TOV 黎明の残月 宵闇の盈月   作:桐錠

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 pixivでアップしているテイルズオブヴェスペリアの二次創作小説の2作品の統合版となっております。
 ゲーム開始の25年前から始まる、「記憶持ちの時間逆行」と「ゲーム知識持ちの転生者」を含む、4人(オリ主、デューク、レイヴン、ユーリ)視点で繰り広げられるifストーリーです。
 ゲーム本編、小説(主に奥田氏版)、劇場版の内容も含んでありますので、ネタバレ等ご注意ください。また本編等で本名やファミリーネーム、家族構成が明らかになっていないキャラクターの設定などを保管する形で、オリジナル設定多々含まれております。
 ヴェスペリアの世界のパラレルワールド的な扱いにして頂けると幸いです。



初めての友人(この世界は乙女ゲーではない)

 

 父親からの命令と言うより、自身の興味故にダミュロンはソフィアと交流を深めることにした。

 街の外で魔物を嗾けられたことをソフィアが忘却していたことには驚き呆れていたが、その時に取り付けた「魔物との戦い方を教えてもらう」という約束を思い出してくれた事に、ダミュロンは内心安堵した。

 彼女の提案で貴族教育交流会の鍛錬に参加するようになった時、初回の鍛錬で参加している自身を見た訓練担当のアトマイス家の護衛は、「真面目に訓練をするとは…天変地異の前触れか」と宣っていたので、ダミュロンは隙を見て強目に脛に一撃叩き込んだ。

 そしてダミュロンは手合わせを通じて、ソフィアの戦い方についてある程度理解できた。ソフィアの戦い方は、効率性と確実性に特化していて、それが失敗した場合では離脱および逃走へと切り替えることを徹底していた。まるで…

「それってアサシンの戦い方じゃないか?」

 そう尋ねたダミュロンに対して、ソフィアは家の護衛に教えてもらったと回答したが、後々に詳細を聞いたところ、自身の侍女兼護衛の女性が師であったとのこと。曰く、一時期ディノイア家の財政が苦しかった時、人員整理で半数に減らして、残りの半数に複数の役目を頼む見返りに給与を5割増にしたという話であった。

 そこから考えるとソフィアの侍女は、潜入して仕事をする暗殺ギルドの出身者じゃないかと思ったわけだが、その考えを伝えたところでソフィアの反応は鈍い…と言うより全く気にする素振りすら見られなかった。

 

 相手の素性が何であっても礼を尽くした態度を取る。

 この辺りの年齢の貴族令嬢が好む夜会は興味がない。

 家の書庫への入室許可を喜び寝食忘れる勢いで籠る。

 頻繁に行く狩りでは、魔物を素材としか見ていない。

 

 そんな貴族令嬢自体が稀有ではあるが……ソフィアと過ごす時間はダミュロンにとって、何故だか本当の意味で初めての出来事のように思えた。

 

 共に鍛錬をして、やがて近場で共に狩りをするようになり、一年近く経つころには共にお茶の時間を過ごして雑談をするほど、打ち解ける仲となった。

 出会ったことがない部類の人間であるソフィアを、ダミュロンは興味深そうに眺める。彼女が帝都の貴族だからかと考えを巡らせ、過去のある出来事から即座にその考えを否定した。

「帝都の貴族は、不愉快なヤツしか知らなかったが、アンタみたいな面白い人もいるんだな」

「その言い方では、過去に帝都の貴族に会った事があるのですか?」

「まあね…」

 そう言うダミュロンの脳裏に浮かぶのは、ソフィアがファリハイドに来るより前の出来事。

 帝都の貴族が、街中の別荘内で魔物同士と丸腰の人を戦わせようとした事があった。発覚して騒動になったが、その貴族は別荘を手放してそれっきり。スパルドは事件が無かったように振る舞い、相手貴族に追求することすら無かった。

「状況からその帝都の貴族は、刑部卿より上の立場か…となると、表立って構えることはできませんね」

 ダミュロンから概要を聞いたソフィアは徐にそう言った。

「要するに、上のヤツに媚びへつらったってこったな」

「アトマイス卿は、実質このファリハイドの領主みたいなものですよね。個々の善悪よりも、治める地域への利害を優先させなければいけない立場ですから」

「……あのクズ貴族の不快を買って、ファリハイドへ被害が及ぶのを避けたかった。そういう訳か……だか、この街の貴族が平民に対して何かしても、親父殿は貴族の肩を持つぞ」

「面子と体裁があっての貴族ですからね。相手に軽んじられたら、足を掬われる危険性がある。このファリハイドがきちんと運営されているのでしたら、多少は大目に見てもいいんじゃないですかね」

「貴族だから当然の権利と言うわけか?」

「貴族としての義務を果たしているからですよ。ファリハイドの街を探索しましたが、帝都と違って下町のインフラ管理も行き届いていて貧困街は存在しない。義務を果たさずに権利を振り翳す者が多い中、アトマイス卿は真面目な部類と思いますけどね。貴方と似ていて」

 思わぬ事をソフィアから言われ紅茶が気管に入り、ダミュロンは咳き込んだ。

「ただ父君と違って貴方は、個々の善悪の方を重んじる人のようですね」

 その言葉を聞いて、ダミュロンの中で燻っていた疑問が一気に解ける。

 貴族としての義務を果たすためには、自身の持つ「個々の善悪」から見て品性に欠ける行為であっても、呑み込まなければならない時もある。

 一般的な「貴族らしさ」とは異なるかもしれないが、ソフィアの言う言葉は妙に腑に落ちる内容であった。しかし……

「どうも俺は…素のままで求められている生き方をするには、ちょいっと無理が必要だな」

「己が心を押し殺したり変えるのではなく、己が心のままで義務をこなす方法を探す方が、ダミュロン様に向いているのでは?」

「己が…心のままで?」

「貴方は状況を分析して何をすべきかを理解できる能力が高いみたいですから、自身を変える方向では無くて、自身に合った方法を探す方向へ、器用さを発揮する方が向いていると思いますよ」

 

 自身の周囲にいる屋敷の使用人、熱視線を見せつつあるファリハイドの貴族令嬢たち。その者達は「父君のような立派な貴族になる」ことを、当然の未来の如く押し付けて来た。それは己が心のままでは、自身に課せられた責務は果たせないと言わんばかりの言葉であった。

 そして夢で垣間見た世界で擦り込まれた意思。輝星のような声は「最後までしゃんと生きろ」と方向性を指し示した。どうすればいいか分からず途方に暮れる中で、自分の意思で好きに決めるよう諭す言葉は、それができる自身へと変えられない己を、無意識の内に責め立てるように感じる事もあった。

 

 己が心のままでいい。

 それでやれる方法を模索すればいい。

 

「そう言う考えは……初めて聞いたわ…」

「え?」

「アンタは頭のネジが吹っ飛んでると思っていたが、どうも違うらしいな」

「はい?」

 いきなり自身の話をされ、ソフィアは気の抜けた返事を返す。

「普通の人と考えから自体が違うと言うか…規格外? 初期装備で既にネジ自体が存在しないんだろうな」

「……貶されている気がするのは、気のせいですか?」

 そう言いつつもダミュロンが自身に対して悪い印象を抱いている訳ではないと理解したらしく、少し表情を緩めてソフィアは一度口を閉ざし、何かを切り出す時のように瞳に伶俐な光を灯しつつ口を開いた。

「兄アレクセイから連絡がありました。近々、私は帝都に戻ります」

「そう切り出すってことは、俺も同行して欲しいってことか?」

「以前から兄様への手紙には貴方の事も書いていたのですが、帝都での祝賀会は強制参加で、言い寄ってくる貴族が居るから丁度いいだろうって」

「丁度いいって、何が?」

「いわゆる虫除け」

「……もう少し気を使った表現はないのかよ」

「偽装恋人」

「余計酷くなったわ!」

 そう言い渋い顔をするダミュロンに、ソフィアは一通の手紙を渡す。

「で、これをダミュロン様のお父様に渡すようにと…」

 そこで言葉を切り、ソフィアは宛名に視線を向ける。

「ダミュロン様は……スパルド・アトマイス卿の令息?」

「今気づいたんかよ⁈」

「あー…確かに色々と思い当たる節が…じゃあ、初日に助けてくれたのもアトマイス卿の指示ですか?」

「……それもあるが、ソフィアに礼を言いたかった」

 そう言うダミュロンの翠の瞳は、真摯な光を帯びていた。

「その後の友人関係は、アトマイス卿と貴方自身の希望が一致した結果ですか?」

「……まあ、そんなところだ」

 照れ隠しか、ダミュロンは不意に視線を外してしまった。その様子に笑いを堪えつつ、ソフィアは話を先に進める。

「手紙には、ディノイア家の屋敷を滞在先として、ダミュロン様を帝都へ学遊させてみないかという誘いになってますが……これに関しては、貴方と貴方のお父様の利害は一致します?」

「親父殿は飛びつきそうな提案だ。俺としても……帝都は興味はある」

 そう言いダミュロンは茶目っ気のある視線を、ソフィアに向けた。

 

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