そして世に(銀髪薄幸美少女傭兵との)純愛のあらんことを   作:アリマリア

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 ルビコン3到着までが……長い……!
 あと1、2ミッションくらいで密航、chapter0終了……の予定。





おーれーはぁ、グッドガ~イ

 

 

 

 

「んじゃあ、仕事の話すっかぁ……」

 

 約束通り、パッチの手引きの下、密航の手引きをしてくれるブローカーと音声通信越しに知り合った、二日後。

 617とナインはACから降り、ACドックに内蔵された会議室で、パッチと机を囲んでいた。

 

「ルビコン3への密航に200,000COAM吹っ掛けられたって話だったな? まぁ、急な話だし、安全性とか考えたら妥当……いや、ちょい割高程度で済んではいるんだがよ。

 ソイツに関して俺からできる支援は、仕事を持って来るくらいだからよ。仕事の横流し、させてもらうぜ」

『いや、ありがたいよパッチ。俺たちはこの惑星じゃ全くツテと信頼がない。君っていう仲介を挟まなきゃまず仕事を取り付けるなんてできないだろう。

 ……しかし、借金した時にも思ったけど、資金力もコネもあるんだな、お前』

「あ? てめぇ舐めてんのか? 俺ぁ仮にも個人のAC乗りだぜ、それなりの資金力がなくっちゃこれ買うことも乗ることもできねぇっつの。

 そして金がありゃあ当然、それだけ人も集まってくるってわけで……」

『その人から、更に金を巻き上げる、と』

「まぁそういうこったな! 前回お前らに貸した金も、お前らの実力宣伝して何十人かに投資してもらった金だ。そいつらの期待と、何より俺の顔の広さに感謝するんだな!」

『パッチは下衆であると推察します』

「否定はしねぇけどさ、なんか青い方俺に辛辣じゃね!?」

 

 

 

 パッチはそこで言葉を止め、「話が逸れたな」とわざとらしい咳払い。

 今日2人を呼び出した本題に入ることにした。

 

「で、次の仕事だ。

 ……あー、なんだ、今回のに関しちゃ、てめぇらが気に食わねぇっつうんなら断ってもいいんだけどな? 輸送機の護衛任務が依頼されてんだわ。

 報酬だけ見りゃあ、これが最良だわな」

『なんかあんまり気が乗らない感じだな。……依頼主か?』

 

 ナインの推察に、パッチは深く頷く。

 

「察しが良くて助かるぜ。正直言や、俺たち闇商人としちゃ気に食わん相手だ。

 このミッションの依頼人は、ルビコンにいらっしゃった星外企業の片割れ、アーキバス。

 封鎖機構の基地を2度にわたって壊滅においやったと噂の、腕利きの傭兵にご依頼だ。

 我が社の下部組織たる先進開発局が設計したACの最新パーツを運搬するから、これを護衛しろ、だとさ」

『パーツ護衛ミッション!?』

 

 617の首輪型デバイスから発された声はそこまで大きな音量ではなかったが、その目を赤く染めた彼女がガバリとその場を立ち上がったことで、パッチは思わず半身引いて目を見開く。

 

「お、ああ、そうだけど……なんだ、好きなのかこういう依頼。傭兵にゃ自由に動けねぇからって嫌うヤツが多い印象だが」

『うん、大好きさ! ミッション始まった直後に輸送車ぶっ壊してパーツ強奪するくらい好き!』

「てめぇ絶対やめろよ!? 信頼失うどころか謀殺されても仕方ねぇぞそれ!?」

『裏切られることなど傭兵の常やんけ! 刺客全員ぶち殺して企業潰せば問題ねぇべ!』

 

 ナインのテンションは急上昇を見せていた。

 彼は古式ゆかしいパーツ輸送護衛ミッションが好きだったのだ。

 いや、面倒だし難易度が高い場合もあるし、そういう意味では好きではないが、「依頼人を裏切ってパーツを得ることもできる」という自由度が好きだった、というのが正確なところなのだが。

 

 そして、パッチとの話し合いでは、基本的にナインに体の主導権を譲っている、617。

 彼女としては、だいすきなおにいさまが楽しそうで良かった、くらいのぽわぽわした感想。

 彼女も彼女とて、傭兵としてはかなりの腕利きであり、強者側の倫理観に染まってしまっている。

 ウォルターによる薫陶もあり、ナインの言葉に強い違和感は感じてない。

 

「……俺、思ったより数百倍やべぇヤツを抱え込んじまったかなぁ」

 

 この場には、禿げ頭に手をやって天を仰ぐパッチ以外に、ツッコミをできる者はいないのだった。

 

 

 

『ん、ん……すまん、取り乱したな』

「取り乱したとかいう次元じゃねぇけどな。お前の凶悪な本性が見えた気分だぜ」

『とにかく! ……ミッション内容の前に、パッチ的には何が気に入らないのか聞いておいていいか?』

 

 617とナインにとって、パッチは現地住民と自分たちを繋ぐ大切なパイプである。

 可能であれば、彼にも納得と満足をしてもらった上で仕事をしたい、というのがナインの本音であった。

 

 そして、そういった細やかな気遣いに気付けない程、パッチの方も子供ではない。

 「ガキのくせに気遣いしいだな赤の方は。それに比べて青は……」と、内心でため息を吐きながら言う。

 

「まぁ……そうだな。端的に言やぁ、気に入らねぇのはアイツらの存在そのものだわな。

 アーキバスの連中は企業だからって調子に乗って、俺たちルビコニアンを軽んじてやがる。

 実際ルビコン3の補給基地っつって秘密裡にプラントおっ立てて、俺たちの星の資源を勝手に使ってやがるんだ」

『なるほど、ルビコニアンとしての感情か』

「それだけじゃねぇ、ヤツらは俺たち商人のことも舐め腐ってやがる。

 自分たちは正当にここを使う権利があるだの、契約を交わしたからそれを守ってもらうだのと一方的にまくし立てて、俺たちのシマ荒らしてやがんだ。

 真正面からぶつかる程俺たちも馬鹿じゃねぇが、この辺の商人は全員が気に食わねぇと思ってるはずだぜ」

 

 617はその視界の右上の方で、赤い光が腕組み(?)をするのを見る。

 そして、首輪デバイスを用いない、頭の中にだけ響く声を聞いた。

 

【617、今から言う言葉には反応しないように。

 現地住民であるルビコニアンと外様である企業は、基本的に仲が悪い。

 ルビコニアンからすれば勝手に来て自分たちの星を荒らすヤツらだし、企業からすれば正当な報酬や契約があっても意見を譲らないならず者どもだ。

 こういうどっちが正しいも間違ってるもない、考え方による対立は人間社会じゃ少なくない。覚えとけ、617】

 

 そういうものか、と617は軽く納得する。

 よくはわからないが、とにかくルビコニアンと星外企業という人たちは仲が悪いらしい、と。

 

 

 

 617がぼんやりとした理解を持ったことを確かめ、改めて、ナインはパッチに対して返答する。

 

『なるほど、確かにお前たちからしたら面白くないわな。特にアーキバスは社風がアレだし。

 それじゃ、なんで依頼を請け負った?』

「請け負ったっつーか、俺が受けたのはてめぇに依頼を伝達するところまでなんだよ。つまりは仲介だな。

 てめぇがこの仕事を受けようが断ろうが、伝えた時点で2,000COAMゲット。こんなにボロい商売ねぇぜ! はっはっは、企業様様だ!」

『……この不愉快な矛盾を示す言葉を、617は知りません』

『ダブルスタンダードかな。まぁ金に貴賤はないと思うし、俺としては問題ないと思うが』

 

 ……薄々感じてはいたが、どうにも617はパッチへの当たりが強い。

 仲良くしてほしいとまでは言わないが、依頼人にはある程度フラットな態度を取るのがベストだと思っているナインは、どうしたものかと頭を悩ませる。

 

 

 

 一方パッチは、617の毒舌に怯みつつも、気を取り直したように言った。

 

「まぁでも、良い男として公平に言うと、だ。正直この依頼はかなり旨いと思うぜ。

 ただ基地から基地の一区画、輸送機を護衛するだけでミッション完了。

 報酬は敵が来る来ないに関わらず基本報酬で100,000COAM。もしも敵が来た場合、汎用兵器が400、軽MTで1,000、重MTが9,000、ACが28,000、護衛完了で特別加算20,000だ。

 敵が来なきゃ、ただAC走らせてるだけで100,000COAMだ。どうだ、なかなかだろ?」

『……しょっぱくない?』

 

 前回のミッションで300,000COAM以上荒稼ぎした、そして前世では1ミッション800,000とか稼いでいたナインの意見。

 対し、パッチはぐっと眉を寄せた。

 

「てめぇな、前回のミッションで感覚狂ってるんかも知らんが、ルビコン1じゃこれでも旨い方だぜ?

 前回は封鎖機構の基地攻めだから、てめぇを頷かせるために馬鹿みてぇな額にしたんだ。そのためにめちゃくちゃ多くの商人に投資してもらったんだからな?」

『ああ、だから追加報酬は美味しかったけど基本報酬しょっぱかったんだ。俺たちが失敗したり半端な腕だった時のためのケアなんだな、アレ。

 うーん、みみっちい資金繰りが見える見える』

「黙れやぶん殴るぞ」

 

 

 

 ふむ、とナインは考え込む。

 当然ではあるが、最前線であるルビコン3と比べ、ルビコン1はそこまで景気が良くないらしい。

 「旨い仕事」を逃せば、次にいつありつけるかわからない。

 

 ナインたちには金が要る。

 

 残った借金が30,000弱、ブローカーに払わねばならないものが諸々含めて200,000。

 まずこれが、ルビコン3に行くために、最低限稼がねばならない金額だ。

 

 次に、鉄火場たるルビコン3に行く以上、今の機体では不安がある。

 武装は十分に戦えるラインにあるが、外装内装はかなり終わっている。この状態で下手こいてウォッチッチおじさんやなるほどなおじさん、ガチタンヤクザに絡まれれば、そこそこ腕利きの617の腕でも殺されかねないと思われた。

 なので、ルビコン3に行く前に、可能な限り良いパーツに買い替えていきたい。

 

 特にナインの頭を悩ませるのが、内装だ。

 中量機なのに軽量機用のブースターを使っているし、それも性能が悪い。

 FCSはどの距離においても最低限の性能しかない。

 ジェネレーターこそ新品に買い替えたため良い性能してるが、コアの拡張機能たるアサルトアーマーの修復やリペアキットの補給は、どうやらここの設備ではできないらしい。

 

 更に言えば、外装だって買い替えたい。

 ヘッドパーツには殊更の不満こそないが、アームとコアパーツは最低品質のジャンクで、レッグパーツの性能も決して高くはない。

 ナインとしては、まずFSCの性能を引き出すべくアームパーツを、次いでジェネレーターの本来の性能を発揮するためにコアパーツを買い替えたくて仕方がない。

 レッグパーツは……まぁ、我慢できるが、外装板が剥がれかけたりしているので、やはりこれもその内買い替えねばなるまい。可能なら軽量二脚に。

 

 ACのパーツは非常に、非情に高価だ。

 それぞれのパーツを、安く見積もって1つ200,000COAMとして、ナインが満足できる機体をくみ上げるには、最低でも1,000,000COAMという莫大な資金が必要になる。

 そこに破損した拡張機能の修理などを追加すれば、下手をすると1,200,000COAM程度必要になるかもしれない。

 

 ……しかし。

 

【…………】

『? おにいさま?』

 

 それで、この少女が……617が、命を繋ぐ可能性が増えるのであれば。

 

 やるしかない。

 ……傭兵らしく、最高効率で。

 

 

 

『617、俺はこの依頼を受けたいと思う。君はどう思う?』

『617に不満はありません。ナインの判断に従います』

『オーケー……パッチ、この依頼受けるよ』

「おし、わかった。それじゃ、アーキバスの方には受諾するって伝え……」

『待った、パッチ』

 

 話を進めようとするパッチを止め。

 ナインは、ニヤリと……617の固まった表情筋が作るとは思えない、自然な笑みを浮かべた。

 

『……せっかくだ。お互いウィンウィンで行くために、もうちょっと悪いことしようや』

 

 

 

 * * *

 

 

 

 それからしばらく、ナインとパッチはミッションの詳細や「悪巧み」について話し合う。

 

 当然と言えば当然のことだが、悪いことをすれば恨みを買う。

 この「悪だくみ」も、少し舵取りを間違えれば、パッチにまで被害が及びかねない。

 ナインから見て小心者なところのあるパッチは、そのリスクを考慮し、話に乗らないかもしれないと危惧していたのだが……。

 

「ほうほうほぉ~う? ……ハッ、面白ぇじゃねぇか」

 

 存外、彼は乗り気だった。

 

「なるほどなぁ……確かにアイツらは契約契約うるせぇし、これは契約違反にはならねぇ。良い皮肉になるだろうし、そういう意味でもお前の提案はなかなか愉快だ。

 問題はコンタクトと事後処理と隠蔽、それから誤情報の流布に犠牲者の選別か。……まぁ諸経費差っ引いてもこれからを考えりゃあギリ利益出るな。

 ただ受けるだけなら赤だが、やれば微妙とはいえ黒。やらねぇ理由はねぇな、よし採用。

 計画の詰めはこっちで考えとく。前日までにはそっちに情報流すわ」

『……ねぇ、もしかしてこっちのパッチって有能なん?』

「何度言わせんだてめぇ、これでも俺ぁ自費でAC買って使えるくらいにゃ成功した商人だっての。

 ……いや待て、こっちのパッチって何だ? 他にもパッチいんのか?」

『俺が知る限り色々いるよ。命乞い……はお前もしてたけど、罠に誘導したり、崖から蹴り落としてきたり、先に行かせて退路を断ったり、変なトコに誘導したり、やっぱり崖から蹴り落としたりしてる』

「…………」

『おい、その「場合によっちゃ俺もやるなぁ……」みたいな顔やめろ』

 

 

 

 ナインにとって、パッチはある意味、親しみ深い相手だった。

 彼が前世でやっていたゲームで幾度も──スターシステムに近い、別人としてではあったが──登場した、どこか憎めない小悪党。

 

 この世界のパッチは、伊達男を気取っているためか比較的ゴミクズではなかったが、それでも節々から見える小物っぷりはまさしくパッチだ。

 ソウルライクなパッチというよりは、どちらかと言うとノーカウントでグッドラックなパッチに近いのかもしれない。AC世界だし。

 

 一方でパッチからしても、青目(617)はともかく、赤目(ナイン)は接しやすい相手だ。

 とんでもない力を持っているにも関わらず、その力に溺れて威圧的になる様子がない。

 相手への配慮や心配り、最低限の礼儀を払うことを忘れない。その上で、互いが利益を得るためにウィンウィンの取引を要求してくる。

 商人として、これ程やりやすい相手もそうはいない。

 ……時々狂った台詞を吐く事もあるが、パッチからすればその程度は愛嬌のようなものだ。実際にやらかして迷惑でもかけられない限り、マイナスにはなりえない。

 

 そんなわけで、2人は短い付き合いにも関わらず、割と親しく話しており。

 

 

 

 ……そんな2人を見て、未だ名前も知らないもやもやとした感情に心を悩まされる少女が1人。

 

『……おにいさま、617は疲労が蓄積していることを報告します』

 

 その体の本来の持ち主である617は、少し口ごもりながら、そう口にした。

 

『ん』

 

 ナインは、そこまで体に疲労が溜まっているわけではないと、理解していた。

 が、彼女がそう言うのならば、何か話を切り上げたい理由があるのだろう。

 体を間借りさせてもらっているナインとしては、拒絶する理由もない。そもそも彼女の意思1つで簡単にコントロールを取り返されるわけだし。

 

『そうだな、少し話過ぎた。悪いなパッチ、これでも強化人間だ、あまり体に負荷をかけるわけにはいかない』

「もうそんなか。わりぃわりぃ、前の作戦の疲れも取り切れてねぇだろ? ゆっくり休んでくれ」

 

 パッチとしても、妙に自分に突っかかって来る青い目の方の逆鱗を踏む気はさらさらない。

 さっさと退場を決め込むことにして……。

 

 

 

 しかし、その前に。

 忘れかけていた用件を思い出して、ズボンのポケットに手を突っ込む。

 

「あ、そうだ。青い方」

『……617ですか?』

 

 コクリと首を傾げた617に向かって、パッチはポケットの中に入れていたものを投げる。

 彼女はよたよたと危うい足取りでバランスを取り、なんとかそれを受け取った。

 

 冷たく固い、けれど重くはない、金属らしい感触。

 手を開いてみると、そこにあったのは……。

 

『これは……?』

『髪飾り、のように思うが』

 

 少し深い海の中をそのまま映したような、綺麗な青色の髪飾りだった。

 617は再び小首を傾げるが……ナインは、それが617の目の色と同じものだと察する。

 

 よく市場に並ぶ粗製のものとは違う存外しっかりとした作りで、617が身に付ければ彼女の銀髪の良いアクセントになってくれるだろうもの。

 腕利きの傭兵に渡すものとしてはあまりにも牧歌的に思えるそれに、2人が困惑していると……。

 それを投げ渡したパッチは、ヘッと軽薄そうに笑う。

 

「メスガキがパイロットスーツ一丁で着飾ることもできねぇ世界なんざ終わってるからな。

 俺からのプレゼントだ、精々有り難く受け取っとけ! 言っとくけど無料だからな、無料! 出血大サービス!

 ……赤いのも買おうとしたけど、品切れだったんでな。てめぇらが密航するまでには見繕ってやるわ」

 

 へらへらとそう言って背を向け、軽く手を振りながら、パッチは立ち去って行く。

 

 

 

 ACドック内蔵の会議室に取り残された617とナインは、ぱちくりとその後ろ姿を見送り……手の中に残された髪飾りに目をやる。

 

『…………パッチ、良い人?』

【617、純粋すぎる。簡単に人を信じるのはやめよう。

 まぁ、あのパッチが無料っつってるんだ、これは本当に心遣いのプレゼントなんだろうが……】

 

 ナインは、思い出す。

 

 パッチは少し前、「殺し殺されは大人の男の仕事」と言っていた。

 更に今回は「メスガキ(子供)が着飾ることもできない世界は終わってる」とも。

 

 それらの言葉から推測される、パッチの思考は? 何を考え、何故これを渡したのか?

 ナインの赤色の脳コーラルが、知人となった男の深層と真相を探らんと駆け巡り……。

 

【まさか、あいつ……ロリコンか? 警戒した方が良いのか……?】

 

 ……彼が617に人の情緒を教えられる立場にないことを露呈させた。

 

 

 

 一方、617。

 頭の上で赤い光がひゅんひゅん跳び回っているのを後目に、彼女はじっと、その手の中の髪飾りを見ていた。

 

『ナイン。「かみかざり」とは何でしょうか』

【ん? ああ、髪に付ける……装飾品、だな。

 前髪が伸びると目にかかって厄介だったりするし、それを防ぐためにも使われるが……。

 まぁ、パッチが言ったように、女の子が着飾る意味で使われることが多いかな】

『着飾る、というのは……』

【それを見る人に良い印象を与えるために、自分の服や装飾品を整える行為、だな】

 

 実のところ、強化人間である617にとって、前髪を纏める行為にはあまり意味がない。

 

 彼女たち強化人間は、ACの1つのパーツになるように「強化」された人間。

 コックピット内でメインシステムを起動した時点で、彼女たちはその感覚をACと直結させる。

 ACで触れた感覚は触覚に繋がるし、ACで聞いた音は聴覚に繋がる。

 それと同じように、ACのメインカメラが捉えた映像は、彼女たちの網膜にそのまま投射されるのだ。

 

 故に、真っ当な視覚を使わない以上、髪が邪魔になることはない。

 たとえ目をつぶっていても、自在にACを操作することが可能だろう。

 

 

 

 つまるところ。

 ウォルターに、彼のために戦うことを生きる意味だと教えられた617にとって、それは全く以て無駄なものであり、無意味な行為であり……。

 

 

 

『……こういった風に……でしょうか? おにいさま』

 

 

 

 ……617が、自分から、それを髪に付けたことには。

 きっと、無駄ではない、特別な意味があったに違いない。

 

 勿論、ウォルターの命に逆らう、というような意味ではなく。

 それ以外のこと……まるで普通の少女のように自分を飾ること、あるいはその真似事をした時のナインの反応に、ほんの欠片程度でも興味を抱き。

 そのために、自分から、自発的に行動したのだから。

 

 

 ナインは、本当に珍しい617の積極的な行動に、一瞬だけ驚いたように黙り込み……。

 すぐに、いつものような、温かな声をかけた。

 

【ああ。可愛いよ、617】

 

 

 







 次回、みんな大好きパーツ輸送護衛ミッション。
 ミッションは達成しないとCOAMが得られない、でもミッションを達成してしまうと隠しパーツを見逃すことになってしまう。
 一体どうすればいいんだ──!?
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