TOV 黎明の残月 宵闇の盈月   作:桐錠

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 pixivでアップしているテイルズオブヴェスペリアの二次創作小説の2作品の統合版となっております。
 ゲーム開始の25年前から始まる、「記憶持ちの時間逆行」と「ゲーム知識持ちの転生者」を含む、4人(オリ主、デューク、レイヴン、ユーリ)視点で繰り広げられるifストーリーです。
 ゲーム本編、小説(主に奥田氏版)、劇場版の内容も含んでありますので、ネタバレ等ご注意ください。また本編等で本名やファミリーネーム、家族構成が明らかになっていないキャラクターの設定などを保管する形で、オリジナル設定多々含まれております。
 ヴェスペリアの世界のパラレルワールド的な扱いにして頂けると幸いです。



ダミュロン・アトマイス(伯爵家次男は攻略対象?)

 

「う……くっ……はぁはあー」

 

 夢を見た。

 頻繁に見るこの夢を見て起きた後はいつも、己が左胸を触り、服を捲って己が目で確かめていた。

 失った自前のモノの代わりに、左胸に埋め込まれた魔導器。それの存在はなく、生身の肌の胸である事に、ダミュロン・アトマイスは安堵の息を吐き出した。

 

 夢の中で自分は、大人に成長していた。

 父親の言う「本物の貴族」に幻滅して、放蕩三昧の末に騎士団に入れられて、そこでの出会いで「本当の騎士」を目指して…

 仲間も故郷も自身の命すら喪い、血塗れで嘘塗れ…

 そんな自身を拾い上げてくれたのは、任務のために裏切った者たち…輝星のような者達であった。

 その恩に報いるために、無為に過ごした時間と選択すらしなかった己に後悔し続けるも、生き残った者の責務と贖罪の為に生きる。

 そんな人生を送った夢であった。

 

 帝国の建国前から存在するこの地方都市ファリハイドには、古くからの貴族の家系が多数所在している。

 アトマイス家はその筆頭であり、ダミュロンは幼少期から父や周囲の者から「高貴たる血筋に見合った言動をしろ」と言われ続けた。受ける教育、鍛錬、不思議と覚えのあることばかりで、難なくこなしていく。しかし跡取りの兄を超えないように、バランスよく立ち振る舞う。家を継ぐと言う重積を担う気は無く、貴族に次男坊としての恩恵を受けて気楽に生きる。それに心掛けた結果、ダミュロンは要領がよく、機転が利くが、恵まれた才能とは反比例に向上心は皆無であった。

 恵まれた環境であることは承知の上だったが、ダミュロンは時折どうしようもなく虚しく感じることがあった。

 

 貴族らしく振る舞え。

 

 父スパルドの口癖であるが、ダミュロンはその「貴族らしく」と言う意味に対して、己が認識と父を含む周囲に認識に著しい差異があるように思えていた。

 学んだ教養においては「貴族は民の生活を守るもの」とされており、礼節では「他者に対して礼を尽くすこと」が基本とされている。しかし一般的に「貴族らしい」と位置づけされている父スパルドの平民に対する態度は、学んだ教養と礼節から掛け離れてた姿としてダミュロンの目に映っていた。疑問に思ったダミュロンは、父や一般的な大人に貴族を観察して、ある結論に至った。

 

 自身より上に媚びへつらい、自身より下に尊大な態度を取る。

 

 教養と礼節から導き出される品行方正と掛け離れたものが、「貴族らしい」言動と言うことらしい。品性下劣で、品格を備える。相反する両者を両立する方法を悩む一方で、ダミュロンは「貴族らしく」なること自体が馬鹿らしいとすら思うようになりつつあった。

 この日も、屋敷で働いている使用人への接し方に対して「気安い態度を取るな」と叱られ、いつものように屋敷を抜け出して街の外壁にある物見の塔に登っていた。

 墨色の髪を風が撫で、その心地よさにダミュロンは翠の瞳を細める。結界で守られた街の外は、魔物が彷徨く危険な場所。積極的に街の外へ出ようとは思わないが、ここから眺める風景はそれなりに気に入っていた。

 

 ダミュロンの視界に人影が入る。

「ん?」 

 よく見かける巡回する騎士の小隊か、平民の狩り集団かと思いきや、その中で豪奢な服を纏った少年が居た。

「サユジット?」

 ダミュロンと同世代で、名家サユジット家の三男。

 以前に街に入ろうとした商隊へ、護衛を使って魔物寄せを投げつける騒動を引き起こした者。仲介に入った父スパルドは、名門貴族のサユジットを庇い、平民の被害者に横柄な態度を取った。

 嫌な事を思い出して顔を顰めつつ塔を降りる。一階にある街の外に通じる扉は、巡回の騎士が居るはずなのだが、サユジットが袖の下を渡したのか姿は無かった。腰に下げた護身用のショートソードを一瞥し、ダミュロンは初めて一人で扉から街の外へと出た。

 

 前科があることから、サユジットが護衛を複数連れて街の外にいる時点で、嫌な予感がひしひしとした。サユジットらが指差す先へと視線を向けると、フードを被った小柄な者の姿があった。そしてさらに離れた先、点在して見える影はおそらく魔物だろうとダミュロンは考えた。

 直後サユジットの隣に居た護衛が、魔物寄せ…ダークボトルをフードの人物に投げつけた。

「っ‼︎」

 ダミュロンが注意を呼びかけるべく声を掛けようとしたその時、フードの人物は器用にマントの裾を翻して、ダークボトルの瓶を割ることなく弾き飛ばした。

 カシャン

 弾き飛ばされた瓶はサユジットの額に当たり、彼は割れた中身を全身に浴びてしまった。

 暫しの静寂の後、サユジットの護衛は蜘蛛の子を散らすが如くその場から散り散りに離れ、一目散に街中へと逃げていった。

「お、おい‼︎ 俺様を置いて行くなっ‼︎」

 大声をきっかけに、遥か彼方に居たはずの魔物…トレントの姿がみるみる大きくなる。ピンクの花を背負う太い四つ足で突進してくる様を見て腰を抜かしたのか、サユジットは這いつくばるように背を向けて逃げようとする。

「チッ!」

 鞘から刃を抜き払い、迫るトレントからサユジットを庇うように、ダミュロンはショートソードを構えた。

 その時、トレントの足元にナイフが投げ込まれる。直後にナイフを中心に地面が隆起し、トレントは昨日の雨でできた泥濘のある場所へと盛大にひっくり返った。

「え⁇」

 ダミュロンが声を上げる間に、仰向けとなったトレントの腹部に別のナイフが刺さり、そこから火柱が走る。全身に回ろうとする火を消さんと泥の中へと身を沈めるトレントの周囲に、冷気を伴ったエアルが集結した。

「アイシクル!」

 凛とした声と共に術式が放たれ、氷魔法は周囲の泥ごとトレントを凍結させた。

「走って!」

 動けなくなった魔物を確認する間も無く、ダミュロンはサユジット諸共、声の主…先ほどのフードの人物に押しやられる。

 質問するまもなく突然足元が浮く。

「え⁈」

 足元の地面がない事に気づいた時には、3人は下へと落下していた。受け身を取るダミュロンの隣にサユジットが顔面から落ち、続いてフードの人物が軽やかに着地した。

「おい…これは一体」

 ダミュロンの問いに答えず、フードの人物は徐に隣を指差す。そこはトンネルとなっていて…

「うわあああああっ‼︎」

 半ば錯乱状態でサユジットは、トンネルの先へと駆けて行ってしまった。

「おい!」

「大丈夫です。街の出入り口近く繋がっていますから、先に進んでください。私は魔物が続かないように穴を塞ぎながら後を続きますので」

 そこで言葉を切り、懐からナイフを取り出して数えて大きなため息を吐く。

「魔法付与に耐えられるナイフ、2本損失…欲しかったメディカルハーブの回収も無理……完全に赤字だわ……」

「………『わ』?」

 語尾が気になり、ダミュロンはフード奥の顔を覗き込み驚く。

「え……女の子?」

「はい」

 それが何かと言わんばかりに、自身と同じくらいの年齢の少女が、首を傾げて答えた。その拍子に、フードで隠していた銀の髪が緋色の瞳の前に流れて出てきた。

 

 §

 

 貴族教育交流会。

 今年はアトマイス家で実施されるとかで、いつものように別棟へ移るように命令されるとダミュロンは考えていた。しかし父スパルドはダミュロンに対して、とある一つの命令と共に参加を強要した

 そして慌ただしく日々は過ぎ、貴族教育交流会の初日を迎える。その開催宣言が行われた夜会で、ダミュロンにとって忘れ難い色が目に入った。

 

 緋色の瞳、銀糸の髪。

 

 珍しい瞳と髪の色の組み合わせで、自然と人目を引いているが、何よりダミュロンにとって衝撃的とも言える数日前に出会った人物がそこに居た。

 

 ソフィア・ディノイア。

 

 少し前に出た「廉価版通信魔導器(コールブラスティア)」に関連する人物。それが父スパルドが交流を深めるように命令した相手でもあった。

 





 ダミュロンは小説「虚空の仮面」の設定を反映しています。
 この頃はまだ貴族家次男の放蕩息子になるちょっと前の時代です。なぜそのようになったのか、色々と妄想を膨らませて書いた次第です。
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