そして世に(銀髪薄幸美少女傭兵との)純愛のあらんことを 作:アリマリア
このタイトルを付けようとして、別にこれミームじゃなくない? 本名じゃんと思った。
冷静に考えると全然ミームだった。
『やあ朋友、そっちの調子はどうだ』
上空を翔ける「フォーアンサー」、コックピット内。
通信の向こうから聞こえて来るのは、気取った若い男の声だ。
その主はアーキバス専属AC部隊ヴェスパー、その第四隊長。
識別名、V.Ⅳラスティ。
今回のミッションにおける協働者が、相も変わらず軽い調子で話しかけてきていた。
バートラム旧宇宙港襲撃。
今回独立傭兵レイヴンに対して依頼されたそれは、それ単体では極めて困難な任務だ。
旧宇宙港それそのものが、LC機体複数によって守護される、堅固な基地であることも要因の一つだが……。
何より、ナインも口にした封鎖機構の広大な連絡網が問題となる。
封鎖機構は、複数の基地がそれぞれをカバーし合う、相互補完のネットワークを築いている。
重要拠点の一つである旧宇宙港を真正面から落とそうとすれば、当然ながら周囲の基地から増援が来ることになるだろう。
さしものアリーナランク1たるレイヴンとはいえ、何十という艦隊やLC機体に囲まれてしまえば、苦戦は避けられない。
……と、アーキバスは想定している。
実態はともかく、常識的に考えれば、いくら突出していても一人の独立傭兵の実力はその程度なのだ。
そのため、今回のミッションにあたってはこの増援を遅らせる、あるいは撃破する必要があり……。
アーキバスの手勢であるラスティや、アーキバスと懇意にしているリンクスにも支援ミッションが下った。
ラスティは、通信基地襲撃。
これによって封鎖機構の通信網を混乱させ、旧宇宙港への増援を少しでも遅らせる。
リンクスは、増援強襲艦隊撃破。
混乱を抑えて増援に来ると思われる強襲艦隊を出待ちし、片端から潰す。
これらによって、少しでもレイヴンのミッション成功率を上げようという方策だ。
『こちらのミッションは完了。
現在、バートラム旧宇宙港を目指して進行中。独立傭兵レイヴンの支援へ向かうつもりです』
ラスティの問いかけに投げ返す617の返事の声音は、少し固い。
元より、617はラスティがあまり得意ではなかった。
何故か異様に距離感が近く、こちらを「朋友」と呼んできて、言葉の端々から不穏を匂わせる。
こういった男性はこれまで彼女の周りにいなかったため、何を考えているのか理解できなかったのだ。
更に言えば、617が最近頭を悩ませていることも、ある意味ではラスティの発言が招いたようなもの。
どうしても反感というか、身構えてしまうところがある。
ラスティはそんな彼女の声に、微かな苦笑いを漏らし、言った。
『そうか。まずは当社から依頼したミッションの完了、感謝する。
連中の連絡網の回復は想定よりも早く、そして増援艦隊の量もまた想定を越えていた。
君でなくては達成できないものだっただろう。ありがとう、助かったよ』
『構いません、依頼ですので。……そちらは今、どうしていますか』
『私は戦友の支援に向かう。もう少しで旧宇宙港に着く頃だ』
617が621の支援に向かうのは、彼女がハウンズの仲間だからだ。
加えて言えば、617は独立傭兵。ある程度自由に動くことを許される身でもある。
対し、ラスティは企業専属AC部隊員。企業からの命令を忠実にこなすべき手駒のはずだ。
通信基地の襲撃はともかく、その後レイヴンの支援に回るなど、ブリーフィングで聞かされていない。
レイヴンからの心証が良くなること以外、アーキバスの得になることもないだろう。
である以上、それは十中八九、ラスティの独断だろう。
企業から貸し与えられた武装やACを消耗させるだろう判断は、むしろ企業への反抗にも近い。
『……レイヴンの支援に?』
リンクスは、言葉にできる程明瞭にではなくとも、そこに違和感を持ち、怪訝そうに問いかけたのだが。
ラスティはそれに、楽し気に答えた。
『ああ。戦友には何かと迷惑をかけているし、久方ぶりに戦場を共にしたいという思いもある。
勿論、朋友とも肩を並べてみたいがね。なかなか機会に恵まれないものだ』
「…………」
それは、以前の617なら理解し難いようで。
けれど、今の617には、少しだけ分かる話だった。
誰かと戦場を共にするのは、楽しい。
621と、ナインと、エアと、ヤクザと。
様々な人と共に戦場を経験したからこそ、617は初めて、ラスティの言葉に共感できた。
その共感が、あるいは彼女の心の蟠りを解したのか。
『……あなたの、戦う理由は何ですか?』
半ば興味のままに、その疑問を口にした。
『あなたはしばらく前、レイヴンとリンクスに、戦う理由を尋ねました。
理由のない強さ程危ういものはなく、何を見据えて、何を目指して戦うかの背景が必要なのだと。
あなたにとってそれは、戦場に立つ理由は、何なのですか?』
頑是ない幼子らしい、素朴な問いかけでもあり。
戦士が答えを求める、切迫した疑問でもあった。
戦う理由、そして求める未来の展望。
幼くして戦場に立つことを余儀なくされた子供であり、しかし庇護下に置かれ情緒を育んできた彼女にとって、それは最近ずっと頭を悩ませてきたことだった。
617には、明確なビジョンがない。
ウォルターは、過去の清算のため、コーラルごとルビコンを焼き払うことを。
621は、ウォルターたち親しい人々を救うため、それを阻止することを。
エアは、自らの同胞たちのため、人とコーラルが並び立てる未来を。
そしてナインは、彼の求める「
仲間たちは皆、それぞれ異なる未来を思い描き、しかし寄り添って生きている。
……そんな中。617だけは、ぼんやりとした現状維持だけを望み、未来を見据えられずにいる。
それが良くないということを、今の617はなんとなく理解できる。
だが、だからといって即座に自身の求めるものを直視できる程、彼女は成熟してもいない。
だからこそ、彼女はそれを訊いたのだろう。
同じように、誰かと共に戦場に立つことを楽しむ、少しだけ価値観が近いかもしれない男……。
ラスティが、戦場に立つ理由を。
対して、通信は一瞬だけ静寂に包まれ……。
その後に、ラスティは答えた。
『……そうだな。私が戦う理由……それは、守るためであり、変えるためでもある』
それは、今までの飄々とした言葉ではなく、確固とした決意の篭った言葉だった。
『外部からの急激な干渉は、時にその場に破滅を招きかねない。
だが同時、ただ閉じ籠り、その外圧に耐えるばかりでは、何も変わらない。
革新と停滞。そのどちらの結末も、私にとって望ましいものとは言えない』
どこか抽象的で、しかし示唆に富んだ言葉。
封鎖機構の傍受への対策として、決して外に漏れない秘匿回線の上だからこそ、彼はその本音を乗せた。
『常に奪われ、搾取され、抑圧されてきたものを、解き放たなければならない。
燃え殻の灰に塗れ、呼吸すらもままならない人々に、澄んだ空気を届けなければならない』
戦士としての意思表明か。
未だ幼い子供のための教導か。
あるいは、脅威となる存在への牽制か。
赤と灰に彩られた空の下。
目的地へ飛ぶ「フォーアンサー」の中に、その意志が響く。
『────この灰色の空に、夜明けを。
それが私の戦う理由さ』
ラスティはその後すぐ、旧宇宙港に到着し、通信を切り上げてしまった。
617は現地に到着するまでの数分間、それぞれの戦う理由に思いを馳せる。
そんな彼女を、2つの変異波形は、無言のままに温かく見守っていた。
* * *
リンクスがその上空に到着した時、バートラム旧宇宙港は、既に壊滅していた。
レイヴンの活躍により各所に配置された戦力は軒並み鉄屑となり、作戦目標であった停泊中の5隻の強襲艦も完全に沈黙している。
応援に来るはずだった強襲艦隊も、リンクスが殲滅したために現れず。
遅れて現地に派遣された二機の執行機、高機動型LC機体、HC機体の内、LC機体は既に撃破されて……。
『ぐっ……秩序に仇なす者共め……!』
残ったのはただ一機、「
封鎖機構の執行機の一つ、HC機体。
そのコンセプトは、非常に単純明快。
スペックによる圧殺だ。
主に優先排除対象に当てられるこの機体は、LC機体から高い機動性を削ぐ代わり、正面戦闘に特化したような性能をしている。
非常に分厚い装甲と防御性能を有し、また積み込まれる武装も多彩かつ高火力。
その上でなお、推進力はACのそれを上回っており、排除対象の逃走を許さない。
LCのように飛び回って攪乱するのではなく、真正面から小細工抜きに敵を叩き潰す、というわけだ。
おおよそ並みのAC乗りであれば、ただその威に圧倒され、抵抗すら叶わず散るだけだろう。
正しく「執行機」の名の通り、敵を排除することに特化した殺戮兵器である。
……しかし、今それに対面しているのは、正しく
タンク脚で周囲を走り抜けながら、両腕のレーザーショットガンの暴威を押し付けるレイヴン。
時に地上を、時に空中を跳ね回り、敵の攻撃をいなしつつカウンターを叩き込むラスティ。
共闘した経験など殆どないはずの、けれど驚く程息の合った2人の連携に、HC機体に乗る執行上尉は追い詰められていた。
彼の支援に回るはずだった執行中尉の乗るLC高機動型は、既にレイヴンの手によって墜とされている。
空中に逃れようとするLCを、タンク脚でありながらどこまでも追いかけ、執拗な連撃によって殆ど一方的に捻り潰して見せたのだ。
現代機動戦において多対一が圧倒的に不利なことは、HCもまた変わらない。
相手の数を減らせないままLCが墜ちた時点で、この戦いの趨勢は決まっていたのだろう。
『コード78E、上申……!』
支援要請、それも敵の脅威度を最上とするそれをシステムへ送ると同時……。
ラスティの乗騎「スティールヘイズ」のレーザースライサーによって切り刻まれ、HC機体はAPの限界を迎えた。
──メインカメラが捉える映像の中で、爆発する敵機。
それを見て、基地上空まで来ていた「フォーアンサー」は、アサルトブーストをオフにした。
『……間に合いませんでしたか』
せめて最後に漁夫パイル、もとい少しでも活躍を、と。
そう思って左腕武装をパイルに換装していた617は、とても残念そうに呟きを漏らし、戦場に降り立つ。
積もった雪を蹴散らしながらブレーキをかける「フォーアンサー」の周りに、今回の協働者たる2機はすぐに集まってきた。
『リンクス、来てくれたんだ。こっちはおわったよ』
『朋友の活躍も見たいところだったが……ふふ、戦友の手並みの前には私も形無しだったよ』
それぞれ封鎖機構の基地を壊滅に追い込み、執行機すら屠ってみせたとは思えない、平静な声。
2人にとって、この程度の戦場は日常茶飯事なのだろう。
ラスティはわからないが、やはりまだ621には届きそうにない、なんてことを思う617。
『お疲れ様です、レイヴン。流石の遂行速度ですね』
……そんな彼女自身もまた、強襲艦隊7隻を墜としてなお平然としている。
自分でも気付かない内に、617は着実に「普通」の枠を越えていっていた。
* * *
『さて、それじゃそろそろ、高台に上がろう』
不意に発された621の言葉に、ラスティと617は揃って首を傾げる。
『高台? もうミッションは終わったはずだが……』
『撃ち漏らしですか?』
しかし、当惑する2人の言葉に応えることなく、621はアサルトブーストを起動。
基地を取り囲む岩壁の上へと、飛び去ってしまい……。
……同時。
617の目の色が赤に染まり、首の発声デバイスが声を上げた。
『リンクス、ラスティ。岩壁上への退避を推奨する。……地中から、巨大な熱源反応が近付いている』
『コード78Eを承認……強制排除を執行』
旧宇宙港に、システムによる音声が響き渡る。
それは、「仮に封鎖機構の人員が残っていても、それすら犠牲にして脅威を排除する」という、この基地の全存在への処刑宣告。
621に続いて、岩壁上へと退避した617とラスティ。
彼女たちの目の前で……基地の床が、盛り上がり……爆ぜた。
「っ!?」
『何……?』
……いいや。
爆ぜた、というのは正確な表現ではないだろう。
鉄製の床や壁すら貫く異常な質量と圧力を以て曲げられ、ついには限界を迎えて圧壊した、というのが正しい。
【これは……コーラルの内燃反応……!】
エアの言葉と共に、舞い上がった土煙が晴れ、その全容が明らかになる。
それは、多くの戦場を経験してきた617すらも見たことのない、圧倒的な巨大兵器。
人よりも遥かに巨大な機械の体たるACすら、比べ物にならない。
なにせそれは、ミミズのような極端に細長い体を持ちながら、しかしその断面すら直径40メートルを越えているのだから。
その巨体と異様な程の推進力、先端の断面に大量に配置されたドリルは、雪と氷で覆われた地表も、それどころか堅固なはずの建築物すら容易に食い破っていた。
仮にACが真正面から直撃すれば、ただその一発で破壊されかねない勢いだ。
『なんだ、この化け物は……!?』
常に余裕を崩さなかったラスティすら動揺を隠せない、正真正銘の化け物。
それを前にして、けれど何の揺らぎもなく、621は答えた。
『アイスワーム。封鎖機構の切り札。
集積コーラルにたどりつくために倒さないといけない、私たちの敵だよ』
ウォルターはこの621のムーブを見ても「嗅覚でも育ったか?」で済ます模様。
ごすずんはもうちょい身内を疑うことを覚えよう!