TOV 黎明の残月 宵闇の盈月   作:桐錠

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 pixivでアップしているテイルズオブヴェスペリアの二次創作小説の2作品の統合版となっております。
 ゲーム開始の25年前から始まる、「記憶持ちの時間逆行」と「ゲーム知識持ちの転生者」を含む、4人(オリ主、デューク、レイヴン、ユーリ)視点で繰り広げられるifストーリーです。
 ゲーム本編、小説(主に奥田氏版)、劇場版の内容も含んでありますので、ネタバレ等ご注意ください。また本編等で本名やファミリーネーム、家族構成が明らかになっていないキャラクターの設定などを保管する形で、オリジナル設定多々含まれております。
 ヴェスペリアの世界のパラレルワールド的な扱いにして頂けると幸いです。



婚約者候補(言葉だけ見ればギャルゲーの片鱗)

 

 アレクセイ・ディノイアは騎士団長に昇進した。

 アレクセイの隊はナイレン・フェドロックが引き継ぎ、フェドロック隊へと名称が変わる予定である。騎士団長の執務室へ移る事になり、引越し作業にデュークは手伝いに来ていた。

 作業がひと段落した時、アレクセイはデュークに徐に切り出した。

 

 妹ソフィアの婚約者候補の一人になってくれないかと。

 

「くだらん。色恋には興味はない」

「だがソフィア自身に対しては、随分と興味があるようではないか? 私が話したソフィアとの稽古の話、細部まで内容を覚えていたのであろう?」

 アレクセイの言うとおり、デュークはソフィアに興味はある。しかしそれは異性とかではなく…

「お前が誰かに恋愛感情を抱くとは思ってはいない。だが、互いの利害は一致しているのでは?」

「利害?」

「互いに防波堤としての役目が出来る。最近多いのだろう?バンタレイ家再興を謳い、親族との婚姻を進めてくる新興貴族どもが」

「知らん。レギン殿下を通せと言っている」

「そのレギン殿下から相談を受けた。あまり彼に押し付けるな。それに、成人後も彼を頼れると思うな」

 アレクセイに痛いところ突かれ、デュークは観念したようにため息を吐く。

 彼の指摘通り、当分の間は騎士団に残る選択をした以上は、縁戚関係を望む貴族らへの防波堤は必要。そして、少しずつ変化を齎しているソフィアを間近で監視できる立場は、デュークにとって吝かではなかった。

 

 そう考えたデュークは最終的にアレクセイの申し出を受け入れた。

 

「婚約者候補の一人と言っていたが、他に当てはあるのか?」

「ああ。ソフィアはファリハイドで異性の友人を作ってな。ファリハイドの名家であるアトマイス家の子息だが、当主のスパルド殿に打診をしたところ快諾してくれた」

「その者がもう1人の婚約者候補か?」

「そうだ。名はダミュロン・アトマイス」

 

 気持ちそぞろで、半ば逃げるようにデュークはアレクセイの執務室を後にする。

 

 ダミュロン・アトマイス。

 シュヴァーン・オルトレイン。

 レイヴン。

 

 その3つ全ては一人の男を指す名称。

 彼は旧知の友で、地獄を生き抜いた戦友で、同じ記憶を持ち続けた同士だった者。

 いつしか記憶を引き継がなくなった、デュークにとっての裏切り者…

 

  §

 

 脈略もなく突然、ダミュロンはくしゃみをした。

 

「風邪か?」

「いえ……ところで話はなんでしょうか?」

 ファリハイドのアトマイス邸。

 当主執務室に呼ばれたダミュロンは、父スパルドに呼び出された件について尋ねる。

「アレクセイ殿から、お前をソフィア嬢の婚約者候補の一人に迎えたいと連絡があった」

「婚約者候補…ですか?」

 先日、ダミュロンがソフィアから聞いた話では、虫除けの為の偽装パートナーと言う事であったが、アレクセイは妹に内密に先の段階まで進めるつもりのようであった。

「そのことに関して、お前の希望を聞きたい」

 いつものように有無を言わさず一方的命令するかと思いきや、父が自身の希望を聞いてきたことに、ダミュロンは少なからず驚く。

「廉価版通信魔導器(コールブラスティア)の影響は無視できないもの。父上にとって、帝都の貴族と接触ができる点から見ても、メリットが大きいのではないのですか?」

 自身の希望を言わず、家としての影響を口にすれば、スパルドは渋い顔をして大きなため息を吐く。そしてスパルドは、同じ翠の瞳をダミュロンに向ける。

「ソフィア嬢との婚姻が実現すれば、お前は二度とファリハイドの地を踏むことはできなくなる」

「……妻となったソフィア嬢の影響力から、兄上との力関係が崩れて相続争いの原因になりかねない……と?」

「そうだ。だが私は、お前を次期当主の補佐として…」

「そして次期当主の『予備』として…ですね?」

 ダミュロンの言葉に対して、スパルドは片眉を引き上げた。

「……それがここ最近、手を抜いていた理由か?」

「お家騒動を回避する。父上との思惑とも一致しているはずですが?」

 暫し父子の間で互いを見つめる。先に視線を外したのはスパルドであった。

「……ファリハイドに未練はないのだな?」

 そう訊くスパルドの方が、まるでダミュロンを手放すことを惜しむような声で…

 

 ダミュロンの脳裏に、夢で見た出来事が過ぎる。

 夢の中では、放蕩が過ぎた自身を矯正させるため、帝都の騎士団へ送り出した父。その時の口振りでは、何年かしたら呼び戻すつもりであった。

 スパルドは、ダミュロンを手放したいとは思っていなかったのだ。

 手駒として欲すると言う貴族的判断か? しかしスパルドの顔には、ダミュロンの母…彼の妻が亡くなった時と同じ感情が滲み出ていて…

 それに気づいた瞬間、素の心に近い言葉がダミュロンの口から自然と溢れ出た。

「申し訳ございません、父上。未練よりも、自身の希望が上回ったに過ぎません」

 ダミュロンの中に漠然とした不安があった。よく見る数々の夢はただの夢なのでははなく、自身に待ち受けている未来なのではないか…と。

 夢で見た数々の悲劇が待ち受けていると言うなら、どうにか回避する方法を模索したいと潜在的に考えていた。そして今、ダミュロンの目の前に、どの夢でも見た事がない選択肢が現れた。

「帝都へ行けば、見えてきそうなのです。自身に何ができるのか、何をすべきなのか、そして何になりたいのか…」

 

 この選択にダミュロンは賭けることにした。

 

 父スパルド・アトマイスの許可を得て、ダミュロンはソフィアと共に帝都へ向かうこととなった。

 母親の墓参り、別邸に居る兄夫婦への挨拶を済ませ、ダミュロンはファリハイドの街を発った。

「それにしても、親父殿からの餞別で古文書を強請るとは…」

 帝都へ進む馬車の中で、包みを大事に持つソフィアにダミュロンは話しかける。

「帝都では見た事がない資料が多くて…兄様への良いお土産が出来てよかったです」

「……アレクセイ殿は騎士では?」

「ディノイア家自体は魔導師や魔科学者の家系で、兄自身も魔導器や古代文明の研究が好きなんです。アスピオへの推薦の話もあったのですが、家を継いで私を養う必要があって…ドレイク様の推薦もあって騎士団に入ることになったのですよ」

 学術都市アスピオは帝国の学術研究の最高峰、ドレイク・ドロップワートは現皇帝の剣の指南役と名高い忠国の騎士。それらの推薦を受けるとは、正に文武両道だとダミュロンは舌を巻いた。

 

 帝都ザーフィアスで執り行われたアレクセイ・ディノイアの騎士団長就任式。

 ダミュロンは式の開始前から周囲をそれとなく牽制し、問題なく祝賀会へと進む事ができた。自身が経験してきたファリハイドでの夜会より数段疲れる中、ソフィアがダミュロンの腕をそっと握る。

 視線を向けた先に居た人物を見て、ダミュロンは内心震えが込み上げてきた。

 

 一人はソフィアと同じ緋色の瞳と銀糸の髪。前髪を左右に分け、凛々しい眉を露わにした偉丈夫。

 背後に控えているのは、真紅の瞳と波打つ白金の髪、白磁の肌に創り込まれた繊細な顔立の麗人。

 

 ソフィアからの挨拶に一つ頷き、偉丈夫…ソフィアの兄のアレクセイは、自身に視線を向けた。

「ダミュロン・アトマイス君だね。妹が世話になっている」

「お初にお目にかかります。スパルド・アトマイスが次男、ダミュロンと申します。閣下、この度は騎士団長就任、おめでとうございます」

 何とか取り繕い、貴族の礼を取るダミュロンに、アレクセイは鷹揚に頷く。

「ああ、彼は私の友人だ。私たちの遠縁でもある」

「デューク・バンタレイだ」

 名乗りを上げ、麗人…デュークは静かに一礼をする。

 

 この二人は、ダミュロンが夢で見た者たちと同じ姿形であった。

 





 小説「虚空の仮面」の設定から、ダミュロンの過去を設定しました。
 ダミュロンが放蕩貴族になる前に、まともな貴族と出会ったらどうなるかと言う感じで、ソフィアを出合わせてみた訳ですね。
 ソフィアの婚約者候補という訳ですが、政治がらみの保身のためですので、サラッとした友人関係が継続する感じかと思います。廉価版通信魔導機…簡単に言うと通信関係の電波利権がディノイア家の手中にある訳なので、アレクセイとしても色々と警戒する必要が出てきたわけです。
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