そして世に(銀髪薄幸美少女傭兵との)純愛のあらんことを 作:アリマリア
前回から今回の間にあったかもしれない幕間
617「えぐっ……ぐすっ……」
ナイン【いやその、本当にごめんないきなり襲い掛かって……】
617『いえ、そこはもう、事情もわかったのでいいんです。おにいさまに、に嫌われたわけでも、ないですし。……今はただ、おにいさまに、ぜんぜん抗えなかったことが、悔しくて……っ!』
ナイン【やっぱこの子めっちゃバトルマニアだな……まぁ、今回の経験も糧にして強くなっていこうな……】
スタンニードルランチャーを射出しようとする「Loader 4」を庇い、赤いACのコーラルライフルによる爆発に呑まれた、AC「ヘッドブリンガー」。
パルスシールドを構えてこそいたが、連発する爆発は優にACSの負荷限界を、そして中量ACのAPを削り取り。
「ヘッドブリンガー」は爆散。
乗り手であるG5イグアスも当然、死亡したものと思われたが……。
『てめぇらマジでふざけんじゃねえぞ!! 俺だって活躍しただろうがよ!! なのに完全に俺のこと忘れて事進めようとしてただろうが!?
特にてめぇだ野良犬ゥ!! わざわざてめぇを庇ってやったんだからもっとこう、あるだろうが!!』
「何が?」
『感謝とかがよ!!!』
そんな彼は、しれっと生き延びていた。
「ヘッドブリンガー」がコーラル爆発により破壊される直前、彼は脱出装置を起動していたらしい。
爆炎の中、噴煙に紛れるようにして小さなポッドが射出され、誰も知らぬ間に雪原に突き刺さっていた。
乗機を喪った彼は、戦闘終了までの間、ポッドの中で息を潜めながら本部に連絡を取ろうとした。
……のだが、ナインが通信を遮断していたため失敗。
イグアスはこれを通信機の故障と思い込み、どうやら戦闘終わったらしいと見るや否や、ポッドから脱出して僚機の元に保護を求めて駆け寄った。
しかし残念ながら、みんなナインの話に夢中であった。
617も621も、足元でうろちょろする人影には全然気づかなかったのである。
『雪原でスーツ一丁とか凍え死なす気かボケェ!! つうか下手したら踏み潰してただろてめぇ!!』
「もう、うるさいな……はいはい、はんせいしてまーす」
『殺すぞ野良犬!!!』
「ようほえる」
赤いエフェメラのコックピットに保護されたイグアスは、621にきゃんきゃんと噛み付いて来ていた。
先程まで氷点下の雪の中に埋もれていたというのに、なんとも元気なものである。
そんな彼に、621は思わず「ふぅ」とため息を漏らす。
4周目で流石に慣れっこであるとはいえ、彼の声は相変わらず煩い。強化手術で焼けた頭に響くのだ。
今だってただ感謝が欲しいだけだろうに、無駄にがなり立てるように吠えて来る。
徹底的に追い詰めないと素直にならない、とんでもなくめんどくさいヤツ──後日ナインに聞いたところ、「つんでれ」という絶滅危惧種の人種らしい──なのである。
「イグアス、そろそろだまって。せんせいたちのお話が聞こえない」
『なんだとてめぇコラ!! 命懸けて庇ってやった人間に感謝の言葉の一つもねぇのか!?』
そして、別に感謝してないわけではないけど、わざわざ求められると面倒くさくなるのが乙女心。
ルビコン4周目で反抗期くらいの情緒は既に獲得している621は、「どう答えようかな、せんせいの邪魔はしちゃ駄目だよなぁ」と数瞬考え……。
……そういえば、彼の友人から、彼らの流儀に則った感謝の言葉を聞いたことがあったと思い出す。
「ざーっす、いぐあすぱいせん、あざーっす」
『てめぇいつかぜってぇ殺す!!!!!』
【……ナイン。企業戦力はウォッチポイント・アルファに入れないという話でしたが……G5イグアスを保護してしまって良かったのですか?】
【まあいいんじゃないかな。正直、ベイラムは企業としてはそこまで脅威じゃない。俺が弾きたかったのは実のところアーキバスだから】
【ベイラムの所有する戦力も、決して侮れるものではないと思いますが……】
【如何に上等な戦力だろうと、上層部がくっそ無能だからねベイラム。どうせコーラル集積地点を見つけたとしても、運び出す手段考えてなくてしばらく手間取ったりするでしょコイツら】
【そ、それはちょっと、あの、流石にベイラムもそこまでではないと思うのですが……】
【ま、ACが一機いたところでそう変わることでもない。
621を守った貢献に応えて、招待するとしようじゃないか】
* * *
AC「Loader 4」、乗り手は独立傭兵レイヴン。
AC「フォーアンサー」、乗り手は独立傭兵リンクス・ウィズ・カラー。
AC「スティールヘイズ」、乗り手はV.Ⅳラスティ。
AC「ヘッドブリンガー」……は破壊されてしまったが、赤いエフェメラに運ばれる、G5イグアス。
傭兵と企業専属AC部隊員たち、計4人。
ここに、唯一通信を許されている陣営、ウォルターとカーラを含め、6人。
それが、先導する赤いエフェメラの案内の下、ウォッチポイント・アルファに招かれた者たちだった。
彼らが目的地に近付くにつれて視界に映り始めたのは、封鎖機構の戦力が守りを固めている、非常に堅固な防衛線。
普段であれば、近付くだけでも敵対することになる、厄介な相手だったが……。
今回4機のACがそこに近付いても、中に詰めているLC機体やMTたちが襲いかかって来ることはなかった。
既にナイン……いいや、システムの意思の体現者たる「ハスラー・ワン」の手引きで、それぞれに友軍識別タグが付与されているからだ。
「なんか……そわそわする。四脚MTとかLCが、こっちをおそってこないの」
『同意します。いつも敵でしたから、交戦しないのは落ち着きません』
『……てめぇら、いつも封鎖機構の部隊とやり合ってるのがおかしいって自覚ねぇのか??』
一般的に言って、封鎖機構は圧倒的な脅威だ。
普通の独立傭兵であれば、LCどころかSGの武装ヘリ、下手すれば謹製MT部隊にすら勝つことなどできない。
封鎖機構の戦力を「見慣れる」ことなどできないのだ。その前に殺されて終わるのだから。
執行機が来ようが特務機体が来ようが、問答無用で撃退しているハウンズがおかしいのである。
最近実力を付けてきているとはいえ、あくまで一般的なAC乗りに過ぎないイグアスはドン引きしていた。
一方でラスティは、苦笑しつつもハウンズに同意を示した。
『戦友や朋友の慣れはともかく……奇妙な感覚という点には同意しよう。
つい先日まで戦っていた敵から、しかし欠片の敵意も向けられないとは、なんとも落ち着かない』
外部映像の中を次々と流れて去って行く、MTやLCたち。
それらからは、抵抗や警戒といった一切の悪感情が向けられていなかった。
自分の友人を、先輩を、あるいは後輩を殺しただろうACに対して、彼らは興味を持っていなかった。
ただ自分たちの敷く警戒網に穴がないようにと、外部にのみ注意を向けている。
人間味があるとは到底言えないその反応に、ラスティは微かに形の良い眉を顰め。
それに対し、ハスラー・ワンは言葉を投げ返した。
『当然だ。封鎖機構の脳は、即ちシステムである。彼ら人間が主体ではない。
彼らはシステムの手であり足、道具であり具足でしかないんだ。
聞くが、君たちの手足やACは、自ら物事を考え、相手を憎み、勝手に攻撃をするのか?』
『成程、理屈は理解できる。絶対的な正義のため、自らの意志を捨てる、か。
……しかしそれは、ある種の思考停止にも近い。
意志なき力は、時に大義なき破壊をもたらすだろう。システムは、君は、それをどう考える?』
それは封鎖機構へ入れる探りであったか、あるいは個人的な感情であったか。
普段から飄々としているラスティの言葉には、しかし今、僅かな険が乗っていた。
さかしまに、ハスラー・ワンの答えは端的で、迷いのないもの。
既にそれを知っていたかのように、彼は淡々と口にする。
『思考停止ではないさ。彼らの代わりに、システムが全てを思考するのだから。
個々の価値観の寄り集まった混沌ではなく、単一の価値観により作られる秩序をこそ、彼らは望んだ。
彼らはそのために自ら無駄な思考を捨て、システムの思い描く理想の体現に従事している』
『……そうして君もまた、システムの下動く歯車の一つ、ということか。
それが君の戦う背景だ、と?』
強さの理由。戦う理由。
それはラスティが求めるものの一つ。
多くの仲間、多くの価値観と群れるが故の強さであれば、そこに理由はいらない。
しかし、ただ一人のみ立つ絶対的な存在には、その力を振るい暴虐を為すだけの理由が必要だ。
理由なき力は全てを焼き尽くし、灰にしてしまうだろうから。
その意味で、ハスラー・ワンはラスティから見て、危険な存在であると思えた。
個として圧倒的な力を持ち、しかし盲目的にシステムに従うだけの存在。
仮にシステムが何か狂いでもすれば、彼は平然とルビコンを焼き払ってしまうかもしれないのだから。
……まあ、実のところ。
システムはある意味で、既に狂っているのだが。
ラスティの問いに、ハスラー・ワンは変わらず淡々と答えを述べる。
『少し婉曲にはなるが、誤解なきようきちんと答えようか』
『前提として、ルビコン3という土地は、貧しく弱い。
混沌とした世情に呑まれれば、ただ搾取される弱き肉として、喰われるままに終わるだろう』
殆ど断言と言っていいそれは、しかしラスティも危惧するところでもあった。
たった2つの企業が介入してきただけで、ルビコン3は殆ど彼らに支配されてしまった。
封鎖機構による大きな抑止力の下、解放戦線の抵抗があってもなお、だ。
だからこそ、力が要る。
より強い力に制圧されないだけの、自衛の力が。
その点については、ラスティとハスラー・ワンの意思は統一されていた。
『この星には、秩序が必要だ。
どのような力を持つ企業であろうと、この星の人々に手を出せなくなるだけの圧倒的な抑止力。個体依存しない絶対的価値観に基づく管理による、決定的な秩序が。
それを為す行動主体がシステムであり、封鎖機構。私はその剣となり、力を持ちすぎたもの、秩序を破壊するものを排除する』
最後に、彼は総括するように述べた。
『荒廃した
『それは……』
それは、ラスティの抱く背景と、大きく変わるものではなかった。
荒廃して食糧自給もままならず、企業に搾取されるばかりで人死にが増え続ける。
そんなルビコンに、新たな夜明けを迎えさせる。
それが、アーキバス専属AC部隊ヴェスパー──に潜り込んだ、ルビコン解放戦線の一員であるラスティの、戦う背景だった。
ルビコンに生まれ、ルビコンに育った彼には、才能があった。
ACという殺人兵器を以て人を殺す、比類なき才能が。
その強力無比な力を振るう理由を、彼はこのルビコンの解放に置いた。
酷い苦しみの中で育ち、多くの友人と親族を喪ってきたラスティだからこそ……。
この不条理を止めなければならないと、強く強く心に刻み込むことができたのだ。
……しかし、その一方で。
彼に、「ルビコンの解放のために具体的にどうすべき」という明確な計画は、ないに等しかった。
より正確に言えば、なかったというより、それを立案することは不可能だった。
ルビコンは、弱い。
その資本も補給も人脈も戦力も、極めて貧弱だ。
極めて強力な個人である彼でさえ、単身でこのパワーバランスをひっくり返すことは不可能。
独力でルビコンを解き放つだけの力はなく、その方法もまたない。
故に、企業の中に潜入し、牙を研ぎ澄まして、その時を待った。
変革の時を。
ほんの一噛みで何も変えられる瞬間を。
あるいは……全ての情勢を塗り潰すような何かが現れる、その日を。
ハスラー・ワンは──あるいは、それに成り得る存在ではあるだろう。
『…………』
ハスラー・ワンの言葉に、嘘は見られなかった。
台本を読み上げるような、知識を吐き出すような、全てが当然のことだと言いたげな無感動な言葉。
そもそも彼はこの瞬間、嘘を吐く必要性すら感じてはいないのだろう。
なにせここにいる4人を、ただ一度腕を振るうだけで、簡単に撃滅し得るのだ。
詐称とは、あくまで事を優位に進めるための手段の一つに過ぎない。有り余る力を持っているのなら、そんなことをせずとも思うままに事を進められる。
つまり今の言葉は、封鎖機構の真意ということになる。
それを聞いて、果たしてラスティが何を思ったかと言えば……。
────「悪いが、受け入れるわけにはいかないな」
そんな、否定だった。
ある程度の管制や制限は、人が寄り添って生きる以上、当然のものだろう。
しかし、自分たちの代表者でもない赤の他人、それも今を生きる人間でもないAIによる、機械的な支配を受けるような秩序は望ましくない。
封鎖機構のシステムに、そしてそれが作る秩序に、個々人の心情を考慮するゆとりはないだろう。
自分の意見を言う事すら叶わず、自分たちの意志で生きることすらままならない人生は、果たして生きていると言えるのか?
社会の歯車の一つとして、消耗品のように使い潰されることが、正しいと言えるのだろうか?
……身近な人の苦しむ様を、これまで嫌という程見てきた。
それを止めるため、多くの人間が自分らしく、自由に生きられる世界になるように戦ってきた。
そんな彼にとって、ハスラー・ワンの戦う理由は……。
封鎖機構による窮屈な秩序は、到底受け入れられるものではない。
『そうか……わかったよ』
畢竟。
彼が望んだルビコンの夜明けは、造られた人工太陽によるものではないのだ。
* * *
革新的な融和と、致命的な決裂。
言葉と意志を交わし、関係性を改めながら、一行が進む事暫く……。
広大な雪原の中、彼らはついに、そこにたどり着いた。
『到着した。
ルビコン3で最初に作られたウォッチポイントであり……この下にあるものを塞ぎ隠す弁。
コーラル集積地点にようこそ。ここがウォッチポイント・アルファだ』
【情報ログ】それぞれの目的
621:今度こそ大切な人を守りたい
617:(ゆっくりと明確になりつつある)
エア:同胞と人類の共生、より良い未来
ラスティ:ルビコンの夜明け
イグアス:特にない。等身大のライブ感で生きている。
ウォルター・カーラ:全てのコーラルの焼却
ナイン:???