そして世に(銀髪薄幸美少女傭兵との)純愛のあらんことを 作:アリマリア
指導だ指導!(ナインブレイカー強制)
『よお、久々だな、てめぇら』
通信機の向こうから聞こえて来るのは、20から30代だろう男性の声。
未だ若さを保ちながらも相応以上の経験を窺わせる深みも持つそれは、617や621にとって既知のものだ。
「久しぶり、ヴォル……ヤクザ」
『お久しぶりです。本日のミッションでの協働、よろしくお願いします』
ベイラム専属AC部隊レッドガンの四番手、コールサインヴォルタ……という肩書は過去のもの。
アリーナランク27/F、独立傭兵ヤクザ・オブ・ザ・ガチタンゴッド。
それが、今の彼を指し示す名前だ。
戦場へ向かうAC「テッポウオヤブン」──ナインが付けた渾身の機体名──のコックピットから、彼は2機の僚機へと声を投げ返す。
『ああ、こっちこそ頼む。
アリーナやらトレーニングやら依頼やらで、腕は落とさないようにしてきたつもりだ。足を引っ張らねぇように気張るとするぜ』
常に強気な彼にしては弱腰な台詞。
それに621は、当然のように応えた。
「砲台、まだふっかつしてないっぽいしね。今ならヤクザの腕でも攻め入れるでしょ」
『普段なら舐めんなって言うところなんだが……「壁」を落としやがったランク1に言われちゃあ、何も言い返せねえな』
621の冷徹な分析に、ヴォルタは苦笑を漏らす他ない。
数か月前、彼は数十機のMTと共に壁へ侵攻し、けれど警戒網に跳ね除けられた。
それをレイヴンは、ほぼ単騎で攻め落としたというのだ。舐めた口を叩かれるのも当然な程の、決定的な実力差がそこにはあった。
それをヴォルタも、そして621も理解しているが故に、諍いになるはずもなかったのである。
強気なレイヴン──621と違って、617は取りなすように言葉を発する。
『重量機と中量・軽量機では、推力に大きな差が出ます。得意とする戦場も異なるでしょう。
警備網を潜り抜けて基地を攻めるには、リンクスやレイヴンの機体が向いています。ヤクザもヤクザで、得意な戦いがあるでしょう。
ですので、ヤクザのできることをしていただければ問題ありません。今回であればヴェスパー部隊、スウィンバーンの相手になるでしょうか』
先程までは軽口を返していたヤクザは、しかしそれにこそ引っかかったように、一瞬言葉に詰まった。
『……リンクス。てめぇ、そんな感じだったか?』
『?』
『いや、その口調、青い目の方なんだろうが……もうちっとガキっぽかったろ、てめぇ』
『おにいさまに、色々と教えていただいていますから』
「リンクスは成長期だよ。考え方も、話し方も、強さも」
『マジかよ、ガキの成長速すぎるだろ。……待て、強さも? 俺もうかうかしてらんねぇな、ホント……』
「いや、リンクスの方がヤクザよりけっこう強いよすでに」
『普通に傷つくぜオイ』
年下女児の圧倒的強者に対し、苦笑い交じりに呟きを返すヤクザ。
そんな彼に対し、ふと思い出したように、617は尋ねた。
『そういえば、イグアスは元気にしていますか? ナインは彼の成長に期待していたようでしたが』
『アイツが? ……まあ、イグアスの奴も元気ではあるみてぇだ。最近は情勢的に、副業の方は手を出せねえみてえだが、隙を見てトレーニングに籠ってるって話だぜ。
なんでも「次にあの犬猫に出くわしたら、俺の方が上だって目にもの見せてやる」、だってよ』
「無理だよ」
『リンクスも、彼に負ける気はありません』
2人は無情に切って捨てた。
『ま、そこはアイツの、男としてのプライドって奴だろうよ。お前らみてぇな女子供には負けてられねえってわけだ。へっ、熱くなっちまって……ガキだな、アイツも』
3人が話している内に、目的地点が見えてくる。
今回の作戦地点であり、奪還対象……元々は解放戦線の交易拠点であった場所。
「壁」。621が数か月前に攻め落としたそこが。
彼女たちの気が引き締まると同時に、ACの通信機能から声が聞こえる。
中性的な合成音声。617の首輪型デバイスから放たれるそれと同じようで、けれどどこか男性的にも感じられるものが。
『リンクス専属オペレーター、ナインだ。改めて、今回の作戦について確認する。
今回のミッションオブジェクティブは、全てのアーキバス駐屯部隊を排除すること。
特に、危険因子と言えるV.Ⅶスウィンバーンは、確実に撃破しなければならない。
唯一のヴェスパー正規隊員であるコイツは、駐屯部隊に撤退命令を下せる上官だ。これをスムーズに排除すれば、敵を取り逃す可能性は大きく削げるだろう』
『現在スウィンバーンは哨戒を終え、「壁」内部で休憩を取っていることが確認できている。
奴は臆病だ、俺たちが攻め入ると知れば、すぐに「戦略的撤退」を選択肢に入れるだろう。
それを阻止できるよう、プランを用意した』
『「壁」には3つしか出口がない。正面、裏面、そして屋上だ。これらの逃げ口を確実に塞ぐ。
広大な範囲を抑えることになる正面をレイヴンが。多数の敵と接敵するだろう裏面をリンクスが抑える。
そしてヤクザは、少々リスクはあるがレイヴンたちが撹乱している内に「壁」屋上に機体を投下、そこを塞いでもらう。基本閉所での戦闘だ、爆発系武装は刺さるだろう』
『作戦は以上だ。……何、暗殺や基地攻めよりはよっぽど簡単なミッションだ、気楽にいこう』
* * *
アーキバスの占領する「壁」に、2機のACが投下される。
基地正面市街地に「Loader 4」。
後方雪原に「フォーアンサー」。
二正面から道中の敵を薙ぎ払って進撃する彼女たちは、破竹の勢いで「壁」を制圧していった。
マルチロックしたプラズマミサイルで薙ぎ払い、残りも丁寧にマシンガンで撃ち抜いていくリンクス。
四脚パーツで対空しながら、両腕に構えたプラズマライフルと垂直ミサイルを以て、正面戦力を空白地帯へと塗り替えていくレイヴン。
怒涛の速度の進撃は当然ながらアーキバスの警戒網に引っかかり、その情報は上官であるV.Ⅶスウィンバーンの下へと届けられた。
「何!? ランク1とあの独立傭兵が基地へ侵攻しているだと!?」
司令官室で戦術教本を読み耽っていた彼にとって、それは余りにも寝耳に水の報告だった。
ランク1、独立傭兵レイヴンの名は、アーキバスでもよく知られている。
なにせ彼らが誇る元ランク1、V.Ⅰフロイトを凌ぎ、その座を勝ち取った独立傭兵なのだから。
規則に厳格なアーキバスにおいて、フロイトはその隔絶した強さ故にこそ自由に振舞うことを許された、いわば特権的存在。
その強さをなお凌ぎ、どころか「今の俺では勝てないな! アリーナに籠ってくる!」と言わしめた実力は、アーキバスに融和姿勢と警戒を取らせるに十分なものだった。
一方で、ランク19/D、独立傭兵リンクス・ウィズ・カラーもまた、彼らが注目する対象だ。
あのV.Ⅱスネイルに「なかなか使える駒」と評価せしめる、新進気鋭の独立傭兵。
これまでレイヴンとぶつかった際を除けば、ミッション達成率は脅威の100%。先日などは、小規模とはいえ封鎖機構が接収した燃料基地を単騎で襲撃・壊滅させしめた実力者だ。
そのスタンスは基本的にアーキバス寄りで、これまでいくつもの依頼を請け負わせていた。
故にこそ、その実力がアリーナランクに釣り合わないと……フロイトはともかく、V.ⅡやV.Ⅳに並び立つものであると、アーキバスには知れ渡っている。
その二者が、攻め入ってくる?
この「壁」に?
スウィンバーンが防衛を任された施設に?
コーラル代替強化手術への恐怖でくすんだ彼の脳細胞が、急速に活性化して働き始め……。
瞬時に、これらの状況への解法を導き出した。
「本部に情報を伝達する必要がある! 私は撤退する、お前たちは少しでも時間を稼げ!
安心しろ、お前たちの活躍は私が語り継ぐ! それに私は会計を担当しているからな、遺族には十分以上の弔慰金を約束してやろう!」
「…………」
スウィンバーンの隣に控えていた彼の部下は、相も変らぬ上司の残念っぷりに漏れかけたため息を噛み殺す。
軍規ある軍隊において、上官の命令は絶対である。
命令を受けた上で逃げ出すのは、純然な裏切り以外の何物でもない。当社のために死ねと言われれば、命令のままに死ぬのが軍人である。
上官から「ここで時間を稼げ」と言われてしまった以上、彼の命運は決まったと言っていいだろう。
しかし、それはスウィンバーンとて同じことだ。
彼はルビコンにおけるアーキバス統括、V.Ⅱスネイルから直々に、「壁」の防衛を任されている。
「閣下が私を認め、重要拠点を任せてくださったのだ!」と本人が自慢していたから間違いない。
情報伝達の必要があるのは事実だが、だからと言って襲撃を受けた際に一戦も交えることなく撤退するのは、臆病風に吹かれた敵前逃亡だ。
命令違反に加えて戦意なしとなれば、どれだけ良くても降格、最悪の場合銃殺刑である。
前提として、スウィンバーンは愚かではない。
普段であれば、そのような軍機違反を犯す愚は踏まないだろう。
が、自らに命の危機が訪れた際、小心な彼の視野は極端に狭まり、あらゆる常識や摂理を忘れてしまう。
今から取る行動が正しいものであり、アーキバスのためになると、本気でそう思い込んでしまうのだ。
とはいえ、部下も部下で、れっきとした軍人だ。
上官から命令を下された以上、それに意見したり歯向かう愚は犯さない。
「了解しました。それでは、隊長はACドックに向かって搭乗、離脱してください。
我々はMTによる強襲によって敵を迎え撃ちます」
「お前たちの奮戦に期待する!」
言い捨て、上官は走り去っていく。
そのみじめな後ろ姿を見れば、思わずため息が漏れてしまった。
そうして彼は、上官を見送った後、急ぎMT格納庫へと向かおうとしたのだが……。
その背中が、曲がり角に消える直前。
ゴォン! という爆音が、彼の耳をつんざいた。
「っ!?」
上官が走り去っていった方向。
そこには、積んであったコンテナを破壊し、通路へ侵入してきたACの姿があった。
確かに、先程から定期的に異音はしていたが……。
あれは外での戦闘音ではなく、まさか、既に壁の内部に!?
戦慄する彼をよそに、巨大なキャタピラを駆動させ、暴れまわろうとするAC。
その足元で、彼の上司は何やら叫んでいた。
「なっ、AC!? 「壁」内部でのAC搭乗が認められたのはこのスウィンバーンただ1人だぞ! 貴様、どこの不法者だ!? いや待て、落ち着け! 話をしよう、我々には言葉がある! いいか、私はヴェスパー第七隊長スウィンバーン! つまりは会計責任者でもある! 部隊の入出金については私に管理権限があるのだ! アーキバスにとって私を喪うのは大きな痛手! 見逃してくれればアーキバスの覚えもめでたく、閣下から褒賞も下るだろう! 悪いようにはしない! わかるだろう、な!?」
彼からは何を言っているか判然としなかったが、十中八九助命の嘆願だろう。
スウィンバーンはそういうヤツだ。
相手がベイラムや封鎖機構、解放戦線ならばともかく、独立傭兵の中には金の次第で依頼を放棄するという者も少なくはない。
彼のその行動も、有効になる可能性はあったのだろうが……。
『死ねボケ』
返事は2連グレネード。
「なっ、貴様、どういう了見で……ッ、おわーっ!!」
彼の上司は、ACに乗り込むことすらできず、呆気なく爆殺されてしまった。
その光景を見て、彼は思わず手で両の目を覆った。
亡くした上司へ黙祷を奉げた、というわけではなく。
この基地の失陥を、半ば直感的に悟ってしまったが故に。
本日の傭兵事情
・識別名
Rb31 独立傭兵「リンクス・ウィズ・カラー」
ランク18/D(1↑)
・アセン
『フォーアンサー』
右腕:MG-014 LUDLOW(実弾軽マシンガン)
左腕:MG-014 LUDLOW(同上)
右肩:Vvc-706PM(六連装備プラズマミサイル)
左肩:PB-033M ASHMEAD(パイルバンカー)
ヘッド:HC-2000/SOS HOUND EYE(オリジナル)
コア:EL-TC-10 FIRMEZA
アーム:VP-46D
レッグ:NACHTREIHER/42E
ブースター:FLUEGEL/21Z(万能型)
FSC:FC-008 TALBOT(近中距離改良型)
ジェネレーター:DF-GN-06 MING-TANG(中容量高補充)
コア拡張:アサルトアーマー(3回)
リペアキット:使用可能(3回)
・収支
+914,799c
[「壁」奪還(mlt)]
+250,000c
[経費]
-880c(武装修理費)
-2,008c(外装修理費)
-307c(内装修理費)
-40,800c(弾薬費)
-5c(必需品購入)
-258,000c(VP-46D購入)
-202,000c(FLUEGEL/21Z購入費)
-200,000c(クソアホ工作費)
─────────────────────
+460,799(454,000cの赤字)
《ナイン追記》
壁は、まあ、妥当に落ちたな。
この戦力で攻め落とせない拠点とかルビコンのどこにもないよ。ヤクザもナインブレイカーで鍛えたし。
レイヴン単独でも超余裕持って攻め落とせるし、なんなら今のリンクスでも十分だよ。
ちなみにスウィンバーンはヴォルタが仕留めたらしいけど、今回はなんとACに乗ることもできず雑魚死したらしい。ネームドの姿か、これが……?
あと、個人的な要件でだいぶCOAMを浪費してしまった……。
アイツ、後でしばく。
《617追記》
ぱ、パイルをいっかいもうってない……。
そんな、ゆるせない……パイルをうてないなんて……なんのためにわたしはせんじょうへ……?
あ、いや、おにいさまとウォルターのためだった。うん。
621も言ってたけど、楽なミッションだった。たまにはいいかもだけど、ずっとこれだと飽きそう。