そして世に(銀髪薄幸美少女傭兵との)純愛のあらんことを   作:アリマリア

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戦いはいい。俺たちには、それが必要なんだ。

 

 

 

 前提として。

 スネイルは、リチャード前哨基地が襲われる可能性を、考慮に入れていた。

 

 ただし、それは最悪の想定……つまりは、アーキバスにとって最も打撃となり得る未来であり。

 それに備えつつも、どうにか他の未来へと流れを変えようとしていたのだが……。

 

 結局、それは叶わず。

 それどころか封鎖機構・ベイラム・解放戦線・ハウンズの連合戦力がアーキバスをリンチしに来るという、地獄のような状況に陥ったわけだが、それはそれとして。

 

 それへの警戒と対策のため、リチャード前哨基地には複数のヴェスパー部隊が詰め、近傍拠点にも何人か配置していたが……。

 これまでのことを考えれば、システムが情報を遮断してくるであろうことも目に見えていた。

 

 故にスネイルは、アーキバスの最大戦力たるV.Ⅰフロイトに、事前に言い含めておいたのだ。

 

 

 

「ここから先は自由に動いて構いません。私に許可を取るのも事後でいいでしょう。

 あなたの直感の命ずるままに、戦場を探し、蹂躙しなさい」

 

 

 

 

 ……果たして、その命令は功を奏したと言っていいだろう。

 

「はっ……スネイルの奴め、面白い指示を出してくれる」

 

 巡航速度でアサルトブーストを噴かす、AC「ロックスミス」。

 そのコックピット内で、V.Ⅰフロイトはほくそ笑んだ。

 

 根っからの戦闘狂である彼は、当然ながら、ここ最近の流れを面白がってはいなかった。

 封鎖機構が本腰を入れたことで、本社はルビコン3での活動を不安視し、撤退を意向に入れている。

 

 その空気を感じ取り、フロイトは不愉快な感情を隠さなかった。

 

 やっと面白そうな強敵が出たというのに、何故退かなければならないのか?

 

 その意味において、スネイルからもらった自由意思での出撃許可は、渡りに船と言って良かった。

 これでいつでも自由に、圧倒的な強者なのだという相手に勝負を挑めるのだ。

 生粋の戦闘狂である彼が舌なめずりするのも、むべなるかな。

 

 そして今、彼はその直感を元に、鉄火場の匂いを嗅ぎ付け。

 リチャード前哨基地、その上空へと駆けつけて……。

 

 

 

「見つけた──!」

 

『行きます』

 

 

 

 崖の上から飛び立ったAC「フォーアンサー」と、アサルトブーストを強襲速度に切り替えた「ロックスミス」は、お互いの機体を捉えた。

 

 敵性ACが2機揃えば、もはや何かを語るまでもない。

 

 会話を交わすようなことさえなく、互いがその銃口を向け合い。

 一瞬の静寂の後に、弾丸の飛び交う轟音が鳴り響き始めた。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 AC「ロックスミス」。

 そのアセンブルは、おおよそヴェスパー部隊のそれとは思えないものになっている。

 

 通常、企業専属AC部隊の構成員は、自身の乗騎をその企業の販売するパーツで構築する。

 

 一世代前までは戦場の花形であったAC部隊、そのトップメンバーともなれば、彼らの活動は多くの者に目を付けられることになる。

 そこで企業の販売するパーツを使って入れば、当然ながら莫大な宣伝効果が見込めるわけで……。

 プロモーションの意味もあり、自社製品パーツでアセンブルを組まされることが多いためだ。

 

 だが、フロイトは事情が違った。

 

 彼はそんな「つまらない都合」で、アセンブルの幅を縮められることを厭った。

 そうして上層部と、極めて穏便に両者合意の上の話し合いをした結果……。

 彼の持つ圧倒的な武力を前提とし、外部へのプロモーションを放棄することを許可された。

 

 結果として「ロックスミス」は、ベイラム・アーキバス両企業のパーツを組み合わせて構成された、コンセプトが整っていないキメラの如き機体となっているのだ。

 

 

 

 ……しかし。

 その歪な構成を嘲笑う者がいるとすれば、それは戦場を知らぬ者だろう。

 

 強き独立傭兵たらば、誰もが知っている。

 そのように歪に見える、不格好な、しかし確かな意図のあるアセンブルこそが、真の強者の証なのだと。

 

 

 

『鋭く、速く、掴み辛い……猫のような動きだな。

 しかしその牙、愛玩用の猫ではなく、ヤマネコか。

 こんな人里まで降りて来るとは、余程血に飢えていると見える。同類に相見えるのは初めてだ』

 

 広域放送に乗る、若い男の言葉。

 それは、リンクスが今矛を交えている相手、フロイトのものだ。

 

 熾烈な撃ち合いを繰り広げながらも自身の考えに浸っているのは、余裕の為せるところか、あるいは、恍惚が故のものか。

 

 恐らくは会話ではなく独り言なのだろうそれを前に、少し前までの617であれば、困惑のあまり攻め手が弱まってしまってもおかしくはなかったが……。

 

 幸いなことに、あるいは不幸なことに。

 少し前に戦った変態の方が余程アレだったので、既に耐性の付いている617は聞き流すことができた。

 

 

 

 できた……が、しかし。

 

 だからと言って、有利に戦えているかと言えば、そうでもない。

 

『……ふむ』

 

 617は小さく呟きながら、両腕のバーストマシンガンを交互に放つが……。

 

『ここらが引き時か。ハハッ、まるでダンスだ』

 

 その直前、相手はすぐに距離を離し、建物の陰へと身を隠し。

 放った弾丸の群れは、コンクリートを抉るだけに終わった。

 

 

 

【V.Ⅰフロイト……基地の防衛を行うにしては、消極的な姿勢に思えますね】

 

 そう。

 エアの指摘通り、先程からフロイトは、積極的な交戦を避ける動きをしていた。

 

 遮蔽の裏に隠れ、常に距離を取り、時にはパルスアーマーでその身を守って。

 621から聞いていた「戦闘狂」というイメージとは相反するような、引け腰な対応を繰り返していた。

 

 

 

 ……そう。一見、そのように見えるだろう。

 

 ある程度勉強こそしているが、それでもまだ門外漢に過ぎないエアからすれば。

 

 

 

『……正面から来られるより、余程厄介です』

 

 617は呟き、眉をひそめ……。

 その言葉を、基地正面で現在進行形で戦っているはずのナインが引き継いだ。

 

【617、戦いに集中しろ。俺が説明しておく】

【ナイン】

【こっちは今手隙だから、大丈夫】

 

 心配そうなエアの声に苦笑しつつ、彼は語った。

 

【……基本的に、現代AC戦の立ち回りは2パターンに分けられる。

 その内ハウンズが主体としているのは、スタッガーを取って一気に畳みかけるドッグファイト。言うならば攻撃的な姿勢だ。

 この戦法の長所は、こちらが優勢を取れば被害が少なく抑えられることや、敵の撃破までにかかる時間が短く済むことが挙げられるが……。

 同時、衝撃力に長けた実弾武装を多く積む都合上、ACSが働いた状態での削り合いには強くない】

 

 一瞬、エアは黙って思考を走らせ……すぐに、その真意に気付いた。

 

【まさか、相手は消極的に……防御的に動いているのは】

【そういうこと。

 このまま、絶対にスタッガーしないようにACSの負荷を逃がしながら、削り切るつもりだろう。

 流石、良い観察眼をしてるな。「フォーアンサー」の武装から戦術を一瞬で見透かして、それにカウンターを決めてきたわけだ。

 実際、かなり上手い引き撃ちで、両者のAPダメージレースは互角……いや、若干617不利に傾いている】

 

 

 

 * * *

 

 

 

 ロックスミスの武装は、アサルトライフル、レーザーブレード、拡散バズーカに、レーザードローン。

 実弾武装、EN武装、爆発武装にオートドローンと、見事なまでの闇鍋具合にも思えるが……。

 

 しかし、群を抜いた操作技術を持つフロイトの手にあっては、あらゆる戦術を許す万能の武装にもなり得る。

 

『このまま終わりか? 楽しませてくれよ……』

 

 挑発ではなく、本心でそう呟きながら、フロイトは縦横無尽にACを操った。

 

 侵入者である617と違って、彼はこの基地の構造を知悉している。

 どこにどの建物があるか、どれだけの高さか、遮蔽になるかどうか……。

 ここが戦場になると見越したフロイトは、とっくの昔にリサーチを終えていた。

 

 ひたすらに引き撃ちをし、617の鋭い攻め手をいなせている理由、少なくともその一側面に地の利があることは確かだろう。

 

 

 

 しかし今回、中量ACである「ロックスミス」と軽量ACである「フォーアンサー」の間には、決して小さくない推進力の差がある。

 いくら地の利があるとはいえ、それでも速度の差から追い付かれ、攻撃を浴びせられるはずだった。

 

 それでもなお、ダメージレースで勝っているのは、彼の卓越した操作技術も勿論だが……。

 アサルトライフルという比較的長射程の武器、拡散バズーカの爆風による牽制、そして何もせずとも確実にダメージを蓄積させるドローン。

 それらの汎用的に使える武装が、引き撃ちの戦法においても彼の求めに応えているからに他ならない。

 

 

 

 このままの戦いが続けば、勝つ。

 その確信はむしろ、フロイトを酷く退屈させた。

 

 だが同時……「コイツなら」という期待もまた、彼の胸を震わせている。

 

 独立傭兵リンクス・ウィズ・カラー。

 ずっと前から目を付けていた、あまりにも急速で成長していく、異端の飼い犬。

 

 ランク1/Sを誇る独立傭兵レイヴンと並び、フロイトの目についた、その傭兵ならば……。

 

『このまま引いて勝てるのなら、面白くないぞ。

 さあ、どこからでも来い……!』

 

 あるいは、これまでにない程楽しめるかもしれない、と。

 彼はそう期待してしまってもいたのだ。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 そして。

 

『……よし。観察は終了しました。

 ナインブレイカーにも項目のあった、引き撃ちタイプのエネミー。

 であれば、取るべき対応は一つ』

 

 その期待に、617は勝利の確信を以て応えた。

 

 

 

『ゴリ押す!』

 

 

 

 ENを補充させきった瞬間に、アサルトブーストを起動。

 

 これまでのように、無理のない範囲で追い縋るのではなく……。

 最高速度で、がむしゃらに、彼我の距離を詰める。

 

 

 

 無論、「ロックスミス」は追い縋る相手へのけん制を欠かさない。

 アサルトライフルで、レーザードローンで、何より拡散バズーカで以て、迎え撃とうとするが……。

 

『……!』

 

 小さな弾丸やレーザーは、微かに進行方向を変えて軸をズラし。

 拡散バズーカの弾丸は、鋭くクイックブーストを噴かして躱し。

 角の向こうに消えた「ロックスミス」に、アサルトブーストを噴かしたまま、クイックターンで追い縋る。

 

 張られた弾幕の合間を縫うように、617はそれを突破してみせた。

 

 

 

『ハッ、なるほど液体じみている!

 どれほどの戦場を経験すれば、それだけの腕が身に着くんだ……?』

 

 フロイトは、思わず感嘆の声を上げた。

 リンクスの実力は、彼の想定を遥かに越えていたから。

 

 彼とて、引き撃ちという戦法の弱点を知っている。

 こうして無理に詰められれば、どうしてもACS負荷の削り合いに長けたあちらの攻勢を防ぎ切れない。

 

 それを覆すだけの技量差は、彼らの間にはない。

 

 いいや、むしろ……逆に、純粋な技量では負けているだろう。

 それを悟ったからこそ、彼は真正面から立ち向かうことは避け、この戦法を選んだのだから。

 

 

 

 しかし……。

 そんな時のための策もまた、彼は有していた。

 

『なら……これは、どう避ける?』

 

 角を曲がり、相手からの視線をビルで遮って。

 これまでは温存していたレーザーブレードに、エネルギーを充填させる。

 

 彼の持つレーザーブレード、その真価は、圧倒的な攻撃範囲と火力だ。

 チャージに長い時間がかかることや、垂直方向への攻撃には向かない等、欠点はあるが……。

 凄まじく広い水平範囲を薙ぎ払い、多大な損傷を強いることができる。

 

 ……「フォーアンサー」のEN残量は、脳内で計算している。

 もうすぐENは切れて、アサルトブーストを維持できなくなるはずだ。

 

 そうすれば、地に足を付けてENを補充しなくてはならない。

 だから……垂直方向に攻撃を避けられることを、考える必要はない。

 

 そして、本来なら極端に長いチャージ時間もまた、こうして死角に隠れて行えば、相手からは見えない。

 相手が距離を詰めるために焦っていることを加味すれば、もはやチャージなどないにも等しいだろう。

 

 不意打ちの攻撃、それもEN切れの状態だ。

 タイミングさえ合わせれば、確実に命中させるだけの自信があった。

 

 

 

 

 

 

 ……果たして。

 

 両者の視界に、両者のACが映った瞬間。

 

 「ロックスミス」は、レーザーブレードを振りかぶり……。

 

 対する「フォーアンサー」は。

 

 

 

『……ッ、ハハッ!』

 

 

 

 パルスの粒子をその身に集め、放出しようとしていた。

 

 

 

 読まれていた。

 奇襲も、レーザーブレードによる攻撃も。

 

 それが避けられない一撃であることは、向こうも承知で……。

 その上で、リンクス・ウィズ・カラーは、躱さずにアサルトアーマーで反撃するという、考え得る限りの最適解を選択した。

 

 

 

『なるほど、これが──ッ!!』

 

 パルスの奔流が、横薙ぎしたレーザーブレードのENで構成された刀身を消し飛ばし、奇襲をしかけた「ロックスミス」の全身に叩き付けられ──。

 その衝撃に「ロックスミス」は耐えられず、スタッガー状態に陥った。

 

 続くガコンという音は、「フォーアンサー」の左肩のハンガーが稼働する音か、あるいは運命のレールが定まった音だったか。

 

 「フォーアンサー」の左腕に、その武装が移される。

 

 もはや彼女の代名詞となりつつある……パイルバンカーが。

 

 

 

『終わり、ですッ!!』

 

 

 

 その杭が、「ロックスミス」の胴体を完璧に捉え、突き刺して……。

 

『くっ、今のは、効いた……!

 だが、まだだ……動け、ロックスミス! これから、面白、く……!!』

 

 凄まじい爆音と、最期まで戦いに憑かれた男の声と共に。

 

 ロックスミスは爆炎を上げながら吹っ飛び、ビルの外壁に叩き付けられ、大破した。

 

 

 

『……ふぅ。AC「ロックスミス」撃破、問題なく完了しました。

 様子見とAP、ACS負荷調整のために少々被弾はしましたが、問題なく処理できました。

 引き続き増援部隊への警戒、並びにアーキバス戦力の逐次撃破に努めます』

 

 

 







 Q.フロイトが1話でぶっ殺されるってマジ?
 A.アイツ原作でも1ミッションで呆気なく死んだから……。
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