そして世に(銀髪薄幸美少女傭兵との)純愛のあらんことを   作:アリマリア

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 多分ネストにいらっしゃったことのない読者様も多いと思うので、作中のナイン君の話は「そういうのもあるんだなー」くらいでご理解くだされば。
 読み飛ばしても大丈夫なアレですので。





対人ACだな。そういう動きだ。

 

 

 

 617がイカれた変態をぶち殺してから、数日が経過した。

 

 企業やRaDがアイスワームの分析と対抗兵器の開発に追われている現在、ウォルター旗下の傭兵部隊ハウンズには、これといった依頼が入って来ておらず……。

 彼女たちは、戦況が次の段階に進むまでの間、一時の休養を与えられた。

 

 封鎖機構の切り札らしいアイスワームは、コーラル集積地点への道を塞ぐ最後の関門となるだろう。

 つまるところ、これを倒せば、対封鎖機構の企業間同盟は満了する。

 

 その後に始まるのは、集積コーラル獲得を巡った、企業間の電撃占領戦。

 今この瞬間の戦いは、あくまでその前哨戦に過ぎないのだ。

 

 いよいよ始まる戦いの本番。

 企業と協調しての戦いではなく……企業を出し抜く戦い。

 

 ハウンズに与えられた休養は、それに向けて英気を養わせようというウォルターの計らいである。

 

 

 

 ……が。

 

 以前ナインも語っていた通り、ハウンズにとって休養とは、戦いの準備期間に過ぎない。

 

 ナインやウォルターに言われて、617は不随となっている下半身のリハビリ、621は電子書籍読破の課題など、いつか日常生活に回帰するための準備は着々と進められてこそいるし。

 617も会話を楽しめるようになった今、2人のハウンズが雑談を交わしているような光景も、セーフハウスで頻繁に見られるようになったが……。

 

 それでもやはり、戦場の傭兵たる彼女たちにとって、最も前向きに取り組めるのは闘争なのである。

 戦いに意味を、強さに価値を見出す彼女たちにとって、それこそが自己の証明に他ならないのだから。

 

 

 

 そんなわけでその日もまた、617は疑似戦闘シミュレーションに励んでいた。

 

 近日中に来るだろう、アイスワーム決戦。

 ハウンズには既に、この作戦への参加の打診が届いている。

 仕事を取って来たウォルター曰く、「二大企業やRaDとも連携を取った、類を見ない大規模作戦になるだろう」とのことで……。

 そこで足を引っ張ったりしないように、もっと力を付けようという心積もりだった。

 

 そして、その時間が彼女の実になっているかと言えば……是と言う他ないだろう。

 絶賛成長期のイレギュラーたる617は、未だ速度衰えることなく、ぐんぐんと力を付け続けている。

 

 実際に体験してきた数多の戦場と勝利。

 シミュレーター上で味わう様々な苦難と敗北。

 成熟したイレギュラーたる621との戦闘と学習。

 時たま与えられるナインによる圧倒と教導。

 

 それらは彼女から常に慢心を奪い、達成すべき様々な課題と、それを解くための思考の余地、そこからもたらされる様々な知恵を与え続け……。

 617の真面目で誠実な精神性は、それらを養分とし、成長を続けている。

 

 

 

 そうしてその日。

 いよいよ、彼女が次のステージへと進む時が来た。

 

「はぁ……はぁ…………」

【……見事だ。成し遂げたな、617】

 

 ナインブレイカーの最終目的であるナインブレイク。

 その、レベル3を突破せしめたのである。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 ナインブレイカーの最終項目、ナインブレイク。

 文字通り、ナインと直接戦闘を行い打破することを目指すこれは、5つのレベルに分かれる。

 

 レベル1。アリーナ下位の機体を用いた、かなり手加減したナインとの戦闘。

 レベル2。アリーナ上位の機体を用いた、手加減したナインとの戦闘。

 レベル3。ナインが組んだ汎用機体との、少し手加減したナインとの戦闘。

 レベル4。ナインが組んだ対AC特化機体との、手加減なしのナインとの戦闘。

 レベル5の内容は……617も621もレベル4を突破できていないため、まだ明かされていないが。

 

 かつてレベル2を突破してから、617はしばらく、レベル3で停滞していた。

 

 数か月前に初めて挑んだ時は、ろくに抗うこともできず、一方的にやられてしまった。

 617に比べて、ナインは判断力にも操作技術にも長けていたし、何より戦術論において一日どころか一年の長があった。

 

 どのようにAPで、ACS負荷でダメージリードを取るか。

 どの武装をどう使えば、相手に有利を押し付けられるか。

 彼はそれを口では語らず、ただ暴威を見せることによって、617に身で学ばせてきた。

 

 そんなスパルタ教師に対して、617は腐ることなく、それらを一つずつ着実に身につけ続けた。

 相手の動きの観察し、その技術の見て覚え、自分の動きに取り入れ、行動と選択の最適化を繰り返す。

 そんなことを数えきれない程に続けた、その果てに……。

 

 ついに今日、レベル3に勝利を刻んだのである。

 

 

 

 残APが1,000もない、ギリギリの辛勝ではあったが……。

 最後に立っていたのは、「フォーアンサー」。

 

 震える手で操縦桿を握りしめた彼女の目の前で、ナインが操っていた機体が、爆散した。

 

「────っ!」

 

 その瞬間、617の頭に到来したのは……。

 極度の疲労すら消し飛ばす程の、凄まじい快楽。

 脳がジンと痺れる程の恍惚と、遂に成し遂げたのだという達成感。

 それは、かつて617とACを通して繋がった時と同じくらい、強烈な刺激を以て617を満たした。

 

 人の機体を借りて戦うナインではなく……。

 多少は手加減していたとはいえ、ナイン自身が組み上げた機体で戦うナインに競り合い、押し勝てた。

 

 それは、確かに617が成長している証でもあったし。

 何より、その実力が徐々に、彼女の憧れの「おにいさま」に近付いている証拠でもあったのだ。

 

 

 

 ……かつての617は、戦いの他に、他者とのコミュニケーションを知らなかった。

 ウォルターのために戦うこと。ハウンズと共に戦うこと。それを通してしか、他者に友好を示す方法を知らなかったのだ。

 

 対して今の彼女は、会話を筆頭とする愛情表現を知った。

 ウォルターに何でもないことを話してきいてもらったり、一緒にドライフルーツを食べたり。

 621にこの前のミッションで起きた面白いACの挙動の話を聞いたり、お風呂で互いの体を洗ったり。

 エアとはミッションや傭兵について会話を交わしたり……ナインとは、ACを通して体を重ねたり。

 そういったことを通して、他者と関わることを、彼女は学んでいる。

 

 しかし、それでも。

 かつて彼女の心に生じた、「ウォルターやおにいさまのために戦いたい」という想いは、変わらない。

 

 

 

 役に立ちたいのだ。

 

 たくさん助けてもらって、救ってもらった。

 だからこそ、そんな人たちに、何かお返しがしたい。

 

 現に617は今、ウォルターのために戦っている。

 彼が本当に目指すところを聞かずとも、その指示のままに戦場に立っている。

 彼の役には立てている、と思いたいところだ。

 

 

 

 ……だが、その一方で。

 

 617はナインには、何かを返せているか?

 そう問われれば、彼女は口を閉ざす他なかった。

 

 

 

 617が戦いという行為を以てウォルターに報いることができるのは、ひとえにウォルターが戦えないからだ。

 実際にACの操作ができるかはさておき、戦場に出ることのできない彼の代替として、617が確かに求められていた。

 

 しかし一方、ナインはどうかと言えば……。

 かつて助けてもらった経験から、彼がACを動かせることは実証済みで。

 その上、本気を出した時の力は、今の617でも到底敵わないと思えるものだ。

 

 そんな彼のために戦えている、だなんて。

 617には到底、そんな風には思えない。

 

 彼が表に出てこないのは、単に617や621のサポートに徹し、彼女たちを育てようとしているから。

 いつもオペレートやスケジュールの管理、何より強くなるための教えを受けるなどで世話になり続け、むしろ恩だけが溜まっている状況で。

 

 

 

 ……だからこそ。

 少しずつ実力を付け、ナインに迫っているという実感は、617にとって心から嬉しいことだったのだ。

 

 力さえあれば、きっとおにいさまの役に立てる。

 もっともっと強くなれば、おにいさまの求めているらしい「4つ目の答え」というものを目指すための力になれるかもしれない。

 

 そう思っていたからこそ、ナインに迫れたという実感は、617の心にたまらない達成感を抱かせたのだ。

 

 

 

 ……勿論。

 ずっと詰まっていた課題をついに突破したという達成感も、確かにそこにはあったし。

 

 同時、極度の集中によって精神は擦り減り、とんでもない疲労感も溜まっていたのだが。

 

 

 

 * * *

 

 

 

「ふぅ……」

【落ち着いたか、617。……ふふ、凄まじい集中力だったからな。その疲労もむべなるかな、ではあるが】

 

 戦闘終了から5分程。

 極度の消耗に肩を上下させていた617も、ようやく落ち着いて来た。

 

 脳に溢れていた全能感や充足感も徐々に冷えてきた頃合いで、617はそれを少し残念にも思う。

 

『……ドラッグとは、このような感覚なのでしょうか?』

【いきなりどうした!? ……ああいや、まあそうだな。苦戦していたボスを倒した瞬間は脳汁が出る。どんなドラッグより気持ち良いヤツだ】

『脳汁が出る、とはなんでしょうか?』

【脳がじわ~ってなって超気持ち良い感覚、かな】

『理解しました。確かに、脳から何かが沁み出すような感覚でした』

 

 あの心地良い感覚は「脳汁が出る」と言うらしい。617はまた一つ賢くなった。

 新たな知識を得てコクコクと頷いている617に、ナインは【また悪い言葉覚えさせちゃったかな】と苦笑を漏らした。

 

 

 

【ともあれ、ナインブレイクレベル3の達成、おめでとう。これでいよいよ621に追いついたことになるな。

 もはや誰も君のことを未熟とは言えまい。イレギュラー……その称号は君にこそ相応しい】

『ありがとうございます、おにいさま。とても嬉しいです。

 ……とはいえ、まだレベル4とレベル5が残っています。気を引き締めて挑む所存です』

【ふふ、617は本当に真面目で良い子だなー。よしよし】

 

 617の頭を、不意に空中に現れた、赤い手が撫でる。

 

 視界では確認できないほど小さく細かなそれは、収束した微細コーラル。

 なんでも「リソース量が増えたのと、操作の要領を掴んだ」との理由で、ルビコン3に入った辺りから、ナインは617にこれをしてくれるようになった。

 

 実際、最初は風に撫でられるような微細な感覚だったのが、いつしか確かな感覚となり、最近では明確に人の手のように感じられる温かな温度まで生まれていた。

 ナインのコーラル操作能力が上昇しているのは、確かな事実らしい。

 

 

 

 617がそっと手で包んで引き寄せれば、その赤い手はそのまま引き寄せられ。

 頬の横に添えてすりすりされたり、顎へ導けばこしょこしょしてくれたりもする。

 

「…………ほわ」

【……うーん、これ良いのか? なんというか、文字通り猫扱いになってしまうが】

『はい……是非、続けてください』

【そう? それなら……うりうり】

「むふぅ……」

 

 ナインの手に撫でくりまわされ、617はご満悦。

 

 彼女はこれまで、あまりこういった肉体的なコミュニケーションの経験がなかった。

 ウォルターは、自分に対して過度な情を抱かないようにと、直接の接触を避けていたし。

 そんなウォルターや、体のないエアとばかりいっしょに過ごしていた621も、あまり接触によるコミュニケーションを知らなかったのだ。

 

 だからこそ、おにいさまとのみ取るこのコミュニケーションを、彼女は強く好んでいた。

 

 

 

 そんな彼女を、ナインは何とも言えない気持ちで甘やかしていたが……。

 

【……ま、可愛いからいいか】

 

 そう言って、色々と諦めた。

 色々と思うところはあるが……617にとって今が幸福なものであるのなら、それはきっと正しいことだと。

 

 親馬鹿ならぬ、おにいさま馬鹿であった。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 ナインに30分くらいひたすら甘やかされた後。

 

 向上心を失わない617は、勢い勇んでナインブレイクレベル4に挑み……。

 

『これなら!』

【はい駄目】

「ぐぇ…………」

 

 鬼のように、ぼっこぼこにされまくった。

 

『ど……どう、なっているんですか……?

 おかしいです……こうげき、攻撃が当たらない……こっちは当たらないのに、あっちは当たる……それに、当たっても、ぜんぜん削れない……』

【当たるというか、当ててるんだよ。そして当たらないんじゃなくて避けてる。

 何十時間とかけてダメージレースに勝つコンセプトで組んだ機体だ。一発突破なんてされたら、俺のメンタルが削れるってものだよ】

 

 

 

 彼女の突破したナインブレイクレベル3は、ナインの組んだ汎用アセンとの戦い。

 対AC以外にも、MT殲滅、特殊兵器破壊、基地攻め、防衛など、様々な場面で汎用的に戦えるよう調整された……つまりは対ACに特化はしていない構成だ。

 

 対してレベル4は、対AC戦のみを想定して最適化を突き詰めたアセンブルらしい。

 

 右腕、バーストマシンガン(MA-E-210 ETSUJIN)

 左腕、レーザーショットガン(WUERGER/66E)

 右肩、三連プラズマミサイル(Vvc-703PM)

 左肩、プラズマスロワー(44-143 HMMR)

 

 ACの総合コンセプトを定める武装構成はこういった調子で。

 両腕の武装はどちらも比較的近距離向けの武装で、左肩にハンガーしたものも近接武装。

 総じて617のものに近い、近距離戦闘向けの機体と言えるだろう。

 

 残る各種外装・内装パーツは、高機動の軽量機に纏められているようだった。

 617のそれと同等か、それ以上の速度を持つ相手。

 

 総じて、617の機体と殆ど同じようなコンセプト。

 近距離で跳び回りながら削り勝つタイプのアセンブルだ。

 

 

 

 つい先程の617は、その機体構成を見て、むしろ気合が入れた。

 

 近接ドッグファイトは自分の領分。

 あの621すら自分との削り合いは避ける程なのだ。

 

 その戦い方なら、少し、ほんの少しくらいは、ナインにも迫ることができるのではないかと思い……。

 

 ……ああ、確かに、多少は相手のAPを削れはした。

 2割程だったが。

 

 

 

『削り合い……ダメージレース、でしたか。それで負けた、というのはわかります。

 しかし、色々と、わからないことが多すぎて……何故負けたのかも、あの時何が起こったのかも』

 

 617からして、今の戦いは、これまでとは次元の違うものだった。

 

 近距離での削り合いは、想定通りに行えた。

 あるいはおにいさまからの慈悲なのかもしれないそれで、617は自分の成長を見せようとして……。

 

 しかし削り合う内、いつの間にか617のACS負荷は、相手より大きく溜まっていて。

 617の心に強い焦燥が生まれた瞬間……ナインが、()()をして。

 気付けば、「フォーアンサー」はスタッガーしていた。

 

 ナインがこちらに向かって、クイックブーストを噴かしたところまではわかった。

 だが……そこから先、見慣れない動きをして、次の瞬間には大きなダメージが入ったのだ。

 

 そうして動けなくなった直後、アサルトアーマーとレーザーショットガンのチャージショットが突き刺さり、軽装甲の「フォーアンサー」は呆気なく破壊されてしまった。

 

 617からすれば、訳が分からないことの連続で、気付いた時には既に負けていた、という感じ。

 まさしくわからん殺し。これが本当の戦場だったらと考えると、冷や汗が出て来る。

 

 

 

 悩み込む617に対し、ナインはモニターに戦闘中の映像を映して解説を始める。

 

【まず、ダメージレースに負けたのは……技量の差もあるが、何より腕武装のバランスの差だな。

 君の両腕のマシンガンは点の射撃だが、俺の左腕のレザショは面の射撃。完全に避け切るのは難しい。

 君が的確に俺を捉え続けたのなら話は別だったが、互いに軽量機で、頻繁にFCSの照準補正が振り切れるマッチだからそれも難しい。

 結果、エツジン神の安定したパワーに加え、短レザショの掠りがかさんだことで、ダメージリードが取れた、というわけだ。

 ……それと、対人の際にはスタッガー直前に拡張使うといいぞ。パルスアーマーでもいいしアサルトアーマーでもいい、一度仕切り直しができるからな】

『なるほど……』

 

 ダブルトリガー……両腕に同じ射撃武装を装備するアセンブルは、その武装の強みを強調させられるが、反面に汎用性を損ない、弱点も露呈してしまう。

 安定して弾幕を撒けるバーストマシンガンと、避け辛いレーザーショットガン。これらの組み合わせを前に、物の見事に617は削り負けたらしい。

 

『……ちなみに、パルスアーマー、もしくはアサルトアーマーをスタッガー直前に使うと良いとのことでしたが、逆に相手に使われた際にはどうすれば良いのでしょう』

【基本予兆を見たらこっちもカウンターで使う。アサルトもパルスも後出し有利だからな。

 特にパルスに対してアサルトが入ればスタッガーに持っていけてアドがでかい。パルスにパルスは一見微妙に見えるけど、ACSのダメージレースをこっち有利で仕切り直せるから悪くない。

 君は今のところアサルト主体だし、近距離で敵がパルスやアサルトを切ったら即座に切り返すようクセを付けた方がいいかもね】

『なるほど、なるほど……』

 

 

 

【次に、多分君がよくわからなかったと言っていたヤツだが。

 簡単に言うと、左肩から武装をハンガーし、その動きを誤魔化すために前にクイックブースト、最速でヨーヨーを飛ばした、って感じ。

 俗に「手品」なんて言われる技術だ】

 

 改めて映像で見直せば、確かにナインの操る機体は、左肩から武装をハンガーしていた。

 しかし……実戦の中では、617はそれに気付かなかった。

 一気にこちらに踏み込んで来るクイックブーストに気を取られてしまったからだろう。

 

【実のところ、ヨーヨーの通常は発生までが最短0.5秒弱。レーザーダガーすら越えた最速だ。

 相手の思考が直前のクイブに吸われていること、そしてヨーヨー自体が見えにくいこともあって、ぶっちゃけ見て反応するのは無理ゲーレベルの押し付けができる。

 ハンガーの動きもクイブで誤魔化してるから見て避けるのは難しい。持ってなかった武装でいきなり殴られる、まさしく「手品」なわけだな。

 正確には、そこに「黒閃」って技術も加えてるけど……ま、そこは後日ということで】

『…………なるほど』

 

 617はその講釈を聞いて、納得する。

 

 何に納得するかと言えば、使われた技術そのものではなく、自分とナインの間にある技量の差に。

 

 

 

 617はこれまで、とにかく自分の戦い方を磨き上げるため、同じようなアセンに拘って来た。

 実際それが功を奏し、多くのミッションをこなすことのできる実力を身に付けているのだが……。

 

 ナインはきっと、617がこのアセンだけを突き詰めたような深度で、本当に様々な武装を研究してきたのだろう。

 

 更に言えば、ACの挙動に関してもそう。

 ハンガーの動きを見せないようクイックブーストで潰すなど、617は到底思い至らないことだった。

 

 相手との精神戦のために、大切なENを消費する……一見常道から離れているように見えるがしかし、それでスタッガーを取ることができるのならば大きなアドバンテージになる。

 成功しさえすれば、非常に強力な行動になるだろう。

 

 そしてきっと、ナインはそれを確実に決められるだけの修練を積んでいる。

 617には想像も付かない膨大な時間と労力を、その習得に費やしたのだろう。

 

 それだけの修練、積み上げてきたものの差があるのだ。

 隔絶した実力の差があるのは、当然と言えたかもしれない。

 

 

 

【言うならば君は、ストーリーを無事に終えて、いざ対人に入ったばかりのイレギュラーだ。言っちゃなんだが、対人テクニックが甘いのは当然のこと。

 だからこそ、これからもたゆまぬ訓練を積み重ねていくんだ。

 大丈夫、君の成長は人一倍早い。もう少し頑張れば、きっと621にも届くようになるさ】

 

 ナインがそう総括して、場を閉める。

 617は元気な返事と共に、再びシミュレーターへと戻って行って……。

 

 

 

 ……彼女の聴覚がシミュレーターに接続し、外の音を拾わなくなった後。

 

【もう、俺が見てやれる猶予は、長くないだろうけどね。

 最後まで育てるさ。……俺の望みのためにも】

 

 誰にも聞かれることのない、ナインの少し寂し気な、そして嬉しそうな、赤い声が響く。

 

 

 







 ちなみにレギュレーションは最新準拠なので、ナイン君が使ってるのはネオ邪神像……というかBASHOコアではないです。
 加護がなくなっちゃったからね、仕方ないね。
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