そして世に(銀髪薄幸美少女傭兵との)純愛のあらんことを 作:アリマリア
シリーズお馴染み、
騙 し て 悪 い が
(なお依頼人すら想定していない模様)
『一部例外を除き、コーラル集積地点への侵入は許されない。
これを破る者は……これより、強制的に排除される』
『私の名前は、ハスラー。ハスラー・ワン。
システムを守り、封鎖を守る者』
『力を持ちすぎた勢力。秩序を破壊する企業。
……システムには、不要だ』
中央氷原の観測不能領域に現れた、突然の闖入者……。
奇抜な形状をした赤いACは、ただ一方的に宣告を下し、「Loader 4」を筆頭とする対アイスワームチームの前に立ち塞がった。
……その赤いACを。
正確には、それによく似たものを、621は知っていた。
その名を、「
ウォッチポイント・アルファ内に点々と安置されている、無人ACのパーツ群によって組み立てられる機体だ。
深度3突破ミッションでは、621の前に足止めとして立ち塞がってきた相手であり……。
彼女の至った3つ目の答えの中では、共に並び戦うエアがAC「エコー」と名を改めて駆った体でもある。
ルビコン調査技研が作った、非常に特徴的な形状。
時に自分の力となり、時に厄介なタイミングで立ち塞がり、時に頼れる味方になるAC。
そんな相手だからこそ、その機体は621の脳内に、強く印象を残していて……。
「……赤い」
だからこそ、その相違点がどうしても目に付く。
目の前の「エフェメラ」は、赤い。
殆ど塗装されていなかったはずのそれが、まるで赤く塗られたかのように赤く……。
…………いいや、違う。
長くルビコンで戦ってきた621だからこそ分かる。
その赤色は、可視化されるまでに圧縮された、コーラルの潮流だ。
更に、その赤い体を取り巻くように、パルスアーマーのような赤い還流パルスが機体を覆っている。
かつてザイレムの上で戦ったウォルターの用いた肩武装、試作コーラルシールドに近く……しかし、それよりもずっと高密度で、なおかつ洗練された流れ。
本来であれば、たかが拡張機能では再現できるはずもない、完全防護膜である。
それがルビコン3で披露されたのは、ただ一度きり。
覚えている者は片手で数えられる程度。
その内の一人が……。
「お……にい、さ、ま……?」
掠れた呟きを漏らす、617だ。
見たことがある。
知っている。
この身の内に感じたことがある。
なんなら、使ったことすらもある。
赤い光の奔流は、あの日自分を守ってくれた温かな守り。
彼女が彼を「おにいさま」と認めるに至った理由であり、垣間見た強さの頂点。
特務機体カタフラクトを、たった1のAP消費すらなく、十秒強で刈り取った力の一つ。
その名を、「コーラル・プライマルアーマー」。
……617のおにいさまたる、ナインの使う力だった。
* * *
突然の闖入者に、あるいは知り合いによく似た存在に、当惑する一同。
その中でただ一人、素早く行動を起こした者がいた。
『アリーナ未登録AC、見覚えのないフレーム……貴様、何者だ?
ここはアーキバス及びベイラムの執り行う作戦区域。今すぐに退去するというのなら見逃しましょう。二度は警告しません』
誰あろう、今回の作戦参謀、V.Ⅱスネイルである。
右肩に背負うレーザーキャノンをチャージし、いつでも垂直プラズマミサイルを放てるようポッドの隔壁を開いたその姿からは、見逃す気など到底見受けられない。
しかし、それもそのはず。
秘密裡にとはいえ、二大企業が作戦区域に指定した場所に侵入してきた不明な第三者など、きな臭いことこの上ない。
現場を預かる監督として、そしてアーキバスの第二隊長としては、即座に拘束して再教育センターに送り情報を抜き取る他に、選択肢などないのだ。
そんなスネイルの言葉に対し、赤いACは……何も応えない。
ただ球状に還流する赤い粒子を纏い、じっとそこに立つばかり。
そしてACの背後にいたアイスワームは、身を捩じって地面へと潜り、そのまま姿を現さなくなった。
レーダーは熱源を感知しているので、この場から去ったわけではないのだろうが……621にはそれが、赤いACに後を託すような動きに思えた。
そうしてそのまま、状況は膠着。
1秒、2秒、3秒、4秒……5秒の間、沈黙の時が過ぎ去り。
警告を無視されたスネイルの声に、露骨に苛立ちが混じる。
『……なるほど、いいでしょう。
企業の執り行う作戦にAC単騎で歯向かおうなどと、それが如何に蛮勇なのか思い知らせてやる!』
スネイルの駆るAC「オープンフェイス」はアサルトブーストを起動し、赤いACへと迫った。
この作戦の総指揮はG1ミシガンではあるが、現場監督はスネイルに任されている。
現場でしか得られない情報を元に咄嗟の判断を下すのは彼の仕事だ。
そして、彼は今、赤いACの破壊を決定した。
それは即ち──計5機のACが、赤いACに敵対することを意味している。
『待──』
『聞いていたなボンクラ共! まずは招かれざるお客様の歓迎に取り掛かれ!』
その不気味な赤色を目にし、咄嗟に制止の声を上げようとしたウォルター。
だが、それより一息だけ早く、ミシガンは攻撃を承認してしまった。
一度決まってしまった以上、戦場に立つ彼らは、それに従う他ない。
迷い、戸惑い、あるいはほんの少しの恐れを抱きながらも、5機のACは武装を構える。
そうして、新たに現れた闖入者との戦闘が……。
……いいや。
蹂躙が、始まった。
* * *
……繰り返すようだが。
現代機動戦において、数の力は非常に、あるいは非情な程に大きい。
単純な話、2対1での戦闘では相手に与えるダメージが2倍に増え、結果としてスタッガーに陥るまでの時間が半減する。
時間が半減すれば当然、スタッガーまでに被弾し擦り減るAP量も半減し……。
スタッガー中に与えられる直撃ダメージは2倍に増加。軽量機であれば一度で致死量のダメージを叩き込まれることも珍しくはなくなる。
究極、戦いとはAPとACS負荷によるダメージレース。
そこで相手に協力者が1人でもいれば、均衡した戦力比ではもはや勝ちようがなくなる。
それが3対1となれば、もはや真っ当な戦いではなくなり。
4対1となれば、潜り抜けられるのは「本物」だけ。
そして、5対1となれば……生き残ることができるのは、それこそ
────そう。
要するに、この戦況が示す答えは、それだった。
まず、「オープンフェイス」がやられた。
ほんの一瞬だった。
誰も反応できない、しようもない速度で、赤いACは「オープンフェイス」との距離を詰め……。
すれ違い様に、左腕に握っていた
『なっ、馬鹿な、貴ッ』
スネイルが最後まで言葉を紡ぐよりも、右肩のレーザーキャノンを放つよりもなお早く。
目が眩む程の赫々たる光波が、「オープンフェイス」の上半身と下半身を、真っ二つに切断。
その余波によってACの表面装甲は焼け爛れ、通信はノイズと共に途絶えることとなった。
未だAPに余裕のあったはずの重量機が、ACSの上から、一撃で葬り去られた。
それを見て、咄嗟に反応したのは……事態を遥か遠方から見ていたV.Ⅳラスティだ。
『戦友、朋友、当たってくれるなよ!』
アイスワームの撃破を一旦棚上げしてでも、目の前の脅威を退けなければならない。
彼がその判断を下すまで、ほんの一秒すらも必要はなかった。
ラスティは咄嗟に、僅か29%までしか充填されていなかったエネルギーを引き出し、オーバードレールキャノンを撃ち放つ。
本来よりも大幅に威力の弱まった一撃は、しかしそもそもの基準値が高いため、AC規格の武装とは比べ物にならない火力を有しているはずだった。
直撃すれば優にACを葬り去れるそれは……けれど。
バァンッ!!
赤いACが右腕の武装を向けた先で、巨大な破裂音と共に起きたコーラル爆発によって跳ね飛ばされ。
『…………馬鹿な』
勢いを失った砲弾は、雪の中に落ちて大きな穴を作るだけに終わる。
『ちぃっ、どうなってやがるコイツ!?』
『外敵排除を開始する』
次いで行動を起こしたのは、イグアスとチャティ。
イグアスは敢えて目立とうとするようにパルスシールドを展開して詰め寄り、チャティは大量のミサイルを放つことで敵の回避の選択肢を減らして……。
けれど、赤いACはそれに動じることもなく。
むしろ自らミサイルの雨に突っ込みながら、イグアスとの距離を詰めて来る。
『なっ、コイツ正気じゃ……!』
驚嘆に声を上げるイグアスの目の前で、襲いかかるミサイルはしかし、コーラル・プライマルアーマーに弾かれ、無為に爆炎を散らして消えて。
赤いACはその中を突っ切り、今だクールダウン中と思われたその左腕武装を振りかぶる。
流石にコーラルの充填が済まなかったのか、あるいは他の理由があるのか……。
先程よりは光量の抑えられた赤い軌跡が、パルスシールドの上から、「ヘッドブリンガー」を斬り裂いた。
『クソ、このイカレ野郎がッ!』
咄嗟にシールドを畳み、クイックブーストを噴かすことで軸こそズラしたものの……。
それでも「ヘッドブリンガー」の右腕が肩部分から切断され、宙を舞う。
無論、そこまでの衝撃が襲いかかれば、ACSは処理限界を迎えてスタッガー。
「ヘッドブリンガー」は一時的な戦闘不能状態に陥った。
次いで赤いACは、チャティの乗騎、AC「サーカス」に向けて右腕の
……弾道を見ることすらできない、超音速の弾丸でも走ったのか。
次の瞬間には、「サーカス」の足元に、壮絶なコーラル爆発が巻き起こった。
『この、威力……遠隔操作では、これが限界か』
二度の爆発でスタッガーに追い込まれ、連鎖して発生する幾度もの爆発に直撃。
「サーカス」は抵抗の余地もなく、その機体を炎上させ、沈黙した。
* * *
「オープンフェイス」、並びに「サーカス」、撃破。
「ヘッドブリンガー」、中破。
……ほんの一瞬、20秒かそこらで。
ルビコン3において集められる頂点戦力にも近い、対アイスワーム決戦チームは……たった一機のACに半壊させられた。
まともに戦闘行動が取れるのは、もはやハウンズチームだけだ。
そして、残された少女たちは……。
非常に珍しいことに、戦いを前に、躊躇していた。
何故なら、その赤いACは、そのコーラルの輝きは、その圧倒的な強さは。
彼女たちの脳裏に、一つの像を結んでいたから。
『おにい、さま。オペレーター。……ナイン。
何、何故……なんで、どうして……こんなことを、するんですか』
震える手で、自らの髪に付けられた赤い髪飾りを確かめる617。
彼女の動揺と言葉は、621とエアの心情を代弁していた。
間違いない。
目の前の赤いACの乗り手は、ナインだろう。
617からすれば、自分を救ってくれた赤い輝きを、見間違うはずもなかったし。
621からすれば、自分も届かないと思える高みは、彼をおいて他になかったし。
エアからすれば、自分と同じようで違うコーラルの波長が、見えないはずもなかった。
だが、だからこそわからない。
ここまでずっと、彼女たちハウンズの味方であったはずのナインが。
いつも優しく、彼女たちに道を示し続けて来たナインが。
何故、ここで、敵として立ち塞がるのか。
赤いACが……彼が、その問いに答えることはない。
ただ、声が。
この場において、ただ
【言葉など、既に意味をなさない。
見せてみろ、君たちの力】
それは正しく、敵から送られる宣戦布告だった。
Q.赤いAC、化け物すぎへん?
A.ノーマルに対するネクストっていうのはそういうモンです。
詳細はAC4とACFAで検索!