そして世に(銀髪薄幸美少女傭兵との)純愛のあらんことを   作:アリマリア

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 俺が、この道を歩む限り。





一緒に来てもらうぞ。お前が、俺と共にある限り

 

 

 ナインブレイカー。

 それはナインが手ずから組み上げた、オールマインド所有サーバーの片隅を勝手に拝借して行われる、戦闘技能教習プログラムだ。

 

 技能教習というだけなら、オールマインドもまた、傭兵向けにプログラムを組んでいるのだが……。

 ナイン製とオールマインド製の最大の相違点は、融通が利くかどうか。

 ナインブレイカーは、ナインがハウンズのために専用で組んだこともあって、必要に応じて内容を改変・追加することができるのだ。

 

 例えば、最近追加された「アセンブル万能性」と呼ばれるプログラムが、その典型例だろう。

 617と621がアセンについてよく学び、要領を掴むために用意されたそれは、連続して様々な戦況への対処を強いられるもの。

 それによって、彼女たちが組んだアセンの脆弱性や短所を明らかにするのだ。

 

 対集団戦、対AC戦、対特殊兵器戦。滞空時間、地上戦闘、クイックブースト性能。EN効率と容量、復元量。近距離戦、中距離戦、遠距離戦。実弾、爆発、EN耐性……。

 封鎖機構のLCやエクドロモイのように専用に調整されていない、いわば汎用パーツの寄せ集めに過ぎないACには、どうしたって穴が生まれる。

 このプログラムでは、それを否応なく自覚でき、次回への反省に活かすことができるわけだ。

 

 617と621にアセンについて教え始めたことを契機として、このプログラムが追加されたように。

 ナインは定期的に、それぞれのプログラムをアップデートしたり、新規追加したりしている。

 

 そして現在、617と621が励んでいるのも、比較的最近追加されたプログラムだった。

 

 

 

 617の視界に映るのは、戦闘モードに入ったACのUIと、所々に建物の残骸が並ぶ荒原、そして少なからず損傷した敵性AC。

 

 彼女は両腕に抱えたマシンガンを乱射、敵性ACをスタッガーさせ。

 続けて前へとクイックブーストを拭かせると同時、殆ど時間も置かず左肩武装をハンガー、最速で起動。

 身体感覚と同調したACの左腕、パイルバンカーを振りかぶった。

 

 もはや慣れ親しんだ、左腕が重くなるような感覚。

 相手を突き穿つための力が充填され、圧力が増すようにな錯覚が、おおよそ1秒程続き……。

 

「ぁッ!」

 

 裂帛の気合と共に、それを突き上げた。

 

 ボディーブローのように振り上げられた釘はその勢いに加え、内部での炸薬の爆裂によって更に勢いを増し、敵機に突き立てられ……。

 敵機の左半身を、見事にぶち破る。

 

 その一撃によって、敵機のAPは完全に尽きたのだった。

 

 

 

 瞬間。彼女の視界に映る景色は、戦場からドックの中のそれへと塗り替わって行く。

 そうして脳内に、慣れ親しんだ彼女の「おにいさま」の声が響いた。

 

【敵機撃破を確認、パイルバンカー練習プログラムを終了する。

 撃破時間:1:55

 攻撃命中率:1/3

 スタッガー命中率:1/1

 通常命中率:0/2

 合計消耗AP:2033

 評価:銀

 総評:スタッガーへの命中精度は仕上がってきているな。きちんと相手のACS負荷を見つつ高度調整していたのがわかったぞ。素晴らしい!

 アドバイス:マニュアルエイムでの溜めパイルは、相当の技量と読みを要する。相手のENが切れた瞬間を見計らうか、敵を攪乱した後クイックブーストを読んで敢えて右か左に決め打ちすると入りやすいぞ】

 

 網膜上に文字としても透過されるそれを見ながら、617は一つ息を吐いた。

 

 パイルバンカー練習プログラム。

 AC規格の武装としては凄まじい火力を誇るが、その代償として極端に溜め時間が長くリーチも短い……つまりは超ピーキーで使いにくいロマン武装、パイルバンカー。

 その火力に脳を焼かれ切った617が望んだことで、ナインが用意してくれた技能講習だった。

 

 彼女が挑んでいるレベル2の内容は簡単。敵性ACと戦いながら、パイルを当てること。

 敵をスムーズに撃破できたか、パイルを上手く当てられたかを主軸に評価が下るそれに、最近の617は毎日のように通い詰めている。

 

 スタッガーへの追い打ちという意味でも、素の状態へ当ててのダメージリードの意味でも、極大の威力を持つパイルバンカーを命中させることによるアドバンテージは凄まじく大きい。

 彼女が練習に励むのも、無理からぬ話ではあるのだが……。

 

 

 

 今日も今日とて教習を終えた彼女の表情は、しかしながら少々暗かった。

 そうして、ぼそりと呟きを漏らす。

 

『……これ、素の状態で安定して命中させるのは、極めて厳しいのではないでしょうか』

【お気づきになられましたか】

 

 617のだいぶ遅かった気付きに、ナインは苦笑を漏らしながら応える。

 全く以てその通りだ、と。

 

【パイルの素当てなんて、正直に言えば、俺だって安定させるのは無理だ。

 返す返す、現代機動戦は超高速戦闘。コンマ1秒が生死を分ける戦いの中で、1秒かけてチャージして超短い射程のブレホもない武器をぶち当てるのは、もはや曲芸に近い。

 着地狩りとかクイブ狩りしようにもチャージが長すぎて読みと賭けになるし、よっぽど相手が焦って空中でEN切らした時くらいしか確実には当てられないだろう。

 個人的には、ブレホがない過去作のブレの大半よりなおキツいと思う。その分スタッガー中には、調整さえすればほぼ確実に入れられるけどね】

 

 そう、賢明なる傭兵諸氏はお気付きのことと思うが。

 パイルとかいうピーキー武装、実は普段使いには向かないのである。

 

 確かに火力はある。スタッガー中に入れられれば、重量機相手でも8,000以上のAPを削り飛ばす。

 ACのAPは、完全に機動性を捨て去っても上限が18,000弱。軽量機の場合は9,000を切ることもある。

 それを考えれば、この火力は驚異的と言ってなんら遜色ないだろう。

 

 が。

 相手がスタッガーに陥るまでに安定して運用できないとなれば、それは相手が健在の間、4つの武装の内1つが失われているに等しい。

 これはACSとAPの削り合いになりがちなAC戦において、なかなかに大きなディスアドバンテージになる。

 

 なにせ単純に計算して、相手が4削って来る間にこちらは3しか削り返せないのである。

 どうしても先にスタッガー・撃破されてしまいかねない。

 

 

 

 ナインが更に言葉を挟もうとした、その時。

 不意に、「フォーアンサー」の通信機能の向こうから、元気な声が届いた。

 

『あー! むり! やっぱパイルむり! せんせいやっぱりこれきびしいよ!

 スタッガーした敵が吹っ飛んで行っちゃうからついげきできないし、即アサルトアーマーしようとしてもちゃんと当たらないし! これならレザブレの方が長いぶんまだ楽!!

 うううう、ワーム砲……ワーム砲が恋しい! 距離関係なく当たってぶち殺せるワーム砲が恋しい!!』

 

 617と同じく、パイルプログラムに挑んでいた621の声であった。

 

 ナインは「Loader 4」内の彼女の頭を【おーよしよし】と撫でながら、微かな苦笑いを漏らした。

 

 617と621は同じハウンズではあるが、当然ながら、戦闘スタイルや精神の方向性に小さくない差がある。

 617が近接戦闘を好み、特大の火力を以て畳みかけることを好むのに対し。

 621は中距離から火力を叩き込み、消耗を抑えながら一方的に圧殺するスタイルだ。

 

 そんな621にとって、どう足掻いても近距離戦闘を強いられ、当てるための制約も大きい上外した時の後隙も大きいパイルは、なかなかにクセモノなのだろう。

 

 そうしてめそめそする(ことでナインに慰めてもらおうとする、強かな)621に対し、617は『ふむ』と疑問をなげかけた。

 

『わーむほう……621が使っていた、あの両肩の武装ですか。しばらく見ていませんが、やはり強力なのですか?』

『強いよ! 相手がどこでスタッガーしても当てられるし、2つ当てればきょうせい放電で更にダメージが入るし、そこでひるんだ相手に更にキックとかアサルトアーマーが入るもん!

 あのばかめがねは嫌いだけど、ワーム砲くれたのだけは感謝してる!』

『なるほど。確かに火力は魅力的です』

【しかしレイヴン、両肩をその武装に占められれば、対集団戦にどうしても弱くなるのでは?】

『ぐう……』

【ぐうの音しか出ないようですね】

 

 エアの鋭いツッコミに、621は思わず唸ってしまった。

 

 元々621は、両手に重ショットガン、両肩にワーム砲という、対AC戦を強く意識したアセンを組んでいた。

 しかし今回の周回で、未だリンクスの正体を知らずに矛を交えた際、多くのドローンや無人機による包囲攻撃を受けたことで苦戦を強いられ……。

 その後、ナインから本格的に教導を受けたことで、アセンの考え直しを始めていた。

 

 最近では、四脚でプラズマライフルを撃ち下したり、タンクでバズーカを撃ちまくったりと、色々なアセンの可能性を試しており、今日も617に付き合う形でパイルの練習をしていたが……。

 彼女の性質とも噛み合わないピーキーな武装には、なかなか苦しめられたらしい。

 

『確かに、片腕で火力が出るのはすごいけどさぁ……ため撃ちすると推進力もなくなるし……』

『アサルトブーストやクイックブーストの慣性を活かせば、当てられないわけではありませんよ、621』

『認めてるじゃん! その言い方、617も当てにくいって認めてるじゃん!』

『いいのです。当てれば火力が出るので。当たるまで振ればいいので』

『せんせい、617の教育の方向間違えちゃったんじゃないこれ!?』

【いや、俺は何も……彼女がパーツを選んでハマったし……そこを制限するのは思考や趣味の幅を狭めてしまうことになるし……】

 

 にゅっと二本の腕(?)を生やし頭(?)を抱えた赤い光に、もう一つの赤い光がからかいを投げかける。

 

【ふふ。子供の教育方針に悩む父親のようですね、ナイン】

『エア、同族マウントは良くないよ!!!』

【何がですか!? どんな発想の飛躍ですか!?】

『エア、夫婦関係を偽装するのは良くありません』

【リンクスまで! ……夫婦!? 何故!?】

 

 封鎖機構の封鎖本格化により、世間の雰囲気は荒んできつつあったが……。

 ハウンズチームは、今日も今日とて平和であった。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 ハウンズたちが楽しく訓練に励んでいる一方。

 

「さて……」

 

 ドックから離れた、セーフハウスの一部屋。

 彼女たちの飼い主たるハンドラー・ウォルターと、最近は彼の補佐に付くことの多いナインは、一つの映像に目を通していた。

 

 飛行ドローンで撮影したのだろう、深い霧に包まれた、どこかの水没都市と思しき俯瞰風景。

 非常に高いはずのカメラの性能に反して、映像は荒くノイズ塗れで……。

 おおよそ8分程都市の各所を巡った映像は、しかし最後に酷く揺れた後、唐突に途絶えた。

 

 それを見ながら、ウォルターはナインに語る。

 

「かつて技研が建造した都市……いや、お前に隠蔽しても意味はないか。

 恒星間入植船、ザイレム。

 既にその航行能力は喪われ、今はただ残骸となった都市に過ぎないが……封鎖機構は危険視しているのだろう。ECMフォグによって都市全体を欺瞞している。

 カーラが遣わせたドローンも、映像の通り撃破された。恒常化システムが動いていないとしても、戦力を伏せていると見ていいだろう」

『ま、おかしな考えじゃないな。復旧すればという前提ではあるが、単純質量でもクレーターの1つや2つは作れるし、戦力として考えても十分に脅威だ。

 それこそ、やろうとすれば……ルビコン星系を焼き払う、着火剤にすらできるだろう』

 

 ウィンドウ上に並ぶ文字に、ウォルターはコクリと頷き、続ける。

 

「俺たちの目的には、これが必要だ。今の内に封鎖機構勢力を取り除き、確保する」

『……タイミングにもよるが、封鎖機構の追加戦力が来るだろうな。

 更に言えば、生き残り(灰被り)のルビコニアンは、あなたの意図を察するだろう。本格的に事を構えることになるかもしれないが』

「どちらにしろ、いつかはそうなる。であれば……全てを一度に潰すより、一つずつ取り除いた方が、アイツらの負担も少ないだろう」

 

 覚悟キマってんなぁ、と。ナインは内心独り言ちる。

 

 ルビコン3にある、全てのコーラルを焼き払う。

 それを為すためには、ルビコン星系に生きるおおよそ全ての人間が巻き添えとなるだろう。

 

 つまり、ウォルターの望みは、ルビコン星系に生きる全ての人間との敵対をもたらす。

 

 だからこそ、それに早く気付き得る危険因子を炙り出し、この時点で排除すべきだ、と。

 彼はそう言っているのだ。

 

 

 

 ……そして。

 本来秘すべきその狙いを、こうして明け透けに語るくらいには。

 

「ナイン。……やれるか」

 

 ウォルターは、ナインのことを、信頼しつつある。

 これまでのナインの献身と、達成して来たミッション、そして何よりハウンズたちの様子が、それを確かなものとしつつあるのだ。

 

 であれば、応えないわけにはいかない。

 ナインはウィンドウ上に、笑顔のエモートと共に、文字を並べた。

 

『当然、やれるとも。こっちは俺と617に任せてくれ。

 カーラの方も、そろそろ小競り合いに決着を付ける頃合いだろう。621はそちらに』

「いいだろう。現地でのオペレートは、変わらずお前に預ける。

 ……アイツらを、頼んだぞ」

 

 

 







 ルビコンは絶賛鉄火場の地獄だけどハウンズチームは平和!
 ある意味力持つ者たちの特権かもしれない。
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