pixivでアップしているテイルズオブヴェスペリアの二次創作小説の2作品の統合版となっております。
ゲーム開始の25年前から始まる、「記憶持ちの時間逆行」と「ゲーム知識持ちの転生者」を含む、4人(オリ主、デューク、レイヴン、ユーリ)視点で繰り広げられるifストーリーです。
ゲーム本編、小説(主に奥田氏版)、劇場版の内容も含んでありますので、ネタバレ等ご注意ください。また本編等で本名やファミリーネーム、家族構成が明らかになっていないキャラクターの設定などを保管する形で、オリジナル設定多々含まれております。
ヴェスペリアの世界のパラレルワールド的な扱いにして頂けると幸いです。
狩りを終えたソフィアたちは帝都に帰還した。
下町側の入り口から帝都に入った時、キャナリはソフィアにそっと話しかけた。
「これから向かうのは下町?」
「そうです」
「下町の人に、魔物の素材を差し上げるのね」
「違います。真っ当な商売をします」
「下町の人たちに売りつけるの? ただでさえ私たち貴族に搾取されている彼らを…」
「だからと言って施すのは、彼らを下と見ていると同義……」
そこで言葉を切り、ソフィアはキャナリの顔色が真っ青になっていることに気づく。
「すみません…言いすぎました。先に戻っていいただいても…」
「大丈夫……です」
気まずい状態のまま一行は、下町の食堂にたどり着いた。
ソフィアが魔物素材の取引をしている間、ダミュロンとキャナリは食堂の方で待機していた。
「嬢ちゃんが来てると聞いてきたが…」
そう言い初老の男性が食堂に入ってきた。
「ハンクスさん。ソフィアさんは今外で主人と一緒に今回の持ち込み品を確認しているよ」
「ほお……で、二人は嬢ちゃんの付き添いか?」
ハンクスはそう言い、食堂の女将からキャナリとダミュロンの方に向き直す。
「申し遅れました、私は…」
「ああ、いい。そのままで。二人とも貴族のようだが…嫌気が差している口じゃろうて」
名乗ろうとしたキャナリにそう言い、ハンクスは表情を緩めてダミュロンの方を見る。
「そっちは慣れてるようじゃな」
「俺の居た街でも、似たような場に引きまわされたからな」
「はははは…振り回された口か。二人も友達を連れてくるもんだから、少しは落ち着いたと思ったが、全く変わっておらんのう」
「そんな…私は友人では…」
「少なくとも気を許してるじゃろう。嬢ちゃんが護衛以外でここに誰か連れてきたのは、これが初めてだからのう」
「昔からここを利用しているのかい?」
そう尋ねるダミュロンに、食堂の女将が答える。
「もう4年は経つかしらねえ…魔物の解体をお願いしたいって。誰から聞いたと聞けば、タダ同然で解体を押し付けた貴族街の商人の名を出して『こちらの解体が一番綺麗でしたので、これからは直接依頼したい』と言ってきたもんよ」
「成る程ねえ…仲介する商人も、貴族相手だと吹っ掛けるからなあ…」
「何かの冗談かと思ったけど、定期的に依頼しにくる。タダでやらされるかと思いきや、『指定した素材以外は解体費用としてお納めください』と言ってくれたのよ」
「それで『商売』と言っていたのね…」
「最初はどんぶり勘定だったけど、数年前から魔物ごとに解体費の金額を決めて、各素材の相場表まで作ってくれたのよ。おかげで商人に買い叩かれる事がなくなったわ」
「そりゃあ何よりだが…彼女は一年くらいファリハイドに居たけど、その間大丈夫だったかい?」
「ソフィアさんの身内が騎士団のお偉方とかで、郊外巡回の騎士が定期的に狩った魔物を、処分費用と相殺という形で持ってきてくれるようになったのよ」
「お陰で嬢ちゃんが居ない間も、下町の子供らも定期的に肉を食べれるようになったんじゃよ」
そう言いハンクスは嬉しそうに目を細める。それを見たキャナリは呟きを一つ溢した。
「ソフィアは…下町の人たちを尊重しているのね…」
「彼女が言うには、貴族の責務は『支配』じゃなくて『統治』だそうだ。そして『支配は乞食が他者への寄生を正当化するために行動すること』って」
その話を聞きキャナリは苦笑する。
「すごい言い方するのね…」
「そして『統治というのは諸所を調整して社会を運営すること』なんだと」
「それが出来ている貴族なんて、見たことないわ」
「俺もだ。だが、ソフィアはそれを目指しているんだろうな」
用事を済ませ、ソフィア達は帰宅の途につく。徐に意を決した様子のキャナリが、徐に口を開いた。
「…私は、『本当の騎士』になりたいの」
「本当の騎士?」
「絵本で読んだ『力と正義を兼ね備えた、弱い人々の守護者』」
「現実とはかけ離れてる虚像だな」
そう突っ込むダミュロンに「そうらしいわね」と相槌を打った後、キャナリは再び話し始める。
「数年前、両親と結界の外へ旅行しようとしたことがあったの。騎士団もギルドもお父様は嫌ってるから、碌な護衛も付けなくて魔物に襲われて…そこを助けてくれた騎士。お父様の罵りを黙って受け止めて、見返りを求めずに人々を救うのが『責務』と言い切った気高い騎士。私は彼みたいになりたいと思ったの。でも、私が騎士になる事は父が反対していて…」
「それで個人的な繋がりを持つために、アレクセイ・ディノイア騎士団長の身内である私と接触した」
「家の都合と自身の望みが一致した結果…俺と同じという訳ね」
背後から聞こえたダミュロンの声に驚き、振り返るキャナリ。
「それは私も承知している上での関係です。だから、貴女も何も引け目に考える必要はありません」
「貴女は……」
キャナリがソフィアに問いかけようとした時、前方の光景を見て言葉を失い立ち止まった。
ディノイア家の屋敷前。キャナリの父親のエングリス卿が、私兵を引き連れてディノイア家の家令に食ってかかっていた。
「オンシラズ卿」
素で間違えたソフィアの呟きに、ダミュロンは噴き出した。
円満にオンシラズ…ではなくエングリス卿との話が終わり、ソフィアは一息吐く形で、キャナリ、ダミュロンとお茶を飲んでいた。
「アレクセイの大将抜きで色々と交渉しちまったけど、大丈夫?」
「私に一任されているから、大丈夫です」
「その…ごめんなさい……私のせいで…」
済まなそうにそう言うキャナリの隣には、布に包まれた一つの武具があった。
ディヴァインキャノン。
今回の狩りで、キャナリが内緒で持ち出した、エングリス侯爵家の家宝であった。
「貴女が私を利用してディヴァインキャノンを盗ませたなんて…」
「そうじゃないことはエングリス卿も承知の上。それを事実のように広めて、大きい要求をされる前に手打ちにした方が良いんです」
「それで、廉価版
口を挟んできたダミュロンの言葉に、ソフィアは肯く。
「これでキャナリはその武器を自由に使える。それも貴女の望みだったから、ちょうどいいでしょう?」
ディヴァインキャノンは剣への変形機能を有する弓で、接近戦と遠距離攻撃の両方に対応できる武器。
仕組みを調べて量産もいいかもしれないと、新しい儲けネタに内心喜んでいるソフィアとは逆に、キャナリは浮かない表情のままである。
「風属性限定と言っても、廉価版
「廉価版
「最初から、エングリス家を巻き込むつもりだったのか?」
「どこの家かは決めてなかったけど、他家に利権の分配はするつもりでした。流石にディノイア家だけで抱えるのは、大きすぎる案件だから」
そう言いソフィアは表情を緩めて、キャナリの方を改めて見た。
「だから、友人として協力してくれませんか?」
「ソフィア……」
「あー……言っておくが、結構大変だぞ。思考が色々とぶっ飛んでるから」
「ふふふ……そうね…」
ダミュロンの言葉に否定しないキャナリの様子に、ソフィアは遺憾だと言わんばかりに眉を顰める。
ようやく自身の紅茶を口にした後、キャナリはぽつりと尋ねる。
「ソフィアは……『本物の貴族』を目指しているのね?」
「え……?」
「私はそう思ったわ。私は……やっぱり『本当の騎士』を目指したい。お互い、頑張りましょう」
軽やかな笑みを浮かべ、キャナリはソフィアに手を差し伸べる。
表情を崩し、ソフィアはキャナリとしっかりと握手をした。
「うん……いいねえ。麗しい女同士の友情!」
「貴方はソフィアの婚約者だったわね」
「候補の一人。まあ色々と家を巻き込んだ思惑が絡んだ身の上。悪友に近いか」
そう言うダミュロンに対して、苦笑を浮かべつつキャナリは手を差し出す。
「貴方も私のことは、キャナリと呼んで」
「俺のことはダミュロンで。ソフィアもいい加減『様』を取ってくれないか?」
「善処します」
ダミュロンは「そう言って結局聞かないんだ」とキャナリにぼやく。
その様を見てソフィアは既視感に駆られた。
剣にもなる変形弓。
キャナリ。
墨色の髪に翠の瞳。
口から出そうになったその名をソフィアは押さえ込んだ。
レイヴン。
ギルドユニオンの幹部と騎士団の隊長首席。二つの組織のトップからそれぞれ「
ゲームの世界で主要メンバーでありながらも、アレクセイに命じられて主人公達に接近したスパイであり、己が死場所を探し続けた男。
ゲームで知っているレイヴンの昔の姿が、目の前に居るダミュロンであるとソフィアは気づいたのであった。
自身より一つ年下であることから、今のダミュロンは14か15歳のはず。ゲームの設定よりも10年前に、ダミュロンとキャナリが出会う機会を生み出してしまっていた。
ゲームの世界で今から11年後、人魔戦争で二人は命を落とす。そしてダミュロンは、アレクセイの手で人工心臓…
オリ主(ソフィア)は、ダミュロンがゲームの世界での「レイヴン」と気づかないまま、交友関係を結んでいた訳ですね。
小説「虚空の仮面」で小隊長になったキャナリは、帝都郊外の魔物を狩って治安維持しつつ、魔物の死体を下町へ無償で提供していました。キャナリ小隊は人魔戦争で全滅する訳ですが、その後は下町の人たちは食料とか大丈夫だったのだろうかと、少し心配になって書いた文章でもあります。