そして世に(銀髪薄幸美少女傭兵との)純愛のあらんことを 作:アリマリア
『封鎖機構代表、ハスラー・ワンだ。
今回のミッションのブリーフィングを行う』
『今回のミッションは、封鎖機構、ハウンズ、ベイラム、解放戦線の四者による合同作戦となる。
最終目標は、アーキバスを星系より撤退させること。
……とはいえ、大規模な物量を以て押し潰すのでは、こちらの被害も不要に大きくなる。
故に、システムは殲滅戦闘ではなく、他なる手段の選択肢を提示する』
『今回のミッションは──強襲、暗殺。
ルビコン3での現場指揮を行うV.Ⅱスネイルを殺害し、アーキバスの士気を決定的に挫く』
『アーキバス本社は、封鎖機構との本格的敵対を避けるべく、ルビコン3からの撤退を視野に入れている』
『先日V.Ⅳ改め、解放戦線のラスティから供出された情報を元に、こちらでも情報を洗ったが……確かに、本社からの撤退準備の命令を、スネイルが握り潰していることが確認できた。
現場指揮を担当した者として、コーラル獲得という長期的な作戦が失敗することを忌避しているのだろう。いわゆる、社内政治の一環と思われる』
『しかし、スネイルはやり手だ。その辺りのやりくりはかなり上手い。
今も本社の命令を握り潰して隠蔽し、本社には上手く言い訳して遅滞を試みている。
このままでは、未だしばらくの間、アーキバスはルビコンに残るだろう』
『……だが、V.Ⅰは戦闘のことしか考えていない純然たる戦士、V.Ⅲは時流を読むのに長けているからおかしな判断はしない、V.Ⅳは既に離脱済みで、V.Ⅴはそこまで強い野心はない。
スネイルさえ排除すれば、アーキバスの撤退を止める要因はなくなるだろう』
『その為、今回のミッションの目標は、スネイルの暗殺となる』
『作戦地点は中央氷原、アーキバスの前線基地、リチャード前哨基地。
現在、スネイルはこの基地の内部で、ウォッチポイント・アルファ侵攻に備えて軍備を整えている状態だ。
私たちは、この地点を四方面から攻め、目標を逃がさず確実に落とす』
『封鎖機構の代表として私が、ACを……「ナインボール」を用いて東方面、正面を封鎖する。
基地の外部に人も情報も漏れないよう調整し、スネイルの場所をマーキングするので、各員にはヴェスパー部隊を排除しながら該当ターゲットの排除を頼みたい。
ハウンズは、背面の崖部から屋上に降下し、管制棟屋上から増援を警戒しつつ強襲しつつ、侵攻。
ベイラムは北、そして解放戦線が南を封鎖しつつ、攻め入ってくれ』
『排除した敵対機体やヴェスパー部隊、そしてスネイルの殺害によって、それぞれ特別に報酬が加算されるが……最優先はあくまで、対象を逃がさず、ここで確実に排除することだ。
最悪の場合、基地そのものを爆破解体することも視野に入れているので、巻き込まれたくなければどうか奮って戦ってほしい』
『各員、敵機撃破以上に、作戦地点から一人も決して逃がさないよう、気を付けてくれ。
また、仮にスネイルの乗機であるオープンフェイスが発見された場合、脱出ポットの射出を見逃さず、発見し次第完全な破壊を望む』
『作戦地点たるリチャード前哨基地は、ウォッチポイント・アルファ奪還のための前哨基地の一つ。
当然ながら、程々には戦力が配置されている』
『現在基地内には、総指揮官を担っているV.Ⅱスネイルの他に、V.Ⅵメーテルリンク、V.Ⅷペイター。計3人のヴェスパー部隊が詰めている。
更に、近隣基地にはV.Ⅰフロイト、V.Ⅲオキーフが確認できている』
『俺の方で情報制御を行い、V.ⅠとV.Ⅲへの救援要請は封鎖するが……何分、フロイトは勘が良い。
戦場の匂いを嗅ぎ付けて現れる可能性は、むしろ高いと計算される。
その場合の対処は……ハウンズ、617に頼むこととする』
『この作戦の成功を以て、封鎖機構はベイラム・解放戦線に対し、調停を提案させてもらおう。
概要は事前に送った通りだ。勿論、そこから互いの主張を元に調整を行うが……。
ベイラムからしても、解放戦線からしても、合理的かつ実利のある提案であると認識している。
この未来を得るため、唯一の邪魔者であるアーキバスを排除すべく、それぞれ奮起することを期待する』
* * *
ブリーフィングが終了して、しばらく。
ハウンズの2人はACに搭乗し、作戦地点から少し離れたところで、準備を行っていた。
『すごいね。まさか、アイスワーム戦以上の規模の作戦なんて、すると思わなかった』
AC「フォーアンサー」の中に、「Loader 4」からの通信が届く。
その声は呆れと驚嘆、そして何より興奮に満ちたもので、「フォーアンサー」の出撃前確認を行っていた617は小首を傾げてしまう。
『レイヴン、嬉しそうですね?』
『うん、嬉しい! 初めてのミッション、初めての展開、それにあのくそ眼鏡ぶち殺せる!
せんせいの見た、4つ目の可能性。それが今……ほんとうに、目の前にせまってきてるんだ。
それがね、とってもうれしい!』
621は長いこと、このルビコン3で戦ってきた。
ただ一度でなく、実に3度のループの中、戦い続けた。
その中で、ただ一度だって、こんな展開は起こらなかった。
あの凄まじい物量を以て立ち塞がる封鎖機構が、味方に付くことも。
ベイラムや解放戦線と協力して、陰険クソ眼鏡を潰すなんてことも。
そして……その先に、ラスティたちも頷けるかもしれない、新たな未来の形が見えることも。
既知に慣れてしまった彼女にとって、未知というだけで新鮮で楽しみに思えるし……。
もしかしたら今度こそ、大事な人たちがみんな生き残る、そんな未来もあるかもしれない。
そう思えば、嬉しさが心に込み上げて来るのだ。
勿論、今回のミッションの難易度は非常に高い。
4陣営での同時攻撃とはいえ、相手の戦力も決して馬鹿にならない。
ヴェスパー部隊が3人いることは確定で、もしかしたらあの厄介なフロイトも来るかもしれない。
だが……負ける気は、毛頭しない。
ルビコンでの戦いにおいて、おおよそ唯一信頼を置けていた戦友たる、ラスティもいるし。
これまでの周回ではいなかった、今や自分に程近い実力を持った仲間、617もいるし……。
何より。
【作戦開始時間、10分前。そちらの準備は万端か、617、621?】
今回のミッションは、621の信じるせんせいが、僚機に付いてくれているのだ。
ナインの強さは、ナインブレイカーで毎回ボコられまくるハウンズの2人が、誰よりよく知っている。
ナインブレイクレベル4──手加減抜きのナインとの戦闘シミュレーションで、621も617も未だ勝利を収めることができていない。
621は上手く噛みあえば良い勝負ができることもあるが、617はまだ勝機すら見出せていない現状だ。
そんな圧倒的な強者たるナインが今、あの日に見せた最強の象徴である「ナインボール」を使い、自分たちと肩を並べてくれている。
621はそれが、本当に心強く、そして嬉しかった。
『問題ありません、おにいさま』
『こっちは平気。せんせいの方こそ、準備はだいじょうぶ?』
【お、なんだなんだ俺の心配か? 問題ないよ、バッチリ調整できてるさ】
画面に、一機の兵器の映像が映し出される。
アイスワーム撃破のミッションに乱入してきた、恐るべきAC。
飛び交う赤い粒子を身に纏う、無人AC「エフェメラ」……改め、AC「ナインボール」。
今や封鎖機構の力の象徴となったそれが、映像の先にいる617たちに対して、こくりと頷いてみせた。
憧れの人とついに同じ戦場に立てることに、きらきらと目を輝かせる621。
一方で、617は小首を傾げていた。
『……おにいさまが出る必要はあったのでしょうか?
LCやHCといった封鎖機構の兵器を投与すれば、基地前面を塞ぐことはできたと思いますが』
どこまでも真面目に思考を止めない617に、ナインは真面目に答えた。
【戦力的な意味で言うのなら、それ自体は間違いない。
ただ、今この場……ベイラムからはG2とG5、解放戦線からはミドル・フラットウェルとラスティが参加したこのミッションにおいて、封鎖機構は責任者を出さないとなると角が立つ。
これからの融和政策を考えれば、ここは彼らと同じように責任ある立場である「ハスラー・ワン」が出た方がいい。……更に言うなら、手柄自体は他の陣営に譲った方がいいだろうな】
なるほど、と617は頷いた。
普通に考えて、ただスネイルを殺すとなれば、ハスラー・ワンが一人で出れば事が済むだろう。
そうしなかったのは、この状況……共にミッションに挑むという一致団結の形を作りたかったから。
傍から聞いていた621としても、それは納得のいく話だった。
彼女はハウンズチーム以外の僚機というものを全くと言っていい程に信頼していないが、それはそれとして、やはり同じ戦場を駆ければ仲は深まるというもの。
彼女がラスティをきちんと認めたのは、1周目でバートラム旧宇宙港を強襲した際、彼が駆けつけてくれて共闘してくれた時だ。
強敵を前に隣り合って戦うことは、連帯感と信頼感を強める。
それを実感として知っているからこそ、ナインがベイラムと解放戦線の間にある溝を埋めようとしていることを、直感的に理解できた。
一方で、617は興味深そうに息を吐いた。
『……なるほど。戦法的な意図ではなく、政治的な意図、なのですね』
彼女の言葉に、強い好奇心が滲んでいることを見て取ったナインは、優しい声で言った。
【うん、そういうこと。
君は戦いに関する知識は順調に身に付けてきている。これからは、手が空いた時にこっち方面も勉強していくといいだろう。
ウォルターなんかに聞けば、きっと色々と勉強を付けてくれるはずだ】
『はい、了解しました』
……ある意味、621とのやり取り以上に「せんせい」らしく会話を交わす、ナインと617。
621は何とも言えない複雑な気持ちで口を出した。
『…………ねえ、せんせい。気のせいかな、617と比べて、私ってぜんぜん期待されてなくない?』
【おや、じゃあ621も勉強するか? ウォルターは喜んで教えてくれると思うぞ】
『……………………や、やめとく』
【レイヴンにはレイヴンの良さがありますよ。大丈夫です!】
がっくりと肩を落とす621を、エアは必死に慰めた。
……とはいえ、621が脳筋であること自体は彼女も否定はしなかったが。
残念ながら、それはもはやハウンズの中の周知の事実、語るまでもないことだったから。
【ふふ。……まあ、未来のことは未来に考えようか。今は目の前の作戦だ。
正面は俺が抑える。617は上空の増援を警戒、621は階下へと強襲をかけてくれ。
あと、ないとは思うが、油断はしないようにな。
特に617、もしもフロイトが来たら、君に対処してもらうことになる。相手はイレギュラー一歩手前の怪物だ、君にとっても悪くない経験になるだろう。
それからエア、悪いが今回も、2人のオペレートは任せるぞ。俺はこちらに集中する】
『うん!』
『はい』
【ええ、お任せください】
元気に頷く2人の声に、ナインは満足げに笑い、通信を切断した。
『せんせい、失望させられないね』
『はい。全力で任務に当たらなければ』
【……そうですね。上空の熱源反応の検知、目標へのナビゲートはお任せください。
レイヴン、リンクス、頑張りましょう】
作戦前に各陣営の様子をお届け。
次回はアーキバス・ベイラム・解放戦線編。ミッション開始が遅くてごめんね。