そして世に(銀髪薄幸美少女傭兵との)純愛のあらんことを   作:アリマリア

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 イレギュラーが2人になって戦力過剰気味なルビコニアンデスワーム戦。
 ぶっちゃけギミック戦だし、1人でも2人でも変わらないのでは……?





だが、正にこのとき、濁り水はゆっくりと流れはじめていたのだ。

 

 

 

 ……最近。

 レイヴン──C4-621にとって、ナインはもはや、無くてはならない存在となっていた。

 

 何度も何度も繰り返す、終わることなきルビコン3での戦い。

 「ループ」と仮称されるこの現象を、ナインはこの世界で唯一知り、そして理解してくれた。

 

 これまでの、流れ出る血で涙を薄めるような、地獄の日々とその中の苦労を……ただ一人、ナインだけが憶えてくれている。

 誰に知られることもなく喪われたと思っていた過去に、彼が意味をくれたのだ。

 

 別に、大層なことをされたというわけではない。

 ただこれまでの苦労を労い、そこで身に着けた力を評価して、ついでにループあるある話に花を咲かせたり、このミッションはああだったと思い出語りをしたり。

 

 しかしそれだけのちょっとした語らいが、621にとって果たしてどれだけ救いになったことか。

 

 

 

 更に言えば。

 ループを知るナインは、621にとって、唯一隠し事なく話ができる存在であり……。

 同時、知恵の足りない自分に、進むべき道のりを示してくれる人でもあった。

 

 ウォルターの言うままに戦っても、敢えてウォルターと敵対しても、未知の可能性に縋っても。

 結局、ウォルターが死ぬ未来は変えられなかった。

 

 長いループの中、一人で道を模索することを強いられた621。

 彼女にとって、共に悩み、そして道を教えてくれるナインの存在は、ひたすらに大きかった。

 

 「せんせい」。

 子供を教え導き、正しい未来へと誘ってくれる存在。

 

 かつてウォルターから聞いたその名前を、ナインに付けてしまう程に……。

 彼女にとって、その変異波形の存在は、救いだったのだ。

 

 

 

 では、その一方で。

 彼が連れて来た先輩ハウンズ、リンクス・ウィズ・カラー……C4-617の存在をどう思っていたかと言えば。

 

 彼女も彼女で、621にとっての仲間。大切な存在となりつつあった。 

 

 実のところ、かつての621は、彼女を617との距離感を測りかねていた。

 無表情で無感情、発する声は合成音声。どうにもその人となりを測り辛い少女。

 そんな617に対して、戦闘能力はともかくコミュニケーション能力に秀でてはいない621は、どういった対応を取るべきかわからなかったのだ。

 

 しかし、ナインやウォルターと617の間にある信頼は、どうやら確かなもので。

 ならば自分も、後輩として……あるいは人生の先輩として、接しようと決めて。

 

 そうしている内、案外彼女は案外普通の女の子であることがわかって、ナインに向ける無垢な信頼が可愛らしく思えてきた。

 

 

 

『621、621。ちょっと相談があります。

 先日のシミュレーター戦で、621はここで、こう、一気に攻めに転じました。その理由をお聞きしたいです。

 ……私の腰が引けていたから、ですか……なるほど。

 相手に自分の戦術や動きを悟らせないことも、戦術の組み上げでは有用になる……やはりおにいさまの言葉は正しいのですね』

 

『……621、これ……食べますか。

 はい、ドライパイン、です。ウォルターからもらったのです。

 本当は617も食べたい、のですが……621にはいつもお世話になっています。助けられた時にはお返しをしないと、関係は長続きしないらしいので。

 ……一緒に、ですか? 良いのですか? ……はい! いただきます!』

 

 

 

 彼女と過ごす日々は、楽しかった。

 

 ウォルターのような、従うべき絶対的な上位者ではなく。

 ラスティのような、腹に抱えたものを隠しながら、戦場を共にする関係でもなく。

 

 時に支え、時に支えられ、お互いを想い合う、確かな「味方」。

 ……「姉妹」と形容されるべきそれは、戦いの中ですさんでいた621の心に、一時の、けれど確かな清涼感を与えていた。

 

 

 

 そうして、時間を共にした果て。

 力を付け、技術を磨き、ついには……。

 

『ふぅ……ふぅー……か、勝ち、ました。

 ようやく……ようやく、621相手に、一勝、しました……!』

 

 ……ついには、彼女は621と並んだ。

 

 ナインをして「ルビコン3の最強」と表現せしめた621を。

 かつて三度にわたって、ルビコンでの戦いを征した621を。

 

 確かに一時、617は超えて見せたのだ。

 

 

 

 ただ一人立っていた「最強」の座に並ぶ者が現れて、621が何を思ったかと言えば……。

 

 それは、「喜悦と満足」だった。

 

 ナインによる厳しい教導を、617の積み上げる努力を、彼女は誰よりも近くで見ていた。

 

 少しミスをしただけで最高評価を取れないトレーニング。

 学ぶためとはいえ疑似的に痛覚刺激を伴う訓練。

 

 621すら、半端に投げ出してしまったようなそれを……。

 けれど617は、強くならねばならないのだと、懸命に耐え抜いてきた。

 

 それを見て、彼女が力を付けたことを、どうして否定できただろう。

 

『少しでもウォルターやおにいさまの役に立ちたい。

 そして、621の横に対等に並んで、戦いたいのです』

 

 健気に告げられた想いを、どうして無下にできるだろうか。

 

 

 

 言ってしまえば、621は別に、最強に誇りを持っていたわけでもない。

 

 617と同じだ。

 ウォルターを筆頭とする大切な人々を守るためには、強くなる必要があった。

 それが三度も積み重なった果てに……気付けば、最強へと至っていただけ。

 

 しかし、その果てにあったのは、孤独だ。

 

 企業専属のAC部隊は、彼女にとって障害にならず。

 封鎖機構の強襲艦すら、彼女からすれば固定砲台とそう変わらない。

 

 余りにも強すぎるが故に、彼女はもはや、他者の評価や言葉に共感できない。

 その隔絶した力の代償として、他者からの理解を得られず、理解し辛くもなっていた。

 

 ……だが。

 

 ナインが、そして617が、そこに並んでくれた。

 共に立つ最強として、彼女の言葉に頷いてくれるようになった。

 

 

 

 自身と並び、あるいは超え得る最強たち。

 ナインと617の存在は、孤独に折れかけていた621の心を立て直させるに、十分なものだったのだ。

 

 

 

 戦場を駆ける中でも、621はそれを……自らが孤独でないことを、痛感する。

 

 いつものようにナインがオペレートしてくれないのは、少し残念ではあるが……。

 その代わり、今は頼れる仲間がそこにいるのだ。

 

「リンクス、子機」

『はい』

 

 短い言葉の応酬で、伝達は完了した。

 

 アイスワームが展開した子機の群れ。

 十は越えるかというそれを放置したままでは、アイスワーム本体に集中し切れない。

 

 だが、621自身がそれに対処しなければならないわけでもない。

 

 ワーム砲……もといスタンニードルランチャーを装備した「Loader 4」は、対多数に向かない。

 故に、それへの対処にも長けた617に、対処を任せたのだ。

 

 

 

 ……実のところ。

 621は僚機というものを、殆ど頼りにしていなかった。

 

 これまでの戦いの中でも、何度か僚機が付いたことはあるが……。

 大抵は621が戦っている最中に負けて撤退し、結局こちらが相手を片付けなくてはならなかったし。

 何ならこの前なんて、僚機と思ってたらいきなり裏切られて、1対2で襲いかかってきたこともあった。ナイン曰く「騙して悪いが」案件とのことだ。

 

 仲間になると頼れないし、敵になると厄介。

 もういっそ僚機とかなしでやらせてほしい、というのが彼女の本音だったりする。

 

 

 

 だが……。

 相手が617、自分と同格にも近い仲間となれば、話は別だ。

 

「よし」

 

 ロックオンシステムをオフにして、周囲を見回す。

 

 前の周までは、621も子機に攻撃していたが……今周では、それも必要ないだろう。

 故に、不意に飛び出してくるだろうアイスワームを警戒し、いつでもそれを撃てるよう準備した。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 一方「フォーアンサー」……617は、その信頼に応える。

 

『新武装の、実験台になってもらいます』

 

 積極的に前へ前へと詰め寄りながら、新調した両腕の武装を撃ち放つ。

 

 ナインとの戦闘シミュレーション、ナインブレイクレベル4で、自身のアセンブルの不完全を悟った617。

 彼女はナインに頼み、これまで積み立ててて来た資金を切り崩して、アセンブルの更新を決断した。

 

 最初期からずっと使い古していた軽マシンガン(MG-014 LUDLOW)を倉庫に送り込み。

 現在両腕に抱えるのは、あの日ナインにも向けられた、バーストマシンガン(MA-E-210 ETSUJIN)

 

 ナイン曰く「とりあえず近距離で迷ったらこれ握っとけばそう間違いはない」らしいそれは、弾を四発ずつ、間隔を空けて連射する、少々風変りな武装。

 マシンガンというよりはアサルトライフルの方が使用感の近い武装に、617は暫くの間、困惑を隠せずにいたのだが……。

 

 慣れてしまえば、ナインの言っていた強めの言葉にも、なるほどと頷かざるを得なかった。

 

 

 

 4発一気に射出される弾丸に対し、狙われたアイスワーム子機は、素早く身を躍らせることで回避する。

 

 バースト射撃になったことの弱点がこれだ。

 殆ど同時に撃ち出される4発は、一度躱されてしまっただけで、全て無意味に消える。

 弾幕をばら撒くことで偏差にも強いマシンガンと違い、きちんと狙ってトリガーを引かなければ、無駄弾が生じやすい。

 

 ……が、しかし。

 その代わりに、あるいはそれを補って余りあるメリットもまた、存在する。

 

 

 

 直後に発射された、もう片方の腕のバーストマシンガンの弾丸。

 それらは、クイックブーストでブースターを焼け付かせた子機に吸い込まれるようにぶつかり……。

 4発まとめて命中したことで、AP限界値を越えて爆発四散させた。

 

 そう、これこそが利点。

 最初の1発が着弾した時点で、殆ど4発全てが命中を保証されるのだ。

 発射間隔が一定のマシンガンに比べ、瞬間的に相手に与える打撃がより大きく、綺麗に命中させさえすればマシンガンを遥かに超えるダメージを刻むことができる。

 

 特に、飛び回って攻撃を躱してくるが装甲自体は薄い、目の前の子機のような存在には有効だ。

 前までは手こずっていたかもしれない敵を一瞬で撃破したことに、617は確かな手応えを感じた。

 

 更に、一度の発射から発射までに時間が空く以上、腕部に与える反動の影響を立て直す時間ができる。

 そのため照準補正がブレにくくなり、トリガーを引き続けても、弾が狙った方向へ飛びやすいのだ。

 弾がバラけて命中精度が落ち、兵器の破壊ペースが落ちることもない。

 扱い切れさえすれば、前の軽マシンガンよりもずっと効率的な、敵への有効打に成り得る。

 

『これは、確かに……。やはり、おにいさまの見立てはいつでも正しいのですね』

 

 617は納得したように呟き、実戦の中でそれを手に慣らそうと、再び気合を入れ直した。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 いよいよもって実りの時を迎えつつあるイレギュラーに狙われた以上、子機たちの命運など風前の灯。

 その実力の向上を、繰り返される模擬戦を以て誰よりも理解する621だからこそ、もはやそちらに注意を向ける必要は感じなかった。

 

 信頼を以て、彼女は子機から意識を切り離す。

 ただ、地中から不定期に這い出して来るだろうアイスワームに意識を集中させ……。

 

「────そこ」

 

 盛り上がる土を見て、上空からスタンニードルランチャーを撃ち下ろす。

 

 遥か空から降る槍のような一撃は、過たずアイスワームに直撃。

 爆発的な放電によって、再度プライマリシールドを停止させた。

 

 

 

『見事だ、戦友。私もその働きに報いよう。

 エネルギータービン、出力80%……95%、100』

 

 ラスティの声が途絶えて数瞬。

 シールドが破られると同時、地中へ潜っていたアイスワームが、再び地上へと頭を出し……。

 

 

 

『巻き込まれるなよ』

 

 その頭部を、一筋の白閃が貫いた。

 

 

 

【セカンダリシールド、消失!】

『戦友、朋友、今だ。追撃を頼む!』

 

 相棒と友。

 2人の声に背を押されるようにして、621と617は殆ど同時、アイスワームへと踏み込む。

 

 片やミサイルの嵐を放ちつつ、クールダウンを終えたスタンニードルランチャーを機動し。

 片やバーストマシンガンを撃ちながらも、左肩に提げた愛用武装を左腕に換装して。

 

「これで!」

『二度目のパイルッ!!』

 

 凄まじい轟音と共に突き刺さる、二本の杭。

 

 一挙に叩き込まれた火力に、アイスワームは悲鳴を上げるように身をよじり……内部で散った火花が誘爆でもしたのか、大きな爆発を見せた。

 

 

 

 

「あと、1回」

 

 至極冷静に呟きながら、621はアイスワームから離れる。

 「フォーアンサー」もまた、何が来るかもわからない警戒からだろう、「Loader 4」とは別の方向へと下がっていくのが見えた。

 

 アイスワームを相手取るのは、実に四度目。

 相手の耐久値の限界も、こちらが撃つべきタイミングや回数も、621は熟知している。

 

 無論、この後起こることも。

 

 追い詰められたアイスワームは、秘されていた機能を解放する。

 本来内で運用すべきコーラルを意図的に暴走させ、外部へエネルギーとして解き放つのだ。

 時に周辺を薙ぎ払うように、時に地面に流し込むようにするそれは、広範囲に破壊的な被害をばら撒く。

 

 ……無論、当たれば、だが。

 

 

 

「すぐ決める。当たらないでね、みんな」

 

 今回のメンバーは優秀だ。

 毎回粘り強く生存するチャティや、イレギュラーたる617は勿論、くそばかふとっちょ眼鏡ことスネイルも、そしていつもはこの辺りで既に落ちているイグアスも、未だ戦場に残っている。

 

 一応、617と621を除いて、他のメンバーはAC自体を破壊されても問題はないようになっている。

 ……チャティに関してはそうではないはずだが、1周目で破壊されても大丈夫そうだったので、何か上手いことやっているのだろう。

 

 そのため、別に全ACが無事である意味がある、というわけではないが……。

 今回は初めて、全員生存状態で終えられるかもしれない。

 

 初めての流れ、初めての展開。

 621はそれに、微かに心を躍らせ、そのためにも敵をさっさと片付けようとした。

 

 

 

 ……が。その時。

 

 

 

 

 

 

『……待て、何だ、この反応は?

 作戦領域に高速で近付く、熱源反応……これは……!!』

 

【C兵器IA型……!? いえ、しかし、ここまでの速度を出せるなんて!?】

 

「…………え?」

 

 621すら知らない通信が、鳴り響く。

 

 

 

 

 

 

 再度展開されたプライマリシールドを破るべく、スタンニードルランチャーを放つ「Loader 4」。

 コーラルの放出を終えたアイスワームに向けて、それは吸い込まれるように真っすぐ進み……。

 

 …………しかし。

 

 

 

 パンッ!!

 

 

 

 その射線の、途中。

 

 彼女がかつてどこかで見たことのある、赤い光の奔流が咲き誇り……。

 

 

 

 杭は、弾き飛ばされてしまった。

 

 

 

 

 

 

『当該領域に侵入した、全ての勢力に告げる』

 

 

 

 

 

 

 そうして、広域放送で入ってきた、その聞き覚えるのある声に。

 

 「Loader 4」の前に、まるでアイスワームを守るように立ち塞がった、見覚えのある……しかし前までと違って赤色に染まった、一機のACに。

 

 621は……操縦桿を手繰ることすら忘れ、目を見開くこととなった。

 

 

 

 

 

 

『一部例外を除き、コーラル集積地点への侵入は許されない。

 これを破る者は……これより、強制的に排除される』

 

 

 

 

 

 

『私の名前は、ハスラー。ハスラー・ワン。

 システムを守り、封鎖を守る者』

 

 

 

 

 

 

『力を持ちすぎた勢力。秩序を破壊する企業。

 ……システムには、不要だ』

 

 

 







 次回、死闘。
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