そして世に(銀髪薄幸美少女傭兵との)純愛のあらんことを   作:アリマリア

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 前回までのあらすじ

 赤いエフェメラ強襲。
 乗り手は「ハスラー・ワン」。
 対アイスワームチーム、半壊。





大多数の独立傭兵にとって、ジャイアント・キリングはその名の通り奇跡の親戚にすぎなかったのである

 

 

 

 雪原を3機のACが駆ける。

 

 1機は、アイスワームとの戦いに割り込んできた敵、赤いAC。

 ブースターから特徴的な赤い噴煙を散らし、通常のACでは考えられない速度で走るそれは、3機のACを襲撃した後、「フォーアンサー」と「Loader 4」に対して一定の距離を空けて牽制射撃を繰り出してきている。

 

 1機は、617の駆る「フォーアンサー」。

 そもそもこの作戦において想定外の事態への対処を任せられていた彼女は、内心の動揺を隠せないままに、しかし懸命に赤いACへと追い縋っていた。

 

 1機は、621の駆る「Loader 4」。

 極めて素早い赤いAC、機動力重視の軽量機「フォーアンサー」と違い、彼女の愛機は中量機だ。無理に付いて行くというよりは、相手を引き付けるように積極的な攻勢を見せている。

 

 

 

 不動のアリーナランク1/Sと、それに抗することのできるもう一人の最強。

 今のハウンズは、名実共に最強の傭兵部隊だろう。

 

 本来であれば、レイヴンとリンクスが2人がかりでぶつかって勝てない相手など、ルビコンに存在しないのだろうが……。

 

 

 

 ────しかし。

 

 彼女たち自身がそうであるように、例外(イレギュラー)は常に存在し得る。

 

 

 

 彼女たちがその違和感を抱いたのは、ほぼ同時。

 赤いACとの戦端が開いてから、僅か5秒後のことだった。

 

「っ……削れてる感じがしない!」

『手応えがありません』

 

 彼女たちはその両腕武装、あるいは肩武装を用いて、敵性ACを攻撃していた。

 それらの攻撃は少なからず命中しているが……赤いACの周囲を覆うコーラル・プライマルアーマーによって全て弾かれ、無効化されてしまっている。

 

 ……そこまでは、いい。

 

 これまでも幾度となく、パルスアーマーを纏う敵と戦ってきた。

 その際も、相手のパルスアーマーの耐久値を削り切るまで、殆どダメージは通らなかったのだ。

 なんなら621は、これによく似たパルスアーマーを、落下中のザイレムで見たこともあったくらいで……。

 それだけなら、驚くには到底値しない。

 

 しかし……。

 その時と今の状況は、同じようで、全く違う。

 

 なにせ、目の前にいる相手を覆う赤いアーマーは……。

 粒子の消耗によって発生する還流の乱れが、全くと言っていい程に見られないのだ。

 

 

 

 確かに攻撃を命中させているはずなのに、全く消耗が見られない相手に当惑する617と621。

 そんな彼女たちの脳内に、慌てた様子の赤い声が響いた。

 

【解析、完了しました!

 仮称「ハスラー・ワン」の使うAC、その周囲を守っているのは超高濃度コーラル。言うならば、アイスワームの使っていたセカンダリシールドの亜種のようなものと思われます。

 問題は、どこからか、どうやってか、今も莫大な量のコーラルを汲み上げ続けていること……消耗した分を常に回復し続けているような状態です。

 これでは、消耗は即座に回復されて、攻撃が意味を成しません!】

 

『…………』

「な、なにそれ!?」

 

 617は絶句し、621は戸惑いに声を上げた。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 パルスアーマー。

 ACの拡張機能の一つであるそれは、一手で戦況をひっくり返し得るものだ。

 

 なにせ、それまでに蓄積してきたACS負荷が全て立て直され、アーマーを削り切るまで相手のAPやACSに負荷をかけられなくなるのだから。

 

 最近ナインブレイクのレベル4に挑み始めた617は、戦いとは即ちAPとACSのダメージレースなのだと知っている。

 どれだけこちらが削られないように、相手をより早く削り取るか。

 先にスタッガーすれば負けるし、そうならないように相手は逃げるから、追わねばならない。

 

 こちらとあちら両方の耐久限界を常に意識し、死ぬ前に殺す。

 それこそが現代機動戦の肝なのだ、と。

 

 その点、それまでのダメージレースを一度リセットできるパルスアーマーは、強力無比なちゃぶ台返しであり……。

 

 だからこそ、それへの対処法や対応策もまた、存在する。

 

 アサルトアーマーで吹き飛ばすでもいいし、追ってパルスアーマーを展開するでもいい。

 そうでなくとも、パルスアーマーには明確な耐久値限界が存在する。干渉力に長けたパルスガンでさっさと剥いでしまうこともできるし、最悪通常の弾丸でも剥ぎ取ることが可能だ。

 

 還流させるパルスを充填する時間が必要になる以上、アーマーは高頻度で再展開することはできない。

 ちゃぶ台返しはあくまで一度しかできず、やろうとすれば、そのアドバンテージを取り返すこともできる。

 それがAC戦において、パルスアーマーが絶対足り得ない理由だ。

 

 

 

 しかし、それなら、今の状況はどうか。

 

 攻撃が当たっても、還流パルスを削ることができない。

 その耐久値は減るどころか、今もなお増加し続けている。

 

 ……AC規格の武装程度では、削り取れない。

 シンプルに、物量が不足している。圧力が欠けている。攻撃が弱すぎるのだ。

 

 こちらの攻撃は一切意味を成さず、その一方で相手からの攻撃は簡単に致命傷になり得る。

 それではもはや、まともな戦いは成立しない。

 

 

 

 ……そう、成立しない。

 

 本気のナインを相手に取った以上、それは戦いにはならない。

 対等な双方向の戦闘ではなく、不平等で一方的な蹂躙になるのだ。

 

 621は知らずとも、617だけは、それを知っていた。

 

『おにい、さま……』

 

 かつて、アリーナのトップランカー2機を相手にし、しかしほんの一瞬で相手を破壊したナインの姿を、彼女はその目で見ていた。

 

 ナインの実力が圧倒的……いいや、超越的であることを。

 彼女が敗北を喫したレベル4のナインでさえ、「同規格AC同士での戦い」に限定し、自らを縛っていたということを、彼女は知っていたのだ。

 

 本気を、いいや、全力を出したナインのACは、赤い光と共に異次元の(ネクスト)ACとなる。

 そうなれば、もはや誰も止めることなどできないのだと。

 

 

 

 その上で、勝ち目があるのか……と。

 

 心に問いかける声は、いつしか自分のものと思うようになった、無機質な合成音声。

 

 本気を出した「おにいさま」に、勝てると思っているのか?

 

 ……いいや、勝てるわけがない。

 対等なAC戦に限定したナインにさえ勝てないのに、全力のナインに及ぶとは、到底思えない。

 

 そう、617の悲観的な──あるいは客観的な戦力分析が、囁いている。

 この戦いで、自分は生き残れない。無駄に命を散らすのだと、未来を確信している。

 

「……ッ!」

 

 それでもなお操縦桿を手放さないのは、これもひとえにナインの教導が故だ。

 

 「一度戦場に立ったなら、目標を達成して帰るか、あるいは死ぬその瞬間まで、絶対に戦いを止めるな」。

 かつて教わったその言葉が、彼女の凍り付いた感性の上から、しかし柔軟にACを動かしている。

 

 シミュレーションならまだしも……現実で、負けるわけにはいかない。

 ナインの教導を、621との研鑽を、間違いだったことにはできないのだから。

 

 

 

 歯を食いしばり、死と、何より師に敵対する恐怖に耐える617。

 

 しかし、その時……。

 彼女の耳元に、平静を取り戻した、仲間の声が届く。

 

『……いや、違う、だいじょうぶ。

 隙はある。今、ゆっくり動いて、あんまり撃って来ないのがその証拠だ。

 やろう、617。せんせいに、私たちの力を見せてやるんだ。

 きっと……せんせいも、それを望んでる』

 

 

 

 * * *

 

 

 

 まるでイレギュラーたちの様子を見るように、しばらく攻撃の手を休めていた赤いAC。

 

 しかし不意に、その機体を覆う赤いプライマルアーマーが一層輝き……。

 

「来るよ!!」

 

 直後。赤いACは再び、攻撃を開始した。

 

 

 

 亜音速、もはや目で追う事も困難な速度で「フォーアンサー」に迫り。

 鈍重な機械の体とは思えない、鋭利な蹴りを放ってくる。

 

「ッ!!」

 

 思考を挟み込む余地などなかった。

 これまでの人生で培った戦闘経験と、前以て準備していた心構えから、彼女は反射的にクイックブーストを切り……紙一重、その蹴りを躱してみせた。

 

 そして、千載一遇の好機が訪れたと、確信する。

 

 ブーストキック。ACの機能の一つ。

 アサルトブーストの勢いをキックで相手に叩き付ける、武装を問わない攻撃手段であり……同時それは、大きな隙を晒す行動でもある。

 速度を衝撃に転換するこの動きは高い衝撃力を備える分、放った側の体勢も大きく崩す。

 ACSにこそ負荷はかからないが、おおよそ0.5秒程度の間ACのブースターの向く方向は狂い、クイックブーストを切ることすらできなくなるのだ。

 

 アサルトブーストもなく、クイックブーストからキックを放って来たのは、驚愕する他なかったが……。

 赤いACもACである以上、キックを放った後は大きく体勢を崩すはず。

 

 それを反攻の起点にすれば、まだ────。

 

「…………い、や」

 

 

 

 おにいさまが、自分から仕掛けた攻撃で、そんな無様な隙を晒すか?

 

 

 

 無上の信頼こそが、彼女に疑念をもたらした。

 

 ブーストでは到底間に合わない。

 クイックブーストでさえ確信が持てない。

 であれば、残った手札はたった一つ。

 

 赤いACの挙動を見ることすらなく、617は即座に拡張機能──アサルトアーマーを起動する。

 

 周囲にパルスの爆風を撒き散らすこれは、主に敵への追撃やパルスアーマーを剥がすことに使われるが……。

 もう一つ残った効果が、敵による攻撃の無力化。

 実弾系の弾丸をパルスの嵐が弾き飛ばすこともそうだが、パルス・エネルギー系の攻撃に干渉し、消し飛ばすこともできる。

 

 実際、今回も……凄まじい勢いで「フォーアンサー」に迫って来た、2振りのコーラル光波は、跡形もなく消滅してしまった。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 「Loader 4」コックピット内。

 621は両腕の武装を撃ちながらも、目の前の光景に目を惹き付けられ……。

 その余りの異常性に、笑いすら込み上がるのを感じた。

 

 多少の距離を置いていたからこそ、621にはその全容が見えていた。

 即ち……脚を突き出すように体勢を崩していた赤いACが、次の瞬間不可思議な体の捻り方で地面と水平に回転しながら、そのオシレーターを二度振り切った姿を。

 

 当然、あのような動きは、ACのプリセットに刻まれてはいない。

 オートマチックな操作では成し得ず、またACSによる姿勢の自動制御が効いた状態でも不可能。

 

 つまり赤いACは今、ACという精密な巨大機械の操作を、プリセットに依存せず、ACSすら絶ち切って。

 全ての操作──関節部の細部の動きやその速度、各部ブースターの噴出から停止、武装へのEN補充と展開にコントロールまで──を、自らの思考によって行っていることになる。

 

「……はは、すごいな、せんせい」

 

 そんなことは、ACの操作のため最適化された強化人間であり、成熟したイレギュラーと呼ばれた621ですら不可能だ。

 言うならば、両手両足にそれぞれ全く別の作業をさせつつ戦闘に向き合うようなもの。

 純粋に思考が追い付かないし、追いついたとしてもそんな状態で戦闘ができるとも思えない。

 

 それはもはや、人間という枠で可能な技ではない。

 コーラルによって再現され、人という種の限界を超越した者にのみ許されたものだ。

 

 

 

 だが、617はそんな不意打ちの絶技に対し、アサルトアーマーを展開することでこれを凌いでみせた。

 

 怒涛の攻撃をいなした頼れる相棒に「さすが」と漏らしつつ、彼女は両肩に装備したスタンニードルランチャーを起動する。

 

 これこそが、彼女愛用の切り札であり……。

 同時、この局面を乗り越えるための切り札だ。

 

 赤いACは明らかに常軌を逸しているが、それはあくまで、コーラルを以て各部機能を拡張しているから。

 全身を動かすための電力系統は、あくまでACのものと変わらないはずだ。

 

 一本でもアイスワームのプライマリシールドを動作停止させる程の放電を引き起こす、スタンニードル。

 それを二本当てれば……ACには強制放電が起こり、AP減少と共に、動作が狂い数瞬の隙を晒すことになる。

 

 無論、あの赤いAC──魔改造された「エフェメラ」もまた、例に漏れないはずだ。

 スタンニードル自体の破壊と衝撃は防がれたとしても、放電現象までは防げはしない。

 この二本の杭が刺さりさえすれば、弾丸もまともにあたらず、凄まじい攻撃を仕掛けて来る機動性を一瞬とはいえ削ぐことができるだろう。

 

 

 

 ただし、問題が2つ。

 

 まず、あの機動力の相手に、比較的低弾速のスタンニードルを当てることができるか、という点。

 これを解決するためには、どこかしら、相手がほんの少しでも隙を晒すタイミングを計る必要があった。

 

 そして、それは今。

 

 空中で身を捻っていているため、自由な姿勢制御ができず。

 その上、617のアサルトアーマーで、相手の意識が少なからず「フォーアンサー」に引き付けられているはずのこの瞬間を置いて、他にはないだろう。

 

 621は即座に判断を下し、即座に両武装を起動した。

 イレギュラーたる彼女は、勘所を外すことはない。

 

 

 

 ……しかし、残る問題が一つ。

 

 それは、キックから続く二度の斬撃を経てもなお、赤いACが完全には隙を晒さない可能性と……。

 その右腕に装備された、「IA-C01W6:NB-REDSHIFT」だ。

 

 それは621の知る限り、着弾時にコーラル爆発を発生させる、言わばコーラル版のプラズマライフル。

 比較的弾速が遅く、しかし爆発が広がるために機動性の高い兵器相手でも捉えさえすればダメージを期待できる射撃武器の一種。

 

 ただし、赤いACのそれは、通常用途で使われていない。

 

 恐らくは、アイスワームの攻撃を防ぐために一発。

 次いで、オーバード・レールガンを防ぐために一発。

 そして、チャティの「サーカス」を仕留めるために一発。

 

 赤いACがそれを向けた瞬間、その射線上に、コーラル爆発が発生したように見えた。

 

 不可視かつ超高速のライフル射撃を行っているのか……。

 あるいは、如何なる手段を以てか、直接その場にコーラル爆発を起こしているのか。

 どちらかはわからないが、コーラルライフルの弱点の一つだった弾速の遅さは、解消されているらしい。

 

 そしてコーラル爆発は、不完全なチャージとはいえ、オーバード・レールガンさえ止め得るだけの力がある。

 勿論、「Loader 4」の両肩のスタンニードルランチャーによる射撃など、簡単に防がれ得るだろう。

 

 だから残った問題は、その銃口がこちらに向かないかどうかであり……。

 

 

 

 故に……。

 

「……やば」

 

 今まさに、赤いACが恐るべき柔軟な関節駆動で着地し、こちらにコーラルライフルを向けようとしているのを見て。

 

 彼女は久方ぶりに、本気の冷や汗をかいた。

 

 

 

 赤い(ネクスト)AC。

 それは通常の(ノーマル)ACに対して、理不尽とも言える程の優位性を持っている。

 

 その一つが、この異次元とすら言える可動範囲。

 通常の人間が取れる思考の限界を遥かに越え、ACという規格に許されたありとあらゆる動きを可能とする。

 変態的とすら言っていいこれを前に、明確な隙というものは滅多に生まれ得ない。

 

 隙が生まれるとすればそれこそ、短時間の間に大量のリソースを使い、急速冷却すらも難しいオーバーヒートに陥るか……。

 

 

 

 ……あるいは。

 

 

 

 

 

 

『馬鹿犬、手前ェを殺すのは俺だッ!!』

 

 

 

 

 

 

 ……あるいは。

 彼すら想定していなかった、不安定な想定外(イレギュラー)が訪れた時だろう。

 

 

 

 621の前方に、右腕を斬り落とされた、中破状態のACが立ち塞がる。

 

 「ヘッドブリンガー」。

 炎上して膝を折り、戦闘不能を偽装していたそのACは、左肩に装備していたパルスシールドを展開して敵と「Loader 4」の間の射線を遮り……。

 

 直後、機体はいくつものコーラル爆発に呑まれ、爆風が全てを焦がした。

 

 

 

「……っ!」

 

 ……その破壊の嵐が吹き荒れた、一瞬だけ後に。

 

 残る爆炎を突き抜けて、スタンニードルは、赤いACに突き刺さった。

 

 瞬間、赤いACは凄まじい放電現象に襲われ、ついに刹那の隙を晒して……。

 

 

 

 それこそが、赤いACに有効打を与えるための、絶好の瞬間となる。

 

 

 

 

 

 

『よくやってくれた、戦友』

 

『これで、決める』

 

 

 

 

 

 遥か遠方から降り注いだ一条の流星が、赤いACを覆うコーラル・プライマルアーマーに直撃。

 

 周辺地形ごと、その還流を散逸させ──。

 

 

 

『……粒子装甲、減衰を確認』

 

 その赤と黒で彩られた機体が、雪原の上、ようやく何にも遮られることなく明かされた。

 

 

 







 不可能を可能に捻じ曲げてこそイレギュラー。



(雑記)
 実はアイスワーム戦の時、感想で「アイスワームのシールドって実質プライマルアーマーだよね」という感想を頂き、びっくらこきました。
 やりたいこと、バレてる……!?
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