TOV 黎明の残月 宵闇の盈月   作:桐錠

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 pixivでアップしているテイルズオブヴェスペリアの二次創作小説の2作品の統合版となっております。
 ゲーム開始の25年前から始まる、「記憶持ちの時間逆行」と「ゲーム知識持ちの転生者」を含む、4人(オリ主、デューク、レイヴン、ユーリ)視点で繰り広げられるifストーリーです。
 ゲーム本編、小説(主に奥田氏版)、劇場版の内容も含んでありますので、ネタバレ等ご注意ください。また本編等で本名やファミリーネーム、家族構成が明らかになっていないキャラクターの設定などを保管する形で、オリジナル設定多々含まれております。
 ヴェスペリアの世界のパラレルワールド的な扱いにして頂けると幸いです。



キャナリ(体調不良は断る時の常套手段)

 

 先日のアレクセイの騎士団長就任を祝う席、ソフィアは上手くかわしたと思ったが、一つ失言をしてしまっていた。それは「同性の方と接する機会に恵まれていない」という言。

 それをきっかけにソフィア宛にお茶会の誘いが殺到した。

 断りの手紙をひたすら書き、それにも飽きて息抜きでソフィアは狩りに行こうとしたが、それをアレクセイが止めた。

「ソフィア、どう言った内容で断っている?」

「体調が優れないからと…」

「狩りに行けるがお茶会に出れないと?」

「お茶会に出れるような健全な精神状態ではない…は通用しないでしょうか?」

「通用するわけないだろう」

「そうですか…」

「確かに健全な思考回路とは言い難いが」

「……兄様、それはどういう意味ですか?」

 話し合った結果、どれか適当なお茶会に少し顔を出す必要があるとの結論に至った。ソフィアは束となった招待状の中から1通を選び、アレクセイの前に置いた。

「あのオンシラズ…じゃなかった。エングリス卿の所に一度顔を出せば、当面は凌げるかと思いますが」

「……お前が言ってた『命を救った者に罵詈雑言を言う礼節を欠く者』と言うのは、エングリス卿だったのだな。だが、大丈夫か?」

 先日の祝賀会でカクターフから紹介されたのが、エングリスの令嬢。この茶会の主催者側である。

「友人関係を足がかりにして囲い込みをすることが目的だと、はっきりわかっているだけでも良いかと。それに下手に断って、こちらが敵意を持っていると認識された方が、面倒ごとが増えると思いますが」

「ふむ……それは一理あるな」

「それにキャナリ様は話が通じると思います」

「根拠は?」

「エングリス卿の馬車が襲われた時、私も援護をしてその場にいたのです」

「……それは初めて聞いたぞ」

「今思い出したんです。それはともかく、その時にエングリス卿は助けてくれた騎士を罵倒したのですが、馬車に同乗していた彼の娘はその騎士を庇ったんですよ」

「それがキャナリ嬢だと?」

「当時の年齢と髪の色からして、そうと思います。最低でも話が通じる人が一人でもいれば、そこまで苦痛なお茶会にはならないと思いますよ」

 ソフィアの言葉を聞き、アレクセイはお茶会への参加を許可し、エングリス家へ参加の意を伝えた。

 

 お茶会を終えて、疲労を隠せない様子のソフィアは、テラス席で一人紅茶を飲む。

「お、もう帰ってきたの?」

 軽く手を振って肯定し、ソフィアはチョコレートを3個纏めて口に放り込む。そして対面に座ってきたダミュロンにも菓子を勧めたが、彼は甘い物は苦手らしく、断って予備のカップに紅茶を注いだ。

「で、収穫は?」

「とりあえず、マリーさんからの情報の速さと正確さが再確認できました」

 お茶会にあたり、ソフィアは文通を通じてマリーから、物品の相場の増減と把握できる貴族の取引量に関する情報、羽振の良い工房とその特産品に関する情報を得て、それから間接的に帝都の流行や貴族の経済状況を読み取っていた。その読みは外れる事なく、情報源である幸福の市場(ギルド・ド・マルシェ)とその次期社長のマリー・カウフマンの手腕に驚くばかりであった。

「そしてカクターフ公の陣営は、一定数は有能な者がいる感じですね」

 家の恩恵を貪る者と家の為に必要な動きができる者の二極化は、帝都の貴族もファリハイドの貴族も同様であった。しかし相手の経済力と諜報能力を探ろうとする手腕は、ファリハイドより帝都の貴族令嬢の方が上のようである。

「ある程度情報を知っていると分かるや否や、その情報源を突いてくる。軽く扱う者と比べて神経を使う…成人前なのに末恐ろしいこと…」

「それはアンタも同じでしょうが」

「うん。その言葉、そのまま返す」

 そう言い紅茶を一口含んだのち、ソフィアは徐に口を開く。

「ただ気にかかることは、有能な人をボンクラが顎で使っていること」

「婉曲表現しなくなったな…まあ、そこんとこは、家格の方が重要視されるから」

「本人の能力に関わらず、権限が大きい者に付き従わなくてはならないという現状は如何なものかと…それからもう一つ」

「もう一つ?」

「もう一つは、大半が貴族の本分を忘れていること。一般市民を搾取対象としてしか見ていない」

「貴族ってそんなもんだろう? 支配者として尊大と振る舞えと親父殿も…」

「その認識時点で誤っています。支配者じゃなくて統治者。それが貴族に与えられた役目のはずが…帝都貴族でもこの有様だというと、頭が痛い…」

 そう言いソフィアは、額に手を置いて項垂れた。

「支配と統治? 同じだろう?」

「支配は乞食が他者への寄生を正当化するために行動すること」

「…乞食って……相変わらず過激な表現だ」

「事実でしょう。統治というのは諸所を調整して社会を運営すること。その為には強権が必要な場面があるから、それゆえに与えられた権限に過ぎない」

「それができている貴族なんぞ、見たことがない」

「だから危惧しているんですよ。統治できなければ、社会は必ず破綻してしまいます」

 ソフィアの声は、1歳差とは思えないほど昏い響きがあり、ダミュロンは思わず言葉を失う。

「……お茶会終わったし、狩りに行かない?」

 ダミュロンの言葉を聞き、ソフィアの暗い表情が一変する。

「狩り…それはいい考え……」

「どうした?」

「狩り……何か忘れているような…」

 しばし考え込むが、ソフィアは記憶の引っ掛かりを感じるも、肝心な内容を思い出すことはできない。

 忘れるくらいなら大したことがないというダミュロンの言葉に押され、ソフィアはそのまま明日狩りに行く予定を詰めていくのであった。

 

 ウルフがこちらに反応して向かってくる。

「ウルフは機動性が高いので、何かしらの方法で動きを止めます」

 そう言いソフィアは、土魔法が付与されたナイフを飛ばす。ウルフの少し手前の地面に刺さった直後、地面が隆起してウルフは後ろに吹っ飛ぶ。

「魔法防御が低く、特に風属性に弱いから…ダミュロン様、さっき渡した廉価版 武醒魔導器(ボーディブラスティア)の試運転を」

「りょーかい。ウィンドカッター」

 準備を終えていたダミュロンが風魔法を放つと、身体から血が噴き出し、ウルフは地面に倒れ伏して動かなくなった。

「こんな感じで、特性に応じた対応をして、弱点をつくのが基本となります。何か質問はありますか? キャナリ様」

「キャナリ。様はいらないわ」

「……キャナリ、何か質問はありますか?」

 そう言いソフィアは、もう一人の同行者、狩り装束をまとった長い黒髪の人物を見る。

 

 彼女は、キャナリ・フォン・エングリス。曰く、昨日のお茶会の時に、次回の狩りに同行する約束をしたと言った。

 そう言われて、ダミュロンとの会話で引っかかっていたことが何か分かりスッキリするも、すっかり準備を終えた上では追い返す事も出来ず、結局3人で狩りに向かうことになった。

 

「…まず聞きたいことは、そこの方が使っていた武醒魔導器(ボーディブラスティア)は何?」

「私の魔導器(ブラスティア)の師、ヘルメス先生が作った試作品です。廉価版武醒魔導器(ボーディブラスティア)と呼んでいます」

「廉価版通信魔導器(コールブラスティア)の技術の応用ですか?」

「そうと聞いています」

 キャナリ…キャナリの背後の父親のエングリス卿、彼の背後にカクターフ公が居る事考えると、魔導中継筐体(エアルコンテナ)の情報を開示する訳にはいかなかった。

「それともう一つ。まだ魔物は居るわ。狩らなくていいの?」

 少し離れた茂みに居る別のウルフを指差し、キャナリが尋ねる。

「こちらを標的としていないですし、今日予定していた素材は充分確保してあります」

「でも…人を襲う魔物よ」

「一方で他の魔物を捕食してくれます。狩りすぎると被捕食者の魔物が増え過ぎて餌が減って、空腹で凶暴化して人を襲う魔物が増える原因になります」

 そうソフィアは説明をするが、キャナリは今ひとつ納得していない様子であった。

「貴女は…人々のために魔物を狩っているわけではないのね…」

「それは騎士の仕事です。私は私の目的でやっているだけです」

「ソフィアにとって魔物は、『脅威』じゃなくて『素材』だからねえ」

「ダミュロン様。私はちゃんと脅威として捉えてます。だから無理せず下準備をした上で狩りを…」

「はいはい。予定量は狩り終えたし、そろそろ戻ろうじゃないか」

 荷台にウルフを乗せ終えたダミュロンがそう軽口を言い、帝都への帰還を促した。

 




 
 レイヴンのイベントで名前だけ出てきたキャナリについては、小説「虚空の仮面」から貴族出身である事がわかっています。家宝を持ち出したことで絶縁となったため家名は不明のため、小説に出てきた貴族から勝手に組み合わせた形です。
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