そして世に(銀髪薄幸美少女傭兵との)純愛のあらんことを   作:アリマリア

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 ハラショー!





えぐらせてもらうで、アーキバス

 

 

 

 アーキバス・コーポレーションにとって、ここ最近の一連の動きは、最悪の展開と言っていいものだった。

 

 これまではあくまでも消極的な封鎖実行に留まり、本格的に企業勢力を失墜させるのではなく、警備網を敷き火の粉を払うに留めていた封鎖機構。

 それが、アイスワームを撃破しようとした企業たちに対し、急激かつ過敏に反応し……。

 自身の分身と呼んでいい存在を、物質世界に遣わせた。

 

 ハスラー・ワン。

 

 システムの一部、つまりはAIなのだろうそれは、コーラルによる不明な技術でACを極端に強化し……。

 アーキバスの誇るエースパイロットの一人たる、スネイル乗機「オープンフェイス」を容易に撃破せしめた。

 

 V.Ⅰフロイトにこそ及ばないとはいえ、スネイルはヴェスパーの第二隊長。

 事務能力もそうだが、ACによる戦闘力は十分すぎる程に保証されているはずだった。

 そんな彼が、咄嗟の脱出こそ叶ったとはいえ、抵抗すら許されず一瞬で撃破されたとなれば……。

 

 これはもはや、現代のAC戦の常識を、遥かに逸脱していると言っていい。

 

 更に続けて、ハスラー・ワンはウォッチポイント・アルファ周辺のアーキバス・ベイラムの拠点を、単騎で襲撃していった。

 幸い人的被害は大きくなかったが、施設は徹底的に破壊あるいは接収され、今では封鎖機構の基地として転用されている。

 

 上層部に「集積コーラル到達は目前」と報告を上げていた彼らにとって、これは致命的な程の停滞、あるいは後退となった。

 

 

 

 そして……。

 

 元より封鎖機構がルビコン3で用いてきた戦力は、企業とは比べようもない規模ではあったが。

 これらの状況から、彼らは認めざるを得なかった。

 

 封鎖機構は、本気だ。

 多大なリソースを費やしてでも、ルビコン3の、そしてコーラルの封鎖を行う気でいる。

 

 

 

 封鎖機構はルビコン星系のみならず、広い銀河系に版図を広げる組織だ。

 これと本格的に敵対することとなれば、アーキバスは勢力争いに大きくリソースを吐くことになる。

 

 故に、本社はルビコン星系からの撤退準備を指示した。

 

 コーラルという新物質は、確かに莫大な利益を生み出す可能性を持つが……アーキバスの戦場は、何もここだけというわけでもない。

 支払うリスクと享受し得るメリットを比較した時、彼らはこれ以上のコーラル調査を進められなかったのだ。

 

 

 

 ……ただし。

 

 現場に出ている者たちがそれに納得できるかは、別の話だったが。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 ──アーキバス、リチャード前哨基地。

 

 

 

 辛くもハスラー・ワンの手から逃げ延び、この基地で反抗作戦の準備を進めるスネイルは、最近癖になってしまっている歯軋りを繰り返す。

 

「チッ……ルビコンに巣食う害獣……我が物顔で事を仕切る庭師気取り……裏切り者の第四隊長……企業に逆らう愚かな猿共……現場の進捗も見えない無能な上層部! 尽く私を苛立たせる!!

 もはやコーラル調査は達成目前、ここで撤退など、これまでに支払ってきたコストをドブに捨てるに等しいと、何故気付かない……!!

 戦力も兵站もただの数ではない! 再び用意するのにどれだけかかると思っている!!」

 

 あの時までは、順調だったはずだ。

 

 ベイラムや封鎖機構と小競り合いをしつつ、独立傭兵たちを使い、最低限のコストでコーラル集積地点を目指して進み。

 そして実際、短期間と言っていい時間で、それを絞り込むことができた。

 

 

 

 しかし……そう、あの時、あの瞬間。

 ハスラー・ワンが現れて、全ての状況が変わってしまった。

 

 今やハスラー・ワンはウォッチポイント・アルファに至るための、最後にして最大にして最悪、アイスワームすらも超える障壁となっている。

 

 ……更に言えば、そう、まさしくそのアイスワームさえ、あの場で倒し損ねてしまった。

 あの巨体だ、完全な修復までに時間はかかるだろうが……逆に言えば、十分な時間さえあれば再配備される。

 そうなれば、ウォッチポイント・アルファ到達は、更に困難になるだろう。

 

 せめて、あのウォッチポイント・アルファに立ち入ることができたラスティが裏切りさえしなければ、道は拓けたのだろうが……。

 それを言っても仕方がない。

 

 ハスラー・ワンの側が対話を拒否していることもあり、交渉の余地すらもない。

 もはや、真正面から封鎖機構の猛威を跳ね除ける他、アーキバスがコーラルへと辿り着く未来はない。

 

 

 

「奴を殺さなければ、集積地点までの道が明かされない。

 戦力を……ヴェスパー部隊を集結させ、ウォッチポイント・アルファを強襲。

 フロイトならば、あの難敵も打ち破れるでしょう。道中の弾避けとして、下位のナンバーとMT部隊を付ければ……いや、後ろから撃たれるような愚挙を避けるため、まずは草の洗い出しか?

 しかし、時間をかければベイラムが動く……いいや、あの上層部のことだ、利益が眼前に垂らされでもしない限りは動かないだろう……やはり、アイスワームの修復がタイムリミットと見るべきか」

 

 苛立ちの籠る独り言を垂れ流しながらも、スネイルはひたすらに手元の書類を片付けていく。

 

 上層部からの命令書の隠蔽、独断専行するフロイトの後始末、戦場の趨勢の偵察、部下の統率に訓練の実施、資材の移動、今後の戦略の計画。

 ヴェスパーの実質的な指揮官として、彼にはやるべきことが無数にあった。

 

 実績さえ……。

 コーラルを獲得したという実績さえ持ち帰れば、アーキバス本社は納得するだろう。

 

 上層部の阿呆共に正しさというものを見せ付けるためにも、ヴェスパー部隊を維持するためにも、そして自身のキャリアのためにも。

 スネイルには、確かな実績が必要だった。

 

 

 

 ……だが。

 

 そんな彼の元に訪れたのは、幸運の女神の前髪ではなかった。

 

「閣下! 失礼致します!」

「ッ、メーテルリンク! ノックもせずに作戦室に入るな!!」

「はっ、申し訳ありません! ですが、お伝えすべき火急の用件がありまして、ご報告に参りました!」

 

 作戦室に飛び込んで来たのは、ヴェスパーの女性隊員、V.Ⅵメーテルリンク。

 

 普段冷静沈着な彼女は、しかしその表情を焦燥に歪めていた。

 

 それを見て、スネイルは……最悪の予想が的中したことを悟った。

 

 

 

「敵襲です!! 基地を取り囲むように、複数のACが迫っています!!」

 

 

 

 * * *

 

 

 

 ──リチャード前哨基地、北方。

 

 

 

「やれやれ……てっきり、ミシガンが痺れを切らすまでは待機かと思っていたがな」

 

 気だるげに、しかし確かな殺意を胸に秘めて、そう零すのは……。

 

 G2、ナイル。

 レッドガンの第二隊長であり、武勇は勿論、作戦立案や策略に秀でた男だった。

 

「それもまさか、解放戦線の実質的な首魁、ミドル・フラットウェルとの協働作戦とは。

 まったく、何が起きるかはわからんものだ」

 

 元々ナイルはベイラムの参謀として、ミドル・フラットウェルらと知恵比べをする立場だった。

 それが流れ流れて、まさか共闘することになろうとは。

 彼の頭脳を以てしても、到底想像し得るものではなかった。

 

 

 

 どことなく感慨深げに呟いた彼の言葉に、通信の向こうから男の声がかかる。

 

『ハッ、悪かねえだろ。少なくとも、何もできずに燻ってるよりゃあずっとマシだっての』

 

 その生意気な言葉の主は、最近になって頭角を現しつつある、彼の部下の一人であり……。

 あのウォッチポイント・アルファに招かれた、この局面のキーパーソン。

 

 レッドガンの5番手、イグアスのものだ。

 

 彼は今回のミッション、自ら志願し参加していた。

 一時期前の彼からは、到底考えられない積極性だ。

 

 

 

「ほう、意外だな。お前はこの手の任務は面倒くさがると思っていたが」

 

 ナイルの興味深げな呟きに、イグアスは鼻を鳴らした。

 

『メンドクセぇよ。それは今も昔も変わんねえ。

 けどよ、燻ってちゃ何も変わらねえだろ。負けたくねえ奴に大差付けて負けたまんまだ。

 それを変えたかったら、怠かろうが辛かろうが、死ぬ気でやるしかねえ』

 

 何気なく答えた彼の言葉に、ナイルは興味深げに片眉を上げる。

 

 

 

 1年前……いいや、半年前のイグアスは、こうではなかった。

 

 ベイラム所属のAC部隊員でありながら、ミッションに対するモチベーションは低く、自分でAC操作技術を向上させようとすることは皆無。

 隙間時間を見つけては、民間の依頼をこなすことで小遣い稼ぎに専念し……言い方は悪いが、弱者を虐げること以外に興味を見出さないような人間性で。

 そこで得た金も、ベイラム内で秘密裡に行われている賭博でほぼ全て溶かしていた。

 

 彼がベイラムにいる理由は、先天的なAC操作への適性の他は、成り行きと惰性に過ぎない。

 

 ……そんな者が生き残れる程、戦場は甘くない。

 そう長くなく、どこかで死ぬことになるだろう、と。

 ナイルは内心、そう思っていたのだが……。

 

 

 

 コーラル集積地点が中央氷原に絞り込まれたあたりからだったか。

 イグアスの態度が、急変した。

 

 民間の依頼に失敗して帰って来た彼は、余程手酷い敗北を味わったからか、シミュレーターに籠り始めた。

 「次は絶対に負けねェあの野良犬と野良猫ォ!!」と気炎を上げるその努力は、珍しく三日坊主で終わることなく……。

 

 何時間もシミュレーターに籠っては、酷く焦燥した表情で出てきて、再びシミュレーターに入ることを繰り返しており、時には半日籠ることも珍しくはない。

 ここ最近は、民間の依頼を受けたり、賭博場になっているG3の居室に立ち入ることすら珍しい程だった。

 

 その結果、彼の実力は、凄まじい勢いで上昇しており。

 本人には伝えていないが、ミシガンは彼を、既に亡きヴォルタがG4への後釜、あるいは五花海と交代する形でG3への繰り上げすら考えていた。

 

 

 

『……あんだよ? 黙りやがって』

「ふ……いいや。運命の動きとは分からんものだと、改めてそう思っただけだ」

『ああ……?』

「いや、気にするな。だが、気は抜くなよ」

『たりめーだ、事が終わるまでに気ィ抜くわけねーだろ』

「いいだろう。……さあ、時間だ。始めるぞ」

 

 急激に育ってきている後進に、ナイルは口端が吊り上がるのを止められなかった。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 ──リチャード前線基地、南方。

 

 

 

「……しかし、驚いたな。まさかお前が、この道へ進むとは思わなかった」

 

 AC「ツバサ」内。

 ルビコン解放戦線の帥叔、ミドル・フラットウェルは、腕を組んで唸った。

 

 無論、その宛先は、同じ解放戦線のパイロット。

 この作戦における僚機「スティールヘイズ」に乗った、ラスティだ。

 

『そうかな。私としては、妥当な判断を下したつもりだが』

 

 答える声は、いつも通り飄々としたもの。

 平静を崩したというわけでもなく、塞ぎ込んでいるわけでもない。

 

 だが、それにしてはラスティの選択は……つまりはこの任務の受諾は、フラットウェルからすると意外なものに思えた。

 

 

 

「ハスラー・ワンが示してきた条件は、封鎖機構の仲介の下に星系外企業との談合を行うもの。

 それは封鎖機構の有する圧倒的な武力により保障されるものであり……極端なことを言えば、我々は封鎖機構が示してきた条件に否を付けられない。

 それは実質的に、私たちがその旗下に加わるに等しい。

 お前が……ルビコンの夜明けを飛ぶことを望んでいたお前が、それを肯定するとは思えん」

 

 ラスティが望んでいたのは、ルビコンという星が、何に縛られることもなく自由に羽ばたくことだ。

 実質的な封鎖機構の統制を受け、企業によるしがらみに囚われる……そのような形での自由は、ラスティの望むところではないだろう。

 

 ラスティという人間は、若き野心家だ。

 現実的に考えて、リソースに乏しいルビコン3がそのような完全な自由を手にするのは、極めて困難と言わざるを得ないだろう。

 

 ラスティは、その理想の高さを理解していないわけではない。

 むしろそれを正しく理解し、その上で、理想に至るために懸命に走り続けてきた。

 極めてリスクの高い企業への潜入任務もこなし、時に疑いを晴らすため同胞すら手にかけて、手段を問わずにありとあらゆることを行ってきたのだ。

 

 だからこそフラットウェルは、ある意味では妥協とすら言えるようなラスティの言葉が意外に思えた。

 

 

 

 果たして、ラスティは一瞬、考え込むように黙り……。

 自分の中の思いを、慎重に言葉にしていく。

 

『……彼には、悪意がなかった。』

 

 返された言葉に、それはそうだろうと頷いた。

 

「ハスラー・ワンはシステムの表象。完全中立のAIであれば、悪意はないだろう。善意もないだろうが」

『さて、どうかな……正直に言えば、私はあの提案を見て、彼が分からなくなった』

「ほう」

 

 相槌で先を促したフラットウェルに、ラスティは怪訝そうに呟く。

 

『ハスラー・ワンの話には、確かに矛盾はない。

 ない、が……システムの機械的な判断と捉えるには、どこか非効率的なようにも思えた』

「なにせ先方は膨大な処理能力を誇るシステムだ、一見不合理なことでも、最終的には益となると計算したのではないか?」

『ああ、そうかもしれない。

 ……だが、それでも。想定したよりも、事態の流れは私達の側に近付いている』

 

 

 

 ラスティの想定では、封鎖機構はこれまで通り、コーラルごとルビコニアンを締め付けるはずだった。

 

 彼らの目的は、コーラルを封鎖することであって、ルビコンを復興することではない。

 ウォッチポイント・アルファでハスラー・ワンが語った「ルビコンの再生」という言葉も、彼はあくまで「管理しやすいように状態を整える」という意味であると解釈した。

 

 力を持ちすぎた者を討ち、秩序を形作る。

 その言葉は、これまで多くのものを奪われ続けて来たルビコニアンに、どうしようもなく昏いものを思わせたから。

 

 

 

 だが……。

 ハスラー・ワンが未来の方向性を示した今、そこには改めて、解釈の余地が生まれた。

 あるいはそこに生まれたものは、可能性、と呼んでもいいのだろうが。

 

『無論、封鎖機構の支配を受け入れる気は毛頭ない。

 遥かな空を目指し、どこまでも羽ばたくさ。

 だが……あるいは、ルビコニアンが自由に夜明けを飛ぶ中で、他の鳥もまたその空に在るのかもしれない』

 

 それこそ、彼が認めた……猟犬の名を持つ、誰よりも自由に思えた傭兵たちのような、鳥が。

 

 

 

「そうか」

 

 フラットウェルは、それを聞き、微かに微笑んだ。

 

 実の所、ラスティという男は、解放戦線の中でもトップクラスに急進的だった。

 

 全ての勢力をルビコン3から排除し、真なる自由を得る。

 そんな雲を掴むような理想のために走り続ける、若き野心家だ。

 

 フラットウェルは、その足早な歩みを心強く思うと同時、彼の真っ直ぐすぎる思想を危ぶんでもいた。

 清濁併せ吞むことを良しとする解放戦線の帥叔として、そして僅かばかりの人生の先達として、それはとても不安定なものに思えたからだ。

 

 だが……そんな男が、新たな可能性を見出したというのなら。

 それは、彼の一人の友人として、とても快く思える変化だった。

 

「どの道、未来はこの任務を果たした先にしかない。

 ……フ。精々活躍し、封鎖機構に恩を売るとしよう」

『ああ、私はスネイルの暗殺を狙って突入する。帥叔、南方の門の封鎖と警戒を頼む』

「いいだろう、任された」

 

 

 

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