そして世に(銀髪薄幸美少女傭兵との)純愛のあらんことを 作:アリマリア
アイスワーム決戦、本編ではめちゃくちゃ楽しいお祭りミッションなんですが……。
この周では、果たしてどうなるか。
『さて……十分に身を休めることはできたか。仕事の時間だ、617、621。
企業側の準備が整ったらしい。お前たちの次の仕事は、ベイラム・アーキバス両社連名での、アイスワーム撃破ミッションになる』
『これからそのブリーフィングが始まる。今回はお前たちにも参加してもらうぞ』
『これよりブリーフィングを開始します』
『アーキバス、ヴェスパーⅡ、スネイルです。
ベイラムに、現地の人間はともかく……野犬を率いる趣味はないのですが、まあいいでしょう。
まず、私から前提を説明しましょう』
『これは両社が合意した一時停戦協定に基づく、惑星封鎖機構に対する同時襲撃攻撃です。
目標は、敵方が保有する拠点群、及び強襲艦隊。
そして、先般起動した封鎖機構の特殊兵器……』
『アーキバスは相変わらず話が長いな! それではこいつらは理解できまい!
G1ミシガンだ! 脳みその足りないお前らの為に、簡単に纏めてやる!』
『要するに、ルビコン各地で封鎖機構との総力戦が起きる。
貴様らは貧乏くじを引いた! ここにいる面々がアサインされたのは最大の脅威、氷原の化け物退治だ!』
『はっ、上等だ。ここらであのクソトレーニングの効果を試すのも悪かねぇ。
おいミシガン、俺は前に出せ。どうせこの面々で盾持ってんのは俺とテメェだけだ、どっちかが囮になる必要があんだろ』
『G5! 貴様上官に向かってなんだその生意気は! 後でしごいてやるから楽しみにしていろ!
だが、面白い! 精々轢き潰されんよう、尻を振って逃げ回るがいい!』
『RaDのシンダー・カーラだ。
ここらでアイスワームの多重コーラル防壁を無効化する手段について話そうじゃないか』
『Cパルスによる頂点部周辺のプライマリシールド、収束コーラルによる全体のセカンダリシールド。
2層からなる鉄壁の守りだ、通常の手段じゃあ貫けやしない』
『うちからは、セカンダリシールドを突破するための玩具を提供しよう。
RaD謹製、オーバード・レールキャノン。プライマリシールドを破った状態でこれを直撃させさえすれば、セカンダリシールドは弾け飛ぶだろうさ』
『ただし、問題が2つ。電力と命中精度だ。
前者はバートラム旧宇宙港の待機電力を回せば足りる計算だが……。
後者に関しては、狙撃手が必要だろう。それも、初めて触る大型のブツでも機を逃さずに当てられる、とびっきりの精鋭がね』
『V.Ⅳラスティだ。
そういうことであれば、射手は任せてくれ。狙撃には自信がある』
『……私は現場監督として出ましょう。寄せ集めには統率が必要です』
『加え、プライマリシールドを破る手段は、アーキバスが提供しましょう。
最新兵器「スタンニードルランチャー」。これを顔部に当てれば、求める結果が得られるはずです』
『それを当てる役目は……。
……試供した兵器に縋り、乱用する傭兵がいるようですね。
犬の嗅覚と牙がどこまで届くのか、見物するとしましょう』
『…………』
『さて、そうなると……弾幕要員と、不測の事態への対処に、一人ずつ欲しいか。
うちからはチャティを出そう。それと、ストレンジャー、あんたも来てくれるね』
『了解した、ボス』
『問題ありません』
『話は纏まったな!
さあ者共、愉快な遠足の始まりだ!』
【……レイヴン、リンクス。私からも一つ、お知らせと懸念が。
ええ、二人の思っている通り、ナインのことで】
【今朝方から、ナインに呼びかけても返事がないのです。その存在も感じ取ることができず……。
2人は……やはり、同じですか】
【昨晩、2人が寝静まった後に「タスクの最終調整に入る」と言っていたので、もしかしたらそちらに気を取られているのかもしれませんが……。
あのナインがミッション、それも決戦を前にして、自分のタスクを優先するとはどうにも思い難く。
前回のリンクスのミッションでは不在でしたが、あれは私たちの方から休憩を勧めたのですし。
もしかしたら、あちらでも何かあったのかもしれません】
【それに、最近のナインの様子は、少しばかり妙に思えます。
……やはり、リンクスもそう思いますか。
レイヴンは……いえ、すみません、レイヴンにその辺りを求めるのは酷だったかもしれませんね】
【最近のナインはなんだか焦っているというか、何かを隠しているというか。そんな気配があるような気がしていて……】
【ああ、いえ、違いますレイヴン。別にナインを疑ったり、敵に回るつもりはないのです。
ただそもそも、同族である私から見ても、ナインは……少々異質と言いますか。
傭兵活動のオペレートといい、オールマインドのサーバーを拝借するシミュレーションの作成といい、封鎖機構の通信すら妨害する電子戦能力といい……。
彼は私にもできるかわからないことを、平然とやっています】
【聞けば、リンクスと知り合った時点から、既にナインはそうだったとのこと。
彼は一体いつ、何のためにそれを学び、できるようになったのか。
そもそも何のために、ハウンズ部隊を支えているのか。彼が目指している「4つ目の答え」とは何で、何故それを求めているのか?
……思えば私たちは、彼について、あまりにも知らなすぎるような気がするのです】
【ああ……すみません、リンクス。少し、弱気になりすぎたかもしれませんね。
確かに、もしかしたら単なる思い違い、ナインが忘れているだけなのかもしれませんし】
【とにかく今回のミッション、ナインが不在である以上、オペレートは私が担当します。
レイヴン、リンクス。どうかご武運を】
* * *
中央氷原には、いくつかの観測不能領域が存在する。
かつて621がアーキバスの拠点から抜き取った情報に、このようなものがあった。
「中央氷原近傍の特定海域にて、どれだけドローンを飛ばしても必ず映像が欠落する」……と。
無論、これは自然発生した現象ではなく、意図的に引き起こされたクラッキングだ。
惑星封鎖機構は広大な中央氷原の内、肝要ないくつかの地点に、電子と兵力による防衛線を敷いている。
内情を知ろうとドローンや汎用兵器を飛ばしても、映像が届くことはなく、いつの間にか墜落し。
不用意に近付けば、潜んでいた特殊兵器によって鉄屑へと分解され、仮にそれを退けても近傍拠点から送られてくる無限の兵力によって轢き潰される。
故に、観測不能領域。
あるいは……企業の人員の一部は俗に、侵すことのできない静かな領域と言う意味で、「サイレントライン」と呼ぶこともあるが。
今回の作戦区域は、その一つ。
遠い昔に廃墟となった基地群や、そこに物資を運び込んでいたのだろう線路の他には何もない、寂れた氷原の一角であった。
『作戦区域に到達。ここから先、アイスワームの出現が予測されます。
被害を分散するため、各自散開しなさい』
通信に入ってくるのは、V.Ⅱスネイルと言うらしい男性の声。
何故だか621に大層嫌われ、陰では「くそメガネ」「ばか企業」と吐き捨てられている彼は、今回の作戦における参謀を担っている。
ルビコン1でこういう手合いに慣れてしまった617は、もはや声も思い出せなくなりつつある第14基地副長を懐かしみつつ、その言葉に従った。
アイスワームの何よりの脅威は、その圧倒的と言っていい巨躯。
質量が何よりの暴力になるということは、ルビコニアンデスグラインドチェーンソーで予習済み。
あの大きさの兵器が固まっているAC群に突っ込めば、全員痛打を受けることは免れないだろう。
それを避けるため、散開するという命令には一定の説得力があった。
ある程度の距離を置いて、しかし過度に離れることはなく、バラバラに散らばっていくAC。
それをカメラで捉える「フォーアンサー」の中に、聞き慣れた声と聞き慣れない声が響く。
『ミッション開始だ。この作戦の総指揮はミシガンが取る』
『これよりベイラムとアーキバスの合意に基づき、混成AC部隊による作戦行動を開始する。
始めるぞ、命知らず共!!』
それを聞いて、「う」、と。
617は思わず、顔をしかめてしまう。
G1ミシガン……ベイラム専属AC部隊、レッドガンのトップ。
アーキバスと懇意にすることの多かった617は、これまで彼と接するようなタイミングに恵まれず、この怒声にも近しい大声にも縁がなかったのだ。
殊に、ACとの同調を深める戦闘モード中は、聴覚が外部通信と繋がった状態だ。
言うならば、耳の中で突然がなり立てられるようなもので、動揺するのもむべなるかな。
『だいじょうぶ、リンクス?』
『617、ミシガンの声はあまり気にするな。圧力は躱していけ』
【慣れていないと、少し厳しい音量でしょうか。
ミシガンの通信には、こちらで音量の調整を入れますね】
『すみません……助かります……』
なんだかんだと、気遣いの上手い大人に囲まれていた617だ。
いきなり大人の大きな声を聞かされるのは、かなりのショックがある。
それでも、咄嗟に耳を塞ごうと操縦桿から手を離さなかったのは、617の培ってきた鍛錬の賜物と言えただろうか。
ともあれ、今はミッションの最中。他のことに思考を割く余裕はない。
仲間たちの声になんとか気を取り直し、彼女は目の前の氷原を睨んだ。
緩やかな勾配のかかった氷原を駆ける、混成AC部隊。
ベイラム所属、G5イグアス乗機、「ヘッドブリンガー」。
アーキバス所属、V.Ⅱスネイル乗機、「オープンフェイス」。
RaD所属、チャティ・スティック乗機、「サーカス」。
独立傭兵、ランク1レイヴン乗機、「Loader 4」。
同じく、ランク10リンクス・ウィズ・カラー乗機、「フォーアンサー」。
計5機からなる部隊は、二大企業、現地住民、独立傭兵という、異なる陣営の頂点に程近い戦力が集まったもの。
それはつまり、この部隊が、それだけ高い練度を誇る戦士たちの集合であり……。
同時、本来は敵対する者同士が手を取り合う程に、敵が強大であることを意味していた。
【熱源反応、接近!】
『……来るよ』
一瞬、「フォーアンサー」の進行方向の大地が、ボコリと盛り上がったかと思えば。
次の瞬間には、分厚い土と雪を吹き飛ばしながら、その巨体が姿を現す。
大きなミミズのように細長い、けれどその断面ですらACの全長を大幅に越える巨大兵器。
「IA-02: ICE WORM」。
封鎖機構の誇る、最終兵器が。
それはまるで、垂直に跳び上がるように、地面から跳ね上がり……。
勢いを失った辺りで、地表にいる排除対象を見下すが如く、その頭部をもたげた。
全長何百メートルという巨体で、なおかつただ接触しただけでも致命的になりかねない速度を持ち、頭部には対象を細かく破砕するための無数のドリルが回転している。
そして……その巨大な全身は、赤いコーラルの奔流で包み込まれていた。
常時展開のリアクティブシールドで、敵のあらゆる攻撃を無効化し。
その一方で、自身は触れるだけで簡単に相手を破壊することのできる力を持っている。
純粋な戦闘スペックという意味では、間違いなくルビコン最強。
そんな相手が……今、一行の前に立ち塞がっていた。
自分たちを睥睨する敵を見上げ、改めて617は、その威容に心を震わせる。
無論、恐怖ではなく、武者震いの方だ。
今まで数多の強者と、成熟したイレギュラーと、そしてその先に到達した者と何度も戦ってきた617。
彼女が今更、ただ強敵と相対した程度で動揺するわけもない。
……そして、この戦場にはもう一人。
今更、この程度の兵器に尻込みすることのない戦士がいた。
『ここ』
小さく冷静な呟きと共に撃ち出されたのは、一本の杭。
右肩に装備されたランチャーから射出されたそれは、「フォーアンサー」らACを睨むように下を向いていたアイスワームの頭部に向かって、吸い込まれるように走り……。
直撃。
ドリルの細かな破砕の中で、強制的な放電を引き起こし……。
莫大な電力の放出によってシステムに障害が発生、頭部を覆っていたプライマリシールドを形成する、コーラルパルス還流を止めさせた。
【目標、プライマリシールド消失!】
『早速ですね。レイヴン、お見事です』
接敵から、僅か数秒。
「Loader 4」はその背に負ったスタンニードルランチャーを、敵の頭部へと狙撃してみせたのだ。
まるで敵の動きを知り尽くしているような、完璧な一射。
しかしその事実に、誰も動揺することはなかった。
この戦場に立つ者は、ルビコンでも最上級の戦士たちばかり。
殊にレイヴンは、ルビコン3にて最強を誇る、アリーナランク1/Sだ。
その操作技術を認めない者など──口では何と言おうと、心底から認めていない者など、ここには一人として存在しない。
そして、それに応えられない者もまた。
『流石だな、戦友。私もその活躍に続くとしよう』
通信の向こうで、セカンダリシールド突破を担う戦友──ラスティは、笑っていた。
常に期待に応え続ける男、ラスティ。
なんで初めて使ったバケモン兵器でそんな精密狙撃できるんだこの主人公。