そして世に(銀髪薄幸美少女傭兵との)純愛のあらんことを   作:アリマリア

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勝負だレイヴン、リンクス。どちらが正しいかは戦いで決めよう。

 

 

 

『俺は今回、あなたたちオーバーシアーと、617たちハウンズ、どちらにも協力しない。

 ……いや、それは正確じゃないな。どちらにも平等に協力する、と言うべきか。

 中立的勢力、あるいは状況を整えるジャッジだとでも思えばいい』

 

『あなたたちオーバーシアーに対しては、封鎖機構が掌握していたザイレムの管制権を譲渡し、幾らかの物資、封鎖兵器とC兵器を供与、道中における解放戦線及びベイラムからの手出しを防止する。

 ウォッチポイント・アルファへの航路なんかも割り出してもいいが……その辺りはあなたたちでもできるし、俺を信頼することもできないだろうしな』

 

『一方でハウンズには……あの子たちは、まだ戦略的視野で物事を考えるんのには慣れないだろうからな。

 今回の作戦立案と、あなたたちの機体の位置座標の登録くらいはするつもりだ。

 現地でのオペレートは、少々やり過ぎかもしれないので、するつもりはない。彼女たちの協力者に任せるつもりだ』

 

『……これらの条件下で、オーバーシアーとハウンズには、どちらがその本懐を遂げるべきか、力を以て正しさを証明してもらいたい』

 

『俺は、勝った方に付く。

 ハウンズが勝てば、彼女たちの答え……あなたたちの死なない、人とコーラルが共生できる未来を。

 オーバーシアーが勝てば、あなたたちの理想……コーラルを尽く焼き払い危険性を排除し、人のみとなった未来を。

 両立はできないどちらかの未来を叶えるため、俺は力を尽くそう』

 

 

 

 ナインから、一方的に告げられた内容は……。

 実のところ、オーバーシアーの2人からすれば、僥倖とすら言っていいものだった。

 

 なにせ、彼らは既に、ナインと敵対する覚悟を決めていた。

 その上で、なんとかザイレムを掌握し、万難を排してウォッチポイント・アルファに到達しなければなかなかったのだから。

 

 

 

 当然ながらウォルターは、ナインが617と621を大切に扱っていることに気付いていた。

 

 そもそも617がルビコン1での作戦で死にかけた時から、彼はずっとハウンズを保護していた。

 その身を人間の悪意より守り、教師のように導くことで知識と力を付けさせ、時に暖かい寝床を用意し、時に戦場を導くオペレーターを担当し。

 それらの補助輪が必要なくなると共に、少しずつ、彼女たちから手を引いていく。

 

 まるで、自分がいなくなっても一人でも生きていけるように……と。

 ウォルターと同じ願いを胸に抱いているかのように、行動し続けて来た。

 

 621に対してもそうだ。

 

 ウォルターには分からない、何かしらの都合を抱えていた彼女と接し、どこか倦怠感を帯びていた彼女の表情を明るくしてくれた。

 ウォルターから見れば既に完成されていた彼女の戦法の欠陥を指摘し、幾多のシミュレーターを以て彼女の更なる強さの追究に付き合った。

 

 いずれも、ウォルターには出来ない寄り添い方で、しかしウォルターと同じだけの熱量を持って、彼女を思いやっている。

 

 だからこそ、今や617も621も、ナインのことをウォルターと同じくらいに強く信頼しているのだ。

 なんなら最近彼女たちが作戦外でウォルターと話す時の話題は半分くらいはナインのことで、ウォルターはそれを少しだけ寂しく思いつつも、同時安堵もしていた。

 

 

 

 ナインが想っているのは、傭兵部隊ハウンズという箱ではなく。

 その中の構成員である、617と621という人。

 

 ……ついでに言うなら、ウォルターやカーラにもまた、彼は少なからぬ友愛の情を送っていたのだが。

 

 それでも、彼が誰よりも大切にしていた617と621を騙し利用していた以上、もはやナインとの離別は避けられないと、ウォルターやカーラは確信していた。

 

 

 

 しかし、ナインはその想定を裏切り、言った。

 勝った方に付く、と。

 

 それは想定外の僥倖であると共に……。

 リアリストなカーラからすれば、それは想定の外にあった言葉だ。

 

『……ふぅん。不思議なことを言うじゃないか。

 あんたにもあんたの目的があるんだろう? そしてそれは……きっと私たちの目的とは相反する。

 てっきりあんたは、私たちを止めるか、そうでないにしてもあの子たちに付くと思っていたんだがね』

『おいおい、さっきは「私たちを止めていいんか? やべーぞ?」って脅してきたじゃん』

 

 ナインはそこで、声音に苦笑の色を混ぜ……。

 それから、改めて言った。

 

『まあ、しかしそれは事実だな。

 俺としちゃあ、あなたたちが目的を遂げるのはすごく困る。そりゃあもう、多分あなたたちが予測している数十倍くらいは困る。

 ……だが、だからと言って、力尽くであなたたちを捻じ伏せても欲しいものは手に入らない。

 だからこそ、ただあなたたちとハウンズの戦いを見つめようとしているんだ』

 

 彼の声は、合成音声でありながらも、複雑な感情を宿していた。

 喜びのようでもあり、悲しみのようでもあり、苦しさを宿すようでもあり、同時解き放たれたかのような快さも宿しているように、ウォルターには思えた。

 

 

 

 けれど、その意図を推し量る間もなく、ナインは話を続ける。

 

『この勝負を受け入れなければ、俺はあなたたちを全力で妨害しよう。

 逆に、これを受け入れてあなたたちが勝つようなら、決して邪魔はせず、むしろ支援すると約束する』

『……それをどう保証する』

 

 口約束など、容易く反故にできる。

 だからこそ傭兵仕事の上では、約束は必ず書面に起こし、オールマインドを介することで契約の拘束力を高めるのだ。

 

 だが、殊この局面、この相手に限っては、それも確かにはならない。

 なにせ相手は封鎖機構を掌握しているのだ。裏切りの事実など、簡単に握り潰してしまえる。

 

 カーラはそれを警戒したが……対して、ナインは困ったように唸る。

 

『うーん、しれっと難しいことを言ってくれるな。

 確かな強さを持つ仲介人もいないし、俺の武力があなたたちを優に食い破り得る以上、確実に約束を保証する手段はおおよそないわけだが……。

 強いて言えば、俺のこれまでの行動から信頼してほしい、くらいになるかな。

 ウォッチポイント・アルファの図面と兵器の哨戒パターンくらいなら担保に出せるけど、それだって信頼が置けるかわからないわけだし』

 

 

 

 むむむ……と、どこか間の抜けた声で悩み出すナイン。

 

 そんな彼に、ウォルターは溜め息一つ、言った。

 

「いや。俺は、信じよう」

『ウォルター』

「既にナインに作戦が露見している以上、俺たちの手勢で抵抗を越えるのは現実的ではない。

 そう考えれば、どちらにしろ、俺たちにはこの勝負に乗らない選択肢はないし……。

 ……必ずしも約束を守ることを保証できないのは、俺たちも変わらない」

 

 現実的に言えば、確かに約束を破られる可能性は存在する。

 だが、ウォルターたちにはこれ以外に選択肢がないし……。

 

 何より、それを言えば、ナイン自身とてそのリスクは存在しているのだ。

 

 

 

「察するに、お前は、俺たちがハウンズに負ければ……コーラルの焼却という目的を諦めろと、そう言うつもりなんだろう」

 

 ハウンズと、オーバーシアー。

 勝った方が、ナインの支援を受けられるというのなら……。

 それは即ち、勝った方が目的を遂げると同義。

 

 つまり、負けた方は潔く道を譲れと……ナインはそう言っているのだ。

 

「だが、実際に俺たちが、617や621に負けたとして。

 その時俺たちが、素直にこの目的を諦められるかは……わからん」

 

 無論、口先だけで「できる」と言うのは、簡単だ。

 理性的に言うならば、全員が生き残れる道があるのなら、それを選ぶべきだと思う。

 

 だが……。

 ウォルターの散っていった友たちの遺志が、あの日見た赤い破滅の光が、地表の全てが焼き尽くされたルビコン3の惨状の記憶が。

 果たしてそれを許すだろうか。

 

 過去がその人を作る。良くも、悪くも。

 ウォルターにとってそれは、何があっても生き続ける強さを作った背景であると同時……。

 決してそれ以外の生き方を選べない、呪縛でもあった。

 

 

 

 故に。

 

「こいつだって、それを承知の上での提案だろう。

 これ以外に道はなく、互いの理性を信じる他に保証のしようもない。

 であれば、俺たちがすべきは、敗北の可能性を考慮することではなく……勝つ。勝つことで、目的への道を拓くこと。

 今までと、何も、変わらない」

 

 戦って、勝ち獲る。

 

 彼はこれまで通りに、これまでと変わらず、現状を打破することを選ぶ。

 

 

 

 たとえ相手が、心底より未来と幸福を願う、我が子のような2人であっても。

 

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 

【ウォルターたち、オーバーシアーとの最後の協議が終了した。

 それでは、今回の作戦についてブリーフィングを行う】

 

 

 

【これは俺、ナインから君たちハウンズに向けた依頼となる】

 

【作戦開始時間は、本日15時。

 作戦区域は、中央氷原上空、中間圏……ああ、そうだ。カーマンラインに程近い空域だな】

 

【作戦目標は、オーバーシアーの有する三機のAC。

 シンダー・カーラ乗機、「フルコース」。

 チャティ・スティック乗機、「サーカス」。

 そして……ウォルター乗機、「IB-C03: HAL 826」……改め、「チャードリメインズ」】

 

【以上3機は、アーレア海から飛び立った恒星間入植船ザイレムに乗り、現在ウォッチポイント・アルファへとその進路を向けている。

 617、621。君たちのミッション目標は、以上3機の撃破だ】

 

【制限時間は、ザイレムがウォッチポイント・アルファ上空に到着した時点まで。

 既定の作戦区域からザイレムが脱した時点で、こちらの敗北になる】

 

 

 

【621にとっては既知のことと思うが、カーマンライン付近には、アイビスの火によってばら撒かれたまま残留した、微細コーラルが漂っている。

 この範囲内では、ACは実質的に無限のエネルギーを持つと思っていい。クイックブーストもアサルトブーストもEN武装のチャージも、完全に自由に行えるだろう】

 

【そのため、まずは解放戦線の有する物資打ち上げ用のカタパルトで君たちの機体を乗せて中間圏まで上げ、そこからはACのアサルトブーストでザイレムに向かうことになるだろう。

 ……そんなに不安そうな顔をしなくとも、RaDの物資輸送用のカタパルトよりは、ずっと衝撃が軽減される仕様だ。安心してくれ、617】

 

【また、このミッションにおいては、俺はオペレーターを行うことができない。

 とは言っても、そろそろ俺抜きのミッションも慣れたものだろう。オペレーターもエアに担当してもらえば、何の不足もないと確信してるよ】

 

 

 

【……さて、最後に。

 分かっていると思うが、今回のミッションはこれまでと違い、単純に相手を倒すだけでは意味がない】

 

【君たちの想いをぶつけ、君たちなりに納得のできる結末を掴み取って来るんだ】

 

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 

【……さて、ハウンズもエアも行ったか】

 

【いよいよと言うべきか、もうこの時が来たと言うべきか……。

 後は彼女たち次第。……まあ、617と621、エアなら、問題はないだろう】

 

『────ナイン。

 計画の最終段階への移行は、もはや目の前です。

 現在のタスクに集中してください』

 

【うっさいなポンコツ。言われなくてもわかってるっての。

 お前との約束は守るし、俺は俺の為すべきことを為す。

 どちらにしろ……俺の望みを叶えるには、この道しかないしな】

 

 

 

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