そして世に(銀髪薄幸美少女傭兵との)純愛のあらんことを 作:アリマリア
その賽は、投げるべからず。
されど──。
洋上都市ザイレムを駆ける、「フォーアンサー」。
617は既に、ナインよりアセンブルの教導を受けているが……。
それまでと同じように、機体を軽量に調整し、またブースター性能を強く重視している。
ルビコン3でもトップクラスだろうその機動力は、濃霧に包まれた戦場においても、万全にその効力を発揮していた。
彼女の前方にいる脅威、平たい脚の付いた円盤のような汎用兵器。
その名は、「IA-24: KITE」。
ザイレムに配置されていた、そして封鎖機構が復旧したと思しき、無人ドローンだ。
あるいは、ACと違って光学式ではなく、熱源式のロックオンなのか。
「KITE」は「フォーアンサー」がその姿を捉え切れない程の遠方からこちらの存在を掴み、高密度のプラズマキャノンで狙撃してくる。
「…………」
対し、操縦桿を繰る彼女の瞳には、油断も緊張もない。
ただ淡々と、目の前の事態に対処するだけだ。
バチバチと弾ける音と共に迫る、紫の閃光。
それをクイックブーストで紙一重に躱しながら、脚を止めることなく前へ前へと詰め寄った。
そうしてある程度距離を埋めてから、両腕のマシンガンの引き金を絞る。
本来、彼女が汎用兵器に対して振るうのは、右肩に装備しているプラズマミサイルだ。
けれど今回に限って、この武装が有効にならないことを617は学んでいた。
「KITE」はMT以上の軽量機、APが1,000すら下回る程の耐久性しかない。
しかし、腐っても技研が開発したコーラル兵器だ。決して型落ちというわけではない。
極限まで無駄を削いだこの機体は、瞬間速度ではACすら上回る程の推進力を持ち、更には対EN防御に関しては非常に堅固だ。
プラズマミサイルの爆風からは大してダメージを受けず、なおかつその攻撃圏内からすぐに脱出するスペックを持っている。
故に、プラズマミサイルは有効打にならない。
少々面倒ではあるが、マシンガンで撃ち抜いて行くしかないのだ。
跳び上がって攻撃を躱そうとする敵に、しかし「フォーアンサー」は近距離で食らい付いて弾丸の嵐を浴びせ、爆散させしめた。
両腕のマシンガンをリロードする彼女の脳内で、2つの変異波形が言葉を交わす。
【高機動の狙撃・近接機体に、自爆特攻用の無人ドローン、そして……かつてレイヴンとリンクスが戦ったという、ステルス機。
これまでに戦ってきた敵とは、少しばかり気質が異なりますね】
【特攻ドローンはともかく、「KITE」と「GHOST」はC兵器……かつてルビコン調査技研が作った、あのシースパイダーと同じコーラル兵器だからな。
勿論、シースパイダー程のジェネレーターやオシレーターを積み込んでいるわけではない。使用量は本当にごく少量なんだろうが】
【……あれらも、コーラルを燃料としているのですね】
【まあ、俺たちとしてはどうしても微妙な気持ちになってしまうわけだが……それは一旦さておいて。
周囲に敵影なし、今ので周辺の敵は殲滅できたらしい。残るECM制御装置の座標も割り出せたし、そちらに向かうとしようか】
『はい、リンクス了解しました』
応え、彼女は自機を前に走らせる。
濃霧に包まれた洋上都市には、ナインが言った通り敵は残っていない。
となればここからは、ECM制御装置を止めて帰るまで、ただACを走らせるだけのお散歩のようなもの。
少しだけ緊迫を緩め、617は脳内の声に浸る。
【……ところで、この3人でのミッション体制も、いくらか慣れて来ましたね。
久しぶりに急ぎではないミッションですし、制御装置も逃げはしません、焦ることなくいきましょう】
【お? なんだ? エアは俺とリンクス両手に華のデートを楽しみたいと?】
【そっ、あ、いえ、そういう意味では! ただ……ええと。
レイヴンもそうですが、リンクスもとても優れた傭兵。その戦いは、見ているだけで……なんというか、感じ入るところがあります。
ですが、リンクスもまだ年若い女性。ここ最近のように戦いに追われるばかりでは、少々殺伐とし過ぎているとも思えますから】
【そっか。ま、俺は両手に華のデート、すごい楽しいけどね】
【うぇ!?】
ナインの揶揄いの言葉に、エアはこれまで聞いたことのない声を挙げ。
それを聞くことのできない621に、なんだかとても良いものを独占してしまったような罪悪感を覚えつつも、617はくすくすと笑う。
ナインが語ったそれに、617は心底同意する。
楽しい。
そう、2人と一緒にいるのは、楽しいのだ。
617に命の大切さを教えてくれた恩人であり、617を時に守り、時に共闘してくれる相手、彼女のおにいさまであるナイン。
物知りなのにどこか世間知らずで617の共感を誘う、いつもナインと共に一緒に寄り添ってくれる、エア。
勿論2人だけではない。
仲間であり、何かと617を気にかけてくれて、尊敬できる戦士でもある621。
彼女の心を最初に救ってくれた、敬愛すべき主人であるウォルター。
4人と過ごす時間は、心がぽかぽかする。
それを「嬉しい」、「楽しい」、あるいは「幸せ」と呼ぶのだと……最近になって、617は知った。
元来、617はそこまで多弁な方ではない。
実はそこそこ話好きで、時間があれば無駄話で潰したりする621とは対極的と言っていいだろう。
ナインに言われて物を考え、それを語ったり確認することこそ増えたが、彼女はあまり無駄なことを話すタイプではなく、むしろ人の話をじっと聞いているような気性なのだ。
そして、だからこそ。
【もう、ナイン。揶揄うのはやめてください!】
【嘘は吐いてないぞ? 君たちといるのは心底より楽しいとも。
……いやもうホントね。割と夢とか奇跡みたいなことだからさ、この状況】
【まあ、確かに……私も人間と交信したり、同族と話をしたりするとは思っていませんでしたが。
少なくとも「アイビスの火」以降、人との交信ができたなんて事例はなかったようですし……それが2つも重なるというのは、奇跡と言っていいかもしれませんね】
【ま、その辺りはある種必然なところもあるんだが、ともかく。
しかもハウンズはマジで銀髪薄幸美少女だしなぁ……これもしかして、エアも銀髪に赤のインナーカラーが入った長身スレンダード貧乳クールビューティだったりする?】
【ナイン? 今そこはかとなく悪意を感じる表現があった気がしますがナイン?】
だからこそ、こうして。
「たいせつなひとたち」が話をしているのを聞いているのは、彼女にとって、微笑みを零してしまうほど楽しい時間だった。
まあ、自身のおにいさまと異性(?)の同族が絡んでいる様に、心がチクチクするのも事実だったが……。
617はなんとなく、それがクセになりそうな予感もしていたのだった。
* * *
程なくして、「フォーアンサー」はナインがマーキングした地点に到着する。
最後のECM制御装置。目の前の円筒状の機械を停止させればザイレムの通信妨害は途絶え、ウォルターとの通信も可能になるし、617の仕事も終わるだろう。
ACを通してハッキングをかければ、それはすぐに機能を停止させ……ECMフォグの散布が収まる。
直後、通信機が荒いノイズの中、言葉を発した。
『6……聞…えるか。617、聞こえるか』
『ウォルター。はい、リンクス、聞こえています』
聞き馴染んだ、「たいせつなひと」の一人である、ウォルターの声。
それはいつも通り、無感情に近いものだったが……。
基本的にミッションオペレートをナインに任せる彼が特別に連絡をしてきた時点で、何か特例的な出来事があるのは明白。
617は少しだけ緩んでいた緊張の糸を張り直し。
実際、その危惧は現実のものとなる。
『封鎖機構、武装ヘリとLC機体を軸とする執行部隊がそちらに向かっている』
『封鎖機構の増援……了解しました、早急に離脱します』
『いや、待て。それだけではない。
それら執行部隊と、不明な第三勢力が交戦している。そしてその戦闘領域は、お前の方向へもつれ込もうとしている。警戒し、必要ならば敵性存在を見極め、撃破しろ』
『……了解しました』
今、この戦場にいるのは……。
ハウンズ部隊、617の駆る「フォーアンサー」。
封鎖機構、恐らくは「フォーアンサー」の撃破のために向かわされたと思しき執行部隊。
そして……何故かその執行部隊を襲っているという、第三勢力。
617は思考を回すが……どうにも、状況を上手く読み込めない。
第三勢力とは一体誰で、何が目的なのか?
封鎖機構と敵対している筆頭勢力は、やはり企業だろう。
では、企業専属AC部隊がハウンズの動きに勘付いて、情報を得るために追ってきた?
……考えにくい。
ウォルターとおにいさまの情報隠蔽能力は、これまでのミッションで散々見てきた。企業がこんなにも早く動きに気付くとは思い辛い。
では、独立傭兵?
誰かに依頼されて617を助けに、あるいは封鎖機構を潰しに来た?
それも考え辛いだろう。
企業よりもなお情報収集能力が低いだろう傭兵が、617の動きに気付くわけがない。
仮に大きなバックが依頼人に付いたとしても、617を助けて得をする存在は、それこそウォルター筆頭とするハウンズチームくらい。
ウォルターだってどうやら想定外だったようだし……しかし、それなら。
『……おにいさま?』
【…………】
思考を回しながらも、彼女は戦闘に向けて準備を整えていた。
両腕の武装をリロード。擦り減ったAPをリペアキットでチャージ。自身の目視とACのスキャンにより、二重の索敵を行う。
そうして待つこと十秒程。
ついに、敵が霧の向こうから現れた。
【確かに、熱源反応。高速で接近してきます。
これは、武装ヘリと……その後ろに、強襲速度のAC!】
今までに何度か矛を交えた、巨大な武装ヘリコプター。
そして、その背後に迫る、一機の機影。
前方に、本来の作戦目標であるリンクスを認識したからだろうか。
ヘリコプターは一度、その動きを停止させ……それが、致命的な隙となった。
赤い、コーラルの奔流が吹き荒れる。
ヘリコプターの背後に迫っていたACの、アサルトアーマー。
AC内部に溜め込んだパルスを一気に解き放つそれが、数多のミサイルに撃ち抜かれ撃墜寸前だったヘリのAPを、完全に削り取ったのだ。
爆散して散るヘリコプターからはすぐさま視線を逸らし、リンクスは遠く映る機影に目を細める。
『……AC』
【アリーナ登録AC名「アストヒク」、搭乗者は……サム・ドルマヤン!?
解放戦線の帥父、彼らの軍事指導者であり精神的支柱、そして「アイビスの火」を生き残った戦士です!】
エアの言葉は困惑に満ち、まるで悲鳴のようだった。
先日リンクスに依頼をよこしたミドル・フラットウェルが実質的指導者ならば。
サム・ドルマヤンは、解放戦線の象徴だ。
コーラルよ、ルビコンと共にあれ。
彼らが頻繁に口にするフレーズは、そもそも彼の警句が元になっている。
「アイビスの火」を生き残った数少ない生き証人として、長い間コーラルと共にあった先達として、彼はルビコニアンから信奉を集めていた。
そして、そのアリーナランクは……4/A。
年老いてもなお、企業専属の上位ナンバーに並び立つ、怪物じみた戦闘力を持っているのだ。
まさしく、このルビコン3の争乱の中核となりうる人物。
解放戦線の紛うことなきトップが、「フォーアンサー」の前に降り立った。
リンクスは、操縦桿を握った手に、少しだけ力を籠める。
残るリペアキットは、1つ。濃霧によるロックオン距離の短縮、思わぬところから来る敵の攻撃に、そこそこの負担を強いられてしまった。
果たしてここから、アリーナの最上位勢と戦えるか。勝てるか。
……わからない。
最悪の場合、ナインの手を借りることになるかもしれない。
『おにいさま』
念のため、お願いをしようとした彼女に対して、けれど。
【いや】
ナインは、言った。
【攻撃する必要はない。……俺に、話をさせてくれ】
武装ヘリを撃破した、ドルマヤンの駆るAC「アストヒク」。
それは、ブースト移動でリンクスの前にまで進み出て……300m程の距離を空けて、止まった。
そしてローカル通信で、向こう側から言葉が投げかけられる。
『……その賽、投げるべからず。その先には人の世の悲惨のみが待つ。
声よ、問う。その意志は変わらぬか』
617は、首を傾げた。
その賽。人の世の悲惨。その意志。
彼の言う言葉は、どれも意味がわからない。
しかし、それも当然だろう。
ドルマヤンが声をかけたのは、「リンクス」でも「617」でもないのだから。
彼女が体を明け渡したことで、彼女の内に宿る「声」が、それに応えた。
『変わらない。「リリース」は、ハウンズが責任を以て防ぐ。
そして……ルビコンに、新たな夜明けの空を』
いつになく固い、決意の籠った言葉に、617とエアは少なからず驚き。
一方ドルマヤンは、静かに唸り、応えた。
『……いいだろう。その意思が変わらぬ限り、私は助力しよう』
ギュリと音を立て、アストヒクは振り返り、すぐにアサルトブーストで飛び去って行く。
ただ一つ、意思深な言葉を残して。
『さらばだ。……お前たちが臆病者でなく、何らかの選択を取ることのできる、勇気ある者であることを願う』
『私と同じ愚を、犯してくれるな』
本日の傭兵事情
・識別名
Rb31 独立傭兵「リンクス・ウィズ・カラー」
ランク18/D
・アセン
前回から変化なし
・収支
+460,799c
[無人洋上都市捜査(alt2)]
+380,000c(基本報酬)
[経費]
-5,900c(武装修理費)
-12,030c(外装修理費)
-1,709c(内装修理費)
-32,220c(弾薬費)
-5c(必需品購入)
-8,000c(ベリウス地方本格改修費)
-160,000c(ドック借用等諸費用)
─────────────────────
+620,935c(160,136cの黒字)
《ナイン追記》
万事順調。
火でも解放でもリリースでもない、あり得難いエンディング。
そのためには……利用できるもの、全てを利用しなくてはね。
体の方も、ようやくあそこから脱出完了した。
このままアレをやられるわけにもいかない。本格介入していく必要があるだろう。
精々、祈るとしよう。
全ては……4つ目の答えのために。
《617追記》
……おにいさまに言われていろいろ考えるようになって、ちょっと、むずかしくなった。
ウォルターも、おにいさまも、エアも、多分621も、そしてわたしも。
みんな考えることとか望むことがあって、そのかたちは違う。
ウォルターは、死んででも、目的をはたそうとしてるらしい。……それは、いや。
でも、ウォルターの目的をかなえてあげたいとも思う。
みんなの望みもそう。かなえてあげたい。
でも、それぞれの望みと望みがぶつかったら、どうすればいい?
むずかしい。ほんとうに。
でも、考えないと。
わたしは、みんなの望むことを知った上で、どんな未来を望む?
わたしは、何のために戦う?
─────────────────────
Chpter3前編はこれにて終了。
既に数多の戦場を切り抜けてきた617の実力は、周回勢の領域に到達しつつあります。封鎖機構の雑魚共になんか負けるわけないだろ!
そんな日々の中で、しかし617の情緒は、時と共に少しずつ磨かれて行きます。
強さの理由。求める未来。戦う意味。かつて621も悩んだであろう問いに、彼女はどんな答えに見出すのでしょうか。
ナインの暗躍、ラスティの関心、ウォルターの信頼に621の錬磨、あとエア長身貧乳説。
様々な原作との乖離を遂げながら、いよいよ物語はルビコニアンデスワーム戦へ。
Chapter3後編は、2026年1月更新再開予定!
読者様なら、お読みいただきたい。楽しんでいただけたなら……素敵だ♡
(宣伝)
本日より、「魔法少女ノ魔女裁判」の二次創作を投稿しています。
毎日投稿していく予定なので、原作履修済みの方は是非お楽しみください!
【嘘吐少女ノ魔女愛談】