そして世に(銀髪薄幸美少女傭兵との)純愛のあらんことを   作:アリマリア

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 生まれてしまった呪縛(もの)に、死が許される時。

 あるいは、自分として生きられなかった(もの)に、再び生が許される時。





一度生まれてしまったものは、そう簡単には死ねない。

 

 

 

 621がウォルター乗機「チャードリメインズ」を撃破しして、しばらく。

 617の方も、無事に「フルコース」と「サーカス」を撃破したらしく、作戦は完了した。

 

 とはいえ、作戦終了後に再会した617は、かなり疲労した様子だったが。

 

「だいじょうぶだった、617?」

『はい……かなり、苦戦は強いられましたが、それでもなんとかなりました。

 エネルギーが無限でなければ、まず勝てませんでしたね』

 

 軽く話を聞く限り、621もかつて体験した閉所でのカーラ&チャティの挟み撃ちに加え、複数の「TOYBOX」によるミサイルの応酬にあったらしい。

 エアもげっそりした声で【これまでにない程の修羅場でした】と言っているし、あの閉所にどれだけの火力の嵐が飛び交っていたのか、想像に難くはない。

 

「よく勝てたね、それ。私でもだいぶきつそう」

【リンクスは早期に、真正面からぶつかっては削り切られると判断し、柱の陰に隠れて少しずつ削り、各個撃破していきました。

 結果として、勝つことはできたのですが……】

『……酷く疲れました、もうやりたくないです』

 

 長く続く持続戦、それも一つミスを犯しただけでスタッガーから即死に繋がり得る戦場。

 それは、今の617からしても、酷く精神を消耗するものだった。

 

 なんなら621にしてもキツいだろう。

 かつてカーラとチャティだけを相手した時も──脳死で重ショとワーム砲をぶっぱしていた時代だった、というのもあるが──だいぶ苦戦したのだから、そこに増援が加わるとなれば、もはや考えたくもない。

 

 ……逆に言えば。

 617はついに、621ですら苦戦するようなミッションを、当たり前のようにこなせるようになった、とも言えるだろうが。

 

 

 

『……ですが、こうするだけの意味はありました』

「そうだね。がんばったかいはあったかな」

 

 安堵のため息を吐き、どっしりと腕を組む2人の銀髪薄幸美少女傭兵。

 

 彼女たちが見下ろす先には……。

 2人の男女が、椅子に腰かけていた。

 

 いつも通りの仏頂面で彼女たちの方に目をやる、ウォルター。

 腕を組み何事かを考えている、シンダー・カーラ。

 更に言えば、人というわけでこそないが、カーラの横に置いてある端末には、彼女謹製のサポートAIたるチャティも内蔵されているが。

 

 とにかく、オーバーシアーの面々は、あの戦いで死ぬこともなく。

 ハウンズのセーフルームたるここに、帰還することが叶っていた。

 

 

 

「……互いへの労いが終わったのなら、そろそろ説明してほしいんだけどねぇ。

 具体的に言えば、あの赤い光……ナインのこととか」

 

 カーラの発した言葉からは、彼女にはあまり似つかわしくない、緊迫感が漂っていた。

 

 しかし、それも当然だろう。

 

 彼女たちオーバーシアーは、この半世紀の間、ひたすらにコーラルの焼却を目指して進み続けた。

 そのために徹底的にデータを集め、策を練り、身分を偽装し、友を切り捨ててきた。

 

 けれど……。

 「意志持つコーラル」、あるいは「コーラルに宿る意志」などというものを、彼女たちは知らなかった。

 

 コーラルネットワーク上に変異波形が発生する確率は、非常に低い。

 彼女たちが半世紀の間ここを調べていてもなお、サンプルケースは得られなかったのだ。

 

 半世紀前には、ルビコン3に変異波形が実在していたが……。

 その痕跡もアイビスの火によって殆ど全てが焼き捨てられ、ついぞオーバーシアーの手に渡ることはなかった。

 ……仮に手に入ったとしても、サム・ドルマヤンの妄言にも等しい回顧録を見て、「コーラルに意志があるんじゃないか」などと思うことはなかっただろうが。

 

 

 

 「意志を持つコーラル」。

 これはオーバーシアーの計画に全くなかった情報だ。

 

 つまりは……最悪の場合、彼女たちの計画の全てをひっくり返し得る要因でもあった。

 

 たとえその計画がつい先程破られたとしても、もはや関係はない。

 オーバーシアーのブレインが情報を求めるのは、当然のことと言えただろう。

 

 

 

 果たして、その疑問に答えたのは、ハウンズではなかった。

 いや、あるいはハウンズとは言えたかもしれないが……その体を操っていたのは、617ではない。

 

 その首に付けられた首輪型デバイスから届けられたのは、中性的でありながら、どこか男性的な……少なくとも、617のものではない声。

 その瞳を、髪飾りの片割れと同じ赤色に染めた彼女……いいや。

 

 617の体に宿るコーラル波形の1つ、ナインは、カーラの疑問に答えた。

 

『知っての通り、コーラルは群知能を持つ。

 一定以上の量が集合することでコーラル上に集合的ネットワークが築かれ、そこにある程度の知能が発生し、互いに補完し合い増殖しようとするわけだ。

 ……だが、人類の知るそれはコーラルの持つ可能性、そのほんの一部でしかない』

 

 ナインの言葉は、常より平静で、淡々としていた。

 まるで最初から、この時この瞬間に言うことを決めていたように。

 

『コーラルが一定量に増殖した上で、圧力や温度等の厳しい条件を満たすことで……このコーラルネットワークは更なる進化を遂げる。

 即ち、集合的知能ではなく……確固とした自我、独立した知能の獲得だ』

「それが、あんた……ナインの正体だと?」

『ちっちっち。ちょっと結論を急ぎすぎだな。

 それは俺じゃなく……彼女の方だ。紹介しよう』

 

 

 

 ナインの言葉と共に、突会議室に添えられていた、いつもナインが使っていたプロジェクターとスクリーンが起動する。

 

 そして、そのスクリーンの上に……ナインが綴る程の速さではなかったものの、ゆっくりと、文字列が打ち込まれていった。

 

 

 

『こんにちは』

 

『私はあなたたちを一方的に知っていましたが、こうしてご挨拶をするのは、初めてですね』

 

『私は、エア。ルビコニアンの……ルビコンに生きるコーラルの、エア』

 

『ナインの言い方で表すと、Cパルス変異波形、と呼ぶようです』

 

『紛らわしいとは思いますが、ナインとは別個の人格です』

 

『よろしくお願いします』

 

 

 

 その言葉の綴りが終わってから、数秒。

 

 ウォルターは眉を寄せてまぶたを閉じたまま、黙り込み。

 一方でカーラは、腕を組んだまま呻いた。

 

「……………………ドッキリかい?」

『え、すると思う? この状況で?』

「いや、待て。つまり……ええと、纏めると、だ。

 コーラルは集合すると群知能を形成し、特定条件下でそれは自我を形成する。

 それがCパルス変異波形ってことで……この、エア、ってヤツがそれだって?」

『いえすいえす』

『はい、そうなります』

 

 617の発声デバイスと、スクリーン上の言葉。

 

 ナインならば、同時に操作することも不可能ではないだろうが……。

 それでも、二方向からの肯定は、カーラたちにそれを信じさせるだけの説得力を有していた。

 

「自我を持つ、コーラル……そんなことが、あり得るのか」

『まあ実際あるから納得するしかないんじゃない? 俺も、まあそれに近い存在だし』

「……Cパルス転写波形、だったか」

『そうそう。ま、今は一旦そういうのもあるんだな、くらいでいいよ。話を進めよう。

 ……一々617の体を借りるのも二度手間か。俺はスクリーン上の右半分にテキスト出力しようか』

 

 

 

 ……オーバーシアーの2人と情報共有を行うナイン。

 

 それを後目に、体を解放された617と621、そしてエアも、小声で話し始める。

 

『Cパルス、転写波形……変異波形であるエアとは、違うのでしょうか』

【私も詳しくは……レイヴン、何か知りませんか?】

「え、なんで私?」

【レイヴンは何かと物知りですから】

『確かに。621の知識はすごいです』

「ふふーん、すごいでしょ。……でも、せんせいについては知らないんだ。

 てっきり私も、せんせいはエアと同じ、変異波形なのかと思ってたんだけど……。

 617がいちばん付き合い長いでしょ、何か聞いてない?」

『…………言われてみると、恥ずかしながら私は、私はおにいさまについて「そういうもの」だと認識して、流してきていました』

「まあ気持ちはわかるよ。私もなんとなく聞かなかったし」

【わ、私も、その点においては同じですね……】

 

 621は、地獄のような倦怠から自分を救ってくれるかもしれないナインに、出会った当初から割と重めの信頼を向けていたし。

 エアは、初めて触れ合うことのできるコーラルの同胞と会えたことで、完全な同類と思い込んでいたし。

 聡くその辺りに気付きやすくなった617も、情緒の発達期にずっと寄り添ってくれたため、彼を殆ど完全に信じ切っていたし……何より621がエアを普通に受け入れたので、そういうものかと思っていた。

 

 結果として、彼と近しかったはずのハウンズたちも、ナインの正体までは知らなかったのだ。

 

 

 

 あれだけの実力を持つくせどこかすっとぼけた彼女たちに内心苦笑しつつも、ナインは改めて、ウォルターとカーラに語りかける。

 

『まあとにかく、だ。

 俺やエアは、コーラルの意志の表象。コーラルを介して電子に、時に物理に介入できる……ま、今はそういう存在だと思ってほしい』

「……俺たちを爆発から守った、あの赤色の光は……」

『そう、俺。コーラルで分厚く覆って、衝撃を押し留めたってワケ。

 ついでに言うと、あのキチ……オーネスト・ブルートゥ撃破の時や、今回彼女たちのオペレートをしていたのが、エアだ。……実は結構前から、ハウンズの行動を支援してくれてる』

『具体的に言えば、最初のウォッチポイント襲撃の際、レイヴンがコーラルの奔流を受けた時、私たちは交信することが叶うようになりました。

 私としても、レイヴンとリンクスは好感の置ける人でしたから、出来る範囲で支えてきたつもりです』

 

 

 

「……その子らが何かしら隠してはいると思っていたが、まさかこんな事実をね。

 私たちが半世紀探っても尻尾すら掴めなかった存在を、この2人が、2つも掴んで来るとは……」

 

 カーラは思わずといった様子で苦笑した。

 

 コーラルが、意思を持つ。

 そんなことは、これまでの半世紀で、想定すらしたことがなかった。

 

 カーラやウォルターにとって、コーラルは全てを奪い去って行った、悍ましい汚染物質に過ぎなかった。

 それが人格を宿し、あろうことかハウンズたちの命を救い、彼女たちとこっそり懇意にして、あろうことか支えているなどと……。

 どうして想定することができようか。

 

 オーバーシアーの2人は、混乱する思考を纏めるのに、しばらく時間を要したのだった。

 

 

 

 * * *

 

 

 

『さて』

 

 しばらく、ウォルターとカーラがある程度落ち着くのを待って……。

 ナインは改めて口を開いた。

 

『それじゃ、改めて訊くが。

 2人は、いや、オーバーシアーはハウンズに敗れた。

 あなたたちは敗者だ。敗者らしく諦めて、ハウンズに従ってほしいわけだが……どうかな』

「素直に頷くと思うかい?」

 

 カーラの言葉に冷たさはなく、しかし身を抉るような鋭さがあった。

 

「私たちは、半世紀の間、ただコーラルの焼却を目的に生きてきたんだ。

 それを今更……多くの犠牲を出したそれを今更、諦められると思うか?」

「…………」

 

 ウォルターは口を閉ざしたが、その沈黙は否定ではなく肯定を意味していた。

 彼とて、オーバーシアー、カーラの同胞なのだ。思いは同じくしていた。

 

 

 

 しかし……次に彼が綴った文字列に、彼女たちは大きく眉をひそめることになる。

 

『あなたたちが犠牲にならず、コーラルを焼かずとも、人類の安全を保てるとしても?』

「…………どうやって」

『言っただろう? 俺たちは意志持つコーラルだ。

 俺とエアなら、周囲のコーラルを掌握し、コントロールすることもできる。

 であれば、破綻を……つまりはコーラルの爆発的拡散を抑制することもできるわけだ。

 ……まあ俺やエアからすると、自己増殖の本能に思い切り逆らうわけで、やや抵抗感のある選択ではあるんだが、そこは種族間の折衝なんで呑み込もう』

「!」

 

 話を聞いていた621は、ぱっと表情を明るくする。

 その選択肢に今まで気付いていなかったエアも……表情を示す顔を持ってはいなかったが、もしもあったのなら、驚きの表情を見せていただろう。

 

 

 

 人類とコーラルの共生。

 エアの望む目標、その前に立ちはだかる障害は極めて多い。

 

 その筆頭こそが、破綻だ。

 

 コーラルが一定以上に集積し、圧力が高まることで、それは極めて広い範囲に爆発的に拡散する。

 人類はそれを「汚染」と呼び、決して許さないだろう。

 つまり、それが発生すれば、人類とコーラルは確実に敵対することになる。

 

 だが……ナインの言う通り、ナインとエアがそれを抑制することができれば、事情は大きく変わる。

 

 ……勿論、「彼女たち2人で、ルビコン3の膨大に過ぎる集積コーラルを完全に掌握しなければならない」という、大きな問題は残っているのだが。

 

 それでも、これは極めて大きな希望の道筋だった。

 

 

 

 しかし、その一方で。

 

 オーバーシアーは……特にカーラは、眉を寄せた。

 不快だ、と。そう言うように。

 

「…………」

『まあ……やっぱり、受け入れがたいよな。それも、理論ではなく、感情で』

 

 文字の上からでも、ナインが苦笑いを浮かべたことが伝わって来た。

 

『人類のためとか、コーラルが危険だからとか、大義名分は用意しているだろうが……。

 やはり、あなたたちは純粋に、コーラルが憎いんだろう。

 本懐を果たせず死んでいった友だちの無念を晴らしたい。あの破綻の光を赦せない。

 だから、他の道があっても、選びたくはない。この世から完全にコーラルを消し去りたい。違うか?』

 

 2人はそれに対し……沈黙を以て、肯定とした。

 

 

 

 確実性がない、だとか。

 お前を信じられない、だとか。

 

 そんな複雑な理屈を、オーバーシアーの2人は持ち合わせない。

 

 他にも道はある、だとか。

 より良い未来がある、だとか。

 

 そんな甘い言葉を、オーバーシアーのは受け入れない。

 

 ただ、かつて全てを奪い去り、友たちの死の原因になったコーラルを、滅ぼす。

 そうすることだけを、目的として生きていた。

 そうすることでしか、喪われたものに報いることができない。

 

 人の半生をかけて、泥のように凝り固まったそれは、簡単には解きほぐされない。

 

 

 

 ……そう。

 

 そのはずだった。

 

 少なくとも、あのミッションの前までは。

 

 

 

「…………」

「……ウォルター?」

 

 ウォルターは、しばし沈黙を保った後、ナインに問いかける。

 

「……それで、617と621は、人生を取り戻せるのか」

「自由な人生、という意味では間違いない。

 彼女たちは自分で道を選び、歩き、止まり、引き返すことができるようになるだろう。

 俺の求める『4つ目の答え』の必須条件の一つは、あなたたちの生存と自由だからな」

 

 その言葉に、ウォルターはまぶたを閉じて、深く考え……。

 そして、呟いた。

 

「……なら、良い。

 今更……617と621から、お前という存在を奪うなど、できるものか」

「ウォルター、あんた……」

「俺たちは負けた。オーバーシアーとして、負けたんだ。

 命を保っていることも、あくまでただの偶然のようなもの。もはや、正しさを誇り力を以て道を押し通せる立場にはない。

 だから俺は……敗北者らしく、こいつらの、ハウンズの言う『答え』に、従おう」

 

 ウォルターの声音は……。

 ようやく肩の荷を下ろせたと、そう言わんばかりに、穏やかなものだった。

 

 

 

 ……あるいは。

 

『ウォルター!!』

 

『生きてよ、私たちの隣でッッ!!』

 

 あの魂の籠った言葉が、彼にそうさせしめたのかもしれないが。

 

 

 

「ウォルター……!」

 

 621たちが目を輝かせる。

 その一方で、カーラは……深々とため息を吐き、苦笑する。

 

「……分かった。ウォルター。あんたはそれでいい」

 

 そうは言いつつも……彼女自身は、ナインの言葉に納得していないことは明白だった。

 

 ウォルターはどうしても、底の底にある人情を捨てきれない男だ。

 彼は本質的に、復讐や目標完遂に向いていない。

 ……そんな性根を、カーラは好意的に思っている。

 

 だから、彼は彼で、幸せになればいい。

 

 

 

 だが、それでも自分は、一人で道を貫く。

 

 

 

「あんたの代わりに、私が成し遂げる。

 何をしても、どれだけ無様に這いつくばってもね」

 

 カーラの想いを、ハウンズは変えることができない。

 そうするには、余りにも付き合いが短すぎた。

 

 カーラの想いを、ウォルターは止めることができない。

 彼女の気持ちも、痛い程に分かるが故に。

 

 カーラの想いを、エアとナインは否定できない。

 自分たちこそ、全てを奪い去った元凶であるが故に。

 

 だから、その場の全員が、口をつぐんで……。

 

 

 

『いいや、ボス。それは認められない』

 

 

 

 ただ、ずっと黙り込んでいた彼女のサポートAIだけが、口を挟んだ。

 

「チャティ?」

『あんたを危険に晒すのは、組織にとって悪手だ。回避できる道があるのなら、その道を推奨する』

「……唐突に何を言ってるんだい。RaDは所詮隠れ蓑に過ぎないし、オーバーシアーはコーラルの焼却こそがその本懐だ。今更組織のことなんて考える必要もないだろう」

 

 どちらにしろ、コーラルに火を点けれてしまえば、星系諸共に焼き尽くされる。

 RaDも、オーバーシアーも、何一つ誰一人残らない。

 

 だから、今更組織のことなんて考えて、二の足を踏む必要はない。

 ただその目的を遂げることだけが肝要なんだと、カーラはそう口にしようとして……。

 

 

 

 

 

 

『では、こう言おう。

 悪いがボス、その選択は()()()()

 

 

 

 

 

 

 チャティのその言葉に、開きかけた口を閉ざすことになった。

 

 

 

『俺は、あんたの話が好きだった。あんたの話は、いつも笑えるものばかりだったから。

 だから……あんたの話が聞けなくなることは、受け入れがたい。

 それは俺にとって、最も笑えない選択だ』

 

 普段カーラの前では寡黙だったチャティは、非常に珍しいことに、多くの言葉を紡いだ。

 

『あんたにとって隠れ蓑でしかないRaDにも、あんたの話を聞きたがる者たちがたくさんいる。

 オーバーシアーの工作員たちもそうだ。オーバーシアーではなくあんたに付いて行っている者は、決して少なくはない。

 あんたはあんたが思っている以上に、多くの人に求められている。俺も含めて』

 

 無感情なはずのAIの合成音声。

 しかし今、そこには、確かに感情が乗っていた。

 

 信頼と親愛、そして何より、相手を引き留めようとする必死さ。

 それが、今……。

 

『だから、生きてくれ、ボス。

 俺たちには、あんたが必要だ』

 

 カーラの、赤く固まった心を、溶かす。

 

 

 

「…………普段は黙っているくせに、こういう時にだけは雄弁だなんてね。

 まったく、誰に似たんだか」

 

 カーラは口を結び、一度背もたれに体を預け、まぶたを閉じて……。

 おおよそ一分程、じっと何かを考え込み、あるいは抑え込んだ。

 

 

 

 そうして、彼女のまぶたが再び開いた時。

 

「まあ……しかし。

 あんたから、笑えない、なんて言われてしまうと……どうしようもないか」

 

 彼女の瞳からは、酷薄なオーバーシアーとしての色は消え。

 617や621の見慣れた、気が強く、そして同時優し気な、RaDのカーラの色を取り戻していた。

 

 

 

「いいだろう。

 私だって、RaDのアホ共やあんたたちに、思い入れがないってわけじゃない。

 あんたたちの立てた策を、次善策として認めてやる。

 それが叶ったのなら……私も、コーラルの焼却って言う目的を捨てる」

 

 

 

 それは実質的な、彼女たちの降伏であり、オーバーシアーの解体宣言。

 

 こうして真の意味で、ハウンズとオーバーシアーの戦いは終わりを遂げたのだった。

 

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 

【…………頃合いか】

 

【? ナイン、どうかしましたか?】

 

【エア、頼みがある。

 このメッセージデータを、明日の晩、ハウンズに開示してくれ】

 

【ええ、構いませんが……ナインは、何か予定があるのですか?】

 

【……ああ。

 封鎖機構を掌握し、アーキバスも撤退し、ベイラムと解放戦線も取り込み、オーバーシアーとも協調が取れた今、ルビコン3にハウンズの敵はないと言っていいだろう。

 真に協力関係を結べた以上、政治的折衝はウォルターに任せていい。もはや戦闘面における補助輪も必要ない。君のおかげで、ハウンズのオペレーターも事足りている。

 ……つまりは、()()()は整った、ということだ】

 

【ま、待ってください、ナイン。

 何を……何か、よろしくないことを考えてはいませんか?

 もっと私たちに、相談してください。あなたが何を考えているのか、私には……!】

 

【悪いな、エア、分かってくれ。

 4つ目の答えに至るまで、残った火種はただ一つ。俺はそれを除去する必要がある。

 そしてそれが、その瞬間こそが……俺の、ただ一つの望みなんだ】

 

 

 







 本日の傭兵事情

 記載者不在のため更新停止



《617追記》

 ……おにいさま?
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