そして世に(銀髪薄幸美少女傭兵との)純愛のあらんことを   作:アリマリア

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 初見の無人洋上都市調査のワクワク感は異常





要らないわよねぇ、金なんか! それで人生が買い戻せるって言うんならさ!

 

 

 

「617、多少は体を休められたか。……そうか。

 では、次の仕事だ。今回は621とは離れての仕事になる。気を引き締めろ」

 

 

 

「……これは、ある友人からの、私的な依頼だ」

 

「大気中のコーラル流動により、集積コーラルは中央氷原にあることが判明したが……この広大な氷原の中で、更に地点を絞り込むには情報が足りない。

 その上で、友人からの情報によると……俺たちが探るべきは、ここだ」

 

「かつてルビコン調査技研が建造した洋上都市、『ザイレム』」

 

「アイビスの火を経て無人となり、今では放棄された都市だが……。

 コーラルに関する情報を秘匿しているのだろう。都市全体がECMフォグによって欺瞞されている。

 友人が先んじて飛ばした調査ドローンも、濃霧の中で消息を絶ったらしい」

 

「そこで、お前の仕事だ。

 今回のミッションの最大目標は、調査継続の障害となるECMフォグ制御装置、それらを全て停止させること。

 それに加え、この濃霧の都市を調査し、ドローンを撃墜したのだろう脅威を取り除いてこい」

 

「……企業たちの目が封鎖機構に向いている今であれば、俺たちが真っ先にコーラル集積地点を探り当てることもできるだろう。

 お前と621の、再手術代……真っ当な一生を買い戻すためには、かなりの金がいる。それに向けた有効な一手となるだろう」

 

「ブリーフィングは以上だ」

 

 

 

『…………』

 

【617。どう思う?】

 

『……ウォルターを疑いたいわけではありませんが、少々、不透明な部分も多いように感じます』

 

【なるほど、言語化してみろ】

 

『…………封鎖機構は、企業が中央氷原に入った時、その姿勢を強硬なものとしました。

 そこから、封鎖機構は、既に集積コーラルの位置を特定しているのだと考えます。そこに近付かれたと思ったから、焦っているのだと。

 それなら、集積コーラルの情報は、封鎖機構の基地から奪い取るべきなのではないでしょうか?』

 

【なるほど、続けて】

 

『ウォルターは、優しい人です。基地攻めは難易度が高いと、617の安全を気遣ってくれたのかもしれません。

 けれど、そうだとしてもいくつか、疑問点は残ります。

 アイビスの火によって棄てられた都市に何故、アイビスの火以降にできたと思われるコーラル集積地点の情報があるのでしょう?

 また、企業よりも先にその情報を取得した、ウォルターの「友人」とは一体…………あ、もしかして、おにいさまですか?』

 

【いや。ウォルターの新たな友人となれたなら嬉しいとは思うが、少なくとも今回は俺じゃない。

 話を続けてくれ】

 

『はい。今回のブリーフィングはそういった、何かしら裏がありそうな話が多く……。

 だとしたら、ええと……。

 ……まず、ウォルターの仕事は、こなします。こなしますが、このミッションは記憶に留めた方がいい。

 と、そう、思います。どうでしょうか』

 

【うん、よく頑張った。その懸念が正しいか否かは、これから先、自分の目と手で確かめるといい。

 今はとにかく、君の成長を喜ぼう。よくぞ、そこで自分で思考を進めた、617。偉いぞ!】

 

『はい! ……えへへ』

 

 

 

 * * *

 

 

 

 どうにもキナ臭くはあるがしかし、ウォルターの依頼はハウンズにとって絶対のものだ。

 果たさないという選択肢は、おおよそ存在しない。

 

 617もウォルターの言葉を少しだけ疑いはしたものの、それ以上にウォルターを信じる気持ちが強い。

 正常性バイアスと言えばそれまでだが、真摯な想いであることに変わりはないだろう。

 

 彼女にとってのおにいさまであり、恐らくは事情も理解しているらしいナインが殊更に止めようとしなかったこともあり。

 617は素直に、「フォーアンサー」へと乗り込んだ。

 

 ACと接続し、その感覚が愛機と同調していく中で、彼女の脳内に変異波形たちの声が響く。

 

【……ウォルターの目的は、本当に?

 だとすれば、レイヴンやリンクスの再手術の話は……】

【いや、そこもまた真実なんだろう。

 ウォルターは安直に集積地点に迫るわけではなく、企業に恩を売り利を得ながら事を進めている。

 集積地点の情報を売らずとも十分に人生を買い戻せるだけの資金を貯蔵しておき、全ての戦いが終わればハウンズを解放、再手術を受けさせる、という狙いなんだろうね】

【そうですか……。少しだけ、安心しました。

 レイヴンもリンクスも、本当にウォルターを慕っている。それなのに裏切られるなんて、きっとあるべきではありませんから】

 

 それを聞く617もまた、内心で安堵の息を吐く。

 

 ウォルターのことは信じているし、最悪ウォルターになら騙されてもいいという思いはある。

 けれど、それはそれとして。ウォルターが自分たちに嘘を吐くとは思いたくないのも事実だった。

 

 その上で、ウォルターが見ているその未来は、少しだけ好ましくないように思えた。

 未だ明確な未来のビジョンを描けずにいる彼女ではあるが……。

 

 全てが終わった後、ウォルターから解放され、離れ離れになる。

 

 それは嫌だと、そう思うことくらいはできるのだ。

 

 

 

 ……一方で。

 

 ハウンズチームには伝わらない、ルビコンのどこか。

 深く穿たれた穴の中層で、誰かが呟いた。

 

【……それを言うなら、君もだろうに。

 これまで散々利用され続けて、不要になったら邪魔だと種族ごと皆殺し。

 それが正しいとは、ハッピーエンドとは、俺にはどうも思えないよ、エア】

 

【あるいは、俺が「ファンタズマ」になったからかもしれないけどさ】

 

 

 

 * * *

 

 

 

 洋上都市ザイレム。

 「洋上都市」の名の通り、アーレア海のただ中に建つ巨大な都市である。

 

 全長10kmを優に越えるそれは、地平線など遥かに超え、地面に立った人間の視界からではとても全貌を掴むことはできない。

 それができるのは……かなりの高度から睥睨した時だけだろう。

 

 そして617は、今まさしくそれが可能な場所にいたのだが……。

 広大な都市は濃霧に包まれ、ほんの500メートルそこら先すら窺えない状態。

 

 それを少しだけ残念に思うのは、ミッションの効率を思ってか、それとも。

 

 

 

 どこからどう探索を進めるかと考える617の脳内に、赤い声が響く。

 

【「フォーアンサー」、投下します。衝撃に注意を】

『はい』

 

 エアの声と共に、輸送ヘリの格納庫、その上部のハンガーがガタンと音を立てて開き。

 吊るされていたAC「フォーアンサー」は、目下の洋上都市へと落下した。

 

 実に100m以上の高度からの落下。人であればぺちゃんこになるだろうものだが……。

 そもそもACは、単純で瞬間的な衝撃に強い。それこそ、大気圏外からの墜落すらも耐えうる程の頑丈さを備えているのだ。

 この程度の衝撃は、ACSによって上手く地中へと流され、APが減少することすらない。

 

 感覚同調した両脚が着水すると同時、ACのCOMが無感情に告げた。

 

『メインシステム、戦闘モード起動』

 

 ウォルター曰く、ザイレムは既に廃棄され無人となった都市だが、少なくとも高性能ドローンを撃墜できるだけの戦力が潜んでいるとのこと。

 通常モードでは、襲われた際咄嗟に反撃もできない。この都市にいる間は、常に戦闘モードを起動しておくべきだろう、とのことだった。

 

 ともあれ、617としてはむしろ、ミッション中に戦闘モードを起動しない方が考えにくいことだ。

 いつも通り周囲に警戒を向けながらも、彼女はザイレムの探査を開始した。

 

 

 

【都市を中心として展開されている以上、この濃霧もECMチャフも、やはり人為的に散布されたものですね。

 元から設置されていた機構だとしても、アイビスの火と経年劣化によって、とても使い物にならないはず。誰かが修復し、現在も運用しているものと思っていいでしょう】

【まあ、ルビコン3について企業よりもずっと詳しく、ここを管理できるだけの余力があって、なおかつコーラル集積地点の情報を隠蔽しようとする組織なんて一つしかないわけだが】

 

 617が周囲を探る間、エアとナインはそれぞれ考察を巡らせていた。

 放棄された洋上都市。ここにあるという集積地点の情報。帰らなかったドローン。そして意図的に散布された霧とECMチャフ。

 それらは、封鎖機構がここを管理し、外敵を排除していることを示していた。

 

 続けて、彼女たちは今回の作戦について語った。

 

【さて、やはりと言うべきか、ウォルターとの通信は不可能なようです。私たちの交信はECMの干渉を受けません。今回のオペレートもお任せを。

 ひとまずは、ウォルターの言っていた調査ドローンが残した痕跡を辿って、何故ドローンが排除されたのかを特定すべきでしょうか】

【注意点として、ACのサーチとロック機能は光学式だ。この濃霧の中ではどうしても制限が入るだろう。

 熟練の傭兵と言っていい君相手にわざわざ言うまでもないだろうが、普段以上に奇襲に警戒し、また敵がいた場合は接近して戦うことをお勧めする】

『了解しました。アドバイスありがとうございます、2人とも』

 

 617は応え、機体を前へと走らせた。

 

 これが普通になりつつあるとはいえ、オペレーターの存在は、彼女にとって大きな安心材料だ。

 ナインのために戦うことも勿論だが、ナインと共に戦うこともまた、彼女の心に大きな充足を与えてくれるのだから。

 

 

 

『これは……』

 

 周囲を軽く探索すれば、ドローンの痕跡は簡単に見つかった。

 というのも、明らかに後から設置されたビーコンが、周囲の霧を赤く染める輝きを放っていたのだ。

 

【このような形でビーコンを残すのは、後々のことを考えていたということでしょうか?】

【少なくとも、後続に託すことを想定していたのは間違いないな】

『つまり、ウォルターの友人は……ここが封鎖機構に守られていることを知っていた。ドローンは先行調査で、本隊は……もしかして、私たちハウンズに?』

【元よりレイヴンとリンクスを後詰にするつもりだった。確かに、2人の実力をウォルターから聞いているのなら、あり得る話ですね】

【まあ、その辺りは仮定、仮説の段階だな。

 今はとにかく、ドローンを飛ばした人物は後詰のことを考えていた。それは間違いないだろう】

 

 617たちは推察を続けながらも、機体を更に前へと進める。

 その網膜上、ACの簡易座標表示の上に、今見つけたビーコンの位置が刻まれた。

 

 何はともあれ、都合が良かった。

 これを辿って行けば、ドローン墜落地点周辺に辿り着けるだろう。

 その道中でECMフォグ制御装置を見つけたら停止し、敵がいたら排除していく。

 

 この洋上都市の調査手順は、これで問題ないはずだ。

 

 

 

 そう思っていた617の耳に、唐突に。

 

 ビー、ビー、と。

 COMの鳴らす、警告音が響いた。

 

「っ!」

 

 どこかから襲い来る強力な攻撃を予測・予告するそれに対し、彼女の警戒は研ぎ澄まされ……。

 走らせた視線が、遠方から迫る汎用兵器を捉えた。

 

『不明な侵入を確認。恒常化プロセスE』

 

 広域放送による、恐らくは警告と思われる言葉。

 それと共に、汎用兵器は突進するようにこちらに進んで来る。

 

 これに対し617は、接近……ではなく。

 不意の警告や、攻撃してくる様子のないドローンに違和感を覚え、ひとまず後退しながらの攻撃を選択。

 落ち着いて来た道を下がりつつ、両腕のマシンガンを撃つことで様子を窺おうとし……。

 

 バァアンッ!

 

 自分のいた場所で、派手な音を立てて大爆発を起こす兵器を見て、肝を冷やすこととなった。

 

【これは……ザイレムの都市防衛システムでしょうか?】

【特攻仕様のドローンだな。下がったのは大正解だ、617】

『……少し、びっくりしました』

 

 617の戦闘スタンスは、近距離ドッグファイト。

 脳裏に騒ぐ違和感を無視して本能的に動いていれば、流石に一発で即死はないにしろ、大きな打撃を受けていただろう。

 

 ナインブレイカー、そしていくつもの戦場を巡って彼女が培った、戦闘センス。

 それは確かに、戦場に立つ彼女を支えていた。

 

【ドローン自体は脆い、マシンガンで簡単に破壊できるだろう。

 しかし、その際にも100m程度は距離を取っておいた方が良さそうだな。

 一機限りとは思えない。これからも警戒を絶やすなよ、リンクス】

『了解……リンクス、作戦続行します』

 

 

 







一方その頃621サイド

「たーまやー」(ドーザーガン処理花火会場並感)
【綺麗な花火ですね】
「お前の方がきれいだよ」
【お上手ですね。そのやり方はウォルターに教わったのですか?】
「……ってせんせいが言ってくれた」
【!?】
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