラル」
 「ウォルターの目的は、コーラルを焼き払うこと」
 「ハウンズチームの目標は、『火』の阻止とウォルター(たち)の生存」
 「その後にも色々な問題はあるが、ひとまず当面はそこに注力」
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